頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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TOE メルディ

 

「………」

 

 

 丈夫そうな枝に乗り、辺りを警戒するのは弓で鍛えた視力を活かすシャドーだ。下の方では、共に狩りをするリッドが地上で警戒している。

 

 百発百中に近いシャドーの腕は村では評判だった。だが、彼の基本の仕事は農作業である。農家の六人兄弟の三男坊の彼は、身体能力が極めて高い。本業である農作は当然であるが、どこどこの牛が逃げたなどが家畜が脱走した時に、暴走する家畜をつかまえるのは彼が得意なことの一つだ。牛追い祭りや闘牛を見たことがあるのなら分かるが、足も早いし闘牛士を殺すほどの力強さは人間を凌駕する。それを素手で捕まえる。しかも傷つけずに。傷つけたなら、乳が出なくなってしまったり最悪それが元で死んでしまうなんてことが多い。そうしないよう上手くやる。彼は酪農家にとっても農家にとっても大事にされている。それを知っていても威張ることなく、のほほんとした穏やかな様子な暮らしぶりに、うちの農家の婿にとか、こちらの酪農家の婿にとかの話が結構ある。実際娘さん達も、彼の気性と時折見せる凛とした様子にまんざらでもないようだ。

 

 

「見つけた」

 

 

 その声とともに、静かに弓筒から一本の弓矢を取り出すと弦にかけるようにし構える。使用する弓はコンポジットボウ。ロングボウよりコンパクトでロングボウに匹敵できるほどの威力と速射に優れているものだ。射程も中々である。目は先を見たまま矢を引く。ただの農民では弓用に鍛えることのない背筋は、腕の動きとともに服の上からでも分かるほど大きく盛り上がる。

 

 狙いを定めた矢が三度射出すると同時に呼吸をする。弓は生きているかのように風を切るほどの速度で先を行く。その速度は速い。

 

 そして、リッドたちではない音が鳴る。

 

 絶命の声はない。出せなかったのだ。

 

 獲物の倒れた音で終わる。必中必殺であった。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 いつものシャドーの顔になる。先程は凛とした佇まいが、眉尻が下がって全体的に力が抜けたような、悪く言えば覇気のないような顔に戻る。

 

 

「リッド、獲れた。矢に赤い紐を巻きつけてあるよ」

 

「おう」

 

 

 糞や足跡、土に残る温度から獲物を探ったリッドはシャドーの声に応えると獲物の方に向かった。

 

 枝から飛び降りると、道具袋から近くにあった湖で取れた水を入れた水袋から水分を取った。何度やっても何度も起こる緊張から口の中の乾きと湧き出る汗を癒やす。

 

 深呼吸をその場で三度ほどするとリッドが戻ってくる。

 

 

「おかえり。ちゃんと獲れてたかな」

 

「俺がお前の腕を疑うわけ無いだろ。ほれ」

 

 

 そこそこ大きい兎が三匹がリッドに耳をつかまれだらんとしていた。これが彼らの獲物だった。

 

 

「久しぶりの肉だね」

 

「あぁ。美味そうだな」

 

 

 土の上に下ろして血抜きや毛皮剥ぎなど処理をしながら少し話す。彼らは狩りをしていたのだ。

 

 

 

 

「二人共とれたー?」

 

 

 リッドと共に他の三人のもとに戻るとファラが話しかけてきた。そして同時にシャドーに紫が突撃する。

 

 

「シャドー!!」

 

「ただいま、ファラ、メルディ、キール」

 

「ほれ。肉」

 

 

 クィッキーを頭に載せたメルディの突撃をなんともなく受け止めるシャドー。そのときにリッドのときと同じく虹色の光が起こるがいつものことなので皆気にしていない。リッドは大きめの葉に包んだ兎肉を料理番のファラに渡す。キールといえば、本とにらめっこ中である。

 

 

「メルディな、メルディなさんさい? とったよー!」

 

「ありがとうね」

 

 

