偽勇者の大冒険   作:マリリス

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 魔の森で起きる二つの戦いです。
前半は元カール王国騎士団長のロカ、後半はでろりんのお話になります。




俺はでろりん、ロカと俺のそれぞれの戦いだぜ!

    ◇

 

 妖魔学士ザムザが造った偶然の生命体、不死にして両性具有。

そんな彼とも彼女とも言いにくい生き物は、人間二人の残骸をつなぎ合わせた怪作だ。

 

 そのルーティアは、盗んだ女物の服でのんきに魔の森を歩いていた。

翼を外せば見た目は人と変わらない。

 

 「ふんふ~ん。アレはどこに行ってしまったのかしら? ワニ型を倒してコーフンしていたら無くしてしまいましたわ」

 

 探しているのは一本の『筒』。その煙がモンスターを凶暴化させる。

試験戦闘に使った後、持ちかえるのを忘れてしまったのを思い出してこの辺りに来たのだ。

 

 そんなルーティアに待ったがかけられる。

 

 「おい! モンスターが暴れているのはおまえの仕業だな?」

 

 「あら、いきなりどうかしまして? あたくしに何か? 誰だかわかりませんけれど」

 

 「おれはロカ。そんなことはいい。おまえは人のふりをしているが、魔族かそれに類し、それもかなり高位の者と見る。森の異変はおまえだろう?」

 

 「まぁ。こんな綺麗で素敵なお嬢さんのあたくしが人間じゃなくて魔族だなんて。魔族って気持ち悪い生き物でしょう? ロカさんたら、御冗談がお好きですのね?」

 

 小声でザムザ様以外は、とつぶやきながらルーティアは可憐なポーズを決める。

 

 「おれの目は節穴ではないぞ。それにおまえは女言葉を使っているが、見たところ本当の女ではないな……。」

 

 「んんっ……声が高いのでこのほうが滑舌や発声からしても喋りやすいのです。森の異変はご推測の通りなのですが、うっかりの結果なので戻してさしあげますわ」

 

 「そうかまあいい。ついでにそのおまえの服だが、妻のレイラのものだ。きちんとクリーニングをしてから返してもらおうか」

 

 「あらっ、そうなんですの! 村を眺めていたら可愛いお洋服が干してありましたのでつい欲しくなってしまいましたわ。そこがあなたのお家でいらしたのね」

 

 ――バレないと思ったのにいろいろバレてしまいましたわ。

 

 ルーティアは考える。先遣隊はまだ人間に手を出すべきではないが、

見た目が人っぽい自分は、少しぐらいなら人間をおもちゃにしてもいいと聞いた。

この服も気に入っているので返したくない。

 

 「口は災いの元といいますわね。出てこなければ長生きしましたでしょうに……。ロカさんにはとても申し訳ないのですが、今日があなたの命日ですわ」

 

 それを聞いたロカの眼光がギラリと光る。

 

 「くくくっ? くはははっ、果たしてそうかな? 今日はおれの嬉しい記念日になりそうだよ。剣を一度あきらめ早十余年。かつておれは親友でもあった男、勇者アバンのふるった剣に一筋の光を見た」

 

 「急に何を言い出しますの? 恐怖でアタマがおかしくなったのはなくて? 心配しなくても痛くしないようにさくっと殺してさしあげますわ。嬉しいでしょう、最後にこんな綺麗なあたくしに殺されるなんて」 

 

 「いいから聞けよ、おれの半生を。そのとき既にカール王国の騎士団長になっていたが、あの友の剣には希望を感じたものだよ。剣の道はここで行き止まりではない。まだまだ先があるとな。彼と歩んでいけば我が剣の完成はなるだろうと、心が踊ったものだ」

 

 「騎士団長だがなんだか知りませんが、あたくしには雑魚の話ですわ。いい加減にしてくださいましな、まだ続くんですの?」

 

 「だが剣の完成は断念させられたんだ。右肩の腱を負傷してな。友と最後まで旅を続けることはできなかった。騎士団長もホルキンスに譲ったよ。おれは最初から結婚するつもりはなく、剣一本、それしかない男だったんだ。たった二十歳、それから翼をもがれた鳥のような気分で生きてきたよ」

 

 「それはそれはお可哀そうに」

 

「結局は結婚して妻が子どもを産んだ。その子はすくすくと成長していく。一体おれは何をやっているのだろうかとね。おれの全盛期は十代だった。なまじその頃の高みを知っているからタチが悪い、何をやっても虚しいもんさ」

 

 「はいはい。辞世の句でも詠んでくださいな。騎士団長サマ」

 

 「だが剣を置いてから五年目にやや変化を感じ、八年経つと少し肩が回復していたんだ。おれは、一度はあきらめた夢の続きを見るようになっていった」

 

 「ちょっとポカポカして眠くなってきましたわ」

 

 「おれはおれ自身をずっと許すことが出来なかった。いろいろ試したのだが、やはり剣に生きるのがおれの本分。そのために命を授かったのだろうな」

 

 「うぅーん……」

 

 「おれは全盛期よりも少し落ちるぐらいのところまで戻ってこられた。だが、平和な世の中だ。我が剣は悪を断ち切るときに光を放つ。そこにおまえのような邪悪が現れたのだ。森を荒らし、妻の服を盗んだ挙げ句、おれの命を奪うという。そういうヤツが現れた運命に感謝して笑ったんだ」

 

 「」

 

 「っておい! 寝るな、ばかやろー!」

 

