レオナ姫の御前で賢者のアポロと正式な試合をします。
『続いて東の門からパプニカの希望! 今月から新賢者となったアポロ選手!』
自信満々な様子のアポロは、所定の位置まで来ると周囲に一礼をした。
「きゃーー! わたしのあぽろさまー!! すてきー!」
「今日も絶対に負けないでーーーー!」
女性ファンの黄色い歓声が飛び交う。でろりん入場の野太い罵倒、笑い声などとは対称的だ。
「でろりん、知っているかい? この異種戦は戦士の勝率が低いことを。君は手品のようなメラを使うが賢者の呪文にはかなうまい。エイミたちやレオナ姫の前で君をどう料理してあげようか」
アポロはそう小声で囁くが、たしかに正攻法は分が悪そうなんだよな。
――『試合のレギュレーションを説明します』
俺が作戦を考えていると、アナウンスが入り試合の説明が始まった。
『賢者vs戦士の異種戦です。二人は祝福を受けた戦闘服で戦います。ダメージを肩代わりしますので、相手の加護を先に尽きさせれば勝ちとなります。もしくは戦士側は模造の剣を相手の急所にヒットさせ、それが認められれば判定で勝つこともできます』
急所への判定か。忖度されずに公平にジャッジされるといいのだが。
『周りに被害がでる攻撃は反則、気品のある試合をしてください! 以上です』
俺は一応、呪文も使える戦士だが、賢者と撃ち合いはしたくないな。
高いMPで攻められたら相殺しきれずジリ貧だ。そして武器はこの頼りない模造の剣が一本。
なんとか近づいて武器を振るう必要がある。
そうして試合開始の合図を待っていると、レオナ姫とお付きの声が聞こえてくる。
「姫様、そろそろ試合が始まりますぞ」
「みたいね。そうだ、バダックはこの試合どう見てるの?」
「データ上は賢者vs戦士は過去に二十戦、賢者の全勝になっておりますじゃ」
「んー、圧倒的ね。賢者とただの戦士を戦わせることに、もともと無理があるのかしら」
「そうかもしれませぬ。ちなみに魔法使いvs戦士なら百戦以上あり、戦士の勝率が四割ぐらいになっておるようですじゃ」
「パプニカは正義と叡智を重んじる賢者の国だし、強い戦士は少ないかもね」
「確かに姫様のおっしゃる通りでございますじゃ」
「たまには少しぐらい、試練があっていいかもしれないわね。姫の立場として『私』はアポロに勝ってもらわないと困るけど、『あたし』個人は相手の応援をしちゃおうかしら。結構いい男だし。アハハッ」
「とても姫様らしい、良いお考えでございますじゃ」
バダックと掛け合いの後、レオナ姫は大声で檄を飛ばす。
「アポロ! 私が命じます。負けは許しません! 徹底的に勝ちなさい!」
その直後、レオナ姫は俺の方を見て何かを呟いたようだ。
なんとなく優しい目で見られていたのは気のせいだったのだろうか。
俺のことも少しぐらいは応援してくれているような感じだ。ならば力いっぱい戦おう。
……。
『試合開始!』
先手を取って呪文の準備ができたのはアポロのほうだった。
「この前、君に使いかけた呪文。この場で撃たせてもらうよ。こいつに対処できないようではそもそも僕と戦う資格がないからね」
――メラミッ!
アポロの魔力で周囲を赤く照らす大きな火球が発生。
対して、後手を引いた俺はすでに作戦を決めてある。それは相殺外しだ。
呪文のぶつけ合い、つまり相殺をするのはMPが多い賢者が有利。
だから飛んでくる炎の奔流を躱しつつ、カウンター気味に呪文を放つか、走って距離を詰める。
これが基本的な俺の作戦だ。あとは戦闘服の加護とやらがどの程度持つのかだな。
試合経験がないのでそれはよく分からない。
俺は前進しながら体をねじってメラミの直撃をかろうじて交わす。
すると戦闘服が光ってわずかに加護が削られていく。メラミの余熱でダメージ判定されたようだ。
このやり取りで互いの距離を半分近くまで縮めることができた。もっと接近しなければ。
……っておいっ待て! その呪文はヤバッ!