 シャドーはメルディを抱えていない方の手で肩にかけていた弓を地面に置き、自身も近場の椅子にしている木に座る。

 

 

「ちょっと毒なのとわからなくてな。キール調べてるよ」

 

「そうなんだ。キール、大丈夫?」

 

 

 二つの籠の中でそんなに量が乗ってないほうが判別済みのものなのだろう。

 

 山菜といっても食べられるものと食べられないものが分かりやすいものと分かりにくいものが色々とある。しかも、玄人でないと判別しづらいものもあるのだ。キールは山菜の一つをとるとあらゆる角度を見ながら本と見比べている。にらめっこしていた本はどうやら図鑑のようだ。

 

 

「これは…、毒。いや、この部分があれと違うから…」

 

 

 集中しているのか、シャドーの声には答えなかった。

 

 

「メルディな、手伝う言ったけどキールいいって」

 

「じゃあ、俺とお話してようか」

 

「はいな!」

 

 

 キール的には邪魔にしかならないからそう言ったのだろうと察したシャドーは、キールの邪魔にならないよう少しトーンを落としてメルディと会話することにした。ファラは調理。リッドは料理ができるまで寝ることにしたらしい。

 

 

「今日のご飯、メルディは何になると思う?」

 

 

 そう尋ね、メルディは少し考え込む。この時間を作ることによって僅かな静寂をキールに与えているのだった。

 

 

「メルディ達とったさんさい、シャドー達がとったおにく…。あ、ファラな前買ったチーズ使い切りたい言ったよ!」

 

「うん。そうなんだ。じゃあ、なんだろうね?」

 

「う~ん…パスタ、か?」

 

「そういえば、ファラが調味料の代わりになるもの探すって言ってなかったっけ?」

 

「バイバ! そう、それな大変だったよー!」

 

 

 シャドーとメルディは隣同士で座っているため表情で相手がどう思っているかはだいたい分かる。けれど、メルディは身振り手振りでも自身の感情を激しく表していた。

 

 

「キール何度もな転んでたよ」

 

「そうだろうね」

 

 

 一応洗ったのだろう。だが、キールが身に着けている衣服は処々土汚れの跡が残っていた。

 

 

「メルディ、手繋ご言うたら『いらない!!』って怒る」

 

「それは!」

「きっとキールは自分の所為でメルディまで転んじゃうんじゃないかって心配して言ったんだよ。ね、キール?」

 

 

 聞こえていたのかキールは山菜と図鑑から顔を上げメルディに怒り声をぶつけようとするが、シャドーは慣れたように上手い言い訳を口に出す。

 

 

「そうなのか、キール?」 

 

「ぼ、僕は…。んん…」

 

「判別で知恵熱出ちゃったみたいだね。キール、代わるよ」

 

「あ、あぁ。頼んだシャドー。僕はこっちで学術書を読み直してるよ…」

 

 

 女の子に手を繋がれるのが恥ずかしかった。というのが真相である。だが、それがバレるのが嫌でキールは小難しく罵ってまたメルディを悲しませるところだった。そのことを察したシャドーの一手がなければ、ファラのかみなりがキールに落ちるところだったのだ。それに軽く頭を下げることで感謝の意をシャドーに見せると、メルディに見つめられたせいで赤くなった顔を本で隠しながらその場を離れた。

 

 

「メルディも手伝うよ!」

 

「うん、助かる。ありがとう、メルディ」

 

 

 山菜を手に取ると、毒か否かを逐一疑問を投げかける彼女に丁寧に解説しながら早々と分けた。

 

 

 キールはその様をみていじけた。

 

 

 

 

 

「あ~、美味かった~。ごちそうさん」

 

「ファラ、美味しかったよ~。ごちそうさま」

 

 

 リッドとメルディは同時にそう言う。メルディは服的に分からないが、リッドの腹は見えるので少し膨らんでいるのが分かる。

 

 

「お前たち、食べるのが早いんだよ。いいか、ちゃんと咀嚼しないと口の筋肉の老化になるし、食道や胃にも悪いんだぞ」

 

