頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

29 / 37
TOIR アンジュ・セレーナ

 この野営は黎明の塔へ行くために、イリアの故郷サニア村から魂の巡礼路カルディアに向かっている途中の休憩である。魂の巡礼路カルディアに入ったなら、それ以降はノンストップで突っ切りマティウスと決着をつけ創世力を奪還しに行くのだ。皆、覚悟はできているのものの体力をそこまで最大限に保持できるかといえば難しい。

 

 前世に覚醒したばかりのルカは、前世のようにと気張りおぼつかない戦闘技術であったが今は立派にパーティーのリーダーを戦闘面だけでなく基本的な主力として在る。彼だけではない。イリアも親から譲り受けた銃を的に上手く当てるだけでなく、急所を打ち抜くまでになった。スパーダやシャドー、リカルドは元々鍛えていたが、それでもそれぞれが出会った当初より技術も力も増し、パーティーで戦うことに必要なチームワークなど比べ物にならない。アンジュは、少しぷにっとしていた二の腕が引き締まったと喜んでいる。エルは貧しい環境で幼い子供たちと共に生き抜く為に鍛えた身軽さをさらに上のものへ。コンウェイはラーニングで多種多様な術を覚え、異界でだけでなくその強さを発揮している。パーティー加入が遅かったキュキュは、元来何かしら訓練を受けていたのもあるのかパーティー内で彼女に並ぶ戦うことの巧さを真似できるものはいない。

 

 戦いには勝者がいれば敗者がいる。敗者は命を獲られるのが当たり前だが、勝者もただで済むわけではない。軽い怪我だけで済めばいいが、痛み分け、瀕死の重傷を負う場合がある。具体的に言えば、誰かが欠けてしまうということ。遅かれ早かれ、生き物は死ぬ。寿命であればいいが、病気であったり怪我だったり。実際、ハスタによってルカは生死を彷徨った。けれど、誰一人欠けずにここまで来た。途中離脱はあったものの、全員が自分たちの絆は嘘ではない、絆は確かにあって誰にも千切らせはしないと、言葉にもせず確信してきたからだ。悲しい前世の記憶に引きずられ、解けかけたこともあった。それでも、絆は解けかけたときよりも強固になり、たとえバルカンが鍛えた武具であろうとも武具の方が折れるほどのものとなった。

 

 彼らに敵はないといっていい。

 

 個のままでいるより群れとなったほうがいいのだ。消費は個のときよりも多くなるだろうが、生産も多くなる。効率が上がれば消費より生産が上回る。個だけで完結できていたならば、原始の巨人は神々と大地など作らない。始まりからして、個だけでは完結できない。手を取り合い生きる。それのなんとすばらしいことか。一人っきりではない、誰かがいるという安心は何よりも代えがたいものなのだ。

 

 世界を終わらせる。それを為せる創世力の行使を阻止する。それが彼らの目的だ。

 

 明日を生きるのを許されないなど、あってはいけない。転生者もそうでないものも、それが当たり前のように決まっているべきものだ。

 

 生きるのに理由はいらない。だが、持ってはいけないなど言っていない。それが、他者を害するものならば捨てるべきだが。自分だけ、という自己中心的ではいけないのだ。前世の時代からして、独りよがりが過ぎた。生きていくために何も犠牲にしてはいけないとは言わない。そんな綺麗事が罷り通っているならば、「ラティオ」も「センサス」もなかった。いや、そう別れる前の悪しき神々すら生まれなかったはずだ。繋ぐための手を握りこぶしに変えたのは誰かなど尋ねる気はない。誰かと見つけても他の誰かがやる可能性は必ずある。原初の巨人は、一を増やしたわけではないのだから。一、二、三…と別々のを増やしていったのだ。姿形やら似る場合がっても、同個体はありえない。アンジュの考察では、寂しかったから原初の巨人は神々を作ったのだから。自分がもう一人いても、自分でしかない。そう認識できているならいいが、いつしかアイデンティティクライシスを起こして発狂するだろう。自分と同じという共感は、自分とは別だからそうなるのだし、[安心]に落ち着くのだ。自分同士なら考えなどが同じなんてことは当たり前だ。少しでも違えばそれは他者だ。

 

 [違う]というのは[同じ]と同等であるようで、前者の方が必要だ。自分と[違う]ことで、他者と自分の[同じ]をみつけようとするから。自分とまったく[同じ]だったら、そういう《興味》は湧かない。だって、分かってしまっているから。[違う]ことが不思議に思い、解明しようとする。それを誰しも自然とできるようになるのだ。それも度が過ぎれば攻撃に転化する場合もあるが。

