現代にTS転生したけど馴染めないから旅に出た 作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)
・ガチ百合テイスト苦手な人は絶対に読まないでください
百合を書けと言われ、最終的にリリースしたのがPretty Woman。
しかし後半部分のある箇所からは、本来こう書いていました。
テイストとしては一章のさくらとひまわり。
そういうシリアスで重たく、そして救いがあまりないクッソ重たい百合になっていたのです。
違う、読者が求めるのは、さくらとひまわりがキャッキャウフフする姿や、こんなん違うわ! とボツにしたバージョンがこれ。
現在二章のプロットがあらかたまとまり、書き溜めに入るので、今日までの様なペースでの投稿はできませんので、供養がてらリリース。
直接的な性表現はオミットし、限りなく描写でにおわす様心掛けているので、多分大丈夫だとは思いますが、運営から警告されたら消します。
小説情報にガールズラブをつけたのは、これを見せるためでございます。
では警告終わり。
警告したからね?
「……なんか、北海道の時と違って、ドキドキするね」
豪奢な絨毯が敷かれたホテルのエグゼクティブ・フロア。
わたしの腕に絡みつく姉がぽつりとつぶやいた。
けれどそれには答えず、わたしは辿り着いたドアにカードキーを差し込んだ。
「うわぁ……綺麗だねぇ……」
部屋の中はいかにもな内装。
リビングにはシックな印象のレザー製の応接。
壁には何かの風景画。
そしてその向こうには大きな窓があり、そこに拡がるのはみなとみらいの全貌と、水面に反射する摩天楼。
その全てが煌々と輝いている。
「ひまわりの方が綺麗だと思うよ」
「~~~~っ!?」
そんなセリフに、姉さんは小さく呻いた。
「の、喉が渇いちゃったな……な、なんか飲もうよ! さくらちゃんは何がいいかなっ!? って、もう、どうして笑うの!」
ハッとした姉さんが弾かれるようにバースペースに逃げていく。
耳まで真っ赤にしながら。
そりゃ笑うさ。こんなに挙動不審なあなたを見るのは初めてだもの。
そんな姉さんがとても愛らしく感じ、わたしはその背を追いかける。
カウンターの中に逃げ込んだつもりらしいけど、そこは袋小路。
逃げ場所にしては迂闊すぎる。
「ちょ、えっと、顔ちかいぃ……」
「ひまわりが望んだんだろう? スイッチを入れたのはひまわりだ。もう止まらないから」
わたしが好きだと知っているペリエの瓶を胸に抱えた姉さんを壁に追い込んだ。
両手を壁につき、逃げ場所を塞いで。
姉さんは潤んだ瞳でこちらを見上げ、すぐに怖気づいたのか、右に反らした。
「んっ、だめっ、ダメだよぉ……んんっ……」
鼻先で彼女の髪を掻き分け、首筋に辿り着く。
いつもの柑橘系のコロンが淡く香るが、その中に若干、汗のにおいを感じた。
緊張しているのだ。
だからわたしは、唇を顎のラインから這い上がる様に動かし、耳に口付けをした。
「可愛いよね、姉さんって」
「むぅ、ひまわりって呼んでたのに、怖気づいたの?」
「声が震えているよ姉さん。ひまわりでも姉さんでも、要は実の姉だろうと、今夜わたしはあなたを逃がさないよ」
「はあっ、んう……ほんと、ダメぇ……そこ弱いから」
姉さんの抵抗は弱弱しかった。
わたしの胸に当てた手は、拒絶よりも愛撫にしか感じない。
分水嶺は港だった。
ゲームとして、わたしは直人となり、彼女をエスコートした今日のデート。
ディナーが終わり、海からの夜景を眺めた所で、本来は終わりだった。
その時のわたしは、多分魔がさしたのだろう。
戯れのデートだったとしても、わたしは心底楽しかった。
ある意味ではテーブルトークのロールプレイに等しい今日のわたし。
けれど途中から、子供の様にはしゃぎまわり、興味を引く物を見つけたなら、満面の笑みでわたしの袖を引っ張る。
それはまるで、周囲にいる恋人達となんら違いはなく、姉妹ながら笑い合い睦み合うわたし達を、怪訝に見る者は誰もいない。
だからわたしの中の、今日のための演出家としての視点は徐々に消えていった。
ただ純粋に、愛らしいこの姉と、心行くまでデートを愉しむ。
わたしはそれだけに没頭したのだ。
そして夜。
夜景を眺めている気怠い時間。
無邪気に今日のわたしは凄かったと騒ぐ姉。
なるほど、彼女の中では終わったのか。