 

 キールはそんな二人に呆れながら講釈を長々垂れ流すが二人は聞いていない。そのことに気づかずまだ語っている。

 

 

「美味しいから早く食べたくなるんだよね。ご馳走様でした」

 

「ふふ、ありがとシャドー」

 

 

 シャドーの言葉に料理番のファラは笑って礼を言う。そんな彼女に柔らかくシャドーは返した。

 

 

「俺も少しは上手いかな? って思ってたけどファラには負けちゃうな」

 

「男の子に負けたらショックだよ。料理は女の子の必殺技だからね」

 

 

 自分の皿を置いてファラは自身の二の腕を叩く。

 

 

「シコーバクサイジンか?」

 

「メルディ、そいつは違うからな」

 

 

 メルディが必殺技という言葉に反応しファラの必殺技【獅吼爆砕陣】は料理だったのか、と解釈しだす。それをリッドが否定した。

 

 

「うふふ。似てるかもね」

 

「そうなのか?」

 

「おいおい、メルディが真に受けるからやめろって。シャドーもなんか言ってくれよ」

 

 

 ファラには悪ノリでなく少なからずマジが入っている。真に受けたメルディに調理させたらキールが泣くだろう。そんな彼はまだご飯を食べている途中である。諦めつつシャドーなら、といつものようにリッドは彼に投げる。

 

 

「確かに必殺技かもね」

「おまっ」

 

 リッドが焦るが、その心配は無用だ。

 

 

「料理は愛情。好きな人に振る舞うならこれ以上のない攻撃手段だ」

「ちょ、ちょっとシャドー!?」

 

 

 有耶無耶にすることに成功した。言った本人は相変わらずのほほんとした表情。ファラは慌てたようにしているが知ったこっちゃないのだろう。

 

 

「愛情って、もう! そんなオーバーなものじゃないよ!」

 

 

 何やら慌ててシャドーの背中をポカポカと叩くファラ。少し痛い。だが、そんな様は表情にすら出さずのほほんのままだ。

 

 

「ん? 仲間愛とか無かったの?」

 

「え? 仲間愛…?」

 

 

 慌て様も、その言葉で止まる。

 

 

「なーんだ。仲間愛か。うん、それならたっぷり入れたよ」

 

「あぁ、だからいつも美味しいんだね。ありがとう、ファラ」

 

 

 少し顔を赤らめたままファラはメルディと食器などの洗い物をしに湖まで行くことにした。それに慌ててキールはご飯を食べ終えたのだった。慌ててかき込んだため咀嚼も何もないし彼の食道にも胃にも良くなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

「料理は必殺技…。料理は愛情…」

 

「メルディ、もう許して…」

 

 

 メルディはブツブツ呟きながら、ファラが洗った食器と調理器具を拭いている。ファラは許してと泣き言を言いつつも洗う手を止めない。

 

 

「なぁ、ファラ」

 

「ん? なぁに?」

 

 

 最後の一個を洗いおえたファラは、それをメルディに渡す。

 

 

「仲間が愛であんなにおいしなら、好きな人が作ったらもっとおいしいか?」

 

「う、うん…。そうかもね」

 

「なんで、目逸らすか?」

 

「んと。こういうのは結構デリケートな話だからどうしようかな」

 

 

 最後は結構大きめの鍋なので拭くのに時間がかかる。

 

 

「メルディの好きな人ってどういう人なの?」

 

「みんな!」

 

「みんなって言うのじゃなくて…」

 

 

 ファラは少し悩んだようにして、何か思いつたように言う。

 

 

「メルディが好きな人はだぁれ?」

 

「みんなじゃなくてか?」

 

「うん。一人だけ。いっちばん、好きな人」

 

 

 メルディは今までで一番好きな人を思い浮かべるとその名を大きな声で言った。

 

 

「シャドー!」

 

「やっぱりそうなんだ」

 

「やっぱり?」

 

 

