少女と青年と精霊と(仮題) 作:反転アイール
文章内の用語に関しては用語集やら後々の話で補足します。
幼い頃の私は、星を眺めるのが好きだった気がする。
いつからかは覚えていないけど、親も寝静まった真夜中にこっそり起きて、テラスから見える星をじっと眺めるのが習慣となっていた。
(きょうはお星さまがよくみえる!きれいだな…)
今思えば、星の輝きの尊さを、無意識の内に感じていたのかもしれない。
憧れ、といってもいい気がする。
あのきらきら星みたいにきれいな人になりたいとか、そっちの星に行ってみたいとか、そんな感じの。
(そとでみようっと)
その日は、雲一つない満天の夜空だった。
一際綺麗なその風景に、つい舞い上がってしまい、外へ出てみようなんて考えてしまった。
十にも満たない年で、随分と大胆なことをしたものだと思う。
ただ、その行動が忘れられない衝撃を生んだこともまた事実で。
私の『夢』はここから始まったんだな、とも思う。
この日。
『……あ』
『…ぅん?』
私は、彼と出会った。
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「――ルトちゃん?メルトちゃん、起きてってば!」
「――んえっ?」
私の眼前で、栗色の髪がたなびく。
その髪の持ち主である少女は、寝ぼけている私を見て、呆れながら続けた。
「もう放課後だよ、もう…。」
どうやら眠っていたらしい。大きく伸びをしながら辺りを見ると、教室には私と彼女以外誰も居ないようだ。
うわ、と思いながら私は彼女に尋ねる。
「…いつから寝てました……?」
「昼休み終わってからずっと。午後の講義まるごとスルーしてたよ?」
「起こしてくださいよぉ!!!!!!」
「起こそうとしたよ…けど、いくら揺すっても起きないし、幸せそうな顔で寝てるから…。それにいつものことだし、別にいいかって」
投げやりな言葉に私は嘆きの声をあげるしかない。
「よくないですよ!バカ!ぅう…今日の午後講義の先生、誰でしたっけ……?」
「魔導学基礎だから、スターク先生だね。『呼び出しはもう面倒だからしないが、代わりに反省文な』って。メルトにこれ渡しておいてくれって言ってたよ。」
その手には分厚く重ねられた原稿用紙。
思わず白目を剥いた。
「いやいやいやいや…これ原稿用紙何枚ですか。紙の無駄遣いは良くないですよ!」
「しょうがないでしょ、いつも昼ご飯食べたら寝ちゃうメルトがいけないんだから…」
「それにしたってコレはないでしょう!前回の3割増しくらいあるじゃないですか!やりませんよ私はコレ!」
「ちなみに提出しなきゃ単位なしだって」
「その手ズルくないですか????」
うぅ……と机に突っ伏して項垂れる。
大体にして午後の陽気がよくないのだ。ご飯を食べて満足した身体にあの暖気。
寝ない方がおかしいだろう。
そんな理論武装をしつつ、私は友人である彼女―――――ノアに話しかける。
「下校する時刻まで待っててくれたんですから、これ書き終わるまで待っててくれませんか……?」
「えぇ…?また?」
「いや本当にお願いですって!!一生のお願い!」
「もう50回くらい聞いたよそれ…今日は委員の仕事で偶然残ってただけだし、家の手伝いもあるから早く帰りたいんだけど…」
消極的なその意見に、私は泣きつく。
「そこをなんとか!ね!ねね!」
「うわっ、急にひっつかないでって…危なっ、とっ、ちょ」
「お願いですってぇ!」
「わかった、わかったからぁ!一旦離れてってぇ!!」
取っ組み合いの結果は私に軍配が上がったようだ。
私は彼女のひっつき虫をやめる。
うぅ…制服ぐちゃぐちゃ…と悲しそうな声が聞こえるが、必要な犠牲だったのだろう…
大本の原因には目を逸らしているが。
制服をある程度整え終えたのか、ノアがため息を吐きながら話しかけてくる。
「言っておくけど、居れるのは18時までだからね?それ以降は酒場が忙しくなっちゃうだろうし」
「そこまで居てくれれば十分です!ちゃちゃっと書いちゃいますよ!もう二桁は書いてますし」
「それに毎回突き合わされる私の身にもなって…というか、その集中力をなんで午後寝ないために使わないのか疑問だよ…」
そんなことを言われても、眠いものは眠いのだ。しょうがない。
うむうむと内心で納得しながら、原稿用紙の空欄を埋めるために高速で手を動かす。
ノアはその様を呆れたように見ている。
「私は本気出せば優秀ですからね、魔法実技はカスですけど」
「じ、自分で言うんだソレ…まぁ、周囲からの評価もそんな感じだもんね。先生も『午後のアレがなければ主席は取れてる』なんて言うくらいだし…」
「先生そんなこと言ってたんですか??いや照れるなぁエヘヘ」
「『魔法実技の結果を除けばだが、あれは控えめに言ってカスだ』っても言ってたね」
「そこまで言います?????」
自分で認めてはいるけども。
世の中の不条理さに涙が出そうである。
「でも本当に残念だよね…メルトは魔素適性さえあれば、宮廷魔導士だって夢じゃないスペックしてるのに…」
「おっ、褒めてもなにも出ませんよ?私が気持ちよくなるだけです」