「ギラッ」
アポロの詠唱と同時に、一筋の熱い閃光が放出され、でろりんの超至近距離を駆け抜けていく。
バチバチバチッ。
「かすっただけとは、君は勘のいいやつだね。ギラを避けるとは軌道を予測できたのか?」
そう。ギラの放出速度はメラなどと違って超高速だ。目で発動を見てからでは避けられない。
ギラ系が恐れられ、必殺技扱いなのは威力だけでなくその性質にもあるのだ。
「うわ、あぶねーーー! いきなり負けるところだったぞぉ」
かすっただけで戦闘服が大きく反応……。今ので加護がニ割ほどは減ったような気がする。
ギラの直撃は試合的に余裕でアウトのようだ。
だがダメージ判定が厳しすぎないか? 俺としては今のにそこまでのダメージはないと思うぞ。
こんなルールで戦士なのに勝てるやついるのかよ。
「今度はこいつだ。ヒャダルコ!」
それは氷系呪文ヒャドの広範囲バージョン。避けにくい呪文だ。
俺はこの試合、まだ何もしてないがそうも言っていられない。氷漬けにされたら負けだ。
うおおぉっー!
目の前の氷雪の嵐から飛び退いて、今度は全力でアポロから逃走。距離を取る。
……。
気持ちと体勢を立て直すには時間が必要で、そこからはしばらく防戦一方になっている。
そうやって戦いに集中していても周囲の雑音はいろいろ入ってくるものだ。
「うーん。分かってはいたけど、完全にアポロの呪文披露大会ね。相手の子も密かに頑張ってほしかったけど、ちょっと重荷だったかな」
レオナ姫は冷静に観戦している様子だが、一方的な展開に観客はしびれを切らしたようだ。
ブーブー!
「おい! お前さっきから逃げてばっかりじゃねえか!」
「何しにきた! ひっこめでろりん!」
「ベリーバッドですね~ 剣で呪文を切り裂くんですよ~」
「何いってんだアンタ。ワハハハ」
断片的にギャラリーのどうでもいい声が入ってくる。
剣で呪文を切り裂けと言う声まで聞こえてきた。
バカ言え。こんな安い模造剣をメラミに突っ込んだりしたら溶けてしまうよ。
「でろりん。いったい君はどうしたんだい? レオナ姫やエイミたちの前でそんな無様な試合を見せないでくれよ。僕のMPが尽きるのを待っているのなら無駄だからね。僕には膨大な魔力がある。先に君の加護が削られて終わりさ」
そうやって挑発してくるアポロだが、これまでの戦いで俺はだいたいわかったこともある。
この戦闘服がどれぐらいのダメージまで耐えられるか、
アポロが使う呪文の種類、発動の溜め、戦い方の癖などだ。
「削られて負けるぐらいなら、戦士らしく突っ込んできたらどうだい? でないとそら!」
今度は離れた距離からアポロがメラミを放つ。ヤツも俺と同じでメラ系の呪文が得意らしい。
だったら俺も負けていられない。俺のメラは特別製だ。右手の三指に点火。
こいつでカウンターに賭ける。熱風で加護が減るのも気にせず、アポロの火球を半身で避け――。
「かかったな、これがでろりん特性メラだぁ」
くらいやがれ! メラミを撃ったアポロの硬直を狙った、メラの三発同時発射のカウンターだ。
これなら避けれまい。
ブワブワブワッ!
火球が螺旋を描くように周囲を赤く染め、回転しながら炎の嵐のように飛んでいき……。
「はははっ。君ならいつかそう来ると思ったよ」
――ヒャダルコッ
氷雪の嵐によって、でろりんの炎は寸でのところでかき消されてしまった。
お、おい! 嘘だろ! メラミを打った後に、あいつあんなに早くヒャダルコ出せるのかよ!