 首をかしげるメルディにファラはしきりに頷いている。

 

 

「最初は村の子供達みたいな《好き》だと思ってたけど、やっぱり違う《好き》なんだろうね」

 

「? 好きは好きだよ?」

 

「全然違うよ」

 

 

 ファラはメルディの持っていた鍋と布をとると手を持つ。

 

 

「《好き》ってね。たくさんあるの」

 

 

 不思議そうに自分の手をファラを見比べる。

 

 

「私の事好き?」

 

「うん」

 

 

 メルディの肯定とともに一つ指を曲げる。

 

 

「リッドの事は?」

 

「好き」

 

「キールは?」

 

「好きだよ」

 

 

 どんどん指を曲げていき、じゃあ、と言ってファラは続ける。

 

 

「シャドーは?」

 

「好き!」

 

 

 先程の三人よりも強い思いの入った《好き》だった。

 

 

「リッドとキールよりも?」

 

「リッドもキールも好きだよ?」

 

「ううんと、ね。そうだけど、違うの。リッドとキールの《好き》はシャドーの《好き》と同じ?」

 

 

 メルディは首を振った。

 

 

「それがね。メルディにとって特別な《好き》なんだよ」

 

「特別な…《好き》」

 

 

 そんな年頃の少女らしい会話をしているとがさりと林の方で音がした。

 

 

「二人共遅いけど、どうしたの?」

 

 

 音の正体はシャドーだった。それに自覚したメルディは バイバ! と叫んでファラの後ろに隠れた。

 

 

「ん? メルディはどうしたの?」

 

「ふふふ。わたしからは何も言えないな」

 

「?」

 

 

 ファラの楽しそうな様子にハテナを飛ばすも二人のそばに近寄っていくシャドー。

 

 

「持ってくよ」

 

 

 拭いた後汚れないように拭いた布とは別の布に包まれている食器たちを指して言う。

 

 

「わたしが持ってくからいいよ。シャドーはメルディと」

 

 

 村の女の子たちも可愛らしい妹分のために人肌脱ぐことにした。

 

 

「夜のデートしてきて?」

 

「ファラ!?」

 

 

 背中にいるメルディはファラに 無理だよぅ と泣きつくが、ファラは笑顔で 大丈夫 といつもの身のこなしでメルディと前後を入れ替えてしまった。

 

 

「じゃあ、シャドーよろしくね」

 

「あぁ、わかった」

 

 

 なんともあっさりと決まり、あっさりと決行される夜のデート。

 

 

「ファラぁ…」

 

「ゆっくり帰っておいでね~」

 

「ファラ、気をつけて戻ってね」

 

 

 ファラは割りと大荷物なのに軽々と持って林の中へ消えていく。残されたのは二人。しがない農夫と異国の少女。

 

 

「メルディ」

 

「な、なに?」

 

 

 何故か緊張しているメルディに疑問符を浮かべるも、いつもののほほんとした様子で歩き出す。それに何歩か遅れてメルディもついて行った。

 

 

 

 

「メルディ、寒くない? 平気?」

 

「うん」

 

 

 意識してしまってぎこちないメルディ。そんな彼女の様子を村で暮らしていた頃の既視感が出て来る。村のお年頃になった子どもがなっているモノとよく似ていたのだ。

 

 

「今日のご飯も美味しかったね」

 

「うん」

 

「でも、ちょっと問題があってね」

 

「ん?」

 

 

 急に立ち止まりシャドーはメルディの方を振り向く。それに慌ててメルディも後ろを向く。

 

 

「スナオニナッチャウ草を間違って食べてしまってね。もう大変なんだ」

 

「スナオニナッチャウ草? ………ど、毒草なのか!? バイバ! ど、どうしようぅ?」

 

「あぁ、毒草だけど、ちゃんと解毒法があるから大丈夫なんだよ」

 

「しんじゃわないか? シャドー死なないか? ほんと死なないか?」

 

 