 

 マティウスはシアンの言葉通りなら、確かに悲しい生まれだ。血がにじむほどの努力もしただろう。それでも、実を結ぶことはなく彼女は全てを諦め世界を無に帰すことを為そうとしている。

 

 騙していたとはいえシアンは純粋にマティウスを慕っていた、他の彼女の信者にも少なからずそう言う人物はいただろう。彼らが自分たちはマティウスが必要だといっているのだ。その声にこたえるのがいいのだろう。

 

 崇めるのではなく、盲信するのではなく。隣に並んで、手を掴んでくれる誰かがいたなら、彼女は止まれたのではないだろうか。

 

 そんなIFを考えたところでどうしようもない。投げかけても、彼女の意思は変えられないだろう。

 

 彼女の生き先は、こうなるものなのだ。

 

 コンウェイやキュキュの知ってる無垢なる絆の世界でのマティウスの結末は、こうなるものなのだから。

 

 原作に作者でない誰かが手を加えてしまったら、もうそれは原作とは呼べない。原作であった物語は死んでしまう。殺しなのだ、酷い言い方をすればそれは。

 

 結末を知っている彼らは筋書きを変える人物ではない。いつまでも傍観者だ。ペンを折らせないよう慎重にその物語を読んで行っている。

 

 

 結末は、得てして誰かにとってはハッピーエンドで、また他の誰かにとってはバッドエンド。

 

 そう、なんであってもそう決まっているのだから。

 

 

 

「ふんっ!!! ガリ勉ルカちゃまにはそれがお似合いよ!!」

 

 

 そのイリアの不機嫌そうな声が聞こえるや否や、彼女は肩を怒らせてルカとは反対方向にのっしのしと大またで歩いていった。

 

 

「なんでこうなるの…」

 

 

 いつものように涙目でイリアに勢い良く投げつけられた度の入っていないだろうおもちゃのビン底めがねを持ちつつ落ち込む。それを見た、彼のダチの一人であるスパーダが慰めるのかと声をかける。

 

 

「なんだよ、ルカ。イリアといい感じだったのによ」

 

「ぐすっ…。校長になるために勉強教えてっていったのはイリアなのに」

 

「なんだ。オレは、イリアに保健体育の勉強教えてるとばっかり」

 

「え? それを教えると何でイリアが怒るの?」

 

「へへ、そりゃおめぇ」

 

「スパーダ、ストップ」

 

 

 と、スケベ貴族が命に関する極めて重要な勉学を、己のエロ知識を披露するだけの、いわゆる下ネタトークをやらかそうしたとき彼らの元にシャドーが話に割り込んできた。

 

 

「なんだよ、シャドー」

 

「ルカがそっち方面に行くと、イリアと上手くいかなくなるぞ」

 

「あ~、確かに」

 

「え? なに? なんなの?」

 

「あー…。まぁ、気にすんなよ。すぐ、イリアの機嫌良くなるだろうぜ」

 

「あぁ、念のためアンジュがイリアを宥めに行ったからな」

 

「うん。ありがとう、二人とも」

 

 

 少し納得はいかないものの、スパーダよりシャドーの言に力強さを感じ納得することにした。そういえば、シャドーから甘い匂いがする。

 

 

「そういえばよ、シャドー。お前、いい匂いすんじゃんか」

 

「バレたか。疲れた脳には甘いもの。あっちにスイーツを用意しといた」

 

「おっ! ショートケーキあるか?」

 

「それは次までお預けだな。即席のかまどじゃ流石にスポンジケーキが綺麗に焼けんよ」

 

「そうかー…。しょうがねぇ、我慢すっか。行こうぜ、ルカ」

 

「うん」

 

「おい、ルカ」

 

 

 スパーダとともに行こうとしたルカを呼び止めた。スパーダは先に行くぞと声をかけ、一足先にスイーツを堪能しに行った。

 

 

「イリアの愚痴は聞くだけでいい。反論も説教も何もしなくていいんだ。ただ相槌打ちながら聞いとけ」

 

「なんで?」

 

「女性の愚痴は解決法を知りたいんじゃなく、共感を得たいのがほとんどだからだ。…次は上手くやれよ」

 

「なるほど、流石シャドーだね。イリアの扱い方が分かるなんてすごいな」

 

「うーむ、それだと猛獣使いみたいに聞こえるな…。まぁ、いい。エルが全部食べないうちに行った方がいいぞ」

 

 

 シャドーは、[猛獣使い?]の称号を得た。

 