「もう…すぐ茶化すんだから…」
「たらればの話してもしょうがないですからね、適性に関しては魔具とかである程度なんとかなりますし」
事実、それで魔法実技はなんとかしてきたし。
魔具の持ち込みがOKで助かったとあれ程思った日はない気がする。
浮かない表情のノアに対し、私は続ける。
「それに私は宮廷仕えなんて高尚なレベルの職業に就こうなんて考えてませんからね。というか、誰かに仕えるとか私苦手ですし」
そんな職業についたらついたで、日々のストレスで禿げそうだなとか、そういうイメージしか浮かばない。他人にマウントを取れる点では良いのかもしれないが。
私の言葉を聞いたノアは苦笑した。
「あはは…そういうところ本当に変わらないよね。心配して損したって毎回思っちゃう」
「私の心配するくらいなら自分の心配した方が良いですよ。自作魔具の提出、確か近かったでしょう?仕上げ急がないと」
「う……そうだった。一応用具一式は持ってきてるから、いっそのことここで作っちゃおうかなぁ。メルトはもうできてるの?」
「家からくすねた魔具あるのでそれでいきます」
「バカなの??」
「オセロー先生なら許してくれるかなって…」
ノアは頭が痛そうにしている。何度も見た光景だ。
冗談ですと告げると、ぽこりと頭をはたかれる。痛い。
反省文の処理で精神力を削られているのだから、そのくらいのお茶目を許してくれても良い気がする。
「まったく…それで本当の所は?」
「適当なテールランプを作成しましたね。9割5分完成してはいますけど、最後の魔力注入が鬼門すぎるので放置してます」
「あぁ…魔素適性必要だもんね、その作業。注入用の魔具は高いし…」
「学校の備品を借りようと思ったんですけどね。先輩方の実験で中々機会がないので。反省文出すついでに先生に頼んでみましょうかねぇ」
「それが良いかもね」
はぁ、とため息をつきながらペンを動かす。
こういう時には自分の適性のなさが恨めしくなる。
かゆい所に手が届かないという感じで、絶妙な感じで問題が発生するのだ。
ちらりと横を見ると、ノアが魔具作成用の器具を準備している。
彼女は準備を終えた後、うーんと唸りながら、両腕を組んでいた。
「結局何作るか決めたんですか?」
「それが中々…シンプルさで行くならメルトみたいな家具でも良い気がするし、今後学院で使っていくなら、動作補助系の魔具とかも挑戦してみても良いかなって…」
「なるほど、確かにノアは気弱な見た目と違って実技成績クソ高いですもんね。詐欺ですよ詐欺」
初めて魔法実技で対面した時のことは忘れられない。
人を見た目で決めつけてはいけないと強く思い知った日だった。
まぁ、その日のおかげでこうして話す仲となったのだが。
「気弱な見た目って…まぁ確かに酔っぱらったお客さんを相手するために、ね…最低限の護身術は必要だったから、その影響かなぁ?」
「その最低限のレベルが問題なんですよ。いざ戦うとなるとスイッチ入ったみたいに好戦的になりますし。魔具叩き割られたこと、まだ忘れてないですからね」
「うっ…それはその…大変申し訳ありませんでした…」
「よろしい」
こういう素直なところは彼女の美点だろう。
当人はむむむ…とまだ納得しきっていないような声を上げているが。
「そ、そんなこと言ったらメルトもそうでしょ!魔法補助ほぼなしにあんな軌道で動くなんて…」
「山育ちですからね」
「むー…これ系の話題全部それではぐらかされるし…」
「しょうがないでしょう、実際それだけですし」
都会育ちを卑下するわけではないが、魔獣が行き交うほどの田舎で培った経験は伊達ではないのだ。
それに魔法実技では魔法の腕が試されるわけで、試験の目的からみれば私の運動能力などさほど意味がないというか。
まぁそういう訳である。
うー、と唸り声を上げるだけの機械となったノアを尻目に、私は席を立った。
「あれ、もう書きあがったの?反省文」
「優秀ですからね、このくらい当然です。褒めても良いんですようふふ」
「それが反省文じゃなきゃ素直に褒めてたよ…前回より早いんじゃない?」
「これが適応力というものですよノア、しっかり見習うことですね」
むふー、と強い達成感を感じている私を、ノアがなんとも言えない表情で見ている。
時計を見るとまだ17時程度。彼女が約束していた時刻よりも大分早くに終わったようだ。
彼女の方を見る。魔具作成の進捗はよろしくないようで、部品を手で遊ばせながらぼーっとしている。
未だに明確なイメージが出来ていないのだろう。ふむ、と私は顎に手をやる。
「ノアが良ければ、18時まで魔具作成手伝いますけど」
「えっ、良いの?」
「今日残って貰ったお礼をしていませんでしたからね。構想へのアドバイス程度なら私にもできるでしょうし。それに、スターク先生のことですし、18時ぐらいまでなら余裕で残ってるでしょう、たぶん」
そう続けるとノアは花が咲いたような笑顔になった。
「ありがとーメルト!!」
「うわ、ちょ、急に抱き着かないでくだ、ちょ、あぶ、ぐえぇ」
はしゃぐノアにひっつかれながら、先ほどとは真逆の立場になってしまったな、なんてことをメルトは考えた。