平和な世に暗躍する魔族、その配下となったバカ親父の手から逃れるため、
俺は自爆イオラからのキメラの翼でパプニカに飛んだ。荒業だったが他に手がなかったのだ。
その後、意識を失ったところを誰かに助けられたようだ。
まだ目を開けられないが、寝かされていることは分かる。病院のベッドの上だろうか。
聞くことと考えること以外何もできないので、まずは耳を澄ませてみた。
真っ暗な中でも、聞き覚えのある声には安心するものだ。
「ありがとう、あたしの一人のベホイミじゃ助けられなかった」
「こいつのことは嫌いだが、でろりんが助かるかどうかは僕の手にかかっていた。死んで勝ち逃げはさせないさ。ちょっと複雑な気持ちもあるが、あとで借りは返してもらう」
最初の声はエイミ。『ダイの大冒険』では主人公サイドの恋人役をしていた。
後に喋った方は俺と試合したアポロだ。相変わらず嫌われているようだが、今回は救われたな。
二人ともパプニカ三賢者として名高い実力者だ。
「でもどうしてこんなことに……。本当にひどい怪我」。エイミの心配そうな声。
「イオラの暴発だろうね。分不相応な呪文は身を滅ぼすのさ」。自業自得と言いたいアポロ。
恩人たちの声を聞きながら、原作知識を得た俺は思考を整理していく。
『ダイの大冒険』の世界では、バカ親父のデルタはいなかった。
重要キャラではないので省かれたかもしれないし、本編開始前に倒されていた可能性もある。
武術大会の主催は、原作と同じでザムザだった。向こうの新聞に名前があったからな。
きっと小さな大会から実績作りをしていたんだな。
ずるぼんやまぞっほは無事だろうか? 俺の仲間だとバレれば目を付けられて危険だ。
戻らなかった俺のことを、ずるぼんたちが会場で聞いて回ったりしたら……?
一応『でろりん』は本名ではない。バカ親父には俺のことだと分からなかったと信じたい。
俺、ずるぼん、まぞっほ、へろへろの四人パーティが無ければ世界が危ないからな。
でろりんたちには本編で重要な役割があるからだ。
その役割で最大のものは、オーザムの『黒の核晶』を凍らせて誘爆を防ぐこと。
『黒の核晶』とは、地球の原水爆以上に強力な爆弾だ。
大魔王バーンは、その威力を六芒星の力でさらに増幅して地上世界を吹き飛ばし、
その下から現れる魔界を太陽で照らす野望を抱いている。
そのバーンの計画を最後の最後に阻止したのがでろりんパーティなのだが、
問題は、そこが作中で一番ギリギリなシーンだったということだ。
『黒の核晶』がある塔の最上階は、グリフォンのような鳥獣魔族が守護しており、
でろりんたちはパニックに陥るが、助けに来たマトリフの極大消滅呪文メドローアに救われた。
逆に言えば、大魔道士が奥の手を使わないと勝てないような相手が塔を守っていたのだ。
ドラクエファンの分析によると、その魔族は別のドラクエに出てくる『ジャミラス』らしい。
それは魔王級の実力者。確かに作中のでろりんではどうしようもなかっただろう。
その『ジャミラス』を倒した代償としてマトリフは動けなくなってしまった。
でろりんたちはヒャドで『黒の核晶』を凍らせようとしたものの、
若干タイムオーバー気味。正直なところ間に合っていなかったように見えたが、
奇跡を起こすゴメちゃんの最後の力で、ズルをして何とかしたみたいな描写になっていた。
その勝ち方はかなり不安定だ。マトリフの病状やゴメちゃんの奇跡に依存することなる。
だから俺は力をつけなければならない。『ジャミラス』に勝てるようになればきっと大丈夫。
大魔王バーンは、ダイたちが何とかしてくれるだろう。原作通りに進めば。
……。
大事なのは要するに二点だ。
『原作の展開を壊さない』
『ジャミラス――魔王級の守護者――を自力で倒せるようにする』
この目標を達成できるように努力!
余裕があるなら、世界を周ってダイたちの活躍からこぼれた人々を魔物から救う。
ただし決して無理はしない。
この方針でいこう!
そのためには、へろへろを探したり、ずるぼんやまぞっほとの合流も必要だが、
まずは、俺自身のレベルを上げなければならない。
時間を無駄には出来ないし、ここは気合を入れて飛び起きよう。
――ガバッ!