 

 ルカはいつも背負っている大剣を下ろしているので、早足がそのときよりも早い。その後姿を見送る。

 

 アンジュとイリアを除いたメンバーはシャドーお手製プリンアラモードを食べていた。キュキュはつたない言葉でシャドーに失敗しない作り方を尋ね、おかわりをねだるお子様ズと、食いしん坊の女性のために作りつつシャドーは丁寧に彼女に教える。エルとコーダが四個目のプリンアラモードをほお張る頃、イリアとアンジュが皆が集まっているところにやってきた。ルカの近くに行くとイリアは気まずそうに不機嫌な顔をしたものの、アンジュに名前を呼ばれるとしゅんとしてルカに謝った。その様子にルカも何故か謝り、二人の仲が戻ったのだ。そして、食い意地の張っている二人は皆が先にスイーツを食べていることに気づくとシャドーにスペシャルなプリンアラモードを要求する。他の男性陣ならば困り顔で急いで作るといって取り掛かるが、すでにシャドーはそれを用意していた。勿論、二人は満足するできのものだ。

 甘ければいいだろういう、お高いスイーツを“これに、こんなに値段が高いなんてばかげてる”という思考をする人は到底スイーツの最奥に辿り着けない。味のバランスは勿論のこと、見た目のバランス、彩り、香り、などなど、スイーツを愛する人、否、スイーツがこの世の真理とも悟れる、大体の乙女パーツ(いぶくろ)を持つ女性がそれらが黄金率に出来上がったそれを、目で楽しみ、鼻で味わい、それから専用の食器で口に入れ、歯で優しく噛み締め、その最中に耳に残る確かな咀嚼音を歌わせ、舌の味蕾一つ一つで甘さなどの味を真摯に味わい、ゆっくりと喉で愛でる。最後には嚥下し胃に納める。胃に納めてもまだ終わらない。もったないと小さく味わっても、欲張って大きく味わったとしても胃には必ず味わったそれらが納まる。胃に何か入ることで胃が膨らみ、胃酸の分泌を促進し、消化活動を活性化させる。胃酸で溶け行くスイーツは喉を通り、鼻や口内で『美味だった』と十二分に感じさせる。そして左脳や右脳といった分類だけでなく、大脳、間脳、中脳、後脳、小脳、延髄といった全ての脳の領域が『美味だった』と感じたようになるのだ。心は波長を大きく揺らす、けれども振り切りかけてはゆっくり治まる。嵐の前の海は静かだ。嵐の後の海は穏やかだ。前触れと結末。始まって終わる。嵐のように荒々しく強い感情の波である。それが、皿から至高の芸術(シーツ)が無くなるまで続く。

 

 おかわりしたら、もう一回楽しめるドン!

 

 つまり、スイーツは神。

 

 彼らの前世(コンウェイ、キュキュを除く)は神であっても、それは揺らがないだろう。

 

 

 

 

「ふーっ、美味しかった!」

 

 

 満面の笑みで、パーティーメンバーで一番多くスイーツを食べきったアンジュが皿にスプーンを入れる。

 

 

「本当に美味しかった。ありがとう、シャドーくん」

 

「いえいえ、あんな美味そうに食べてもらえてスイーツも俺も嬉しい限り」

 

「ふふ、そう?」

 

「あぁ、おかげで俺は食べてないのに胸いっぱいだ」

 

 

 それは胸焼けでは?

 

 他のメンバー、食い意地が張った面子もアンジュほど食べなかった。デコレーションや甘さの加減など色々と飽きがこないよう工夫されていたものの、流石に苦しくなったようだ。アンジュが凄まじい乙女パーツの持ち主であったゆえの食いっぷりだろう。

 

 

「アンジュねーちゃん、あれだけ食べたら体重が」

「バカ! エル、あんた口を塞ぎなさい!!」

 

「エ~ル~?」

 

 

 言ってはならないことを口にするエルの口をイリアが塞いでももう遅い。どにょりと暗めな声でエルを呼ぶアンジュの目は据わっている。

 

 

「カロリーは控えめになるよう豆腐を使ったのだから」

 

「ですって」

 

 

 シャドーが助け舟を出す。これで人の道を説く時間を少しは減らせるだろう。にっこりとそう口に出すアンジュに他の面子は少々不安定になる。

 

 

「十も食って大丈夫なのかよ」

 

「彼女、生クリームマシマシが」

 

「シロップもふんだんに使っていたしな」

 

「チョコも結構…」

 

 

 スパーダとコンウェイ、リカルド、ルカがこそこそと男性陣だけで話すが、アンジュの耳に入ってしまった。

 