 さっきの様子は何処にいったのかメルディはシャドーに駆け寄り必死な様子である。シャドーはその様子に嘘をついたことをバレなかったことに安堵しつつも少しだけ罪悪感を感じた。それも自覚なしに。

 

 六人兄弟ということで、上には上の対応を下には下の対応をといろいろ慣れてはいるし、ファラの猪突猛進感もリッド同様慣れているという面倒見がいい性格なシャドー。昔から幼い子の面倒を見てきたし、親の言いつけも仕事も文句の一つも言わず守ってきた。ストレスが溜まると言えば溜まる。だが、そんなものは農村と近場に広く身体を動かせることもあってそんなには溜まらない。闘争心などはいつからかないように見せかける事ができていた。

 

 見る騒動は好き、だが自分が入るようなものは苦手であることはあまり知られていない。何故か? 対応と対処をどうすればいいかわからないから。リッドを始め、ファラとキールといった幼馴染の中でも常に監督者、もしくは保護者方面で見守ってきた。激しい感情の動きを見せるには彼らが幼い、そしてシャドーの精神年齢が当時から高かった。だからといって、成熟した大人というよりも達観した大人といった感じのものだ。それでも力も知恵も村の大人に近い程度であの災厄は防げなかったけれど。

 

 シャドーという男の視界は広いようで狭い。それはリッドの“平穏を好む”を越え“平穏であれば後は何もいらない”というものだ。あの災厄からその傾向は強くなり、なるべく何も起こることがないように自身で調整してきた。まぁ、トラブルメーカーのファラによってどんちゃかどんちゃかと賑やかではあったけれど。それを煩わしいと思ったことはない、ただ少し疲れた。

 怒るわけでもなく、駄々をこねるわけでもなく諭す。又は別方向へ流す。そういうやり方が自身に馴染んでいたし、疲れなかった。村の人達が自身をどう評価しようがしまいが、気にすることはない。自身が疲れなければいい。疲れることが嫌いというわけではない。労働の後のご飯は美味しいし、お風呂も好きだ。だが、シャドーの“疲れ”はそういう疲れというのではない。言葉にするのは難しいが、農作業などの疲れはすぐに成果として見れる“疲れ”はあまりきにならない。シャドーの厭う疲れは泥のようにぐちゃっとして滑るもの。具体的に言えば、自分で予測のできないことがダメだった。

 

 今のように好きな子相手に好意を伝えるにはどうすればいいのか、どう反応されるかよくわからないことが駄目だった。

 

 

「うん。解毒すれば大丈夫」

 

「ほんとか? どうすればいいか?」

 

 

 この反応をすれば、こう返される。数学の問題のように解答法と解答がちゃんと存在しているのが疲れないから、それを続けてきた。計算高い子どもで、レールを外れるのが苦手な子だった。ズレるとどうすればいいか分からないわけではないが、疲れるから好きではない。

 

 だが、メルディに対する疲れは成果としてまだ見えないというのに、どちらかと言えば予測できないダメな方だというのに”いいなぁ”と感じるものだ。確かに疲れはする。心地よくない疲れも時にする。そんな時にメルディが笑うと何故かその疲れが癒えてしまうような錯覚が起こる。不思議に思いつつも、あまり考えない。だって疲れてしまうから。

 

 

「俺の言葉をただ聞いててくれればいいよ」

 

「? 聞くだけでいいのか?」

 

「うん」

 

 

 リッドよりも幾分大きいシャドーとファラよりも小さいメルディとではかなり身長差がある。今はくっついているからよりそれが顕著に分かってしまう。だから、どうしようもなく、柄にもなく、疲れるというのに、ドキドキした。

 

 

「空を見ていると人と恋をしたくなる。俺の好きな詩の一部だ」

 

 

 晴れたら農作業、雨の日は読書。晴耕雨読。そのときよく読むのが詩だった。小説は感性的に合わないし、学術書は頭が痛くなる。詩ならば、なんとなく感じ入るものがあるから疲れなかった。

 

 

