現代にTS転生したけど馴染めないから旅に出た   作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)

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2026/04/29日加筆修正済


済:Intermission② おかえり、そしてよろしくね

「おいひぃよぉ~~」

「うん、これは美味しいねっ」

 

 長く、そして色々あった北海道の旅も終わった。

 結局日程は予定通りに終わらせ、今日、茨城の大洗港に到着したわたし達。

 到着時刻は14時だったが、トライクを出すのに結構かかり、結局は15時近くに解放された。

 

 とは言え、時間が時間だし、今からすぐに帰るのもなあ。疲れたのです。

 なので水戸で一泊することにした。

 今日は土曜日だしキツいかな? 思ったが、当日予約でもすんなり部屋を確保できたしね。

 

 ただ部屋で寝るには時間が早いというのもあり、姉さんと観光港である那珂湊に立ち寄っていたのだ。

 ここは那珂湊おさかな市場と言うエリアで、近海モノの魚介類を食べることが出来る。

 それだけじゃなく、買い物も当然出来る。

 

 そこを姉さんと色々眺めながら歩いていたんだが、生ガキがその場で食べられるのだ。

 一晩船に揺られ、お昼にはフェリーの食堂でランチも食べているので、流石の姉さんも海鮮丼を食べよう! とはならず、夜まで我慢してくれた。

 その代わりに、こうしてちょい食べ出来るカキに挑戦中。

 

「うん、これはもう一個いきたいな。おじさん、大きい方をおかわりください」

「わお、さくらちゃんが珍しいねっ」

「はいよ嬢ちゃん。おめ、知ってっけ? カキは美容にもいいんだとよ。嬢ちゃん綺麗だから関係ねえがー」

「あはは、ありがとおじさん。これ700円ね」

 

 気さくなおじさんから殻の蓋だけ取ってくれたのを受け取る。

 姉さんが目を丸くしてるけどさ、この程度の事はさらっと流せるんだよ?

 

 だって毎日鏡を見てるんだ。自分の容姿がいいのは変えようがない事実。

 これ素で言ってたらナルシストまっしぐらだけどさ、元男の視点で言うなら自分も、そして姉さんもあまり見かけないレベルで人の目を引く姿だもの。

 

 けどこの手の話題って結局は、他人の主観の話でしかない。

 わたしも自分の容姿については、折り合いがつくまで散々悩んだ話だもんねえ。

 この鏡の中の美人誰だよ……最初に感じた感想がコレだもの。仕方ない。

 

 カキの殻を咥え、一気に吸い込む。

 ドゥルン! トゥルンではない。

 この喉越しこそがカキの醍醐味。ああ、たまらない。

 

 実は前世でもオイスターバーに足しげく通う程にカキは好きだった。

 ついでに言うとレモンもライムもかけない派。

 いいんだよ臭みがあっても。

 というかさくらの身体にアレルギーが無くて良かった。

 カキが好きでも湿疹と下痢に悩まされるとか地獄だもんね。

 まあ肉も魚介も、生き物を頂くのだから、その臭みすら味合わないとね。

 

 ――余談だけど、から揚げに勝手にレモンかける奴は前世でも今でもブン殴ってやる。

 

 そうして暫くの間、那珂湊を楽しんだわたし達は、トライクに乗って大洗を出た。

 荷物も軽いから快適だ。

 荷物は札幌を出る前に、最低限の物以外は送ったよ。

 

 なのでバッグの類をサイドカーに押し込め、姉さんはタンデムシートに乗っている。

 色々あったしねえ……帰宅までの事は動画にもしないってわたしが言ったんだ。

 なので機材の殆ども送ってるから、フェリー内での配信は、スマホを使ったのだ。

 今はそうだね、姉さんと話す時間が出来るだけ欲しいって思っている。

 

 県道の106号、235号と経由して水戸市内を目指す。

 さっきまで海が視界の中に必ずあったのに、今はのどかな田園風景に切り替わっている。

 車通りも少ない。

 