 

「あぁ、あぁぁあ…」

 

 

 そこへ、キュキュとコーダの声が襲い掛かる。

 

 

「アンジュ、ぽっちゃりなる?」

 

「むふー、おいしいとカロリーはひれいするんだなー、しかし」

 

 

 崩れ落ちた。

 

 

「わぁぁあ! アンジュー!!」

 

「ちょ、キュキュ!! あんた、それは…」

 

「こいつにこんなこと教えたのは誰だよ」

 

「すまない、僕の落ち度だ」

 

「コンウェイのおっちゃんも失態するんやなー」

 

 

 そう騒ぐ中、リカルドは製作者に救ってあげてくれと目で合図した。

 

 

 

 製作者は、にこやかに首を横に振った。

 

 

 生きるとは残酷なものなのだ。

 

 生きるのに生まれたときから重りをつけていることに誰も気づかない。外すことはできないし、許されない。生きることは罪であって、そうではないのだ。生まれることで、次々命を食らって生きて行く咎を背負う。けれども、成長していきやがては老いて死ぬ。罪を償いながら生きて、償いきれず死んでいく。そして、それは次の世代へと連綿と続いて行く。重りは軽くはならず重くなり続ける。重すぎて動けなくなったとき、それは諦めるときなのだろう。見ないように、感じないように、考えないようにした、その重りは自分の所為であり続け、自分の為に重くなってきたのだろうと。

 

 ゆえに。

 

 

「この世にある体重計ぜんぶこわしてやるぅぅううう~!!!」

 

 

 カロリー()からは逃れることなど不可能であるのだ。

 

 

 

「うぅぅ、食べた分はやく無くなってー…」

 

 

 少しでも食べた分のカロリーを減らすためにシャドーと共に皿を洗うアンジュ。実際の体重を見れば、身長の同じ平均の女性に比べると軽いほうなのだが体質によって脂肪がつきやすかったり筋肉がつきやすかったりする人もいるので一概に、この人は健康体とは言い切れない。BMIだけでは筋肉量は測れないのだし。

 

 

「すぐなんとかなるさ」

 

「ほんとぅに~?」

 

「だって、あの塔登るんだぞ?」

 

 

 サニア村からも黎明の塔は見えていたが、こうして近場で塔付近にいればその大きさがよく分かる。登るだけでなく、きっと王都軍や信者らとも戦うことになるだろう。最後にはマティウスとの決着もある。なるほど、脂肪一キロを消費するのに七千カロリーほど消費しなければならないが、これは痩せるだろう。プラスがマイナスになるかはしらん。

 

 

「あー、あんなに食べなければよかったー…」

 

「いやはや、いい食べっぷりだったな」

 

「もぅ、シャドーくん? 女の子にそれは褒め言葉じゃないわよ?」

 

「おっと、これはご無礼を。騎士の嗜みである女性の扱いを間違えてしまった」

 

「そうよ。シャドーくんは騎士様なんだから、ちゃんとしないと」

 

 

 シャドー・マフィルスは王都レグヌムの名門騎士の息子で、父親との不和から家にろくに帰らない少年だ。家のほうは、自分と双子の兄が生まれるまで女しかいなかった。女性が基本的に騎士になるという選択をする家ではなかった。そのため、マフィルス家の女性はどこぞに嫁ぐしかない。その嫁ぎ先は彼女らの容姿の良さの故か基本的に貴族である。それが拙かった。貴族に嫁ぐのは儲かるのだ。家の格も上がる。味を占めたシャドーらの父親はシャドーを貴族の家に婿入りさせる予定だったのだ。双子の兄は、転生者ではないし剣の実力もシャドーに比べたらいまひとつだが、騎士として総合力で見れば兄の方が上だった。その為、同じ顔のシャドーは貴族の学校に入れられ、すでに何人かの貴族の女性に目をかけられている。幼い頃、スパーダと会っているしシャドーの姉が彼の兄に輿入れもしている。が、スパーダもシャドーも当初は互いに意気投合もなかった。当時から、跳ね返っていたスパーダに、そのときは表面上、父の命に従っていたシャドーは道端に落ちているホットドックの紙くずのような認識しかしていなかった。互いに、スパーダはデュランダルの記憶、シャドーはアロンダイトの記憶からお互いを避けていたのかもしれないが。

