ロープのハロウィンスキン無料配付記念。ロープはぜひ、ロドスのみなさんに甘やかされてほしいです。

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花枝招展
――おしゃれした女性。可愛らしい姿。


第1話

秋らしい朱色の差し込む夕日に、わずかに冬の気配が感じられる。そんなある日の午後のことだった。

いつも騒々しく剣呑としているロドス艦内は、珍しくゆったりとした安穏な空気が流れていた。

甲板の上にはたくさんの真っ白なベッドのシーツが、パタパタとはためいている。

暗くならないうちにそれを取り込みにきたラナ(パフューマー)が、シーツに隠れるように仰向けですやすやと眠っているクオーラを見つけて小さく微笑む。

その時だった。

 

「ぜったいに嫌だぁ!」

 

つかの間の平和が満ち満ちていたロドス艦内に、切羽詰まった少女の声がこだました。

 

「う、うわぁー! 被弾!? ホームラン被弾しちゃった!?」

 

慌ててクオーラが飛び起き、シーツを腕に抱えてラナに寝ぼけ眼を向ける。

 

「さぁ、なんでしょうね」

「でもすっごい大きな声だったよ!?」

「そうね」

 

クスクスと笑い、ラナは再び洗濯物を取り込み始める。

 

「あ、ボクも手伝うよ!」

「ありがとう。でもクオーラちゃんもそろそろ準備した方が良いんじゃないの?」

「準備って何? 今日は出撃しないってドクターが・・・・・・」

 

そうじゃなくて。とラナは続ける。

 

「ほら、『イタズラされたくなかったらお菓子をくれ』って、なんて言うんだっけ」

「あぁ! そっか! ええっとアレ、なんだっけ。うーんと、そうそう!」

 

クオーラは、ポンッと手のひらを胸の前で合わせて笑みを作る。

 

「トリックオアトリート!」

 

 

 

 

『花枝招展』

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「無理ぃ、絶対に無理!」

「もう、駄々をこねないでください! それでも私より年上なんですか!」

「年上だから嫌なんだよぉー」

 

宿舎ではハイビスカスとロープが一枚の衣服を押しつけあっている。二人の様子をアンセルが呆れたように見つめ、さらに周囲には休憩中のオペレーター数人が面白そうに眺めている。

 

「だいたい、ロープさんがいけないんですよ! あんなに注意したのに、また隠れて煙草吸っているんだもの」

「だから謝ってるじゃん。反省してるって」

「いーえ、今日という今日は許しません! ねっ、アンセル君!」

「……こうなったハイビスはもう話を聞きませんから。大人しく諦めた方が早いですよ」

「そうですよ、ロープさん! こうなった私は石のように頑固ですから。さっ、早くこれを着てください!」

 

隙を突いて逃げだそうとするロープの首根っこを鷲づかみにし、ハイビスカスはにっこりと笑う。

ロープの胸元には、黒い薄着のドレスが押しつけられている。

これが彼女にこれ以上ないほど、不満げな顔を浮かべさせる元凶だった。

 

「どう考えてもガラじゃないって!」

「そんなことありません。絶対似合いますよ、ねっ! みなさんもそう思いますよ」

 

似合うぞ! 見てみたい! 一緒に写真撮ろう! などの無責任な声が飛び交うなか、ロープはぐぬぬっと歯を噛み締める。

いつもは煙に巻けるのだが、なぜか今日のハイビスカスは気合いの入りようが違う。

それでもロープは、絶対にこんな恥ずかしい格好だけはごめんだった。

 

「しょうがないなぁ。じゃあ、もう一つだけ選択肢を上げますね」

「そうそう、さすがハイビスカスちゃん! 優しい――」

「ケルシー先生とタイマンで面談」

 

人差し指を立て笑顔で言うハイビスカス。

その末恐ろしい提案に、ロープだけでなくあんなに騒がしかった宿舎全体が凍り付いた。

 

「じ、冗談……だよね?」

「いいえ、前々からケルシー先生はロープさんの病状をすごーく心配していたので。サイレンスさんに頼んだらすぐに調整してくれまよ。さぁ、どっちか選んでください」

 

ずいっとハイビスカスがロープに詰め寄る。

どちらも最悪の選択肢だ。

ロープが医療班に命じられている禁酒・禁煙を“たまに”破っていることは、ケルシーも知っているはずだ。

それなのにタイマンで顔を合わせることが何を意味するか。この凍り付いた空気から簡単に察することができる。

 

――まず、生きて帰れないな。

 

長年培った盗賊の勘で分かる。この状況は絶対にごまかしきれないやつである。

恥をとるか、死をとるか。

そんなもの生きるために全てを手段を選んでこなかったロープとって、迷う必要などなかった。

 

 

 

 

数分後、宿舎には黒いドレスに身を包んだロープが、もじもじしながら立っていた。

 

