偽勇者の大冒険   作:マリリス

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俺はでろりん、ダイの大冒険のことを仲間に話すぜ!

 ここはウッズの塔。先ほどまで盗賊に不法占拠されていた場所だ。

六階にあるバルコニーの眼下では、鬱蒼とした樹林が、月夜の下にうごめいていた。

視線を遠くにやると、パプニカ城の輪郭も小さく確認できる。

 

 「でろりん、一階から三階は盗賊たちの治療が終わったわ」。ずるぼんが戻ってきた。

 

 「上層階も今ちょうど終わったところだ。しかしもうすぐ夜明けになってしまうな」

 

 「それでどうするの? 縛った盗賊を放置して、宿に帰るわけにはいかないわよね。外に仲間がいるかもしれないし。とりあえず今日はここで泊まっていく?」

 

 確かにずるぼんの言うとおりだろう。別働隊にカンダタを救出されては元子もない。

兵士が手伝いに来るまでは、ここで待つしかないようだ。

 

 「ルーラもまだ使えないし、捕まえた人数が多いからしょうがないか」

 

 王都まではかなりの距離があるので、俺たちはこの場所で一夜を明かすことにした。

あとで狼煙を上げておけば、昼頃には兵士が来てくれるはずだ。

 

 「ずるぼんたちも疲れてるだろう? 積もる話は明日にして、もう寝ようぜ」

 

 聞きたいことや、説明すべきことは後回しにして、今は休むことにした。

重大な話ほど、傍にいるからと中途半端に話すよりも、きちんとした場を設けるほうが良いのだ。

 

 横になったまま目を閉じて、俺は今後のことを考えた。

 

 ……。

 

 デルムリン島を、原作通りに攻めるのはやめようと思う。俺たちが強くなり過ぎているためだ。

ダイに倒される悪役になるには、相当の手加減と演技が必要とされるし、かえって不自然になる。

 

 また本編のルートにこだわることは、あと二年間、何もしないことと同義になる。

それは戦略として受け身なのが気になった。例えば、ダイをいつまでも放置するつもりなのか。

その気になれば島に行って、直接鍛えることだってできるのに。

 

 待ちの姿勢を続けた上に、運悪く本編の進行からも外れたら、目も当てられない。

最低限の戦力と、本編の知識を活かして、自分から動くべきではないのか?

 

 だが厄介なことに、悪役でろりんの成敗は、後に連なるイベントの発生条件にもなっている。

島を攻めないのなら、その代替手段を考えなければならない。

 

 たとえば『覇者の冠』の件だ。後に魔界の名工を通して『ダイの剣』となるアイテムなのだが、

神の金属と称されるオリハルコンでできており、これが本編終盤で絶対に必要となる。

島を攻めないとダイの活躍がなくなるので、国王から『覇者の冠』を授かることはない。

 

 またレオナ姫の洗礼イベントや、アバン先生がデルムリン島にやってくる流れも連なっている。

まぁ考えても仕方がないから、そろそろ寝ようか。

 

 

    ◇

 

 

    ◆

 

 

 半日後、カンダタは無事に連行され、俺達はパプニカの宿に戻っていた。

新たに大きめな部屋を借り、テーブルを挟んで、今は皆と向かい合っているところだ。

 

 さて、昔の仲間に対して、どう切り出すべきか。

向こうからすれば、俺は勝手に失踪した形だ。きちんと説明をしなければならない。

 

 そうして悩んでいると、対面のずるぼんと目が合った。

大きなブラウンの瞳が、こちらに視線を投げかけている。

艷やかな紅紫の髪、小麦色の肌、目鼻立ちのきりっとした顔。

 

 三年見ないうちに、ずるぼんは凛とした雰囲気を纏うようになったな。

そのトパーズの双眸からは、キラキラと眩い希望の光がこぼれ続けていた。

 

 「スタングルとは、いつ仲間になったんだ?」。とりあえず、こちらから質問をしてみる。

 

 「そうねぇ、あの日はロモスで武術大会があったでしょう? 予定通りに出場することにして、あたしが一回戦で戦ったのが、万能ムチ使いのスタングルだったの。それがきっかけよ」

 

 それを補足する形で、スタングルが淡々と口を開く。

 