 ともかく、シャドーは父親の方針がずっと気に食わなかったのが堪忍袋の尾が切れ、スパーダ同様放蕩息子をしている。貴族のようになれと、貴族の学校で真面目なふりをして学んでいたため、『え? スパーダ? 不良でしょ?』 と誰もが言う中、同じ不良のようなシャドーの所作には下品な点が見えない。本人は意識して崩そうとしたが、見た目がクールな王子様然としているので崩さない方が様になっている。普段の立ち振る舞いも、食事作法も、ハルトマンの前ではお行儀良くする貴族ベルフォルマ家のお坊ちゃまスパーダ様にも褒められている。

 

 

「お嬢様、ハンカチをどうぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 皿を洗い終わり、布巾で拭う作業を終えたアンジュにハンカチを渡す。それは上物であることが肌触りから分かる。

 

 

「洗って返すね」

 

「ありがとう」

 

 

 構わないだとか、いいよと断らずただ感謝で返す。どっちの言葉にしろ、ふつうの女の子ならば誰かからハンカチを借りたならこう言うし、感謝の言葉を返されただけの方が助かる。手を拭いただけとはいえ汚したということは、なんだか恥ずかしいから。とくに、その持ち主が異性ならなおさら恥ずかしい。

 

 

「美味しいもの食べたし、今日は良い夢見れそう」

 

「それはよかった。美味しいものは心を満たすというしな」

 

「ふふ、そうね。美味しいは素敵よね」

 

「あぁ」

 

 

 ふふと互いに笑いあって、同時になんとなく黙ってしまう。

 

 

 正直言えば、アンジュにとってシャドーは《食えない子》という認識だ。クールな性格だが、面倒見が良かったり、思ったことを言葉にしたり、言葉や行動の一つ一つが大人の雰囲気を漂わせている。彼女の護衛であるリカルドとも気が合い、パーティーメンバーの保護者として、アンジュとリカルドと共にルカ達の面倒を見ている。

 

 他の未成年組であるルカやイリア、スパーダ、エル達のような“子供らしさ”が演技の中だけでしかない。一緒になって彼らと騒いでいても、ちゃんと保護者をしているのだ。リカルドは同性な為に気を許せるのだろう。コンウェイも同じく。キュキュもコンウェイ同様になんだかんだ謎が多いが、本人が上手く周りに溶け込むように動いているため違和感が少ない。

 

 

「ねぇ、シャドーくん」

 

「ん? どうした、アンジュ」

 

 

 スパーダのように格好つけるでもなく、リカルドのように一歩引いた感じでもない。“ちゃんと見る”。それが、シャドー・マフィルスだ。

 

 アンジュは聖女と崇められる前から、司祭として数多くの人を見ている。観察眼が鍛えられ、この人にはこう対処しようと、自然に思考し動く。綺麗なこともあれば、どこかに行って欲しいくらいのこともある。それでも、司祭という職種についているため、隔てなく対応してきた。きっと、それはシャドーも同じだろう。だからか、少々二人きりのこの状況から逃げたくなっていた。

 

 

「シャドーくんは前世のことどう思う?」

 

「そうだな…」

 

 

  これで、いきなりおやすみというのも空気が読めないだろうと考え、アンジュはなんとはなしに質問をする。

 

 シャドーの前世は、天上一の鍛冶師バルカンにより鍛えられた名刀の一つであるアロンダイト。主であるアスラに忠実で義に厚い性格で、デュランダルと共にアスラの天上界統一の戦いを支え、アスラからの信頼も厚かった。けれども、そのアスラがイナンナとデュランダルの裏切りで命を落とす前に自身を使い、裏切り者のデュランダルとイナンナを葬り、その時生じた強い力の波動にアスラ達と共に巻き込まれ消滅する。

 

 ここまでのことは聞いた。アンジュの前世であるオリフィエルと話しもしていたこともあるし、アロンダイトの来世であるシャドー本人も知っている。

 

 

 『本来は、戦争で使われることを想定して造られたというより、バルカンが如何に美しい刀を作れるか、という挑戦で造られたからな』

 

 

 そう、ある日語ったこともある。

 

 前世の記憶に見えたのは、ラティオの民、元老院の連中までもが、アロンダイトを使うことに忌避していた。最終的には彼はアスラの元に行き、アスラに使われたのだが。

 

 

「オリフィエルに連れて行かれたのは、正直驚いたかな」

 

「あはは、一種の献上品として送ろうと思ったらしいのよね」

 

 

 己の命だけでは足りないだろうと、オリフィエルはアスラと初めてあったときに共に大切に飾られていたアロンダイトを、巧みに元老院を言いくるめ持ち出している。オリフィエルは自分の弟子である天空神ヒンメルを救出するためなら何でもしたかったのだ。オリフィエルの覚悟も、献上品として賜れたアロンダイトも気に入ったアスラは彼を気に入り己の傘下に加えている。前世の結末は悲しいものであったけれど。

