正直言うと、若葉は強い。
再生の力を無効にされて、バリアも破られて、しかも致命傷の傷までものともしないとは思ってもみなかった。
若葉が動く。
見えない腕を巧みに使って、様々な方向から悠城を切ろうとする。
悠城は動かずその腕を見て、自分の腕を高く掲げた。
瞬間、若葉の見えない腕はズタズタに切り刻まれ、細切れ上になって床に落ちた。
悠城はここまで来てようやく目にも止まらぬ速さで動き若葉の懐に入り、若葉の脇腹に手のひらを押し付けて霊力を放った。
「コ……シャ……クな……!」
若葉が右腕に握った刀で悠城を切りつけようとする。悠城は後ろに飛んで避けるが、彼の肩に彼女の刀が食い込んだ。
「悲しいなぁ。ちょっと霊力の流れを邪魔されただけで、ここまで力が弱まっちゃうモンなんだね。」
悠城は肩を切られたが、さっきまでのように腕を切り落とされたりはしていない。
そこにあるのはまっすぐに切られたはずなのに、まるで心電図のようにギザギザした傷だけだ。
「くそ……。ふ、ざけ……」
ここへ来て、理性を保っているかも定かではない若葉の顔に焦りが見え始める。
しかし若葉は逃げた悠城に対し、間髪入れずに次の一撃を繰り出す。
悠城は霊力の光球を放ち、見えない腕を消滅させた。
消された腕の代わりはもう若葉の肩からは生えず、残りはいつの間にか一本だけだ。
「私は……お前を……殺して……」
「やっと言葉が人間に戻ってきたなー。ここまで戻るのに思ったより苦労したよ。」
悠城は気楽に、大きく伸びをしながら若葉を見て言う。
元々悠城と若葉の力の差は歴然。ならば暴走さえ抑えられれば、この勝負は悠城が勝ったも同然だ。
「ごめんね。もう身内の
「ーーひなた。」
若葉が呟いた。言わずもがな、自分を今日まで支えてくれた親友の名である。
ここで初めて、若葉は自分の意思を持って周囲を見渡した。
「やっと気づいたのか。ここでどんな反応するか見物だけど……あ、いいこと思いついた。」
悠城は残虐な笑みを浮かべて若葉に近づいた。若葉は暴走の直後で上の空になっており、悠城に警戒する事が出来ない。
悠城は若葉の右肩に手を乗せ、できるだけ身体を若葉の右腕に密着させる。
そして悠城は若葉の耳にこう囁いた。
「凄かったね……。さっきの力。さっすが僕のお姉ちゃん。だってちょっと走っただけでこの部屋の物、全部吹き飛ばしちゃうんだから。」
「な、何を……」
「本当にすごいよ。だって、親友を殺してまで僕を倒そうとしたんだよ?そんなこと、普通はできないよ。普通だったら……。」
若葉を刺激するような口調で囁く。
本来、このようなやり取りがあるとひなたが若葉の前に出ていくと、悠城は知っている。
ここではっきり言おう。悠城は若葉の弟だ。
だからこそ、悠城は若葉が怒りの感情に弱いことは知っているし、ひなたの重要さも理解している。
そんな人間が若葉の怒りの逆鱗を、ひなたのいない所で刺激するとどうなるか……。
「親友……ひなたを……殺した?私が?……嘘だ……。」
「嘘じゃないよ。僕がお姉ちゃんに嘘を、言うわけないじゃないか。」
若葉の頬に、ツウっと涙が流れた。
悠城はてっきり発狂すると思ったが、もうそんな体力も残っていないらしい。
「うーん。面白くならないなぁ……。こいつの性格なら絶対怒ると思ったのに……。」
悠城は若葉の耳から口を離し、考え込んだ。
どうも自分の考えどおりに行かない事で、業が煮えつつあったのだ。
「もうこのままテキトーに痛めつけて殺すっていうのも1つの手……あれ?」
悠城は若葉の背中に垂れている、見えない腕を見つけた。
さっきまで若葉が暴走していた名残。
この腕をさっさと消滅させてしまえば、若葉は完全に意識を復活させて、悠城と再び戦い始めるだろう。
それも、悠城にとっては若葉とは片手でも勝てる分全然良いのだがーー。
悠城の口が、また残虐に歪んだ。
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「……ん。ここは……。」
ひなたは失っていた意識を回復させ、周囲の状況を確認しようとする。
まず、仰向けになった身体。これはさっきまで気を失っていたのだから、仕方ない。
しかし気になる点が、2点ある。
まず自分の身体を支えているもの。妙に体にフィットする割には骨組みらしい細い棒2本に支えられており、妙に不安定だ。
脚も投げ出されているが、首元はしっかり固定されている。
もう1つは、激しい振動。
規則的ではあるが上下に激しく揺れ、今までよく眠っていられたものだと感心するほどだ。
そしてようやく視力が戻ってきたところで、辺りの様子を確認する。
ここは、建物の中。しかし、ひなたがさっきまでいた葬儀場のあった建物とは違う。
……いや、ここは来たことがある。病院だ。今、自分は病院の廊下にいるのだ。
だとすれば、どうして病院の廊下で上下の振動を感じているのか。
地震か。いや、地震ならもっと悲鳴や警報機が鳴るはずだし、普通地震は横揺れだろう。
「あ、ひなたさん!良かった、目が覚めた!もうすぐ高嶋さんの病室に付きますから、もう少し辛抱をーー」
「キャアァァァあああ!」
ひなたはこの現実を認められず、手のひらで相手の頬をひっぱたく。
自分が愛してもいない、見ず知らずの人間にお姫様抱っこされている現実を認めたくなかった。
ひなたを抱えていた人は、彼女のビンタの想像以上の威力に倒れ、ひなたを床に投げ出した。
「あ、ご、ごめんなさい!突然でびっくりしたものでーー。お怪我はありませんか?」
本当に突然で相手の顔を見ていなかったので、偉い人だったときのために一応謝るフリだけしてやろうとおもったのだが。
「ーーあ、はい。大丈夫ですよ、ひなたさん。ぼく、乃木悠城は元気です。」
途切れた記憶の最後、親友と戦っていた男と同じ顔と名前をした男が、そこに倒れていた。
身体は大事にとか、僕の小説のキャラに言ってあげたいですね。(ツッコミ待ちでーす)