「あ、足がすーすーする」

「きゃー! やっぱり可愛い! ほらアンセル君、見て見て!」

「ええ、すごく似合っていますよ」

 

ハイビスカスとアンセル、さらに周囲のオペレーターから黄色い歓声が飛び、ロープは珍しく頬を赤らめる。

ひらひらのフリルが付いたスカート、ウサギのワンポイントが入った帽子。シンプルな黒一色ながらも柔らかくて美しい生地。

こんな格好をしたのは記憶にない。まだ裸の方がましだと思った。

 

「ほ、ほら! もういいでしょ。早く着替えさせて」

「何を言っているんですか! これからじゃないですか。さぁ、私たちと一緒に行きましょう」

「行くってもしかして……」

「もちろん、お菓子をもらいにですよ!」

 

頭に釘が刺さっているハイビスカスと、口から牙が生えているマントを羽織っているアンセルの姿に嫌な予感がしていていたのだ。

ロープの顔が再び赤く染まる。

 

「む、無理無理――」

「もう、そういうのは大丈夫ですよ! せっかく可愛いお洋服着たんだから、みんなに披露しないともったいないです!」

「諦めましょう。大丈夫ですよ、一人ではないですから」

 

ハイビスカスとアンセルに半ば引きずられるように、ロープは宿舎から出て行く。

その姿を居合わせたオペレーターたちは、面白そうに眺めていた。

 

 

 

 

「トリックオアトリートぉ! お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」

 

そう言って食堂の扉をノックして開けてもらった瞬間に突撃したのは、ロドスに居住する子どもたちだ。カボチャ頭やミイラなど、みんな思い思いの格好をしていて可愛らしい。

 

――ぼくとは大違いだなぁ。

 

なぜだか卑屈な思考に陥りながら、ロープは集団の最後に部屋に足を踏み入れた。

どうやら、ハイビスカスとアンセルは子どもたちのハロウィンイベントの付き添いで、ロープはそれに無理矢理付き合わされているらしい。

 

当然、事前に打ち合わせをしていたのだろう。

食堂の天井は色とりどりの紙の輪で装飾されるなど、こじんまりとしたパーティー仕様になっている。

中には一般の医療オペレーターのほか、ガヴィル、ミルラなどもいる。

 

「可愛いお化けさんだぁ!」

 

そう言って子どもを抱き上げたのは、アンジェリーナ。その横で膝を折って笑顔で子どもと話しているのは、なんとアーミヤだ。

 

「え、なんでCEOまで……」

「アーミヤさんが、このイベントの発案者なんですよ」

 

若干戸惑うロープに、ハイビスカスがにこりと笑いかけた。

 

「おらぁ、お菓子が欲しけりゃちゃんと並べ! アタシはガキでも容赦しないからな!」

 

ガヴィルが威圧するが、子どもたちは慣れっこなのだろう。きゃっきゃっと笑いながら、「見てみて!可愛い?」と屈強な戦士ですら怯む元傭兵の前を走り回る。

 

「この子たち、みんな感染者なんですよ。普段はなかなか、自由に遊んだりできないから。こんな日くらいは何か楽しいことできないかって、アーミヤさんが」

「……ふぅん」

 

言われてみれば確かに、皮膚から鉱石が突き出ている子どももいる。痛々しい姿ではあるがロープにとっては、スラムでごく自然に見かける子どもと同じだ。

 

――やっぱり来なければ良かった。

 

胸の内に渦巻く、少し醜い感情にロープはため息を吐く。

慣れない格好をしてみんなと一緒に仮装したって、結局、この人たちとは違うのだ。

目の前の温かい光景は、ロープには少し眩しすぎる。

スカートの裾をぎゅっと握る。

はしゃぐ子どもと、一緒に笑うオペレーターたちの姿がやけに遠く感じた。

 

――帰ろう。ここはぼくがいちゃいけない場所だ。

 

そっと足を一歩引いた瞬間、ガンッと大きな音が立った。

ロープは「もうぉ」と不満げに天を仰ぐ。

いつの間にか背後に、白に布を被ったCastle-3が居座っていたのだ。

 

「大変失礼いたしました。お怪我はありませんか?」

「ないよぉ」

 

意外と大きな音だったのだろう。はしゃいでいた子どもの声が小さくなり、いくつもの視線を感じる。

恐る恐る振り向くと、オペレーターと子どもたちがこちらを見つめている。

 

「あはは、ちょっとぼくこういうの苦手だからさ。うん、邪魔しちゃ悪いし――」

「ロープさん。何か言うことありませんか?」

 

あせあせと身を引こうとするロープの声を遮り、アーミヤが問いかけてくる。

 

――え、え? 何を言えばいいの?