 

 

「デュランダルのように武器として使われるのも、ただ飾られているのもどうかと思っていたよ、彼は」

 

「そうなの。後者はそう思うのも無理はないけど、前者はどうして?」

 

「アロンダイトは存在することが嫌だっただろうな。『力とは、矛であり盾でございます。でも、持たなくて良いではありませんか』 …この言葉分かるか?」

 

「うーん。戦うこともできるし、守ることもできる。でも、そうすることは結局争うということ。それは忌むべきこと、ということかしら」

 

「そうだろうな。アロンダイトは最期までその考えだったんだ。アスラがイナンナとデュランダルの裏切りで命を落とす前に自身を使い、裏切り者のデュランダルとイナンナを葬り、その時生じた強い力の波動にアスラ達と共に巻き込まれ消滅するそのときも」

 

 

 シャドーは少し身じろぎをして体勢を変えた。それにアンジュもあわせて彼女も体勢を変えた。

 

 

「その時のアスラの『すまない』という巻き込んだ罪悪感からの謝罪の言葉を聞き、彼自身はこのような悲しい結末になってしまった事を悔やんでいたよ。前世を思い出したとき、初めて感じた感情はどうしようもない悔しさだった。」

 

「そうなんだ。今もそう思う?」

 

「前世のしこりはもうないのは皆そうだろ? ルカもイリアもスパーダも、エルもリカルドも。アンジュも。 …そうだろ?」

 

 

 少し恐る恐るなふりをして聞いてくるのでおかしくなる。ふりももっと巧くできるはずなのに、なんで少し下手にするのか。これが、彼の子供らしさだろうと思いアンジュは微笑む。

 

 

「そうね。アロンダイトを運ぶとき大変だったわ。刀身もそうだけど、鞘まで芸術的で指紋残したらどうしようとオリフィエルはあせっていたのよ」

 

「それはすまなんだ。 …うん? 俺が謝るべきじゃないな。するのは、そう造ったバルカンだ」

 

「ふふふ。そうね。バルカンはオリフィエルに武器を作ってくれなかったし、謝ってもらいましょうか」

 

 

  少しの間、こぼれる温かな笑声。そうしている間に、いつの間にか距離が縮められていることにアンジュはやっと気がついた。

 

 

「………」

 

 

 いきなり距離をとるのはマズイだろうと思考する。別にシャドーが嫌いなわけではない。顔も良いし、性格も好ましい。だが、なんとなく困るものがある。そう、難しい感情だ。

 

 

「ん?」

 

 

 近づいてきた本人は、いつものクールな王子様然で軽く首をかしげている。暗い中、洗い物をするのは大変だということで、カンテラを持ってきているので、暗がりでその明かりの所為か少々怪しい雰囲気の少年に見える。

 

 

「えっと…」

 

 

 他のお子様面子と同じ対応は合わない、かといってリカルドのような護衛と雇い主の関係も合わない。らしくなく、テンパってしまう。なんとか頭を働かせ、自分の方が年上なのに落ち着かない自分を落ち着かせようとアンジュは頑張る。

 

 それをさせないようにか、シャドーは声をかける。

 

 

「アンジュ」

 

 

 ゆったりとしたその声に顔が赤くなる。

 

 ただ名前を呼ばれただけだ。それだけなのに、こんなにも恥ずかしくなるのは何故だ。思わず逃げようと視線だけを動かそうとするが、シャドーのアメジスト色の瞳に吸い込まれていく。

 

 本当にスパーダと同い年なのかと疑ってしまう。落ち着きも性格も違いすぎる。貴族としての教育の賜物かと思えば、そうなのだろう。

 

 今もいつもは、接近戦で17歳という若さでは扱いが非常に難しい長刀を器用に使用し詠唱に入るメンバーを守るため相手の飛び道具を弾き落としてしまうほどの剣術を発揮する、味方にとっては非常に頼もしい、敵にとっては恐ろしい、その手が近づいてくる。

 

 頼もしいとも恐ろしいとも、どちらも思うことは今はない。

 

 ただ、なんだか勘弁して欲しかった。

 

 顔に触れるその直前に、思わずぎゅっと目を閉じる。勘弁して欲しいのだ。逃げるという選択肢は、シャドーとの悔恨を残すだろうと少しだけ静かに稼動する思考が言うのでそれに従う。

 

