原作でもお酒飲んでるから許してください。
レオナと酒を飲んだ。誰もいない月夜の丘で二人きりになった。
向こうから誘われたとはいえ、それに乗った俺も悪かったと思う。
羽目を外しすぎた。エイミが心配したり、怒るのは当然だな。
「十四歳のレオナと酒を飲んだこと、怒ってるよな?」
「本当は十三歳になったばかりよ。本人だけは数え年を使って、十四歳って主張してるけど」
少しでも背伸びをしたい年頃ってことか。
それにしてもまじかよ。発育良いし大人びているから気が付かなかった。
いや計算上では、少しおかしいと思っていた。
原作のレオナが十四歳のはずだからな。その本編開始まではあと二年あるんだ。
だが今が十三歳で、本編は十五歳になる寸前だったと考えれば合点が行く。
そして原作では、十四歳で公然と、ワインをがぶ飲みしているシーンがある。
作品的に問題があるわけではないようだ。
「エイミ悪い。グイグイ来たから断りきれなくて。月見が丘でのことも見てたんだよな?」
「……えっと、な、何も見てないわよ。暗かったし茂みのせいで二人を見失ったんだもん」
「そ、そうか。一応、『レオナ姫』とは何も無かったからな」
俺たち自体が何も無かったのは本当だ。
「違くて、ずるぼんさんの最新情報、せっかく持ってきたのに割って入りづらかったんだから。こんな遅くなっちゃってもう! すれ違いになったって知らないからね」
そうか。情報は鮮度が命。明日から探し始めても、間に合わないかもしれない。
せっかく俺のために動いてくれたエイミの好意を、台無しにすることになる。
だから彼女はムッとしていたのだ。
「姫様のことはあたしに任せて、ずるぼんさんを探しにいってちょうだい。これが地図。今日の昼頃、『カンダタ』っていう盗賊を退治にいったはずだから、早く行ったほうが良いかも」
『カンダタ』だって? あいつこの世界にもいやがったのか。
ドラクエⅢなどに出てくる有名な中ボスだ。あの変態的な格好をしている裸マント。
あいつ、結構強かったよな?
「その『カンダタ』というのは有名なのか?」。一応聞いてみる。
「いろいろと根城を変えながら、活動してる盗賊の親分なのよ。パプニカも手を焼いているの。だけど、でろりんの仲間なら、みんなカール騎士団長のホルキンスと戦えるぐらい強いんでしょ? さすがのカンダタも瞬殺だろうから、もう入れ違いになっちゃってるかも」
「な、なんだって! 言っておくが、ずるぼんとまぞっほは、すごく弱いんだぞ」
俺が本格的に強くなったのは、三年間の修行――メタルスライム狩り――のおかげなのだ。
まぞっほのイオを思い出す。ポポポンという情けない音。猫騙しぐらいの効果しかない。
あくまであの二人は、呪文が苦手な魔法使い、ホイミが効きにくい僧侶なのだ。
そんな彼らが『カンダタ』と戦うだと? 何を考えているんだ。
「え? そうなの? ずるぼん、まぞっほ、スタングルの三人といえば、最近パプニカの冒険者の間で、話題になってるらしいのよ。だからすごく強いと思ってたんだけど」
スタングルとは、ずいぶん意外な名前がでたな。
ロモスにいた木こりの少年で、本編のロモス武術大会に出場していた強豪だ。
万能ムチの使い手らしいが、万能ムチが何なのか、そもそもよく分からない。
万能というからには、接近戦もある程度こなせるのだろうな。
後衛二人だけでは心配だが、中衛も入れば少しは安全になるだろうか。