 しかしこうして北海道から帰ってみると、本州って狭いんだなと実感する。

 いま走っている県道とかも、ぐにゃぐにゃと変な形に曲がったり、県道とは思えないもんなあ。

 

 路肩にある側溝も、どうしてこんなに深くしたのかと思う程だし、縁石も場所によってはありえない程に高い。

 何よりその側溝が、車道の端からいきなりあるから、脱輪しそうで怖い。

 

 こういうのを見ると、北海道がどれだけ広いかってわかるよねえ。

 土地が余ってるから道幅も広く、歩道も十分に確保できる。

 街並みが規則的だったのは、入植の歴史が近年だから、本州の状況を前提として、じゃもっといい物作りましょうってのが出来たからだろうし。

 

 逆に本州だと歴史が深いから、古くからある建物とか、長く続いた江戸時代にできた物とかが前提にあって、現代になってから修正不可能な道も多いんだろう。

 なので歴史の長さも善し悪しかもね。

 はあ、それでも、やはり北海道は旅行先であって、住んでいるのはこっちなんだねと実感。

 

 空気感っていうのかな?

 茨城は地元じゃないけどさ、初夏は初夏らしく、着こんでいると暑いって感じるこれが、わたしには慣れた感覚なんだなってさ。

 まあいい。まずはチェックインをしなきゃ。

 ……これこそ北海道で一番身についた、いや身につまされた教訓だね。

 食事より宿、これ絶対。

 

「……って姉さん」

「なあにー?」

「そこ擽ったいんだけど」

「えー? 風で聞こえなーい」

「な ん で お 腹 の 肉 を 摘 ま ん で い る の」

「柔らかいか……聞こえなーーい!」

「聞 こ え て る で し ょ !」

 

 あと、うん。

 Xデー以降、姉さんの距離感近い。

 そろそろわたしは怒ってもいいと思う。

 

  ☆

 

 ホテルはツインの素泊まりだ。

 贅沢はさんざん向こうでやってきた。

 そろそろ普通の感覚に戻さないと色々ダメになるという理由で。

 

 水戸駅そばにあるシティホテル。

 週末とかの単価は高いが、観光シーズンじゃないからか土曜でもそこまで言わないね。

 それなりにいい部屋を用意してもらったけど、素泊まりで8千円。

 

 部屋に荷物を置いたわたし達は、タクシーを呼んで姉さんがタブレットで調べたカフェに向かった。

 19時過ぎ、そろそろ夕食という事で。

 

「いやー帰って来たねぇ」

「ウンソウダネ」

 

 オーダーしたメニューが先に来た姉さんが、カレーをパクつきながらしみじみと言う。

 確かに旅行中の張りつめたような空気感は今はない。

 それに目の前で心底幸せそうにスプーンを動かす姉の姿は見ていて和む。

 

 だとしてもだよ。

 コレはないわ。

 姉さんが頼んだのはカツカレーの大盛り。

 値段は800円もしないから、お値打ち価格だよね。

 

 で、やってきたカレーを見て絶句。

 匂いは美味そうだよ?

 けどビジュアルがぶっ飛んでる。

 

 なにこの山。

 カレーってそうじゃないでしょう?!

 大き目のディッシュに溢れんばかりの山盛りごはん。

 そこにぎっしりと山頂付近にカツが並べられ、最後にこぼれんばかりのルーでコーティング。

 

 ええ……

 いやニヤニヤしてたしおかしいとは思ってたけどさ。

 メニューが豊富だから楽しそう! って言ってたからノったけど、周囲を見渡すと同じように山盛りメニューを頼んでいる客が多い。

 なるほど、そういう店か……。

 

「はい、こちらナポリタンになります」

「うわっ、あ、ありがとうございます」

 

 そうこうしているうちにわたしが頼んだメニューがやってきた。

 喫茶系カフェでは定番のナポリタン。

 けどね、コレもかなり多い気がする……。

 

 あれだね。デフォルトの量が多いんだよここ。

 なんなの?

 店名のピッチャーゴロってさ、お皿から零れる的な意味なの?!