 「あの試合で、僕のムチが未完成だったことに気がついたんだよ。ずるぼんさんをうまく拘束したんだけど、バギ系の呪文でムチを切られてしまい、逆転負けをしたんだ。その後、でろりんさんがいなくて困っていた様子だったから、人探しを手伝いつつ、皆と修行しようって思ったんだよ」

 

 ずるぼんが得意げに右手を突き出し、人差し指の指輪を見せびらかす。

それは窓から差し込む陽光に反射し、一瞬キラリンと輝いた。

 

 「じゃーん! 『家庭教師の指輪』、これをでろりんに貰っていたから、バギマを使えたのよ。冒険者になってからも重宝していて、今ならバギクロスだって使えるようになったんだから」

 

 「それはすごいな。もう昔の俺より強いんじゃないか?」。バギクロスを使えるとは驚いた。

 

 その指輪は、アバン先生がくれたもので、『輝聖石』を使ったアイテムだ。

魔力を蓄える効果があり、ワンランク上の呪文を発動するための、手助けをしてくれる。

ベギラマ以上の威力を出すと壊れるらしいのだが、バギクロスは大丈夫なようだな。

『ダイの大冒険』のべギラマは、メラゾーマやバギクロスに匹敵する呪文なのだろう。

 

 「でろりんも強くなったわよね? 雰囲気とかで何となくあたし分かるわ。ウッズの塔のときも、カンダタの子分を殺さないように、とっさに絶妙に加減していた呪文を撃っていたし」

 

 そこまで分かるようになったのか。

ずるぼんには、ある程度秘密を話しても問題なさそうだ。

 

 新生魔王軍のことはへろへろだけに話そうか、と最初は考えたりもした。

彼なら口が堅いし、十分な実力があるので、恐怖にも耐えられるだろうと。

 

 原作の俺たちは、お世辞にも精神力が強いとは言えない。逃げ癖がついていたぐらいだ。

下手なことを言えば、心が折れてしまう恐れがある。

だが、今のずるぼんだったら耐えられそうな気がした。

 

 俺は、まぞっほをチラリと見る。

こちらが一番心配だ。もともと小心者なことは分かっている。

原作よりも条件は良いだろうが、年齢的に、ずるぼんほどの成長は見込めない。

 

 きっと大魔王バーンの話は論外で、魔王ハドラー復活の件にも付いてこられるかどうか……。

 

 「ねぇ。でろりん、あたしに何か、隠し事をしているでしょう?」

 

 「……そうだな、確かにある。だから今からそれを話そうとしていたんだが」

 

 よく考えたら、隠し事いっぱいあるよな。俺の親父が魔族化して襲ってきたこととか。

ロモスで出世するザムザは人間じゃないとか。レオナ姫とデートをしたとかもそうか?

俺が転生者であること、未来を知っていること、ハドラーの復活、大魔王バーンの野望。

 

 みんなに全てを話せないので、取捨選択をして、相手の反応を見ながら話す必要があるのだ。

 

 「ほら、また考え事してる。昔のあなたと違って、いつも難しそうな顔をしているわよね。あの頃は快活なイメージだったのに、今は人に言えないコトを、いくつも抱えてそうな感じ」

 

 鋭いずるぼんの指摘だが、性格が変わったことは仕方がない。

俺がずるぼんといた頃は、前世の記憶が戻る前の、素の『でろりん』だったからだ。

だが今は転生者の日本人。そして日本人というのは気難しい生き物なんだ。

 

 「ほらっ、スッキリするから、全部話しちゃいなさいよ」。そう言って顔を近づけるずるぼん。

 

 「ぐいぐい来るなぁ。昨日会ったときはバカバカと言いながら、可愛く抱きついてきたくせに」

 

 「泣き虫だった頃のあたしは、もうこの世にいないわ。昨日のは、その最後の名残だったのよ」

 

 そこまで言うのなら仕方がない。俺は決心をする。

 

 「秘密を話そうか。俺はこの世界の未来を記した物語を知っている。神様から授かったものだ。その知識を使って、世界を守るための修行をしてきたし、今後は登場人物に干渉したりするんだ。根が深い問題なので、上手くいくかどうかは分からないがな」

 

 それを聞いたずるぼんの表情が、やや険しくなる。

 

 「……マジメな話をしているんだけど、そんなに話せないような理由を抱えているの?」

 

 美人にキリッとした目で睨まれると迫力があるものだ。

いきなり切り出しても、信じてもらえなかったようだ。まぁそりゃそうだよな。

俺だって、こうなる前ならそうだと思う。

 

 何か証拠を示さないといけないわけだ。

俺は未来の出来事や、主要人物の過去などが分かるのだから。

 

 だが今から予言できそうなイベントはあっただろうか?

