偽勇者の大冒険   作:マリリス

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森で賢者のアポロに目をつけられてしまったところから。


俺はでろりん、賢者のアポロと戦うぜ!

 俺は、将来『ずるぼん』になる予定の少女を立ち直らせるため、

パプニカ近郊の森で白い毛皮のライオンヘッド親子を狩りに来たのだが、

賢者を名乗るアポロという男に絡まれてしまったところだ。

 

 「でろりん君、早く僕にその袋の中身を見せるんだ」。アポロが急かす。

 

 「中を見せれば俺にもう関わらないならいいぞ。暇な賢者サマと遊んでいる時間はないのでな」

 

 「まぁいいだろう。僕だって忙しい身だ。妙なものが入っていなければ解放するよ」

 

 幸いなことに今は大したものは入っていない。

これから狩る珍しい個体のライオンヘッド――『シロ』への対策として、

その赤子を人質として戦いに利用し、最後はロモスに密輸するための袋だ。

 

 まだ計画を実行する前なので中身を見せても大丈夫だろう。

食料用のパン、回復呪文代わりに多めの薬草、一番下にしまってある新月草ぐらいだしな。

 

 「ほら、これで全部だ。満足か?」

 

 「……なるほど。食料、薬草に満月草か? いや、よく見ればこれは満月草ではないようだが」

 

 「そうか? ちょっと変わった満月草のようなものだぞ。そして悪いが俺はお前と植物の話をしている暇はないんだ。そろそろ行かせてもらおうか」

 

 って、おい!

アポロの奴は俺の新月草を勝手に掴み、成分の分析を始めやがった。

 

 ……。

 

 「なるほど、この草は満月草とは反対の効能があるようだね。睡眠効果、もしくは相手を痺れさせる毒草のようなものだと見た」。鋭いアポロの指摘だ。

 

 「よく分かったな。これはロモスに生えていた新月草だ。俺は寝付きが悪いから、この草がないと眠れないんだ。毒草だって量を調節すれば良い薬になるんだ。もういいか?」

 

 「怪しいね。薬として持つには量が多すぎると思う。一度に燻れば、モンスター含めて広範囲が眠りに落ちる程とみるよ」

 

 「長旅でしばらくロモスには帰らないからな。それに量の多さが問題だっていうなら、この薬草だって毒にもなるぞ。この薬草全部、お前の口に無理やり詰め込んで試してやろうか」

 

 「わかった。君は十分に怪しい者だ。僕は君を逮捕することに決めたよ」

 

 俺もよく分かった。このアポロは、どうしても俺の邪魔をしたいらしい。

賢者らしいが、とても偉そうなところも気に食わない。この場でやっつけてやる。

 

 「おっと、その場を動かないほうがいいよ。僕は強力な攻撃呪文が使えるからね。逃げようとしたのなら、その瞬間に君の背中は黒焦げさ」

 

 「ほーう? この国の賢者サマは随分と怖いことを言うなぁ。ならば俺は自分の身を守るためにせいぜい抵抗させてもらうぞ」

 

 俺は古びた鉄の剣を、アポロは装飾された魔法の杖をそれぞれを構える。

 

 「パプニカが誇る賢者の僕に対して、君は剣を向けるというのだね? そこを一歩でも動けば、遠慮なくこいつを撃たせてもらうよ」

 

 アポロは杖に魔力を集中させ火炎呪文を放つつもりだ。メラ。いや、この感じだとメラミだな。

俺が転職前、魔法使いの頃にさせられた地獄の特訓でも、メラミ習得までかなり時間がかかった。

アポロは俺と変わらないような年でメラミを使うとは、さすがは賢者だ。

 

 「わかった。もうわかったよ。動かなければ良いんだろう。剣も置くからそんな物騒な呪文はやめて俺を普通に逮捕してくれ」

 

 俺は鉄の剣を投げ捨てて両手を上げて降参のポーズをする。

 

 「ふう……。やっと君の減らず口が止まったね。じゃあ、ここにあるツタを縄代わりに縛るから大人しくしてるように。君が下手に動いたら、僕はさっきの呪文を使うからそのつもりでね」

 

 傍から見ると、俺は大口叩いた挙げ句に武器を投げ捨てた哀れな戦士だ。

 

 その姿にアポロが気を抜いてメラミの魔力を抑え込んだ瞬間――

俺は動いた。

 

 「バカが! かかったな、俺のメラは特別製だ!」

 

 「な、何!?」

 

 お手上げ状態から下ろした右手の三指は既に火が点いており、油断したアポロは固まっていた。

幼少の頃からバカ親父に特訓をさせられた俺のメラは特別で、

三発同時に発射という特技があり、一発一発の威力も高い。

 