 

 まあでも、うちにはお残しは許さない勢がいるから。

 

「姉さん、半分くらい食べられる?」

 

 って聞いたら、特に感情の起伏も無く「いいよ」って素で返って来たもの。

 いやまあ、旅行中に姉の大食いっぷりは何度も見たけどさ。

 やっぱり目の前で見るとエグい。

 

 なにがってとにかく食べ方が綺麗なんだよ。

 箸の先も少ししか汚さないし、食事中はほとんど喋らないし。

 そういう所は育ちの良さが出るというかシンプルに品がある。

 ただ実際食べるとなると、ひょい……ぱく、もぐもぐもぐ、ひょい……ぱく、もぐもぐもぐと、一切乱れないペースを維持し、気が付くと目の前から料理が消えている。

 これはある種の芸術だと思うんだ。

 

 この店はルーを足したり自由がきくから、カレーが残り3分の1程になったとき、スっと定員さんを呼び止めた姉さんが「すみません。大盛りライスとカレールー、お願いします」と言ったんだ。

 ここは超大盛の店だけど、それでも胸はデカくとも身は細い小柄な姉さんが、あっという間にこの店基準の大盛カレーをあっさり攻略してることに、定員さんも姉さんの前の皿を二度見したからね。

 

 そんな姉の豪傑っぷりを目の当たりにしたわたしは、ただでさえ食が細いのに、まだ食べてない段階で満腹感を感じたよ……。

 結局、追加で頼んだサラダと、ナポリタンを小皿に少し取ってわたしの夕食は終わった……。

 もちろん料理はスタッフ(姉)がきちんと食べました。

 

 その後、重たい腹をなでなでしつつ、腹ごなしにと水戸の街を歩いてホテルに帰った。

 他愛もないお喋りに興じながら。

 

 あそこのカフェお洒落だね~。

 うん、次来たとき寄ろうか~。

 あ! あそこの雑貨屋行きたーい。

 ん、寄ってこうか。

 

 北海道に行く前と後。

 肩肘を張らなくて済む今、心から流れる時間を楽しめている。

 

「ふー楽しかったねー」

 

 ホテルに帰りシャワーを浴びる。

 やはりフェリーに乗ってたせいで倦怠感が凄い。

 油断すると瞼が落ちてきそう。

 

 わたしたちはバスローブ姿でリビングのソファーに並んで座っている。

 『ふー楽しかったねー』。そう呟く姉さんの隣で、わたしは深く息を吐き出す。北海道での長い日々が、ようやく自分の中で静かな余韻となって溶けていくようだった。

 

「さくらちゃん」

「んー?」

 

 身体を冷ましたくてペリエを呑んでいると、姉さんがこてんとわたしの肩に顔を載せた。

 

「ありがとね」

「なにが?」

「全部話してくれた事」

 

 思わず横を見ると、姉さんは微笑んでいた。

 なんとなく頭を撫でると、猫みたいに目を細める。

 

「どういたしまして? でも、自分のために必要だったから」

「それでも、だよ。きちんと区切りが付けられたから。寂しいけど……ね」

 

 そういうと姉さんは、わたしの胸に顔を埋めた。

 そして肩を小刻みに震わせると、やがて小さく泣いた。

 

 こういう時、何を言えばいいんだろう?

 多分、いやきっと。

 何も言わないが正解なのかな。

 

 わたしは子供をあやす様に、姉さんの背中をゆっくりと叩く。

 ふと思い出したのだ。

 確か言ったのは母親だった。

 

 ――直人、泣いた子供を落ち着かせるにはね。心臓と同じ速度で背中をトントンするんだよ。

 

 嗚呼、蘇ってくる記憶。

 妹が生まれて、乳離れをして、少しずつ家の中を自由に歩き回って。

 にこにこしながら急に転んで、凄い泣いて……。

 

 わたしにも、家族がいたことを今更ながらに思い出し、切なくなる。

 それを振り切るように、姉さんの背中をトントン。

 

「でもね、さくらちゃん。それでも貴女がいてくれて良かったって思ってる。だから……もういなくならないでね?」

 