 

 アルキード王国消滅から本編開始までは、原作での説明が無かった気がする。

かつての勇者、アバン先生が一年後に武器屋の息子、ポップを弟子に取ることぐらいか。

このアプローチでは証明するまでに一年もかかってしまう。

 

 人物に関する知識で攻めるのはどうか。

 

 へろへろは金目の物に弱い。まぞっほは不思議な踊りに弱い。

ずるぼんは……分からない。ダメか。まぞっほの弱点も、魔法使いに共通することだしな。

不思議な踊りは見た者のMPを吸収する効果がある。

 

 だが待てよ、まぞっほ関連のエピソードで使えそうなものがあったぞ。

 

 パプニカで冷遇された大魔道士マトリフが、バルジ島の近くに住んでいる。

彼はまぞっほの兄弟子でもあり、極大消滅呪文の『メドローア』という奥義を持っている。

 

 これならどうだろう?

まぞっほの兄弟子という部分以外は、この場で真偽を確かめようもないが、悪くない。

一つの突破口になりそうな気がする。

 

 さらに、まぞっほにはあの名セリフがあるじゃないか。

そう考えると、原作のでろりんパーティでは、まぞっほが一番優遇されているのかもしれない。

 

 「よし、じゃあ、俺がまぞっほの隠された情報を当ててやる」

 

 「ワ、ワシなのか? 隠された情報って何じゃ。か、勝手に人の秘密を暴くのは良くないのう」

 

 構わず続ける。

 

 「若い頃のまぞっほは、正義の魔法使いを目指して、高名な師匠の元で修行していたんだよな。そうだろう? 例の本には、人物に関する断片的な知識も記されているんだ」

 

 まぞっほはビクついた後に、目を見開いて食いついてくる。

 

 「なんと! ではワシの師匠の名前を当ててみよ。確かにかつては正義の魔法使いを目指しておった。それが今では、こんな風になってしまったんじゃ。触れられたくない苦い思い出じゃよ」

 

 「……」。俺は考え込む。まぞっほの師匠の名前は、作中には出てこない。

 

 「どうしたんじゃ? ワシの師匠の名前を当てて見せたら、お主の話を信じよう」

 

その人はマトリフの師でもあるわけで、ものすごい人物なことに間違いないんだが……。

 

 「すまん、まぞっほの師匠の名前は分からないんだ。本にはそこまでの記載がなかった」

 

 「ふむ? それでは怪しくなってくるのう。呪文を使えるような者なら、最初は正義の魔法使いを目指すものじゃ。戦士が、勇者に憧れたりするのと同じことじゃよ。また自分の師を高名と言われれば、それを積極的に否定する気分にはなれん。当てずっぽうでもだいたい当たるじゃろうな」

 

 まぞっほは占い師でもあるし、そうやって推測するテクニックがあるのだろう。

だが俺には切り札があるので、慌てる必要なかった。

 

 「じゃあ、たとえば若いときのまぞっほがいるとして、スライムが村の作物を枯らしていたり、大ガラスが家畜を襲っている場面を見かけたらどうする?」

 

 「メラで追い払ってやるかのう。今だったらメリットが無ければ、放置するかもしれぬが」

 

 「では、勝てそうにないモンスターが村を襲っていたらどうする? そのモンスターは一匹だ。援軍を呼びにいく間に、村が壊滅してしまうかもしれない状況とする」

 

 「それも簡単な話じゃ。昔ならば兵士のところに助けを求めるじゃろう。今のワシは手遅れだと思えば諦める。そして村が滅びてから、金品の再利用を考えるところかのう」

 

 まぞっほの性格は原作通りのようだ。

 