 昔の魔王が使ったメラは、相手を燃やしつくすまで決して消えなかったらしいが、

使い手により特殊な性質が宿ることがあるようだ。俺の場合は、三才から特訓の影響か、

バカ親父に対する怒りの炎のせいだな。

 

「約束通り動いていないぞ、アポロ! 呪文はお前の専売特許じゃねえ! さぁ、これでも喰らいやがれ! メラ!」。気を抜いた相手につけ込む俺の奇襲攻撃だ。

 

 ブワブワブワ! メラ三発が螺旋を描きながら、嵐のように放たれて周囲が赤く照らされる。

メラストームとでも名付けたい俺の秘技の一つだ。

 

 「く、くうっ……」

 

 メラ発動の溜めは非常に短い。そして俺のメラは十分な威力がある。

一度解除されたメラミでの相殺は間に合うまい。どうする。

 

 ――ヒ、ヒャドッ!

 

 ドドン! ブワブワオオオォォォォー……。

 

 「う、うわあぁぁぁー」

 

 アポロは即座に呪文をヒャドに切り替えて一発を相殺したものの、

残り二発のメラをまともにかぶる形になった。ヒャダルコを唱える時間の猶予はなかったな。

 

 並の相手ならお陀仏だろうが腐っても賢者らしいので油断はできない。

俺は次の手を考え、素早く鉄の剣を拾って炎が収まるのを待つ。

 

 ムッ! 思ったよりもさらに効いていない?

煙が晴れてくると、ところどころ服が焦げたアポロが現れた。

 

 「ぼ、僕の大切な法衣が……。新賢者の記念にテムジン様から授かったのに」

 

 「ちっ、それは炎に耐性があるのか。金持ちはずるいな」

 

 「こんなことをして……。もう僕は君を許さないからな! 謝っても土下座しても命乞いをしても絶対に君だけは許さない」

 

 「ああはいはい。服ぐらいで泣くな泣くな。いい男がみっともない」

 

 「なんだとおぉ! バカを言うな。僕は泣いてなんかいない」

 

 「ところで、そんなに鼻息荒くしていていいのか?」

 

 「何を! ……う、なんだ……僕の身体の動きが……鈍い」

 

 俺のメラで周囲はまだ煙臭いが、それに紛らすかのように、あることをしていた。

地面にばら撒かれていた『新月草』を残り火でこっそり燻っていたのだ。

人や動物を眠らせる煙が満ちていく。

 

 そろそろ俺も息を止めるのが苦しくなってきたな。

呼吸を荒くして先に眠りに落ちていくアポロを残してその場を離脱する。

 

 今回の顛末は正当防衛。アポロにトドメをさしてもよかったのだが、

相手は偉い身分のようなので、国際指名手配になっては堪らない。

高級そうな杖や身ぐるみを剥ぐことも考えたのだが、俺はやめておいた。

 

 アポロは賢者にまで上り詰めた若者で、非常にプライドが高そうだ。

一対一で俺みたいによく分からん奴に敗れた事は吹聴しにくいだろう。

 

 ここで余計なことをしなければ俺は悪いことはしていない。ただの私闘だ。

今後アポロ本人と遭遇するならともかく、王国に追われることはないと判断した。

 

 

    ◇

 

 

 パプニカ賢者の後日談

 

 「それでねマリンお姉ちゃん! アポロったらね! 森での修行中に呪文の暴走で記念の法衣を焼いちゃったのよ」

 

 「エイミ、あれは暴走じゃないって。僕はフバーハを覚えたくて、自分にメラを落としたら失敗してしまっただけなんだ」

 

 「えーー! いくらアポロのメラでもあそこまでは焦げないでしょ。炎や熱に強い素材だもん。自分にメラミ撃つわけもないし、やっぱり暴走だと思うけどなー」

 

 「こら、エイミ。あなたはまだ賢者になれてないんだからアポロをからかっちゃ駄目よ。それにアポロも賢者になって浮かれてたんじゃないの? そんなんじゃ足をすくわれるわよ」

 

 「……。そうだね。確かにマリンの言う通りかもしれない。今回は僕に慢心があった。悔しいけど認めるよ」

 

 「アポロなのに珍しいよね。なんかちょっと可愛いって感じ」

 

 「こら! エイミも自分の発言を反省しなさい」

 

 「えー!」

 

    ◆




 機転でアポロを出し抜いたでろりんです。
まともに戦っていたらどちらも大怪我でしょう。
ちなみにアポロはまだフバーハとメラゾーマは覚えていません。
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