機能を知ってから一度は使ってみたかったのです。
――少年ノヴァのレア武器を奪い取りたい。
そのような魔が差した俺は、すぐに考え直すことができた。
まず『はやぶさの剣』は、ドラクエⅢだと戦士が装備できない武器なのだ。
ノヴァの戦いから分かるように、腕力に頼る脳筋タイプには使いこなせない。
剣のしなりを自在に扱うには器用さが必須で、俺たち戦士二人には苦手分野だ。
装備できるのは勇者と盗賊。後はせいぜい商人と頭の良い賢者あたりまでだろう。
そもそも装備をできるか以前に大きな問題がある。パプニカは敵に回せない。
ずるぼんたちと合流するにはパプニカ賢者の手助けが必要なのだ。
ザムザたちに目を付けられた俺が、ロモスに直接乗り込んで探すことはできないからな。
またノヴァの剣を盗んでいたら、俺は本物の盗賊に落ちてしまっただろう。
もしかしたら剣を装備できるようになるかもしれないが、偽勇者ですらなくなってしまう。
いくら俺でもそこまで悪人にはなりきれない。
決して焦る必要はない。金策しながらメタルスライム狩りを続けていけばいいのだ。
例えばこのマッドオックスの角、すり潰せば服用する薬として高く売れたりする。
そうやってゴールドを稼いでは毒蛾の粉を買い、メタルスライムを求める旅をすればいい。
本編開始まで、あと五年もあるのだ。
……。
やがて三年の月日が流れた。
◆
◇
◆
俺は三年間のレベル上げについて振り返る。
一番最初にメタルスライム六匹を狩れたのは僥倖に過ぎなかったな。
ノヴァ用にお膳立てされた狩場を横取りすることで得られた高効率だったのだ。
メタルスライムなんて世界中旅してもそうそう発見することはできなかったし、
生息地域を見つけたとしても、国や住民とトラブルを起こすわけにはいかない。
それでも三年間がんばったんだ。百匹以上のメタルスライムを狩ることはできた。
そして今日は、カールの冒険者ギルドに行く日である。
八ヶ月前に出したステータス鑑定の申請。ようやくその順番が回ってきたのだ。
これでレベル上げの成果を確認できる。
◇
名前:へろへろ(=ヘルへロード)
職業 :戦士
レベル:31
<つよさ>
ちから :124
すばやさ :29
たいりょく:150
かしこさ :26
うんのよさ:35
最大HP :303
最大MP :0
攻撃力 :164
守備力 :67
<装備>
Eてつのおの:+40
Eてつのよろい:+25
Eてつのかぶと:+16
Eてつのたて:+12
<呪文>
なし
◆
へろへろのステータスはこんな感じだ。
『ちから』と『たいりょく』の恩恵で、高い攻撃力とHPを実現できている。
見た感じ『すばやさ』が低いのが気になるな。
行動順が遅いだけなら問題はないが、ドラクエのシステムだとそうはいかない。
『すばやさ』の半分が、素の守備力として計算されてしまうのだ。
下手をすれば防具でしっかり固めても、布の服だけの人より脆くなったりもする。
へろへろは前衛としては問題ないが、タンク役は向かないスペックだ。
あまり一人で突出させないようにして戦おう。
そう分析していると、受付が俺の名前を呼んだようだ。
この鑑定システム、八ヶ月も順番待ちになったことで分かるように、
ゲームみたいに一瞬で鑑定できるわけではない。
まず特殊な液体を飲んでから水晶玉の前に座る。
そのまま身じろぎをせずに、十分ぐらいじっと待たなければならないのだ。
そして結果が出た。
◇
名前:でろりん(=アルファ)
職業 :偽勇者
レベル:31
<つよさ>
ちから :110
すばやさ :66
たいりょく:109
かしこさ :54
うんのよさ:66
最大HP :217
最大MP :111
攻撃力 :143
守備力 :65
<装備>
Eはがねのつるぎ:+33
Eみかわしのふく:+20
Eアリアハンのかんむり:+12
Eにげにげリング:+7
<呪文>
メラ
メラミ
メラストーム
ヒャド
ギラ
イオ
イオラ
(ホイミ)
(ニフラム)
(ルーラ)
(アストロン)
(リレミト)
(ラリホー)
(マホトーン)
(トヘロス)
(ベギラマ)
(ライデイン)
(ベホイミ)
◆
なっ!? なんだこりゃあ。ツッコミどころが多すぎる。
頭がフリーズするがパッと見、すごく強そうだ。ビクつきながらも内心かなり嬉しい。
心臓がバクバクいっている。宝くじが当たった心境はこういう感じなのだろうな。
とにかく頭を整理しなければならない。
まずは職業からだ。『偽勇者』とはいったいどういうことなのか。
十五歳の誕生日に俺は転職した。魔法使いから戦士になったことは間違いない。
メラやイオラなどの攻撃呪文は転職前に覚えたものだ。
だが先ほどの鑑定結果を見ると、カッコ付きで大量の呪文を覚えているようだ。
これらは未契約の呪文だろうか?