「どちらにしても早く行ってあげて。姫様のことは心配しないでいいから」
エイミに背中を押されて、俺は無我夢中で駆けた。
宿に立ち寄り、寝ていたへろへろを叩き起こして出陣だ。
満月のおかげで、夜中でも行動できるのは助かる。
鍛えまくった俺たちの、脚の速さと持久力は伊達じゃない。
おかげで、やや息が切れる頃には、カンダタがいるらしい塔に辿り着いていた。
塔には灯りがある。暗い部分があれば俺がメラで明かりを灯せばいい。
床には盗賊が何人も倒れていた。戦闘の手間が省けて好都合だ。
そして五階か六階に辿りついたときだった。
――激しい物音。
こっそりと陰から覗いてみると、激しい戦闘の真っ最中だった。
右側には、変態裸マント、全身鎧の戦士。
カンダタとカンダタ子分だな。子分の方は立っているのもつらそうだ。
左側には、若い僧侶の女性、男の老魔道士、若い少年が構えていた。
長い戦いの影響か、僧侶と老魔道士の表情には疲れが見える。
一方で若い少年は、複数の傷を負っているものの、闘志は衰えていないようだ。
この三人は間違いない。ずるぼん、まぞっほ、スタングルだろう。
俺たちが加勢してもいいが、彼らがどこまで強くなったか見ておきたい。
横からこっそり観戦していると、カンダタが大きな声を出す。
「よくここまで戦ったな。褒めてやるぜ! だが、俺様を捕まえることは誰にもできん」
確かにドラクエⅢでもあったなぁ。このセリフ。
「さらばだ。わっはっは」
カンダタは笑いながらそう言うと、カンダタ子分を前に突き飛ばした。
すでに満身創痍だった子分は、ずるぼんたちの目の前で倒れてしまう。
ガッシャーン。地面にぶつかる鎧が激しい金属音を立てた。
その結果、皆の注意はそこに引きつけられる。
その隙に自分だけ逃げ出そうとしているのだろう。駆け出すカンダタ。
そのまま非常口へ一目散。だが、その足にスタングルの万能ムチが絡みついた。
バランスを崩した彼は、ベタン! と地を這う。
――ヒャド
スタングルがそう唱えると、万能ムチ全体に呪文による氷の結晶が浮かび上がる。
魔法剣のムチバージョンみたいな感じか?
ムチの色や材質を見るに、特別な木の皮が使われているようだ。
呪文用の杖。その材料となる木を、万能ムチに取り入れているのかもしれない。
確かに万能だな。叩きつけて物理攻撃をしてもよし、呪文を使っても良し。
今回みたいに相手に巻きつけて拘束してもよし。侮れないぞ、万能ムチ。
カンダタの自由は奪われた。あとは諦めさせるだけだ。暴れられると面倒になる。
そしてこの場で一番口が回るのは、女のずるぼんだ。
「天下のカンダタもここまでね! 神妙にしなさい! そうすればあたしは僧侶。子分の治療をしてあげるわ。名高い盗賊のあなたが、重傷の子分たちを死なせてしまってもいいの?」
盗賊にも美学があるだろう。上手く相手のプライドをくすぐるずるぼん。
「わ、分かった。許してくれよ!な!な!」。土下座して許しを請う変態マスク。
「しょうがないわねぇ」。その豹変ぶりに、ずるぼんは呆れた表情だ。
俺は出ていくタイミングを計っている。
どういう顔をして、かつての仲間に声をかければいいのだろうか。
こちらが勝手に蒸発した形だ。相当な心配をかけたことは間違いない。
二度とパーティを組んでくれない可能性もあるな。既にスタングルがいるわけだし。
そうだ、俺もカンダタの横に並んで、一緒に土下座をしてみようか?