「うお!」「わっ! びっくりした!」。二人は仰け反っている。
「すまない助かった! アポロ、エイミ、ありがとうな。二人は命の恩人だ。後で必ず恩は返すから」
「う、ううん。そんなのいいの。でろりんが無事だったことが一番嬉しいから! それにあたしは賢者見習いだし目の前の傷ついた人を放っておけないでしょ」
「……僕は今回エイミに頼まれて手助けしただけだからな」
アポロとエイミは『ダイの大冒険』に出てくるパプニカ三賢者の二人。
本編のアポロは、氷炎将軍フレイザードの火炎からレオナ姫を守ろうとしたし、
エイミは、後に登場するヒュンケルの心の支えになっていく重要なキャラでもある。
もし本編開始前に彼らがピンチに陥ったら、今度は俺が助ける番になるだろう。
心の中でそう決意していると、アポロが話しかけてきた。
「でろりん、確か君はずるぼん、まぞっほらと旅に出てロモスに行ったのだろう? 仲間はどうしたんだい?」
「ああそれはザムザの……。い、いや、ちょっと俺が一人になったときに強い敵に襲われて逃げてきたんだ。仲間は巻き込まれていなければ無事だと思う。たぶん」
おっと危ない。魔族の暗躍や将来の魔王復活を、この時代の人たちは知らないのだ。
平和な世の中だと信じている。余計なことを言って原作どおり進まなくなると困るので、
俺は適当にごまかした。
「それは本当かい? 何か含みがありそうな言い方だったが、まさか全滅して仲間を見捨てて一人で逃げてきたのではないだろうね」
「ちょっとアポロ! ひどすぎ! でろりんが可哀想でしょ」
「……敵の標的は俺だけだから、俺と関わらなければ仲間はひとまず心配ないと思う。見捨てたわけではないが、黙って勝手にパーティを抜けて逃げてきたことは事実だ」
アポロは難しい顔をしている。
「それじゃずるぼんさんたちは、あなたを探してるんじゃないかしら?」
「ああ、そうだろうな。だが俺はロモスには戻れない。もし彼らがパプニカに来たら俺が無事なことを伝えてくれないだろうか」
「うん。あたしにできる事でよければでろりんの力になりたいわ」
「ありがとう。助かる」。俺がそう応えるとアポロが口を開く。
「その強い敵というのは人間なのかい? 君だけが狙われるというのは何かしたのだろう?」
「もう人間では……、いや、悪いがそれは言えない。俺との関係も言えないんだ」
「そうか。ところで君の怪我は、自分のイオラの爆発によるものかい?」
「ああ。敵に掴まれて動けなくなったので自爆する形で逃げてきた」
「それはずいぶん無茶をしたものだね。だが、君ほどの者がそこまでしないと逃げ切れなかったわけか。そのイオラでも相手は倒せなかったと」
「爆発から俺でも生き延びたくらいだから、ヤツも生きていると思う。相手の腹に密着させて爆破したから、最低でも怪我ぐらいはしてると思うが」
「君のイオラを零距離で食らってもか。にわかには信じがたい話だ。だが君の怪我はただ事ではないし、嘘を言っているような感じは受けない」
「事情があって詳しく話せなくてすまない。ヤツはしばらく大人しくしているだろうが将来的には分からない。だから俺は、今のうちにレベル上げをしておきたいんだ」
そしてドラクエでレベル上げといえばアレだろう。
ゴールデンメタルスライムのゴメちゃんがいる世界だし、『メタルスライム』もいるはずだ。
「アポロ、エイミ。単刀直入に言う。メタルスライムについて知っていることがあったら教えてくれないか」
メタルスライムは、めちゃくちゃ硬くて攻撃がほとんど通らず、呪文も一切効かない。
そしてすぐに逃げる。倒しきるのが難しいが、一匹倒せば破格の経験値が入るのだ。
俺はドラクエの知識から、メタルスライム狩りの攻略法を一応知っている。
二回攻撃、急所攻撃、混乱攻撃、会心の一撃狙い、そして特技を使ったメタル斬りなどだ。
この『ダイの大冒険』の世界で、どれかを再現できればレベルを上げられる。
元はでろりんの体だが、レベルを上げまくれば何とかなるだろう。
「はあ、メタルスライムか。君に教えてもいいが、パプニカで魔物を狩るのは禁止だということは忘れないでくれよ。この前の件はあくまで特例なんだ」
「あたし知ってるわ。メタルスライムは乱獲されて数が少ないの。でもこのホルキア大陸は魔物の討伐が禁止だから生き残りがいるはずよ。他には無人島にもいるかもしれないわ」
「分かった。俺もパプニカやレオナ姫に迷惑かけたくないからな。無人島が大陸の北東側にあるのは知ってるからそこに行ってみる」
「おいおい待て待て。君の言う無人島はバルジ島の近くだろう? 王家の実効支配こそできていないが、名目上あそこもパプニカの領土なんだぞ。勝手に入れると思うなよ」
「ねえ、アポロ、でろりん。あたしたちが組んでその敵を倒すのはダメかしら? 賢者としての修行にもなるかもしれないわ」
これは魅力的な申し出なのか……。
しかし、アポロやエイミに何かあれば原作が崩壊してしまう。
全員でかかれば、デルタ一人なら或いは戦えるかもしれないが、ザムザやザボエラもいるんだ。
ザボエラはやばい。勇者アバン級じゃないと勝てないし、そもそも勝つと原作が崩壊する。
「しかし、僕たちが手を貸す問題じゃないだろう? 他国の出来事になるわけだし」
「助けてもらってこれ以上は悪いしな。逆にパプニカに何かあれば俺が手を貸すよ。話は変わるが、特殊効果のある武器について知らないか? 二回攻撃できる剣とか、会心の一撃がでやすい斧とか、そういう武器の知識があれば教えてほしいんだ」
……。
二人から話を聞いたが、あまり有益な情報は得られなかった。
せいぜい会心の一撃が出やすいアサシンダガーの噂を聞けた程度だったな。
しかし、問題はない。
『ダイの大冒険』の原作をヒントにした、メタルスライム狩りの秘策が一つあるんだ。
俺はパプニカを後にし、勇者アバンの出身地カール王国に向かうことにした。
あそこならきっとアレがあるはずだから。
現時点で、でろりんの考えるラスボスは『ジャミラス』です。
ドラクエ6では四大魔王を務めている魔族です。
バーンが使った兵器ピラァオブバーン六本のうち、本命はオーザムの『黒の核晶』。
ここだけ厳重に守ればあとは誘爆させて魔界側の勝ちになります。
なのでその一本だけは魔界にいた強豪魔族のジャミラスに守らせていました。
『ジャミラス』序盤のハドラーぐらいの力はあります。