 

 ただ触れた。

 

 

「………」

 

 

 シャドーの瞳から逃れられたはいいものの、まだその視線はアンジュ自体にあるのだ。目を瞑れば暗闇。そこにアメジストの輝きはない。

 

 

「アンジュ」

 

 

 ぎゅっと力強く閉じたまぶたを優しく撫でられる。小さな子供をあやすようでもあるし、自身の経験としてはないが別の何かのようにも感じられて、恥ずかしくなって、勘弁、してほしくてたまらない。

 

 

「俺はね」

 

 

 ゆったりとした声は、息遣いすら感じられるほど近くに感じられる。顔が近くにあるのかどうかは、まともに思考しない頭では知覚できなくなって分からない。

 

 

「甘えて欲しいんだ」

 

 

  優しくまぶたを撫でられる。

 

 

「アンジュがエルを甘えさせてるようじゃなくね」

 

 

 優しく指が下に下りてくる。

 

 

「頑張る貴女は素敵だろう。慈しむ貴女は素敵だろう。優しく、そして強く在ろうとする、貴女を」

 

 

 アンジュの頬に何かが、かさり、とあたる。質感からいって髪の毛だ。

 

 

「壊したい」

 

 

 甘く痛く声が胸の奥、形としてない、こころを縛っていく。

 

 

「シャドー、くん」

 

 

 目頭が熱くなってくるのを感じる。きっと、涙はゆっくり溢れて頬に流れているだろう。

 

 

「『汝、流れる血を忘るること勿れ』『汝、零れる涙を忘るること勿れ』『汝、絶える命を忘るること勿れ』」

 

 

 前に彼が語ったマフィルス家の家訓。その意味を彼はこう語ったのを縛られていく心を主導に思い出す。

 

 

 [「“流れる血”とは“人の業”である」「“零れる涙”とは“人の夢”である」「“絶える命”とは“人の声”である」]

 

 

 そして、こうも語った。

 

 

 [業など、生まれたときから皆背負ってるさ。夢も同じく。声なんて、出さなくてもしっかり自分に響いてる。けれど]

 

 

 腫れぼったくなる目を開け、アメジストと繋がる。

 

 

「業を望もう、夢を奪おう、声を上げさせよう」

 

 

 頭と心はすぐに察してしまう。それは、それはっ!

 

 

「貴女の生に祝福あれ。貴女の為だけでは動けぬこの身はアンジュの幸せ()を望む。貴女の為に有りたいこの手足はアンジュの苦しみ()を奪う。貴女の為のこの心はアンジュの喜び()を上げさせよう。故に」

 

 

 酷く優しく縛り付けていく台風のごとき情動に思わず口付ける。

 

 その先を言われたら、もうこのまま(仲間)だけでの関係ではなくなってしまうから。

 

 啄ばむ口付けから、深く離れないように。

 

 近くなったシャドーの頭を激しくかき抱き、アンジュは自身の衝動を抑えようと必死になる。

 

 それに必死になるほど、無意味になのが確かに分かってしまう。

 

 髪に触れ、耳に触れ、頬に触れて。

 

 意味は、あるのに。

 

 無意味になっていく。

 

 

 

 しだいに、体が空気を求めて口を離してしまう。互いの口元は湿りきっており、もはや何が誰のものかも分からない。

 

 

「アンジュ」

 

 

 息も絶え絶えのアンジュに比べひどく落ち着いているシャドーは優しく微笑んで。

 

 

「愛しているよ」

 

 

 壊してしまった。

 

 

「ば、か…」

 

 

 息が少し整ったあとに、ようやく出た言葉はそれだった。

 

 

「ばかばかばかばかばか」

 

 

 子供のようであった。

 

 

「ば、かぁ…」

 

 

 意味はそのままの意味ではない。だが、このままでは伝わるわけがない。

 

 

「そうだな。俺は、バカだ」

 

 

 だが、シャドーにはちゃんと分かっていた。

 

 

「わたし、おさえてたのに」

 

 

 強くもなくアンジュの握りこぶしがシャドーの胸を叩く。それもしだいにゆっくり止まって、シャドーの胸の中に体ごと落ち着かせる。

 

 

「シャドーくんより、お姉さんなのに。もう、普通の女の子より綺麗じゃないのに」

 

 

 見た目の綺麗さのことではないだろう。計算高い女なら、ごまんといる。だが、その計算高さは彼女の場合は、より高い領域にあるのだ。司祭として生きてきた身は、誰よりも尊く高潔であってほしいと望まれるほど何よりも浅ましく汚いものなのを自覚していく。表面など誰でも取り繕える。化粧でもいいし、なんなら仮面でもいい。だが、どちらかしか選べないはずのものだ。けれど、二つ同時にやってしまったのがアンジュ・セレーナだ。

 

 “ちゃんと見る”

 

 それが何より嫌で、何より嬉しかった。

 

 自分で繕ったものは自慢できるほどのものだけれど、見て欲しかったのだ。

 

 自分は、いいの。自分は、これでいいの。そう思ってきた。両親が流行り病でなくなり、兄と共にナーオスに行ってからそう決めて生きてきた。そう思おうとして生きてきた。

 

 けれど。

 

 

 自分は、いいの?