 

全く意味が分からず、ロープの頭は混乱する。

ロープは、アーミヤのまっすぐな瞳が苦手だった。空っぽな自分を見透かされているようで落ち着かなくなるのだ。

 

――ごめんなさい? ごめんなさいかな、とりあえず謝れば・・・・・・。

 

「あれぇ、今日はなんの日だっけなぁ。なあ?」

 

ガヴィルがわざとらしく頭を掻きながら、子どもたちに問いかける。子どもたちは揃って、両手いっぱいのお菓子をロープに見せつけた。

 

「ト、トリックオアトリート……」

「大正解!」

 

アンジェリーナが笑顔で言って、キャンディやクッキーなどのお菓子を宙に放り投げた。

同時に彼女のアーツ『半重力』で、重量を弱めたのだろう。それらはまるで、花びらのようにゆっくりと落ちてきて、子どもたちはきゃっときゃっとはしゃぎながら、それを追いかけ回した。

呆然としてるロープの手をアンジェリーナが引っ張って輪の中に引き入れる。

 

「ロープさん、すごく可愛い! やっぱり黒がすごく似合うね! 最後まで悩んだんだけど、やっぱりオーキッドさんに相談して正解だったわ!」

 

興奮気味にアンジェリーナはまくしたて、写真をパシャパシャと撮りまくる。

 

「あ、ロープさん。一緒に映ろう!」

 

そう言ってバッチリ自撮りも撮影。

さっきまであんなに遠くにあった“幸せ”の風景のなかに、自分がいることが信じられなくてロープは言葉を失っていた。

 

「ほらほら! みんなも一緒に! sorridi!」

 

 

 

 

そのあと何があったのか、ロープはあまり覚えていない。

ただ、なぜか子どもたちに負けないくらいのたくさんのお菓子を抱え、ロープは自室の床にペタンと座り込んでいた。

床のひんやりとした冷たさが心地良い。

生まれて初めてのハロウィン。ただお菓子を配るだけなのに、どうしてあんなに幸せだったのだろう。

スラム生活を始めたばかりの頃。盗んだチョコレートを一口食べる前に捕まって、ボコボコにされたことを思い出した。

お菓子をベッドの上にばらまき、その中に横になってみる。

 

――ああ、そうか。

 

夢心地が薄れ、少し頭がさえてきたのだろう。ロープはようやく、胸の奥につっかえているものに気がついた。

きっとこの衣装もあのささやかなパーティーも、自分を無理矢理引っ張り出す段取りも、あの人たちが計画したのだ。

 

――計画してくれたのだろう。

 

そんなことをしてくれたのは、今まで、誰もいなかった。

あの少しくすぐったくて温かい場所に招いてくれたのが、なによりもうれしいのだ。

 

ロープは仰向けになり、目を腕でゴシゴシと擦る。

 

「煙草、やめてみようかな」

 

ぽつりと呟いたときだった。ばらまいたお菓子に混じって、一枚のメモが落ちていることに気がついた。

手に取り、月明かりに照らしてみるとそこには、アンジェリーナが書いたらしい丸文字でこう書かれていた。

 

――その衣装、ほかに見せたい人はいない?

 

ロープはしばらく考え、ぷっと小さく吹き出すと服のしわを伸ばして立ち上がった。

 

 

 

 

ブリッヂのフェンスにフードを深く被った男が寄りかかって、月明かりに照らされた荒野を眺めていた。

隣にはフェンスに背中を預けているラナがいる。

 

「よかったの、ドクターくん。ハロウィンパーティーに顔を出さなくて」

「私がいたら、せっかくのパーティーが辛気くさくなってしまうからなぁ」

「そんなこと言って、アーミヤちゃんをそそのかしたのはあなたでしょ? アンジェリーナと一緒に、熱心にあの子の服も選んでいたくせに」

「あとからアンジェリーナに写真を見せてもらうからいいさ」

「みんなのお休みを今日に調整するの、大変だったでしょう」

「なに、CEOが全面協力してくれたからな。それくらいは朝飯前さ」

 

強がるドクターに、ラナはくすりと笑う。

 

「楽しそうだったらしいわよ。みんな」

「それはよかった」

「ドクターくんは、どうしてあの子に甘いのかしら」

「……甘いかい?」

「第三者の意見を信じないのかしら?」

「サンプルが少ないからね」

 

ラナは面白そうに笑い、フェンスから離れて一歩前に出る。

ドクターは身じろぎもせず、荒れ果てた大地を眺め続けた。

 

「戦場で指揮すること以外にも、できることを模索しているんだ。奪うだけじゃなく、それでもただ施すのではなく、もっと根本的な何かを変えられる人間でありたい……なんてね」

「そうね。じゃあその深い考えはまた今度お茶を飲みながらでもお話しましょ」

「え、うそ。これから語りあうんじゃないのかい?」

 

振り返ったドクターに、ラナは人指し指を唇に当て黙ってウインクして去って行く。

そのすぐ後のことだった。

天井から、スカートをはためかせてロープが下りてくる。

 

そして、満面の笑みでこう言った。

 

 

「ハロー、ドクター。トリックオアトリート!」


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