首狩り兎   作:岡崎正宗

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続・逃走中!


雷電一閃

 長い眠りから覚めて最初に身体を切り刻まれた。

 性能実験というやつだ。理には適っている。

 そのおかげで世間一般の人間より傷を治す力が強いことを知れた。研究者様様だ。ある意味感謝している。

 痛みを感じなかったわけではないが。

 普通より高い身体能力。普通より高い知能。普通より老化の遅い身体。

 少しずつ自分という存在を知っていった。

 どういった方法で、かは想像に任せる。

 第何次だかの人体実験で相転移反応に干渉出来る事を知った。

 反応を著しく促進する、それだけの一方通行の力。何の価値があるのか分からなかった。

 研究者たちは狂喜乱舞した。

 そこから雰囲気が変わった。

 白衣を着ていない連中が増えていった。その中で一番偉そうな男に研究所の外に連れて行かれて(外があるのを初めて知った)寝たきりの年寄りに引き合わされた。

 その老人に養子として引き取られた。

 名前を与えられ、教養を身に付けた。

 その頃だろう。

 自分がこいつら劣等種とは違う優良種、いや進化種だと気付いた。

 より進化した種族が劣る古い種を淘汰し繁栄する。これが自然の摂理、いや正義であると教えてくれたのは、皮肉にもこいつら自身だった。

 優秀な自分たちがそれ以外の他者を支配し、踏みつける。それがこの世界の真理であり正しい有り様であると。

 なるほど真理だ。

 だから先ず、こいつらから淘汰した。

 

 

 

 じーーー。

 ロリが涎を垂らしながら凝視する。

「……食べたいの?」

 やや怯えながら暁。手に持った、食べかけのチョコバーを差し出す。

「くれるのか!」

 食い気味に身を乗り出すと、頷くのを待って一口齧る。むしゃむしゃ。ごくん。

「美味い!」

 満面の笑顔。釣られて暁も笑顔になる。

「暁、お前はいいやつだな! 弟子にしてやってもいいぞ!」

「そういうのはちょっと」

「何故だ⁉ 超能力者の弟子だぞ!」

「そういうのは、もう卒業したので」

「子供なのに世知辛い!」

 

 

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぐのを余所にライドとユージン。ブリッジのモニターに出した星間航路図を指差す。

「ここまで行けば木星圏だ。ギャラルホルンだって好き勝手には仕掛けられねえ」

「結局テイワズ頼みかよ。気が引けるんだけど」

「仕方ねえよ。他に行く当ても無いんだし」

 言いつつ、一番気にしてそうなチャド。

 苦労人で将来ハゲそうだと思っていたが、今の所残ってる。

「いやハゲねえよ!」

「心を読まれた⁉」

「真面目にやれや!……ああ~、胃が痛くなってきた」

「分かってるよ、つまり……」

「……警戒態勢!」

 索敵オペレーター(見た目はただの輩)の警告。

「仕掛けるならここだよな」

 

 

 

「捕捉しました。偽装民間用200メートル級。鉄華団です」

「モビルスーツ全機発信。他の艦にも通達」

「アイ・サー」

 地球外縁軌道統制統合艦隊旗艦ヴァナディース。ブリッジ。

 総司令官カルマ・イシューは踵を返して格納庫に向かう。

「逃がさないと言ったはずだ。我がファム・ファタルよ」

 

 

 

『いいか、まだ慣らしも終わってねえんだ! いきなりブン回すんじゃねえぞ!』

「ムチャ言うなよ……」

 ぼやきながら、開放状態のコンテナ・ハッチを潜って漂い出る。

 元が輸送艦だからカタパルトとかは無い。慣性でふよふよ漂い、ある程度艦から離れてからスラスターを焚く。

「ライド・マッス! ガンダムシュトルム雷電号、出るぜ!」

「もう出とるけどな」

 後ろからロリのツッコミ。……切ない。ある意味見せ場なのに。

 艦を守る位置に静止する。

「しかし、えらい戦力差だな」

 敵艦隊は旗艦の800メートル級以下、400メートル級ハーフビークが20以上。モビルスーツ多数。

 こっちは雷電号一機だけ。ボロボロマン・ロディはまだレストア中だ。

 彼我の距離は約500。接触まで幾ばくかの時間がある。

「最後の確認だ」

 モニターに雷電号の画像を出す。

 全高19メートル。曲線的なビビッドイエローの外装。両肩に稲妻、胸に鉄の華。共に黒。

 背に翼を模したウィップ・ブレード、フライングパンサー・ザ・ネックハンターズ。

「例の赤いやつ。あいつが使ってた斥力フィールド、あれと同じ機能がこの機体にもあるらしい」

 ただし。

「発生するのは翼にだけ。他は無防備」

 ロリが補足説明する。

「本来のエイハブ・スラスターとしての機能がメインだからスピードは出る。その分出力持ってかれて攻撃力は落ちる。元の出力に差がある分向こうの方が強い」

「どの位?」

「足止めてどつきあいしても攻撃通らんぐらい」

「それじゃ勝てねえよ!」

「最後まで聞け」

 両手をそれぞれの機体に模して、ひらひらと動かす。

「だから助走して、勢い付けて突っ込む。可能なら向こうにも突っ込ませる」

 胸の前で掌をバーン!

「これで通る」

「……それってこっちにもリスクあるよな?」

「当然だ。言うなりゃ向こうは甲冑着こんでる。お前の方はフリチンだ」

「フリチン? フルチンじゃなくて?」

「ああ。お前は童貞で包茎、そして相手がいない。つまりフリーでフリチンだ」

「酷すぎる!」

 ちょっと混ぜ返しただけで!