 顔を上げた姉さんは、涙顔のまま痛ましい笑顔で言う。

 わたしはそんな彼女の涙を指で拭いて、

 

「わたしはいなくならないよ。直人もさくらも揃って人生を終えた。けどわたしはここにいる。だからね、2人の分、わたしは幸せになるよ」

「うんっ……」

 

 そうしてわたしたちはその夜、手を繋いで寝た。

 生きているんだという確認作業。

 

 姉さんもわたしも、きっとしばらくは同じように傷を舐めあうかもしれない。

 けどそうやって、人は前に進んでいけるんだって今は知っている。

 

 オレはワタシで、ワタシはオレで。

 ひどく歪つなわたしという存在。

 

 それでもわたしは胸を張って人生を歩むのだ。

 それくらいの強さ、今はあると言い切れる。

 

 そして翌日。

 東京に戻ったわたしたちは、当たり前の日常に帰った。

 部屋に入って顔を見合わせたわたしたち。

 

 出てきた第一声は「やっぱりウチが一番だね」である。

 わたしも姉さんも、声が出なくなるくらいに笑った。

 目じりから零れる涙は、とても暖かった。

 

 さあ、明日は何をしよう?

 まずは洗濯だね。

 

  ☆

 

「はーい、よーいスタート。チェリーの部屋はっじまるよ~」

 

:お前走者だったのか?

:早速ガバりそう

:初回からガバり続けてるんだよなぁ・・

:淫夢営業はやめるのです(戒め)

:おっそうだな(便乗)

:草

:www

 

 週の中日である水曜の夜。

 いつもの様に配信を始める。

 

 チャンネル登録者は最近は頭打ちかと思われたが、配信系のまとめサイトでは旅やツーリング系配信者の一人と数えられているらしく、そっちのファンが流れ込んだのか、現在の登録者数は60万人ほど。

 

 もちろんそれは、ブレーンである姉さんの手腕による所が大きい。

 今は北海道から帰ってひと月ほど過ぎたが、姉さんは1週間ぶっ続けで、北海道旅を全12回に編集した。

 それを2日置きに投稿し、かなり好評だったようだ。

 というか進行形で心待ちにしている視聴者が多い。

 

 実際初回は40万再生を越え、それが呼び水となり、次回以降もじわじわと再生数を上げている。

 それがまた初回の再生数を増やす結果になり……とシナジーを発揮しているそうな。

 さくらちゃん、広告料ガッポガッポだよ! ってその顔やめてほんと。

 ダークひまわりは見たくないんだよぉ……。

 

 まあそんな訳で、今後も定期的に旅動画を上げるつもりだ。

 キャンプ回も結構人気だしね。

 なので秋口にまたどこかに行こうって話している。

 

 夏に行かないのはわたしが暑いのが嫌いだからだ。

 エアコンの効いた場所にいたい。

 そういうと姉さんは「まえにさくらちゃんが言ってたでしょ? キャンピングカーってのもあるよ?」って言ってきたが、確かにエアコンは効くし、車中泊がしやすいし良いと思うよ。

 

 だから「姉さん、普通免許取ってきてね^^」と、自動車学校に通わせている。

 いや思ったんだよね。

 北海道ツーリング。

 前世でも単車は身近だったから、こっちでも抵抗なく乗ったけれど。

 

 でもね、やはり体力的にはキツいんだよ。

 配信では絶対に言わないようにしてたけど。

 長距離移動を敢行した夜なんか、ガニマタになってたからね?

 

 だからさ、キャンピングカーにわたしも興味あるよ。

 けど車なんだしさ、運転は交代出来る方がいいよね?

 その方がフェアでしょ。

 

 なにさ。

 え~姉さんって免許ないもんって。

 そんなあからさまな媚びがわたしに通じると思うなよ。

 可愛いとは思えど、それはそれである。

 

 それに高輪に住んでるでしょ?

