少女と青年と精霊と(仮題) 作:反転アイール
イェムスタ魔導学院。
それが私、メルト・アーメンテラスが通う学院だ。
1000年前に起きたとされる魔獣との大戦争。それを終結へと導いた『三英傑』の一人、イェムスタ・ディネイヴが建設に携わったとされており、その敷地面積は3億㎡を誇る。
敷地内には学院だけでなく様々な店舗も設置されており,学院というよりは一個の小都市ともいえるだろう。
学院としての質もかなりのものであり,つい最近開発・発見されたばかりの魔具や発動体も完備されている。教師に関しても同様で,高い実績を持つ教師が、様々な分野に分かれて指導を行っているらしい。一部そうは見えない教師も居るが。
ここでは生徒に対し5年間にわたる教育が施される。出る頃には生徒全てが一流の魔導士となっているらしく、初めて聞いたときは「すごいなー」と月並みの感想が出た。モットーの『将来的に有望な人材の育成』に恥じない教育に対し、感服である。
まぁ、そんなハイスペックな学院なら、魔導士を志す者誰もが「行きたい!」となるだろうが、残念ながら敷居は低いわけではない。というのも、入学の最低条件として、下記の3点を満たしていなければならないためである。
1. かしこいこと(筆記試験で8割程度の点数を獲得する)
2. つよいこと(実技試験で試験官3名全員からA評価以上を獲得する)
3. かね(純粋に受験の費用が高い。ついでや記念受験を防ぐためだろうか?)
中々に厳しい。特定の項目を満たしていても、これらすべてを達成することは中々に困難だろう。実際私も工面のため、母上様に泣きついた記憶がある。田舎民が払うには少々額が多かったし、結果として折れてくれた母上様には頭が上がらない。
なお、実技試験に関してだが、これは筆記試験の際に行われるアンケートを基にした試験となる。戦闘魔導士志望なら戦闘魔導士専門の試験、魔具師志望なら魔具師専用の試験という感じだ。試験時にコースが決定する、ということである。
試験官は当然その専攻でのエキスパートが選ばれるため、頑張って勉強しても実技で落ちました、なんてことはザラにあったりする。
長々と話したが、端的に言えば「イェムスタ魔導学院はすごい」という一言で終わる。
ついでに言うとそこに受かった私はすごい、ということである。優秀。
優秀、なのである。はず。
「なのになんでこんなことに…」
「自業自得だろうが、馬鹿モン」
そんな心無い言葉を私に返すのは、反省文を書く原因となった人物―――スターク・フィレンド先生である。
彼ははぁ、とため息をついてから、私をぎろりと見た。怖い。
「これでもう何回目だか分かるか?」
「二桁超えた頃には数えるのやめました」
「53回目だ。入学以来、お前が午後授業で起きているのは数回しか見たことがない」
20回程度かなー?と軽く見積もっていたが、予想の2倍以上あったようだ。驚天動地といった感じである。
スターク先生は私が今提出した反省文をぱらぱらと眺めながら、再びため息をついた。
「お前は午前の態度だけみれば優秀なんだがなぁ…この反省文も無駄にクオリティが高いし、というか日を追うごとに執筆速度と完成度が高まっているようにも思える」
「へへ…ありがとうございます!」
「褒めてはいない」
「ぉぐえっ」
ごちん、と拳骨を頭に食らう。理不尽だ。
ぷすぷすと頭から煙を出しながら床に突っ伏す。パワハラかな??
