偽勇者の大冒険   作:マリリス

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俺はでろりん、ライオンヘッドを密猟するぜ!

 道中、賢者のアポロに邪魔をされるトラブルはあったものの、

酒場で集めた目撃情報を頼りに俺は森の奥地へと進んでいく。

ずるぼんの親の仇であるライオンヘッド、シロの住処はこの辺りのはずだ。

 

 アポロのときは、念のために持ってきた新月草で眠らせてうまく切り抜けたが、

真正面から戦いになっていたらここまでたやすく勝てたとは思わない。

 

 それはライオンヘッドに関しても同じだろう。魔王の支配下で凶暴な状態とは違い、

今は穏やかに暮らしてるとはいえ、まともに戦えば今の俺では五分五分かそれ以下かもしれない。

 

 勝てたとしてもヤツの毛皮がボロボロになっては意味がなく、激闘をしてはいけない。

どんな手を使ってでもあっさり勝つのだ。過程よりも結果が大事なのが俺のやり方だ。

 

 鬱蒼とした森を、足元の根や段差に気をつけて躓かないように歩く。

 

 ロモスの森と比べれば珍しい植物や美味そうな果物もないし、

たまにハイキングをしている人を見かける程度であまり人がいないな。

すぐにシロを倒せば目撃される可能性は低い気がする。

 

 さらに進んでいくと、見飽きた緑や茶色とは違う色がついに視界に入ってきた。

木立の合間、少しだけ開けた場所に白くて丸っこいもの――シロの姿だ。

そのライオンヘッドは、呑気な日向ぼっこで猫のように丸くなり、

赤子を包むような姿勢でスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 俺はそっと風下方向の木陰に立ち五分ほど考えた。

……寝ているヤツの後頭部を鉄の剣で全力の一刺し。

……先に赤子を剥ぎ取って人質の盾を作る。

などの勝機も目の前に転がっているが、いま一つ踏ん切りがつかない。

 

 もし野生の勘で気づかれたのなら噛みつかれてしまうだろう。

なまじ寝ているからリスク予測の計算ができないのであって、

一回叩き起こすのはどうだろうかとも考えている。

 

 くそっ。この場に新月草があったらなと思う。相手を沈静化して眠らせる珍しい毒草だ。

こういうときに燻って使うためわざわざ持ってきたが、アポロ戦で使い切ってしまったのだ。

 

 ちくしょう。眠りを強化すればノーリスクで勝てたのに。

だが、よく考えると焦る必要はない。決定的に手を出す前ならやり直すチャンスは何度でもある。

 

 ならば、やはりこれだ。

小声で爆裂呪文のイオを唱え、起爆させないよう気をつけながら、シロの向こう側に放り投げる。

 

 パパンッ! ガサガサガサ! ビョーン!

 

 甲高い爆発音、揺れる木々の音……に混ざってマヌケな音。

その場で滑稽な垂直ジャンプを見せたシロが出したものだ。

 

 寝ている猫に、クラッカーというパプニカにあるおもちゃを使った光景を思い出した。

 

 ストンと着地したシロは、音がした方向、つまり俺の反対方向に少し歩いてから、

キョロキョロと周囲の様子を確認している。大切な赤子をその背中の影で隠すようにしながら。

 

 ――しめた!

 

 俺は、木陰からスッと動くと全力で加速する。

こちら側に逃げようとしているパニックの赤子に近づいてこの左腕で、

……盗ったぁ!

 

 猫より一回り大きい最強の盾をゲットした俺は興奮状態のまま無我夢中で剣を振るい、

来そうな反撃は盾を構えることで封じる。シロの頭部に小さな傷が増えていく。

 

 片手で振るう鉄の剣では致命傷にならないようだが、こうなったら考えるよりその場の勢いだ。

少しずつ体力を削っていき、最後にトドメを刺せば良い。

 

 袈裟斬り、切り上げ、逆袈裟、横薙ぎ、刺突。剣をブンブンと振り回す。

 

 ガウゥゥゥ……。

 

 突然の奇襲と俺の猛攻にシロは困惑の鳴き声を上げた。

逃げることも戦うこともできずにその場をウロウロしているだけだ。

 

 やがて手負いの獣となったシロは、口を大きく開けた。その中はギラギラ光っている。

来たな。おそらく閃熱呪文ベギラマだろう。ライオンヘッド最大最強の攻撃がこのベギラマだ。

 

 魔王がいた時代のライオンヘッドは恐怖の象徴だったと、バカ親父がよくそう言っていた。

一匹で軽く村を滅ぼし、場合により外壁ごと町すら破壊する。それを可能にしたのが、

大破壊力をもつ閃熱呪文ベギラマなのだ。俺の爆裂呪文イオラよりも破壊力は上かもしれない。

 

 もっとも、ライオンヘッドが一番好きなことは昔も今も睡眠のため、普段は寝てばかり。

起こさなければ意外と大丈夫だったりするそうだが。

 

 「ほらよ! 打ってみろよぉ」。 ババン! と赤子をシロの顔の前に突き出す俺。

 

 「ウゥゥ……ガウガゥ……」

 

 「ほらほらどうした。打たないのか?」

 

 だが赤子の盾の効果でベギラマは打てない。口を開けたままシロは困っていた。

 

 そうだな。苦手意識があったがこいつを使ってみるか。

 

 「ヒャド」

 

 左手で赤子を突き出したまま、右手の剣を一回地面に刺し、俺は小さな氷の塊を作り出した。

戦闘に使うには心もとないが、相手が無防備なら使いみちもある。

 

 「打たないで口開けてるだけなら、これでも喰らえ」

 

 俺はヒャドで作った氷の塊を思い切り投げつける。

それをべギラマを出しかけの状態で、まごまごしているヤツの口に放り込んだ。

 

 開いた口を閉じることも、前に閃熱呪文を出すことも、俺から目線をそらすこともできず、

投げた氷は何もできないシロの口の中に入っていった。

 

 そして出しかけのギラ系と反応して蒸気を起こし……。

 

 「グホッグホッグホッ」

 

 要するにシロはむせてしまった。

俺は剣を再び手にとって、苦しそうに下を向いてグホグホしている無防備なヤツの、

首筋から後頭部に思いっきり剣を突き立てる。

 

 ドサァッ!

 

 神経が集中している最急所を寸断されたことで、シロはそのまま眠るように斃れていった。

 

 「おっと、もう一回ヒャド」

 

 毛皮が赤く染まらないように死体となったシロの傷口を氷で塞ぐのを忘れてはいけない。

振り回されて目を回してる赤子の方は空のズタ袋にしまい込む。

 

 しばらくすると、再び小鳥のさえずりや木々のざわめき、

虫の音色などがこだまする平和でのどかな森が戻ってくるのが感じられた。

戦いに勝って日常が戻ってくるこの感覚が俺は好きなんだ。

 

 俺はお日様に当てられて少しずつリラックスしながら、

ゆっくりと毛皮を剥ぎ、ずるぼんの顔の傷を治すベホマ代を手にしたのだ。




 原作の凶暴化したライオンヘッドの強さは
僧侶戦士のマァムと同じか少し弱いぐらいなので
原作でろりんが本気で戦えば、勝敗は微妙だと思っています。

 今回はでろりんもまだレベルは低いのですが
相手は穏やかで、人質もあるので楽勝でした。

 このでろりんの密猟、目撃されたりしたら捕まりますね。
新月草があればもっと静かにこっそり倒せたはずなので
ちょっと騒ぎを起こしたことがどう影響するかです。
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