 鮫洲の試験場まで近いじゃない。

 だから姉さん、受かるまで何度も頑張ってね♡

 

 後はそうだな。

 帰ってきてからのわたし達。

 その関係性は少し変化したかな?

 

 わたしは女性であることを続ける、それはそうなんだけど。

 元の自分をカミングアウトできたことで、強迫観念が無くなった。

 例えば思わず男である名残が出たとして、同居人である姉さんは特に引っかかる事が無いからさ。

 だから取り繕う必要がない。

 

 ただ女性的にそれはダメって事をしたなら、姉さんが突っ込みを入れるって流れが定着化した。

 その関係性がとても楽ちんで、わたしはとてもリラックスしている。

 

 逆に姉さんが妹化したかな?

 性別がどうであれ、わたしは大人だった。

 大人の定義は人それぞれだけれども、社会の歯車として年数を重ね、生活に関わるすべての事に対して責任と決定権を持ち、いくつかの人間関係の拗れなども経験し、少々の事では動じないための心の中の引きだしに経験と言う名のアイテムをいくつか持っている。

 そういう意味での大人。

 

 だからどうしても姉さんが子供っぽく感じてしまい、それを窘めたりアメとムチを使い分け、波風が立たない様に立ち回ってしまう。

 その結果、自分は”姉”なのだからと言いつつ、大概がわたしに甘えている姉がいる。

 まあ、楽だしいいのだろう。

 

 人にはそれぞれドラマがある。

 事実は小説より奇なり、とも言う。

 わたしの性別が反転した、これはわたしにとって大ごとだった。

 けどそれ以上に姉であるひまわりが抱えていた物は重かった。

 

 まあそれが完全にわたしが別人であるヒントになっていたんだけどね。

 ”ひまお姉ちゃん”ではなく、”姉さん”と呼び違和感を持たれ、そこから”お姉ちゃん”と言う一度も呼んだことない呼び方に誘導されて知ってる体で呼んだという。

 完全に担がれて間抜けに罠に引っかかった当時のわたし。

 長く家族として育った絆を甘く見たな完全に。

 

 高科さくらは事故の後遺症で手にハンデを負った。

 そう思い込んでいたわたし。

 でも実際は、先天的な影響で、事故の結果ふさぎ込んだのは、単純に重荷に耐えきれなくなったきっかけに過ぎなかった。

 

 とは言えわたしがさくらの情報を得たのは、主に自宅あった断片と彼女のブログだ。

 そして東京に来てからの診察記録とかそういうの。

 

 けどまさかね。

 元々ハンデを持ってたけど、複雑な家庭環境を打破する手段として、幼いさくらが父親と同じ舞台に立って見せると決意したとは思わないでしょ普通。

 

 それでも音大受験も近くなり、将来が現実的な近い未来になった事で、彼女は限界を本当の意味で悟ってしまった。

 姉も、そしてさくらも、ある意味で盲目的で。

 だから終わりを確信したさくらは絶望した。

 

 見渡せばもう父はいない。

 母は自分を見ていない。

 姉にはそんな母の傍にいてもらっているという負い目がある。

 そして自分には何もなかった。

 だから彼女は死んだ。

 

 けれど姉は、さくらとは別視点で同じように闇を抱えていた。

 だから唯一の拠り所としてさくらに依存していた。

 彼女はさくらを応援するために、チャンネル運営をすると上京したんじゃない。

 

 ――自分も逃げ出したかったのだ。

 

 まあとにかく、姉の闇もわたしがさくらの死を告白したことでリセットされた。

 もちろん根拠は証明できない。

 さくらの死と言ってもv肉体はここにあるのだから。

 

 けれどv彼女の抱えていた記憶というオモリ。

 それに関わるエピソード。

 それらを踏まえると、ひまわりの中では、この滑稽で唐突なオハナシも信じるに足る根拠となった。

 

 そうしてわたしはわたしで。

 姉は姉で。

 次に進むための区切りができた。

 これはとても大きな事だ。

 

 それでも、母さんの事はこれからどうにかしなきゃだけど。

 前に実家に戻ったときの事を思い出せば、和やかではあったけどvわたしと姉さん、わたしと母さん、会話が多い構図はこうだった。

 

