「天使……だと……!?」
若葉は翼の生えた自分の弟を名乗る少年を見据え、驚きの言葉を漏らした。
「ありえない……!私達の敵はバーテックスだったはずだ!その力を、人間が持つなんて……!」
「ご明察だね。でも間違ってることが1つあるよそれはね……」
悠城は一旦言葉を切って手のひらを若葉に向けた。
瞬間、黒い光を放つエネルギーの塊が現れ、若葉に向かって飛び出した。
「俺はバーテックスよりもさらに上位の存在ってことだ!完成体より強いことを保証するよ!」
「!? はや……!」
突然若葉は、強い光に包まれた。悠城が放った光ではなく、まばゆい、地の神の力だ。
悠城のエネルギー弾が床を削り取ったときには、若葉はもうそこにはいなかった。
「よく避けたねぇ。てっきり義経の力でも避けられないと思ってたよ。」
目に見えないスピードで移動したはずの若葉を的確に見抜き、少しも戸惑うことなくその方向に向かって話しかける。
危なかった……。
若葉は悠城の動きを落ち着いて観察しながらも、冷や汗をかく。
相手がどんな行動をしても牽制できるよう義経の力を宿しておいたのに、実力を読み違えた。
それに……。
若葉は悠城の投げた光球が当たった位置を見る。
さっきまで磨き抜かれ艶を出していた石の床が、茶碗のようにボールのした半分の形にきれいに抜き取られている。
あんなものに巻き込まれることなど想像したくない。
「さあ、ボーッとしてないで次行くぞ!お前もできることなら仕掛けてこいよ!」
悠城はさっきと同じ球を空中に10個程度生み出し、若葉に向かって飛ばしてきた。
ーーー! やばい!
若葉は義経の力を最大限に利用し、球を避けていく。
そして最後の1つが見当違いな方向に向かったところで、出せる限りの全速力で悠城の心臓に刀を突き刺した。
突き刺した地点から、刀を引き抜くと、噴水のように血が上がった。
やっぱり人間と同じ形をしているから、弱点も同じではないかと思ったのだ。
「私の仲間を愚弄した罪だ。心は痛むが……あの世でしっかり悔い改め……」
「じゃあこれで罪は償ったから、もう俺は無罪だね。」
悠城がさっきまでと全く同じ声色で喋り、若葉は悠城にもう一度向き直った。
心臓を貫かれ、口からも血が流れ出ているのにまともに話せるはずがない。何なら、もう死んでいるとさえ思っていた。
「若葉ちゃん……血が……。」
ひなたに言われて若葉が見ると、胸の穴から流れ出たおびただしい量の血が、ブクブク泡を出している。
そして、沸騰したように消えてなくなった。
「どういうことだ……。天使の血とは……こんな……!」
若葉が驚きの声を上げると、悠城は傷口から煙を上げていた。
服についた血が蒸発し、傷口が露わになると、その傷口も消えてなくなっていた。
「これが天の神に選ばれた天使の能力……不死身、だよ。僕につけた傷は、そこから溢れた血ごと無くなるんだ。」
悠城はゆったりとした速度で、若葉に歩み寄った。
「く……、そんなことが……。」
今までのバーテックスは、たとえ完成体であっても受けた傷が完全に癒えることはなかった。
さっきの床を消滅させる攻撃と合わせても、悠城の能力は勇者のそれを遥かに上回る。この力の源は、どこから来ているのか。
こんな馬鹿げた存在に、勝てるわけがない。
「だが、なにか弱点はあるはずだ!たとえ相手が不死身でも、勇者とは絶対諦めないものだ!」
それを聞くと、悠城が馬鹿にしたような顔をした。
「勇者ねぇ……。勇者って言っても、目の前で見てる人がいるじゃないか。」
悠城が首を横に向ける。若葉もそれに合わせて振り向くと、その先に千景がいた。
「ひっ……! い、いや……。」
千景は2人から見られた途端に顔を背け、固く目を閉じてしまった。
よく見ると身体を小さく震わせ、怯えに耐えることで精一杯なようだ。
「千景! 私と一緒に戦ってくれ!2人で一緒にこいつを倒すんだ!」
「い……嫌よ!こんなのに勝てるわけ無い!私は生きたいの!伊予島さんたちみたいな、あんな惨めな死に方なんて……!」
千景は喚くように答えた。しかし若葉も、先程悠城にさんざん仲間をバカにされ、言葉には過敏になっている。
「何を行っている!千景!!お前は勇者だろう!お前にしかできない、お前だからやるんだ!」
「嫌だって言ってるでしょう!誰も勇者にしてくれだなんて頼んでないのに!好き勝手任命した連中こそ、安全なところで見てるだけじゃない!そいつらがやればいいのよ!」
千景は怒鳴り散らした。長い髪を振り乱して怒る彼女の目元には、うっすらと涙が伝っている。
「千景……。」
「……。」
そんな千景を見ていた悠城は、彼女の方に向かって手を伸ばした。
その手の中には、さっき若葉に向かって打ち出したエネルギー弾が浮かんでいる。
「いっ……いや……!」
千景は後退るが、腰を抜かしたのか尻もちを付き、自分の思うように逃げられなかった。
「千景ーーー」
「なーんてな!標的はお前だよ!」
撃つと思われた瞬間、悠城はくるりと若葉の方へ向いた。
「ぐっ……うあぁァァああああーーー!」
直撃した若葉の方から血が飛び散り、削り取られた肩から彼女の左腕が落ちた。
「乃木さん!」
「若葉ちゃん!」
残された友達を守るため、この日、乃木若葉は片腕を失った。
そしてその事実は、今後の戦いに大きく響いてくるだろうーーー。
タグにアンチ・ヘイトとつけているからといって、ついにやってしまった……。