 「だが本当に正義の魔法使いを目指すなら、敢然と立ち向かう勇気が必要なんだよな?」

 

 「それは正論じゃが、やられてしまっては元も子もないわい」

 

 「まぞっほの師匠だったらそういうとき、このように言うはずだ」

 

 深呼吸をしてから、俺は大きく口を開く。

 

 「勇者とは勇気ある者ッ! そして真の勇気とは打算なきものっ!」。さらに続ける。

「相手の強さによって出したりひっこめたりするのは本当の勇気じゃなぁいっ!」。

 

 俺の獅子吼に、まぞっほの表情が抜け落ちる。その能面は徐々に苦々しく顔をしかめていった。

 

 「……わ、わかった、もうよい。お主の言うことを信じるからやめるのじゃ。耳が痛いわい」

 

 「信じてくれたか? 兄弟子には大魔道士マトリフがいるんだよな」。そう畳み掛ける。

 

 「むう。ずるぼんよ、確かにでろりんの言っていることは本当かもしれん」

 

 まぞっほはそう言った。俺の話を一回止めるためでもあるのだろう。

 

 「そうなんだ。じゃあでろりんは、この世界の未来を知っているのよね。世界を救うって言っていたけど、これから一体何が起きるのか知りたいわ」

 

 ようやく信じてくれたようだ。これで先に進める。

 

 「今から二年後に、かつて倒された魔王が復活する。そして俺の知る未来だと国が滅びるんだ。大国の中だと、カール王国、リンガイア王国とオーザム王国の三つだったかな。あとはパプニカも一度壊滅している」

 

 「えぇっ、嘘でしょ?!」

 「なんと! カールやリンガイアなどの超大国がじゃと!」

 

 叫ぶ二人に対し、へろへろは黙って聞いている。内心は驚いてもリアクションが薄い人なのだ。

同じく無言のスタングルは、逆に言葉も出ない様子。

 

 先の大戦で活躍したカール王国が滅びることは、特に衝撃的なのだろう。

だがこの程度はジャブだ。大魔王バーンの壮大な計画――邪魔な地上世界を吹き飛ばして、魔界に太陽の光を与える――からすれば、王国が滅んだり復興することは、些事に過ぎないのだから。

 

 既に顔面蒼白のまぞっほなどは、それを聞いたら寝込んでしまいそうなので、言えない。

彼は椅子に座ったまま、ガクガクと震えて音を立てている。様子を見る限り、既に限界だ。

 

 俺は話を一回切ることにした。信じてくれただけで十分なのだ。

 

 「『ダイの大冒険』という本があり、作中では奇跡が何度も起きたので、世界は救われたんだ。だが、俺たちの世界でもそうなる保証はない。だから前向きにやるだけやって、最後は他力本願の精神だ」

 

 俺はまぞっほの方を向いてそう話した。少しでも安心させてやりたい。

すると、ずるぼんが口を開く。

 

 「わかったわ。魔王の復活は二年後なのでしょう? 気持ちの整理がついてから詳しく聞くわ。ところで全然関係ないんだけど、カンダタを捕まえたことで、パプニカから表彰があるみたいなの。その説明を聞くために、今からまぞっほとスタングルに行って欲しいんだけど、どうかしら」

 

 カンダタの件は、ずるぼん、まぞっほ、スタングルにとっての輝かしい手柄になる。

ショックを受けた仲間にとって、良い気分転換になるかもしれない。

 

 ずるぼんは仲間思いだな。三人の中ではパーティリーダーだっただけのことはある。

まぞっほはヨロヨロと立ち上がり、スタングルとともに宿の外に出ていった。

 

 ……。

 

 「さあ、でろりん。続きを話してもらうわ。さっきからまぞっほのことばかり見ていたわよね? 彼の様子が気になって、話しにくかったんでしょう。あたしには全てを話しなさい。そして今後のことを一緒に考えていきましょう」

 

 ずるぼんには、俺の視線の意味が分かっていたようだ。

アバン先生やマトリフが目の前にいない以上、まずは彼女の頭脳を頼るのが正解かもしれない。




仕事が始まり、脳疲労で小説を書けていませんが
いずれ再開したいです
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