きっと森での一戦は相手の動揺があったから通用したんだろうな。
俺がメラを使えると知っていれば、きっちりと相殺できるのか。
相殺はいかんぞ。MP勝負はできない。
「はっはっは。剣以外で僕に通用する君の唯一の攻撃手段だからね。もちろん読んでいたよ。この完璧な僕には、時間差攻撃も無駄ってわけさ」
俺の反撃をしのいだアポロは得意げにポーズを決める。
「きゃー! アポロさま! すてきー! こっち向いてー!」
「お、おい、あの戦士、地味に結構すごい呪文使ってなかったか?」
「ああ、あんな変わったメラは初めて見たぞ。本当に戦士なのか?」
「割と紙一重のタイミングだったな。賢者内心焦ってるんじゃないか」
「う~ん。ベリーベリー惜しかったですねぇ……。」
今の一瞬のやり取りで白けた場は盛り上がり、レオナ姫も感心顔だ。
「すごいわねー今の。ねえバダック? まばたきしてなかったでしょうね?」
「さすが姫様、よくお分かりに。ちょうどしましたのじゃ」
「もうー。バダック、何やってるのよー。それにしてもでろりんのメラは禍々しい感じがしたわね。ちょっと普通じゃなかった。あの人はいったいどんな人なのかしら」
俺のメラは禍々しいか。いろいろと怨念がこもっているのかもな。
「僕が勝ちそうだが、降参はしてくれるなよ? 君は半分以上加護が残っているし大勢の観客の前だからね。切り札を失ったとはいえ、せいぜいがんばってくれたまえ」
一方、アポロの奴は女の子にキャーキャー言われて完全に有頂天だ。
まぁ確かにやばいな。この剣が何の役にも立たないのも辛い。
野次馬が言ってたように、これで相手の呪文を切り裂くぐらいしか勝ち目がないんじゃないか?
そんなことできんのかよ。
「しかし距離次第では、さっきのはちょっとヒヤッとしたかもね? そこで僕は呪文のランクを落として地道に削ろうと思うよ」
――メラ、メラ、ヒャド、メラ、メラ。
アポロは万全を期して、呪文の数で勝負してきやがった。これではカウンターも機能しないな。
俺は遠い距離を走り回って呪文の嵐を避けながら、メラの一つを手に持った剣で払ってみせる。
「すごい呪文の数だ。さすがはパプニカの賢者様」
「おっ、なんだあいつ、メラを剣で払ったぞ。器用なやつだ」
「もう。何なの! あいつしぶとい! アポロ様やっちゃってー!」
「ノンノン。呪文を払うのではなく切り裂くのですよ~」
アポロの矢継ぎ早の呪文の詠唱、炸裂していく派手な弾幕によって、
会場のボルテージは次第に高まっていく。
「ふうー、やっぱり今日は来てよかったわ。結構いい試合が見れたし。相手のおかげでアポロの強さも引き立つって感じだし。うちの新しい賢者アポロ、そのいいお披露目ができたわ」
「姫様、まだ試合は終わっていませんよ」
「終わってるわよ。でろりんも立派に戦ったけど、やっぱりこのルールで戦士が賢者に勝つのには無理があるのよ。これで二十一戦全勝になるんでしょう? もうちょっとハンデをつけてあげたほうがいいかもね」
――メラ、メラ、メラ、ギラ、……メラ、メラ。
ちくしょう。メラにギラを混ぜるなよ。俺は舌打ちをする。
メラの弾幕を避けながら、ギラの閃光の軌道まで読むのは難しい。
メラは剣で叩き落とせるけど、メラミやギラは無理そうだしなぁ。
こんな剣で呪文を切り裂くなんてできるか? もしくは何か反撃の糸口はないものか。
感想の投稿ありがとうございます。
三賢者と違ってレオナは人気キャラなので扱いを間違えたら怖いので
気をつけたいと思います。