 当時のわたしは自分の事で精一杯で、それを違和感として感じてなかったもんなあ。

 そりゃそうだよね。比較対象が無いんだから。

 正しい関係を知らないから、それが正解って思うしかない。

 だからいずれ、この問題も解決できたらとは思うけど、姉さんの気持ちも蔑ろにできないから、そこは課題だね……。

 

 もう過去のさくらに縋ることはしない。この名前は借り物。だからこそ、新しい関係性を築くための第一歩として、新しい呼び名が必要だったのだ。

 まあそんな感じで、問題は色々山積みでも、一先ずは日常に戻ったわたしたちだ。

 

「それじゃあ茶番はさておき。へいヒマD! 例の物をこちらに」

「はぁ~い。持っていくね~」

 

:完全に顔出しに振り切ってて草

:最初から姉妹の素顔みんな知ってんだよなあ

:ガバガバ姉妹で草なんよ

:ガバガバ(意味深)やめろ

:ん? なんか凄い荷物?

:お、でっかいダンボール?

:ん?なんだこれ

 

 姉さんが持ってきたのはいくつかのダンボール。

 そう、これは例の告白の翌日。

 丸一日観光に費やす日としたあの日に買ったリスナーへのお土産だ。

 

 数が数だから、持ち帰る事は出来ず、日時指定で送ってもらったのだ。

 それが昨日届いたのだ。

 北海道には食べ物も、そうじゃないのもたくさんお土産になるアイテムはあった。

 

 札幌駅界隈や、大通公園の向こうの長いアーケード街である狸小路商店街。

 そういう場所に点在するお土産店を巡ったりして色々見つけてきた。

 

 なのでその一つを取りだす。

 ガサガサと。

 ふむ、ビニール袋を開けてっと。

 

 銀の光沢のあるフィルムに包まれた長方形。

 ラベルが赤くキャッチーな見た目。

 裏側を爪でカリカリとやって開くと――

 

:は?

:は?(威圧)

:いや何喰ってんの?

:全然わからん

:チェリーが美味そうで何よりです・・・

:え、3個目草

:そら美味いでしょうよ

:俺たちへのお土産では?

 

「誰もこれがお土産だとはいっていない。マルセイバターサンド。とても美味である」

 

 さて次だ。

 白い化粧箱に薄いブルーの意匠。

 うん、北国の銘菓らしいデザインだね。

 ふむ、ではこれも……。

 

:wwww

:ドヤ顔ェ・・・

:すっごい食べてる

:こっちみんな

:カメラガン見草

:イキりんぼぉ・・・

:白い恋人ぉ・・・

 

「うん、これもおいしいね。さっくりとした感触のビスケット生地に挟まれたホワイトチョコ。普通のチョコバージョンもあるけど、チェリー的には圧倒的に白だね。うん。あ、みんなへのお土産でしょ? わかってるって。これは所謂つかみ、って奴だよ? 北海道を経て、チェリーは配信者としてレベルアップしたんだ。だからこれ、チェリーからみんなへのお土産。どーぞ」

 

 ドヤ顔をしつつ、後ろに隠していた本命をドン!

 

:もう絶対許さねえからなあ?

:ハハハ、こやつめ

:は?

:草

:これはひどい

:すごくヒグマです・・・

:逆に高いんじゃ?

:たし蟹

:これ100個買ったん?

