乃木悠城は破壊者である   作:たうこさひつま

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 今日は筆が乗ったので、2本投稿です。


居るはずのない人間

 土居球子と伊予島杏。

 

 2人は(さそり)の名と姿を冠した新型、スコーピオン・バーテックスに身体を穿たれ、その命を散らした。

 

 今までの個体を遥かに超える頑丈さと強さ。並の精霊では全く歯が立たず、友奈の精霊・酒呑童子をもってようやく撃破した。

 

 大社は二人の勇者の死を、すぐに発表することはできなかった。

 

 そんなことが広まれば、四国中が大混乱に陥る。

 

 よって、二人の葬儀は、大社の関係者と巫女のみでひっそりと行われた。

 

 暗い空気と悲しみの声で葬儀の場が包まれる中、若葉は用意された椅子に座って頭を抱えていた。

 

 私にあの力が宿せるのだろうか……いや、それ以前に……

 

 「若葉ちゃん、元気を出してください。」

 

 葬儀の場で、隣に座っていたひなたが若葉をそっと励ます。

 

 「若葉ちゃんたち勇者は四国の希望です。もしそんな落ち込んだ姿を見られたら、四国の人たちはどれだけ不安になるでしょう。」

 

 「……そうだな。やはり私達がーーー」

 

 「うああァァァ!!」

 

 突然悲鳴にも似た泣き声が聞こえ、若葉は思わずその方向を向いた。

 

 その声は亜麻色の髪をみつ編みに結った少女で、勇者の力に目覚めたばかりの球子と杏の手助けをした巫女、安芸真鈴のものだった。

 

 「なんで……なんで死んじゃったのよ、2人共!」

 

 「安芸さん……。」

 

 悲痛な叫びを聞いたひなたが心配そうな目で彼女を見ていると、彼女の後ろで今度は覇気のない声が聞こえた。

 

 「寂しいものね。命を懸けて戦ったのに、悼む人がこれだけだなんて……。」

 

 「千景……。」

 

 彼女の言葉に若葉が苦い顔をする。確かにこの葬儀はまだ世間に発表されていないため、人は少ない。

 

 彼女らの両親ですら、まだ娘の死を知らずにいるだろう。

 

 「……千景、勇者は四国の人々の希望なんだ。わかっていると思うがーーー」

 

 「それ上里さんに言われたのね。ありきたり過ぎるわ……。」

 

 若葉は図星なことを言われ、何も言えることがなくなる。

 

 「前から思っていたのよ……。あなたは人を鼓舞するのは得意でも、励ましたり、喧嘩を仲裁することに向いてない。」

 

 「そ、それは……。」

 

 「それはあなたが理想論しか喋らないからよ。弱い人間の気持ちなんて、考えたこともないんでしょう?」

 

 正直、若葉は苛立った。みんなが不安がっているときに自分だけがこんなに言われる道理はない。

 

 若葉自身、これからのことは不安だ。

 

 「ソーレーわっ!この人が口下手なんだからしょうがないことでしょ?お姉ちゃん!」

 

 千景の後ろから千景の背中にムギュっと抱きついた人影がいた。この状況で、驚くほど陽気な声だ。

 

 若葉はその人を見て違和感を感じた。

 

 自分と同じ金髪の子だった。白のパーカーとジーンズに黒のジャケットを着た中性的な少年。

 

 「なんだ、この子。千景、知り合いか?」

 

 しかし千景は、驚いたように目を見開いて少年を見ている。

 

 脳天気な少年は2人のことなどお構いなしだ。

 

 「えーっと、土居さんと伊予島さんのお葬式ってここだよね?正装がないから、ちょっとやることやってさっさと帰ろうと思うんだけど……。」

 

 「ああ。お2人の友人の方ですね。前の方に棺がありますから、あちらに……。」

 

 「はいはーいっ。さっさと終わらせて帰ろーっと。」

 

 少年は若葉や千景の横を通り越して棺の方へ歩いていった。

 

 「……びっくりしたぞ、千景。お前に弟なんていたんだな。聞いてなかったぞ。」

 

 「え?あれはあなたの弟じゃないの?てっきり髪の色とか名字が同じだからそうだと思った。」

 

 「? どういうことだ?」

 

 これ以上会話をする気力もないかのように、千景は席に座ると俯いてしまった。この態度の相手に声をかけるべきか、若葉が悩んでいると、

 

 「若葉ちゃん……、あれ……。」

 

 ひなたが怯えたように少年の背中を指差した。

 

 その先をみると、少年の背中がびっしょりと血で濡れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ひっく、ひっく……っ誰……。」

 

 「ごめんなさい。大切な葬儀のときにあんなに騒がしくしちゃって。棺の縁で泣いてるってことは、2人とは親しかったですよね……。」

 

 少年が安芸に申し訳なさそうな顔をすると、彼女は静かに首を横に振った。

 

 「ううん、いいの。少しぐらい騒がしいほうが、二人も喜ぶと思うし……。」

 

 「杏さんは静かな方がいいでしょう。あの人本が好きなでしょ?新聞に書いてありました。」

 

 「ふふっ、そうね。」

 

 安芸は涙を拭い、少年に笑顔で2つ横並びになった棺を手で示す。

 

 「君も二人の顔を見てあげて?明るい人に見てもらったら2人も喜ぶから。」

 

 この人、良い人なんだ。良かったね、こんな人が最後の別れに来てくれて。

 

 

 「それあなたの願望ですよね?」

 

 

 「……へ?」

 

 少年のさっきまでと全く変わらない表情から出た言葉の意味が、安芸にはさっぱり分からなかった。

 

 少年は2つの棺の周りを半周回って、安芸や若葉たちの席と向かい合うように立った。

 

 「知らないんですか?死んだ人は目は見えないんですよ?そもそも、何の役にも立たないあなた達巫女が、どうしてこんな重要な部屋に入れるのか疑問ですけどね。」

 

 「……そ、そんなこと……あなただって一緒じゃない!大体、勇者でも巫女にもなれない男の君が、どうしてここに入れたのよ!」

 

 「止めるやつ全員殺したから。」

 

 「……へ?」

 

 「わかりませんか?ここに来てる人間は、何かしら大社と関わりのあります。男で、なおかつ子供の僕はどうやったところで大社から情報を受け取れない。なら……」

 

 その時、葬儀場の扉が開け放たれ、神官と思しき人物が叫んだ。

 

 「誰か来てくれ!外で待機してた人間が全員血を流して倒れてる!すごい数だ!誰か!」

 

 その叫び声を聞いた神官や巫女の多くが葬儀場から出て、外にいる人たちの手当てを始める。

 

 「あなた……。一体何を……」

 

 「そこのお前。」

 

 少年が振り向くと、抜刀した若葉が刀の切っ先をこちらに向けている。

 

 「外にいる人たちはお前の仕業だな!勇者が死んで一大事のときに、どうしてこんなことができるんだ!」

 

 その慄然とした言葉に、少年はニヤリと笑った。ネチャッと音が聞こえてきそうな、粘着質な笑み。

 

 「そんなの決まってるじゃん。だってーーー」

 

 少年はそう答えながら、後ろに右足を大きく振り上げた。

 

 まるで子供が、サッカーでカッコつけて派手なシュートを決めるかのようだ。

 

 

 「俺、バーテックス側の人間だもん」

 

 

 その足を大きく振り下ろし、棺のぶつけた。

 

 瞬間、棺は宙を舞った。




2000文字って普通に疲れますね……。
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