「人と恋をすると変わる。それはなんと素敵なことでしょう」

 

 

 疲れる。

 

 

「素敵なことは変わるでしょうか? 変わるのです」

 

 

 疲れる。

 

 

「より素敵なことに変わるのです。 それはなんでしょうか?」

 

 

 あぁ、疲れる。

 

 

「恋は愛になるのです」

 

 

 とても疲れる。

 

 

「空に恋をしたような錯覚をし、人を愛したと思いこんだと感じるでしょう。それでいいのです」

 

 

 でも、嫌いではない

 

 

「だって、アナタが目の前で私がヴェールをあげるのを待ってくれているのですから」

 

 

 どうしようもなく疲れる。普段は下がってる眉尻は力が入って上向きだろう。なるべく威圧しないように緩めている口角は言葉を出すにつれて固くなっているだろう。

 

 

「もう、だいじょうぶか?」

 

「あとちょっとかな」

 

 

 疲れは明日にまで響くだろう。だが、メルディが自身の声と言葉に何かを感じていることが分かり、少しそれも薄れたような気がした。

 

 

「メルディを愛せる俺は幸せなのです」

 

 

 目を大きく見開き、呼吸を止めたメルディに跪いて、より近くに見える彼女を見つめる。

 

 

「愛してる、メルディ」

 

 

 一つピチョンと水が跳ねて波紋を作った。

 

 

 

 

「あ、え、っとな」

 

 

 メルディは困ったようにしつつも、困ってないようにみえる。その推察は正しい。疲れることをしてよかったと感じる。

 

 

「ウ ルイヌン ヤイオ…」

 

「ん?」

 

 

 ぽつりとこぼしたのはメルニクス語。少々勉強してみたシャドーは意味を解釈するのに時間が必要だった。

 

 

「ウ ルイヌン シャドー」

 

 

 その時間は要らなかったのだろう。満面の笑みをたたえるメルディがいるのだから。

 

 

「毒、抜けたか?」

 

「あぁ」

 

「実はな、メルディな」

 

 

 シャドーの手を取り、遠慮がちに言う。

 

 

「スナオニナッチャウ草、メルディも食べちゃったみたいだよ。解毒するから聞いてくれな?」

 

 

 たくさんの、たくさんの素直な自分と自分を見せるメルディ。全てがメルニクス語で意味はよく分からない。でも思っていることはなんとなく分かる。村の女の子と同じような顔をしているから。彼女らより、とても好きだと思う顔。好きだと感じるたびに胸が弾むのが分かる。嬉しい嬉しいとはしゃぐ自分。

 

 疲れる。でも好きな疲れだ。

 

 

「シャドー…」

 

 

 女の子が女性に変わる瞬間を見た。

 

 

「ウ ルイヌン メルディ ていってほしいよ」

 

 

 どうしようもなく魅力的で、好きでたまらなくなる。

 

 

「ウ ルイヌン メルディ」

 

「ワイール…」

 

 

 いつもとテンションと違う言葉に万感の思いが込められているのが分かった。

 

 何故なら。

 

 

「意味、頑張って覚えてな。一度しか言わないよ?」

 

「うん。絶対覚えるよメルディ」

 

「意味はね…。――――――(だいすきだよ)

 

 

 そう恥ずかしそうに告白するのだから。




主人公設定

シャドー

・インフェリアのラシュアン村に住む少年でリッド、ファラ、キールとは古くからの幼馴染
・村で農作業をしているため身体能力が極めて高い
・弓術もリッドとの狩りで会得した物
リッドと同じく「フィブリル」と呼ばれる「真の極光術」の素質を秘めている

・人種:インフェリア人
・一人称:俺
・年齢:18歳
・性格:リッドと同じ常識人
・武器:弓


・メルディと出会いリッドと同様にファラに連れられる感じで旅に出る


以上がリクエストしてくださったシャドー様ご考案の設定です

どれぐらいのヒロイン数がいい

  • 一人
  • 二人ぐらい
  • ハーレム
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