 

 そんなわけはない。

 

 自分がいいの。

 

 

 だから、アンジュを“ちゃんと見る”シャドーが苦手で、好きになってしまった。

 

 

 この告白を待っていなかったといえば嘘になる。待っていた。待ち、焦がれていた。

 

 言って欲しい。でも、困ってしまうから言わないで欲しい。

 

 “仲間”という関係に甘えてきたつけはもう払ってもいいのだろう。いや、いいのだ。いいに決まっている。

 

 もう、今生はシャドーしか愛せない。

 

 オリフィエルのヒンメルに対する師弟愛は、そういうものではないけれど。

 

 アンジュ・セレーナはシャドー・マフィルスに愛して欲しい。

 

 

 “ちゃんと見ていて欲しい”

 

 

「シャドーくん」

 

 

 微笑んでくれる顔は甘く優しく。

 

 

「愛してるの」

 

 

 自分の声が、何故だか別人のように聞こえる。自分で聞きなれているはずなのに。

 

 

「ねぇ」

 

 

 シャドーの手が背に回る。

 

 

「ちゃんと、見ていてくれる…っ?」

 

 

 答えが怖くてまぶたを閉じそうになる。

 

 けれど、ちゃんとある確かな体温が大丈夫だと教えてくれるのだ。

 

 

「あぁ」

 

 

 アメジストは揺らがず確かに見ていた。

 

 

 嬉しくて、ちゃんとキスをしたくなる。

 

 けれど、こういうのはどうすれば、ちゃんとするのか分からない。だから。

 

 

 上から降りてくる熱に身を任せて。

 

 

 

 

 

 




◎主人公設定

シャドー・マフィルス

・主人公は、王都レグヌムの名門騎士の息子で、父親との不和から家にろくに帰らない少年。

◆一人称:俺
◆年齢:17歳
◆武器:長刀(FF7のセフィロスの長刀のような剣)
◆得意天術:火、風、光

・ルカとスパーダの兄貴分的存在。
・17歳という若さでは扱いが非常に難しい長刀を器用に使用したり、馬も乗りこなす優秀さを持っている。
・長刀を用いた接近戦を得意としており、スパーダと互角で、相手の飛び道具を弾き落としてしまうほどの剣術である。
・クールな性格だが、面倒見が良かったり、思ったことを言葉にしたり、言葉や行動の一つ一つが大人の雰囲気を漂わせている。そのためリカルドとは気が合い、メンバーの保護者としてルカ達の面倒を見ている(KHのレオンのような性格)。





●主人公の前世設定

◆名前:アロンダイト
◇一人称:私

・天上一の鍛冶師バルカンにより鍛えられた名刀の一つ。デュランダルと同様に人格を有しており、言葉も話す。
・主であるアスラに忠実で義に厚い性格(戦国無双の本田忠勝のような性格)。
・デュランダルと共にアスラの天上界統一の戦いを支え、アスラからの信頼も厚かった。
・そのアスラがイナンナとデュランダルの裏切りで命を落とす前に自身を使い、裏切り者のデュランダルとイナンナを葬り、その時生じた強い力の波動にアスラ達と共に巻き込まれ消滅する。
・しかし、その時のアスラの「すまない」という巻き込んだ罪悪感からの謝罪の言葉を聞き、彼自身はこのような悲しい結末になってしまった事を悔やんでいる。


以上がリクエストしてくださったシャドー様ご考案の設定です。


後付設定

今世

後付設定

・双子の兄がいる
・双子の兄以外は全員女性の姉弟の家系
・貴族の学校に通っていた



前世

・バルカンに武具というより如何に美しい刀が作れるかということで生み出されている
・武具が存在することを疑問に思っていた
・アスラに、武具など要らない世界を作ってほしいと頼んでいた

どれぐらいのヒロイン数がいい

  • 一人
  • 二人ぐらい
  • ハーレム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。