情けないが面白いし、許してくれそうな気がする。
だがカッコいい登場というのも捨てがたいな。戦闘が終わってしまったのは惜しかった。
すると、先ほどカンダタに突き飛ばされた子分が、ゆっくりと起き上がる。
ずるぼんたちは気を抜いており、それに気がついていない。
子分は剣を構えたまま、抜き足差し足忍び足。
人質を取られたり、カンダタを縛ったムチを切られたら、この場の形勢は逆転する。
部下を突き飛ばした場面は、情けなく見えた。だが実際はしたたかだったな。
カンダタは必死に額を床にこすりつける演技で、皆の注意を引いている。
そしてついに子分が動いた。
加勢するタイミングが来たぜ。そしてやっぱり俺と言えばこれだろう。
メラストーム。右手の三指に点火、メラ三発同時発射。
火球が螺旋を描くように、周囲を赤く照らしながら飛んでいく。
そのまま着弾。子分は火に包まれて崩れ落ちる。
加減はしたし、一応鎧を着ているから即死はしないだろう。
「よう! ずるぼん、俺もホイミ覚えたんだぜ! 子分たちを回復するの手伝おうか?」
子分の不意打ち、それを防いだ火球。そして俺の登場。
ずるぼんは反応が追いつかずフリーズしたものの、すぐに涙目になって抱きついてきた。
「でろりーーーん! ばかばかばか、でろりんのばかー! ばかばか。ずっと探してたんだよ。夢にも何十回も出たんだから。なんで勝手に行っちゃったのよー!」。ポカポカ叩いてくる。
俺はそれを全部受け止めて、ずるぼんの手が止まるのを待った。
「すまない、やばい奴に目を付けられて命の危険があったんだ。俺に関わると、皆を巻き込むと思ったのであえて連絡を取らなかった。いや、巻き込まれて死んでいるかもと思ったこともある。本当に迷惑かけたな。でもお前たちが無事で良かった」
ずるぼんたちを守ってくれたスタングルには、礼を言わないといけない。
「確かスタングルだよな? 忘れてるとは思うが、魔の森の入り口で道を聞いたことがあって、俺とも一度会ってるんだぜ。ずるぼんやまぞっほの力になってくれて、本当にありがとう!」
「そうか。キミがでろりんか。何度も聞かされたよ」
「でろりんよ。ワシのことも忘れてはおらんじゃろうな」
「まぞっほを忘れるわけが無いだろう。見た目も変わらないよな。また一緒に冒険しようぜ」
……そろそろ本編知識のことを、少しずつ話したほうがいいのかもしれないな。
信頼を得るためにも必要だし、再び余計な心配をかけないためだ。
たとえば原作通りに進めるのなら、デルムリン島を襲撃してゴメちゃんを奪う必要がある。
だが全てを秘密にしたまま、いきなりそんなことをしたら、白い目で見られそうだ。
はっきりと王様から依頼されるのならいいが、原作ではどうだったか分からない。
ゴメちゃんは一度奪っておきたいんだよな。
その正体は神の涙。所有者の願いを叶える、伝説の生きたアイテムだ。
願いを叶える度に力を失い、その体が少しずつ縮んでいく仕様になっている。
本編で人類が救われた理由の一つに、ゴメちゃんの大きさが十分だったことがある。
勇者たちが勝利できたのは、何度も奇跡を起こしたゴメちゃんのおかげ。
原作でろりんが、黒の核晶の爆発を抑え込めたことも同じ理由だな。
あのときゴメちゃんの力が足りなかったら、地上世界は吹き飛んでいた。
『ゴメちゃんを小さくせず、大きさを保って進行すること』が、これからとても大事になる。
そこで一度身体検査しておきたい。基準となる身長や体重を知りたいからだ。
でなければ、小さくなったかどうかが分からない。
俺自身も保険として、願いをかけておきたい気持ちはあるが、微妙か。
あとは、もう一つ思い出した。
ダイが勇者になる第一歩として、でろりん退治の功績で授かる、『覇者の冠』の件があるんだ。
だから俺が悪役をやりつつ、ゴメちゃんを奪うのは一石二鳥。
しかし、仲間や周囲の人が嫌がるのなら、無理強いするのも考えものだな。
現状はあまり望まれてないような空気を感じる。とにかくどうするか、よく考えるんだ。