 「くすくす、寝たふりですわ。あたくしを黙って攻撃しなかったということは、あなたは確かに高貴な騎士団長サマ。今も剣の道に生きているのでしょうね」

 

 「ああ。そして勝負でおまえを斬ることでおれ自身を許すことができるんだ」

 

 「もう能書きは十分! あたくしはザムザ様の産みだし邪天使ルーティア。元騎士団長のロカ、あなたの剣技をたっぷりと見せていただきましょうっ」

 

 ここに戦いの激しい火花が咲き誇ろうとしているが、

少し離れた場所では、もう一つの戦闘が既に始まっていた。

 

 

    ◆

 

 

 スタタタタタッ。

 

 俺は『はがねのつるぎ』を斜めに構えてひたすら走る。ロモス王から授かった剣だ。

あばれザル三匹から、ずるぼん、まぞっほを守らなければならない。

敵は目の前、思考や策など捨ててひたすら走る。

 

 こういうのはその場の勢いとアドリブが大事なんだ。なるようになれ。

魔力を意識しながら、剣を握った右手をやや緩めて人差し指に点火する。

 

 そのまま先頭のあばれザルAに接近。

 

 「メラぁ」

 

 雑に放ったメラは一発しか出していない。剣を握っていて指が使えないからな。

その火球はあばれザルAの顔面を直撃し、俺はそのままあばれザルBに斬り込む。

ヤツらに余計な知恵や思考時間を与えてはいけない。ずるぼんたちを狙われたくない。

 

 まだ自衛手段に乏しい二人には、合図するまで手は出さないよう言ってある。

とにかくサルどものヘイトを稼ぐんだ。

 

 俺の剣とサルの腕、リーチの差で先手を取り、あばれザルBを斬ったが角度が浅い。

皮の弾力に剣が弾かれ、反撃の凶腕が振り下ろされて返ってくる。

その樹木を砕く威力を引き戻した剣で何とか受けたが、俺は衝撃でふっ飛ばされた。

 

 ぐはあっ! しまったっ。

 

 顔をヤケドしたあばれザルAは怒っている。あばれザルBは俺に突進。

あばれザルCは立ち止まって後衛のずるぼん、まぞっほの方を見ている。

 

 「まぞっほ! 狙われてるぞ! そいつをずるぼんに近づけさせるな」

 

 「なんと? 果たしてわしなんかの呪文で大丈夫じゃろうか」

 

 その胡乱げな目つき。魔法使いなんだから自分の呪文には自信をもって欲しいものだ。

まるで逃げ出すかどうか迷ったような微妙な逡巡の後、まぞっほは覚悟を決めたようだ。

 

 「この老魔導士の呪文をくらうがよい! イオじゃ」

 

まぞっほのイオは相手に当たったが、ポポポンと情けない音を出して消えていった。

あばれザルCはポカーンとして不思議そうに周りを見回している。

 

 「だめじゃー! わしは呪文苦手じゃ。やっぱり向いとらんわい」

 

 「バカ、まぞっほ、呪文が苦手な魔法使いなどいるか、しっかりしろ! 俺はもう手助けできん、そっちはそっちでしっかりやるんだぞ」。戦況が激しくてチラ見ぐらいしかする余裕がない。

 

 「あたしが何とかするわ。まぞっほは魔力溜めといて」。俺の叫びに反応してずるぼんが動く。

 

 ずるぼんは袋を漁っている。俺が森の泉で行った薬草講座を思い出したらしい。

 

 彼女が昼間に『うつくしそう』を摘んだとき、間違えて『あやかしそう』も袋に入れていた。

『あやかしそう』は、アイテムではないが素材の一つで、売れば小銭になる。

捨てるのが面倒でそのまま袋に入れておいたのだ。

 

 『あやかしそう』の豆知識として、草の汁が目に入ると幻惑効果があることを教えてある。

うまくあばれザルの目に噴射することができれば時間を稼げるかもしれない。

 

 やってみてダメなら最悪、みんなで一目散に逃げればいい。最前線の俺だが逃げるのは上手い。

このパーティの合言葉は『戦いは、勝つか逃げるか』だ。

 

 「いくわよ! でろりんも目をつむって! ちぎってちぎってバギー!」

 

 本来のバギは、僧侶が使える風系の攻撃呪文なのだが、

ずるぼんが使用者だと威力はなく、生活呪文として重宝している。

髪をブローしたり洗濯物を乾かしたり暑いときに涼んだり、用途はいろいろだ。

 

 『あやかしそう』の霧吹きにより、近くに来ていたあばれザルC、

俺と戦闘中のあばれザルAは、マヌーサ状態になり無力化された。

あばれザルBは既にダメージが深かったので、先ほどトドメを刺し倒れている。

 

 

 ……。

 

 

 俺やまぞっほの追撃により、やがて三匹のサルはでろりんたちの鍋の具材になる。

 

 ずるぼんはMPを切らしてしまったので、今日の火の当番は俺だ。

その辺にちょうどいい『筒』が落ちていたので洗って拾い、鍋の火にふーふー吹きかける。

 

 「ほらできた。サルの脳みそは絶品だぞ、ずるぼんも食べてみろよぉ」

 

 「やだーーー! でも、でろりんがそういうなら……うまー!」

 

 「ほっほっ全くじゃ。このパーティに入ってよかったわい」

 

 今日も楽しそうな俺たちでろりん一行なのであった。




 事件の原因を密かに解決したでろりんでした

(サルやブタの脳みそは中国で高級食だそうです。一度は食べてみたいなぁ)
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