そう考えた瞬間、わたしの中に猛烈な感情が鎌首をもたげた。
その感情の名は、寂しさだ。
それはいくつかの意味が含まれる。
今日というまやかしが終わる寂しさ。
日常に戻る寂しさ。
そして、本当の意味でわたしには姉しか頼れる相手がいないという寂しさ。
わたしは北海道と言う旅を経て、曲がりなりにも精神が成長したという自負がある。
性別にある程度の折り合いをつけ、直人ではなくさくらとして、わたしはこれからも生きていくのだ、そういう覚悟を持った。
旅の終わりには、姉も本音をぶつけてくれた。
だからこそ、わたしは彼女を信頼したのだ。
もう隠さなくてもいい。一切のフィルターもバイアスも無く、悲しい時には悲しいと言い、怒る時はぶつけられる。
それが本来の信頼しあう者同士では、当たり前の事なのだ。
それすらもできなかったのが、旅の途中までのわたし。
けれど今は違う。
頼りなく、でも頼りがいのある姉さん。ひまわり。
しかし同時に、怖くもある。
わたしが乗り越えたのは女である自分。
そういう物だと肯定し、そういう物の様に普通に生きる。
けれど、冷静に考えるとわたしは本当の意味で孤独であると気が付く。
いま生きているこの場所。この世界と言い換えてもいい。
なぜならわたしがかつて直人として生きていた日本とは年代もズレているし、見たことも無い飲食チェーンやコンビニが存在する。
ここは確かに日本ではあるが、わたしの生きていた時代から地続きであるとは断言できない。
いや、わたしは半ばそれを確信している。
今風に言うのなら、エゴサーチと言えばいいのか。
ネットで自分の事を検索する行為だ。
久慈直人――その名前は、どこにも存在しなかった。
いや、正確にはいたが、九州の人で、読みはナオトではなく、ナオヒトだった。
検索で引っかかったのは個人のパーソナル情報をある程度明け透けにした人間が関われるソーシャルサイトだ。
そこに載っていた久慈直人の写真は、元のわたしに似ても似つかない老人だ。
そう、この世界に久慈直人を知る人間はわたし以外存在しない。
生まれた土地も、ご近所づきあいのあった人間も、家族も、友人も、学友も、同僚も部下も……。
誰一人、わたしを記憶している人間は存在せず、しかし高科さくらにはいて、その中にいるわたしと言うオレは、この世界に存在する一切合切とリンクしない。
その事実に辿り着いたわたしは、背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。
もしさくらに姉がいなかったとしたら。
わたしはあそこで孤独死したかもしれない。
すぐにそうならなくとも、どうにか足掻いて生きようとした未来で、何か心が折れる様な出来事があったなら、誰に頼る事も出来ないわたしは、そのまま静かに死ぬだろう。
だから魔がさしたのだ。
あるいはふいに沸いた独占欲。
目の前ではにかむ姉は、わたしだけを見ててほしい。
瞬間、ひまわりは姉じゃなく、ただの愛する人に堕ちた。
堕ちたのはわたしか。
それを世間では恋と呼び、わたしと言う特殊な人間には呪いと言う。
「ほら逃げないでよ。こっちを見て。今夜、帰す気なんか最初からないから」
じゃれてたつもりが、本気で姉を抱き寄せていた。
交差する視線。
やがて姉は覚悟を決めたように、ただ黙って頷いてくれたのだ。
本来行くべきだった道。
わたしはそこを見据えた上で、道を違えた。
姉の手を引いて。
だからわたしは今、姉を壁に閉じ込め、どろりと黒い心を曝け出した。
「さくらちゃん、私は、あなたのお姉ちゃんなんだよ」
最終確認。
今度は目を逸らさない姉。
わたしの覚悟を試している。
さあ、13階段を昇れ。
そこに立ち、首縄をはめろ。
目を閉じて罪を数え、懺悔しながら堕ちていけ。
わたしが下した自分への判決は――望んで溺れる事だった。
「姉さん、わたしはさくらとして、これからあなたを奪うよ。絶対に逃がさない。身体も心も、わたしの爪で傷をつけて、わたしのなんだと宣言したい」
「……だったら逃げずに最後まで奪ってね。私も、さくらちゃんに傷跡をつけたかったんだぁ……」
もう言葉は必要なかった。
貪る様な接吻。
零れ落ちるは唾液か涙か。
いずれにしても、わたし達はこの瞬間、嗤って畜生に堕ちたのである。
嗚呼、セカイはこんなにも暗く、うつくしい。
このまま書いたら確実にR18行きやろなあ……