 

 そう、みんなに見せたのは、お土産屋で買ったヒグマの木彫り。

 民芸系のおみやげだから、価格も2万円したよ。

 光沢のあるダイナミックなフォルム。

 これは力作である。

 

「なに? 不満? しょうがないなぁ……って茶番はさておき、本当のお土産はこれ。奥芝商店のえびスープチキンカリーのレトルト。これは札幌で人気のスープカレー屋さんなんだけど、みんなとお別れした翌日、実際に食べに行ってきた。控えめに言って最高だった。カレーパンもとっても美味しかった。これを300人前買いました。はい、ではヒマD。応募の手順を教えてあげて」

「はーい。えっとね、”涅槃の住人”名義で公式ラインアカウントを取りました。で、はい、いま更新かけたけど、ムーチューブチャンネルのメインページにリンクを載せましたっ! そこから登録してねー? 登録が終わったら、プレゼント応募のキーワード『チェリーちゃんマジカワイー!』と入力。そしたら『応募完了』の定型文が返ってくるからそれで応募したことになるよ~? 後程、当選者には、私ヒマDから送り先確認の連絡を入れるから待っててね~。あとキーワードは――はいっ、配信画面の右上に出したから、漢字ひらがなカタカナ、一言一句同じに入力しないと反応しないから気を付けてね~」

 

 姉さんにバトンタッチをすると、カメラ前には出ず、声だけで説明をしてくれた。

 基本的には演者はわたし、そういうスタンスは崩さないらしい。

 旅はまあ例外って事で。

 

 しかし淀みなく説明しながらも、キーボードをッターンってやってるのが出来る女感あるねえ。

 さすがは敏腕Dだね。

 

:おー登録してくるわ

:なんか個人なのにガチ感すげえ

:ええやん登録したるわ

:(¥10000)

:無言投げ銭ニキもご満悦

:草

:スープカレー普通に喰いたいゾ

:300人とかwww

 

「ああ、そうそう。例のわたしたちの写真だけど、一応3枚ほどつける予定。そっちは当選者が直接見て楽しんでね。どんなイメージかはそうだなあ……先日わたしたちは秋葉原にあるコスプレが出来るスタジオに行ってきた。これがヒントだね。あと、チラ見せしようか。ヒマD、出しても問題ないのを一枚、インサートして?」

「は~い。行くよ~。みんな驚かないでね~?」

 

:oh・・・

:言い値で買おう

:やば

:イケメン杉ワロタ

:これほすぃ

:エロい、エロくない?

:ヒマDやべえ

:チェリーかっこよすぎ草

:わいホモに目覚める

:↑元からだろwwww

:wwww

 

 姉さんが切り換えた画面には、わたし達の写真。

 こっちは秋葉原ではなく、日比谷にある大きなフォトスタジオで撮った。

 本格的なヅカメイク&ファションでゴージャスな写真が撮れるのだ。

 

 わたしが男役トップスターで、姉さんが女役として着替えてね。

 豪華な天鵞絨の背景の中に玉座みたいな椅子があって、わたしが気取った表情で座り、姉さんがお姫様みたいな恰好で、アンニュイな表情でわたしの膝に顔を載せている。

 

 最初は並んで立って普通に撮ったんだけど、カメラマンさんが興が乗ったらしく、どんどんポーズをリクエストされ、その結果耽美な路線に……。

 彼的に会心の出来らしい一枚を、写真館のショーケースに置かせてほしいと頼まれたな。

 まあ安くしてくれるからOKしたけど。

 

「ふふふ……チェリーも本気を出せばこれくらい訳ないんだよ?」

 

:せやな

:かっこいい!

:似合いすぎてワロタ

:まあ体型が元々男みたいなもんやし

:あっ

:あーあ

:油断したらこれだよ

:やっちまったなあ!

※”チェリーボーイと呼ばないで”は管理者によりブロックされました※

:久々に見た

:www

:名前が悲しい

:ワイにも刺さるんだよなぁ

 

 とにかくそうして、久しぶりの日常配信は和やかに終了したのだ。

 ちなみに、秋葉原の方は、アニメとかのコスプレらしいけど、結構露出度高めのが多くて、色々危険だったな。

 なので姉さんが厳選したので、多分大丈夫……だと思う。




掲示板形式の話、すっごい難航してます。
ある程度書いたけど、出せるクオリティじゃないのでまだ煮詰めるのでリリースは見送り。
その間にシリアスも無い、何かを出そうと思っています。


※警告。水戸の大盛の店は実在します。マジで安易に大盛を頼まない様に。
東海地方のマウンテンに匹敵する苦行です。
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