根本的な原因は私にあるので訴えたところで無意味だろうけども。現実は非情である。
ノアの魔具作成のアドバイザーに就任した私(最初の10分程度はノアとわちゃわちゃしていただけだが)は、時刻が18時を示したことでその仕事を解任された。
結局彼女は動作補助型の魔具を作成することに決めたようだ。注意点などは今日の会話である程度理解していたようなので、後は彼女に任せて大丈夫だろう。たぶん。
「今日はありがとう!わからないとこあったら聞くね」と私に告げ、足早に去った彼女を見送った後、私はスターク先生の研究室へと重い足取りで向かった。
行くの面倒だなーとか思いながら現状を再確認し、現実逃避した結果が先の会話、ということである。
私は頭をさすりながら起き上がった。
スターク先生は相変わらずのしかめっ面をしていた。
「無駄に優秀なお前だが、出席しないことには評価は付けられんぞ。俺の科目は午前中の講義もあるからまだしも、魔法実技に関しては午後しかないだろう」
「無駄にってなんですか、無駄にって…まぁ、そうですね。実力を隠してるとかの強キャラムーブしてるわけでも、したいわけでもないんですけど…」
「眠いと」
「わかってらっしゃぃだアッ!?」
拳骨の2発目が私の頭に下ろされる。涙が出てきた。
私の15年培ってきた知識が吹き飛びそうだ。いたい。
「大体、眠いという割に、朝はしっかり起きているだろう。その調子でいけないのか?」
「そりゃあ朝は薪割りやら何やらで忙しかったですからね、実家居た時は。その分お昼寝タイムみたいなのもありまして…その頃の条件反射かなと」
「…アーメンテラスの実家は確かラムシア地方にあったか。確かにそれなら分からないでもないが…この学院に来た以上、規則には従って貰わなければ困るぞ」
「あー…まぁ、ハイ。申し訳ないとは思ってます…」
実際申し訳ないとは思っているのだ。ただ呪われているかの如く真っ昼間に入眠し、行動できなくなる。困った話だ。
というか、先生も納得するあたり、ラムシア地方の特異性は広まっているのだな、と改めて実感する。
私もこの学院に来て、ひどいカルチャーショックを受けたものだ。
スターク先生が再びため息をつき、トントン、と私の反省文をまとめている。3回目だし、3倍速で幸せが逃げそう。
「まぁいい。今回の居眠りの分はこれで許してやる」
「マジですか。ありがとうございます!」
「今回は、な。次は然るべき処置をとる」
「というと?」
「レブトア先生の研究室に放り込む」
「やめてください本当にいやほんとすいませんでしたもうしませんからゆるして」
あの先生だけはダメだ。
『ラムシアの実験サンプルが欲しい』と言われ、何回も追いかけ回されたことは、今思い返してもぞわぞわする。
幸いにも昼寝中には他の先生方が守っているから助かっているらしいが。
自分からあの研究室に赴くなど、自殺以外の何物でもないと思う。
スターク先生はふ、と笑いながら、私の反応に対し「なら次回以降はしっかり起きているんだな」と改めて釘を刺してきた。くそう。
「もうじき学院も閉まる。分かったのなら荷物をまとめて寮に戻れ」
「はーい…」
「伸ばすな」と訂正されたのを最後に、私はスターク先生の研究室を後にした。
レブトア先生の実験から逃れるためには、今後5年間、平日昼間に寝ることを許されないらしい。由々しき事態である。
はぁ、とため息を吐きながら荷物を取りに教室に戻る。
私以外誰も居ない教室で、かちゃり、とバッグを取る音だけが響いた。
(分かってはいるん…ですけどね)
このままじゃいけないことは。
放っておけば永遠にこのままだろうし、この体質の影響で退学にでもなってしまえば親に顔見せ出来ない。あの人とも。
と、知らず知らずのうちにネガティブ思考になっていたようだ。らしくもない思考を首を振ってかき消す。
(レブトア先生の力を借りるのは出来るだけ最終の最後の最後の手段としておきたいし…うーん、ノアにでも頼んで起こしてもらいましょうか。あとは…ちょっとした魔具を作っておきましょうかね)
多分そこまですれば何とか起きれるだろう。
うんうんと頷きながら、寮への帰り道を歩く。
ラムシアはイェムスタ魔導学院とはかなり距離が離れているので、私は学院管轄の寮にて生活をしている。
寮、といっても性質は集団アパートのようなもので、基本は自分で生活管理を行う。まぁ、人数確認のための朝点呼はあるが。
(今日の晩御飯は何にしましょうかねー?ハンバーグでも良いし、チキンソテーでも良いなぁ。あっ、ビーフシチューという手もありましたね)
ふんふーん♪と鼻歌を歌いながら今日の献立を考える。帰宅してからの晩御飯は楽しみの一つなのだ。
自分で食べたいものを自分で作れるのが自炊の最大のメリットだと思う。私は消化器官も優秀なので太らないし。
多方に喧嘩を売りながら、いつの間にかスキップに変わった足取りで、私は寮へ向かった。