乃木悠城は破壊者である   作:たうこさひつま

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 世間ではコロナなんて流行っていますが……私は風邪気味です。(どうでもいい)


精霊の底力

 「若葉……ちゃん……?」

 

 ひなたは、自分を助けるための飛び出してきてくれたはずの背中を見て、違和感を感じた。

 

 今、ひなたの身体は震えている。天使という脅威にすら怯えなかった彼女が、親友の容態が異常なものである事で、初めて震えた。

 

 私が……私が若葉ちゃんを支えないと……!

 

 そう思ってひなたは若葉に手を伸ばしたが、そうするには一瞬遅かった。

 

 「……コロス。」

 

 その一言が勝負の開始の合図だった。

 

 「来る!」

 

 悠城は攻撃を交わすように横に飛んだ。若葉の肩からは霊力のみの実体のない見えない腕があるので、それを加味して飛んだ。

 

 けれど若葉の剣は、そんな悠城の腹を切り裂いた。

 

 悠城の身体が衝撃で吹っ飛ぶ。壁にぶつかり、大きなクレーターを作った。

 

 「……完全に予想外だよ。ここまで俺の動きを、完璧に見切れてるなんて……。」

 

 クレーターの中で悠城はほくそ笑むが、これは本気でマズイ。

 

 何がマズイのか。それはーー

 

 それよりも早く、若葉の腕が伸びてきた。本当は悠城のいるクレーターの中だけを切れれば良かったのだろうが、過剰な力で周囲にも亀裂が走る。

 

 10本以上も腕のある彼女の腕は、おそらく一本だけでも脅威になるだろう。

 

 悠城も跳躍して避けるが、うまく身体をコントロールできず、空中でバランスを崩して床に落ちた。

 

 何がマズイか。それは、先程切られた悠城の腕がまだ再生していないのだ。

 

 天使の力があれば、失った身体くらい、数瞬で元通りのハズだ。

 

 「ドォなってんだよ……。体痛いし動きにくいし、相手は強いし……。」

 

 悠城は脳裏に浮かびはじめた焦りを振り切って、若葉を見た。

 

 若葉はあれだけの全力の攻撃をした後でも、こちらを見失ってはいなかった。

 

 まるで彼が避けることも、その方向も分かっていたかのようだ。

 

 「……キレタ。クルシンデル。……コロセル。」

 

 若葉は見えない腕を高らかに掲げ、目から溢れる霊力の炎を煌々と燃やした。

 

 そして今度は、ひなたにだって見えている本当の刀の握った右腕を構え、足を大きく開いた。

 

 なんの事はない。若葉が戦いでいつもするような構えだ。理性は無いとしても、体に染み付いているといえば納得する。

 

 

 でも、そうじゃなかった。

 

 

 本当は、そこから悠城の元まで走り出してからが問題だった。

 

 若葉が足を動かした瞬間、衝撃波とも言える突風が吹き荒れ、悠城を、ひなたや杏たちまで巻き込んでしまった。

 

 「ウゴアァァァアアア!」

 

 若葉が咆哮を轟かせて悠城に切りかかり、悠城は思わず黒いバリアを張って対抗した。

 

 以前に悠城が若葉に向けて飛ばした光球の応用。

 

 しかしその光球も切ってしまった若葉は、このバリアでさえ簡単に破ってしまうだろう。

 

 「……まさか地の神の勇者なんかに、ここまで追い詰められるなんて……うん?」

 

 悠城はバリアの中で若葉を待ち構える間に、床にあったあるものに違和感を覚えた。

 

 そして、バリアは数秒と持たず、風穴が開けられた。

 

 理性を保っているかも分からない若葉が、その歪に伸びた口元を笑みでさらに歪ませる。

 

 「やっばいな……。お前はすげぇよ。……完全に俺を上回ってる。俺の……負けだ……。」

 

 悠城はそんな若葉を見て俯き、右腕をだらりと下げた。これが彼なりの、戦意が失われたことを示す合図だ。

 

 「トッタ。……シネ。」

 

 若葉は持っている刀を悠城の胸に突き立て、悠城の命を奪おうとした。

 

 若葉は、再生しない攻撃を繰り出す。今の攻撃が本当に悠城の心臓を穿けば、彼は再生することなく絶滅する。

 

 「……油断したな!獲られるのはお前の方だよ、目にもの見せてやる!」

 

 悠城は予め空中に準備しておいた光球を鋭く尖った円錐に変形させ、若葉の身体に突き刺した。

 

 霊力の棘は若葉の身体を貫き、そのまま伸びて壁に衝突した。

 

 棘に穿たれた若葉は、おびただしい血を流しながら空中に吊るされる。

 

 その後も、数秒の間は手足で藻掻くように動いていたがその後ようやく停止した。

 

 「手こずらせやがって……。でもこの死にざまは、そこらに転がってる仲間とおそろいだな……。」

 

 悠城が杏と球子を探そうと周囲を見渡すと、ひどい有様だった。

 

 悠城が事前に暴れたのもあるが、何より若葉の爪痕がすごすぎる。

 

 若葉の元いた地点から悠城までたどり着くのに数メートル。その間だけの猛ダッシュで葬儀場全体をボロボロにしてしまった。

 

 もう葬儀場だった頃の部屋の面影は見ることができない。

 

 同時に杏や球子、ひなたの影も見ることができない。

 

 「お前、もしかしてーー」

 

 悠城は宙ぶらりんになった若葉に話しかけようとしたが、できなかった。

 

 別に若葉が死んでいるからとか、そういう事ではない。

 

 胸のうちからこみ上げてくるものが邪魔をして、言葉を紡ぐことができなかったのだ。

 

 その感情とはーー嘲笑だ。

 

 「ぶふっ、お前自分の仲間を吹き飛ばしちゃったの?アッはは、じゃあお前なんの為に戦ってたんだよ。仲間仲間って言って結局自分のためーー」

 

 「だ……ぁ……れ。」

 

 悠城は大きく目を見開いた。

 

 「私……仲マ、見捨てナイ……。ゼンブ、助けル……!」

 

 若葉が動いた。

 

 右手に加えて見えない手も果敢に動かし、剣を突き刺してついに棘を叩き折った。

 

 「お前……マジかよ……。」

 

 悠城は彼女の圧倒的な生命力に絶句する。

 

 見ると、棘に貫かれて体の各所に空いていた穴も塞がり、さっきと全く同じ状態に元通りだ。

 

 ……いや。さっきまでの戦いとは違う。

 

 悠城の肩から腕が生えてきた。若葉にさっき切られた腕がようやく再生したのだ。

 

 それだけじゃない。まだ変わっていることもある。

 

 「終わらせてやるよ、乃木若葉。お前を殺して、俺は俺の守りたいものを守る。壊したいものは全部壊す。」

 

 こちらを睨む姉を見据えて、悠城は呟いた。




 ……私は風邪気味です。(だから本当にどうでもいい)
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