……。
やがて俺は気がついた。
カッコ内は、ドラクエⅢの勇者が覚える呪文と同じだということに。
ひょっとすると『偽勇者』とはドラクエⅢの勇者を指しているのではないか?
俺が知らぬ間に、自分の職業がいつの間にかに入れ替わっていたらしい。
いつからそんなことになったのだろうか?
考えられるのは神様の力で転生が完了し、前世の記憶が戻ったときか?
不思議な感じがしたからな。神様が最後にオマケしてくれたのかもしれないし、
自分の中で勇者はドラクエⅢのイメージが強く、それに引っ張られたのかもしれない。
とにかく俺はドラクエⅢの勇者として『ダイの大冒険』の世界にやってきた形になったようだ。
ちなみに『アリアハンのかんむり』は鍛冶屋に特注で作ってもらったもの。
原作でろりんと同じ格好がしたかったが、店では売っていなかったのだ。
『アリアハン~』と勝手に命名されているのは、やはり俺がドラクエⅢの勇者だからなのだろう。
やがて思考が十分に追いついて俺は正気に戻ったようだ。
ふと前をみると、より大きなショックを受けたらしいギルドの女性職員がまだ固まっていた。
「……」
やばいよな。これ。意味不明な職業にライデインまであるから。
あまり騒がれるのはまずい。
「わ、悪い。俺から鑑定をお願いしたくせに、少しズルをしてしまったんだ。か、鑑定の前に飲む液体の味がちょっと苦手で、つい口直しにオレンジジュースを飲んでしまった。だから変な表示になったのだと思う。時間取らせておいて悪かった!」
オレンジジュースは嘘だが、あの味が苦手で口直ししたいと思ったことは本当だ。
「あ、そ、そうだったんですね。び、びっくりしました。ニ時間後ぐらいに再鑑定しますか?」
「いや、野暮用があるので大丈夫だ。今回のミスは自業自得だし、また後で新たに申請をし直すよ。順番待ちの人にも悪いからな」
そうやってとっさに機転を利かせ、カールの冒険者ギルドを後にしようとしたところ、
奥から来た別の女性に肩を掴まれて俺は逃げられなくなってしまった。
「おい、お前たち二人には話がある。そこのレベル三十超え戦士もちょっと奥の部屋までこい」
きつい言葉遣いの彼女を見ると、まず目を引いたのはクリムゾンの髪の毛だった。
まるで燃え上がるような派手に流れる鮮紅色は腰まで伸びて綺麗に揃えられている。
反面、その双眸は理知的でライトブルーの冷たい光を放ち、高い知性を表現していた。
服装はミニスカートに足元はハイヒール。バブルに湧くカール王国らしい派手派手しい格好。
そこまで見てからようやく、彼女がぶらさげてる名札の方に目がいった。
――カール王国冒険者ギルド副所長リライザ。
情熱の赤と冷静の青を兼ね備える彼女は、冒険者ギルドの役職持ち。
こちらを睨んでくる様子からして、俺たちの素性を怪しんでいるのは間違いない。
受付の新人嬢っぽい子は口八丁でごまかせても、この相手には分が悪そうだ。
だが相手がアバン先生ならともかく、こんなところで素性を明かすつもりはない。
俺はあくまでしがない偽勇者でろりん。あまり目立っても良いことは一つもないんだ。
ザボエラ、ミストバーンやキルバーンなどに将来目をつけられたらたまったものではない。
何とか誤魔化して逃げ出す方法はないものか。
「い、いたたたた。ちょっと手を離してくれないか、鑑定液とジュースを混ぜて飲んだからお腹を下してしまったんだ」
「そうかい。じゃあまずは戦士のほうだけでも連れて行こうかね。しっかり事情を聞くまで帰さないからアンタは後で来るんだよ。あとトイレは入り口のでなくて三階にある職員用のを使いな」
副所長のリライザはそう言って、へろへろの手を掴んで奥の階段を登っていく。
一人で逃げる意味はないので、俺は渋々リライザの後をついていく。
転生という部分は絶対に隠すとして、偽勇者の職業をいったいどうやってごまかそうか。
いやー困った困った。
ステータスの各パラメータはドラクエⅢ勇者の平均値を参考にしています。
でろりんのモチーフはドラクエⅢなので丁度いいかと思いました。