「なら茶化すな! あと、先に言っとくが、後でぶっ倒れるやつは今回使えん」

「前赤いの止めたやつ?」

 あんなの二度とさせる気無いが。

「あいつの方がリアクターに干渉するパワーがでかいって前に言ったよな?」

「ああ」

「その分効果範囲はこっちの方が広い」

「どの位?」

「あの艦隊全部止めれる」

 確かに前も止めてたな。

「けど、あいつやって代わりにダウンしたら艦隊動き出す」

「つまり後詰めに連れて来た? 案外賢いな」

 チャラそうな顔してたけど。

「要は、お前の腕で仕留めろって話」

「……上等じゃねえか」

 

 

 

 残り距離10で艦隊が停止する。レーザー通信。

『……私のものになる覚悟は決まったか?』

「変態だ!」

 モニターの中、金髪男がイラっとした顔をする。

 勝った。前回は完ムシされたからな。

 しかし、実際変態だ。こいつロリコンなのか。モテそうな感じなのに可哀想に……。

『いや違う! そうじゃない、憐みの目で見るな!』

 反論してきた。完全勝利だ。

「お前ら……」

 残念な生き物を見る目でロリ。

「まあいい。……つまり口説いてるのか?」

『そう思ってもらって構わない』

 勇者だ。

『同族は共にあるべきだ。違うか?』

「うむ。言ってることは分かる」

『ならば……』

「だが断る!」

 掌を前に向けてドーン! と。

『何故だ⁉』

「うん、立場を変えて考えてみろ。仮にお前が女で、他に男は一人しかいない。求愛されるんだがそいつがクソ野郎なんだ。ああ、ただのクソじゃないぞ。柔らかいウンコでじっくりコトコト煮込んだクソを、さらに継ぎ足し継ぎ足し三日三晩煮詰めていって鍋の底に残ってこびりついた、熟成された本物の、本格的なクソだ。そんなモンを皿に載せて目の前に出されたら、お前ならどう思う?」

 最高にムカつくドヤ顔で。

「クソ食らえって思わないか?」

『………………』

 ひっ、酷すぎる!

 関係ないライドがあわあわとなる。小娘未満の子供に、この言われ様。

 モニターに映る金髪が能面みたいな無表情になってる。完全な無、だ。

「あ」

 ホントにプチンって音がした。

『……下品すぎる。殺そう』

 モニターアウト。

 豆粒台の真紅の機体が炎上、急発進する。

「計算通り! 後は任せたぞライド!」

 ロリも緑に発光する。

「なんだこの感じ」

 釈然としない。だが集中しないと。

 相対距離が指数関数的に吹き飛んでいく。

 拡大するアウナス。真っ赤に燃える拳を構える。

 対するシュトルムも翼に青く冷たい光を纏わせる。

 激突。

「なっ⁉」

 寸前、アウナスが急制動を掛けた。

 

 

 

 タイミングを外されて一瞬バランスを崩した。一瞬だけだ。

 そこを捕まった。

 炎の打撃。

 反射的にガードした腕が破壊される。横殴りの翼で反撃する。

 効かない。障壁で跳ね返される。

(ブラフ!)

 引っ掛けられた。こいつ冷静だ。

「離脱しろ! 一度距離を取れ!」

「やってる!」

 けどできない。小刻みな機動で進路を塞がれる。

(こいつ上手い)

 この間は素人臭かったのに。

 まさか、あれもブラフだった? この場面での油断を誘うための。

 防戦一方になる。かろうじて翼で防いでいるが長くは持たない。

(考えろ)

 完全に追い込まれた。ここからどうやって勝つ?

(考えろ)

 相手の防御は完璧だ。破るには、一度距離を取って仕切り直す必要がある。けど、そんな隙はどこにも無い。

 距離を作る。作れない。どこに作る?

 考えろ。どうやって倒す。

 考えろ。……いや。

『考えるんじゃない』耳の奥で甦る懐かしい声。

 感じるんだ。

 

 

 

 実際にそう言われたことは無かったかも知れない。あまり喋る人じゃなかった。

 けど確かに。

 狼の王の鼓動を感じた。

 

 

 

 直感を信じてその場で回る。

 翼の、慣性制御の力を最大限に利かして。

 外側に距離を作れないのなら。

(……内側に作る!)

 加速するコマから撃ち出される一対のウィップ・ブレード。青く光るネックハンターズ。

 1本はコクピットを。

 もう1本はアウナスの頸部を。

 一瞬、障壁と拮抗。そして。

「首狩りライドだ! 地獄行っても覚えてろ!」

 一気に刎ね飛ばした。

 

 

 

『……敵艦隊、活動再開。追撃の気配無し。巡行速度に移行』

「了解。もう少し警戒してから戻る」

 一息ついて、ライドはマフラーを引き下げた。

 仇を討つ気は無いらしい。薄情なことだが人望の厚いタイプでも無かったんだろう。敵に同情する気も無いが。

 後ろから突っつかれる感触。

「なんだよロリ?」

「そう、それだ! あだ名としてもアカんやつだろ、いい加減ちゃんとした名前で呼べ」

「シヴァだっけ?」

「それは名前じゃなくて分類だ」

「……じゃあ、どうしろと?」

「お前が付けろ」

「分かった。ラビ太郎で」

「どっから出てきた⁉ っていうか人の名前か⁉」

「兎のラビットで……」

「案外考えられてた⁉」

『うるせえよ! 通信繋がってんだぞ!』

 ノイズ混ざりで怒鳴るユージン。後ろでクスクス笑うのはヤマギか。肩をすくめるチャドが目に浮かぶ。

 色々あっても騒いでる。取り敢えず、生きているからだ。

 だから。

 

 

 

 物語は続いていく。

 




……とか言いつつ終わりです。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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