頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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月姫 アルクェイド・秋葉・シエル・翡翠・琥珀のハーレムの中編です。

悲しいほどに残念な戦闘描写があります。見たくない方はご注意ください


月姫 アルクェイド・秋葉・シエル・翡翠・琥珀のハーレム(中編) ※スルー推奨

  

 

 その夜、街を徘徊するシャドーの姿があった。彼は高校生。そんなものが夜中でウロウロするなど警察に補導されることは時間の問題だ。そして、一番問題なのは長いものを持っている。銃刀法違反に全力でアウトを宣告されるものである。剣道部らのように背中に竹刀袋等に入れて隠さず持っているのであればまだ怪しまれない。だが、堂々と左手で鞘に収めたそれをいつでも抜刀できるよう万全の準備がしてある状態である。

 

 真夜中、夜の中に十二時になりそうな時に、高校生とは言え子供が徘徊している。目的が無いわけではない、場所を特定していないからウロウロと彷徨う。今日も夜更かし。目はいつもと違う色合いであった。

 

 一人ウロウロと彷徨う。獲物は何処だ、と辺りを見渡す。害あるものはなんだ、害するものは誰だ、と睨む。そして、一つ深呼吸してこう呟いた。

 

 

 「送るのは俺だ」

 

 

 目を凝らす。

 

 

 

 

 

 その日は残暑が残っており、少々蒸し暑い日であった。子供を中心に親子三人で布団で寝ているが、蒸し暑さのせいで寝心地が悪いのか、そもそも寝相が悪いのか。子供はうつ伏せの姿勢で両手をそれぞれ父母の顔に乗せ、足は母の脇腹に乗せるという寝相の悪さ。子供の寝相の悪さの遺伝子のもとであろう父親は子供の手を顔に乗せつつ右手は目覚まし時計を倒し左手は絵本を読み聞かせるときにつけていたライトスタンドを倒して、いびきをかいている。母親は、それが煩いせいか、子供の手から伝わる体温が鬱陶しいのか、はたまた両方からかうなされていた。彼女は寝相が悪いというのではなく、父子の犠牲者であった。

 

 普段ならこのままぐっすりと朝まで起きない子はなぜか目を覚ました。寝ぼけ眼で両手を目にやりしょぼしょぼとする目をこすった。そして顔を左右に振る。右を見ては安心し、左を見て安心する。ちゃんと父母が居た。だが、それだけでは物足りないのか、それとも一人だけ起きている今の状況が寂しくてたまらないのか、原因はよくわからないがぐずりだす。

 

 

 「うぇ…っぐ、ふぅうん」

 

 

 泣きながら耳を抑えた。ぎゅっと。

 

 

 「うぇええ、ふぇ、ゔぅうん」

 

 

 耳を抑えながら泣き声を上げる。その声に先に起きたのは母親だった。

 

 

 「どうしたの、たーくん?」

 

 

 寝起き特有のぽやーとした声だが子供を心配しているのは分かった。眠気の残る体を起こし子供を胸に抱きしめ背中をぽんぽんと叩いて泣き止ませようとした。それのせいか、子供の泣き声は大きくなる。

 

 

 「ゔゔゔう、ひくっ、うぇえぇええ!」

 

 「ん~~、どうした~…?」

 

 

 その声の大きさに不快な様子を混ぜて父親が起きた。だが、身体は起こさず目も開けず声だけを出す。

 

 

 「うぇぇえええええ!!」

 

 「どうしたの、たーくん。眠れなくなっちゃったの?」

 

 「たか、どうした」

 

 

 更に大きくなった泣き声に父親も心配になり起き上がる。そして電気の紐を引っ張り青く灯る部屋から、昼間のような黄色い光になる部屋に変えた。両親が聞いても子供は耳を抑えて泣いたままで泣き止まない。

 

 

 「おい、どうした。耳が痛いのか?」

 

 「そうなのかな。たーくん、ちょっとおててとって」

 

 

 耳を確認しようと母親が子の両手に触り外そうとする。泣き声はまた凄まじいものになった。

 

 

 「中耳炎で耳痛いのかな? えっと救急病院」

 「びょういんやだぁぁあああああああ!!」

 

 

 父親の言葉に絶叫する。どうやら先程からの会話も聞こえているようだ。

 

 

 「でも痛くて寝れないんだよね? ずっといたいいたい思いしなくちゃいけなくなるよ? 大丈夫、怖くないよ」

 

 「おうた、が、うっく、きこえるだけだからいいのっ!」

 

 「歌?」

 

 

 母親のなだめに子供が変なことを言い出す。夫婦は揃って首を傾げた。

 

 

 「歌なんて聞こえないぞ、たか。さぁ、お着替えして病院行こう」

 

 「うそじゃないぃぃぃい!! きこえるもん! びょういんやだぁああああ!!」

 

 「う~ん…。ママとパパには聞こえないよ? たーくんには聞こえるの?」

 

 「おい」

 

 「ちょっと黙ってて」

 

 

 男女の違いで子供の接し方は違うのはしょうがない。どちらも子が心配なのは確かだが、子供を信じているのは母親の方らしい。泣き止まない子の頭を撫でて聞いた。

 

 

 「うん…」

 

 「どんなお歌?」

 

 「えっとね…」

 

 

 子供は歌い出す。

 

 幼いからが舌足らずだが、思いの外ちゃんと歌ってみせた。

 

 

 「幼稚園で習ったのか?」

 

 「だから、きこえるのっ!」

 

 「うーん。聞いたことあるような気もするなぁ」

 

 「いつ?」

 

 「たーくんが生まれる前」

 

 「関係ねぇじゃねぇか。あー、妊娠中に聞いてたのか?」

 

 「それよりもずっと前」

 

 

 子供は泣きやまない。ずっと聞こえると泣き止まない。父母は悩んだ結果、明日の朝に病院に連れて行くことにし今は気を紛らわせるため絵本を読み聞かせることにした。それは夜中の十二時の事。

 

 

 

 「………」

 

 「ままぁ…?」

 

 「お前が先に寝るなよ…」

 

 

 普段の育児と家事での疲れからか一番先に寝てしまう母親。父親は呆れたように溜息をつくと、少し収まった泣き声が大きくなりだしたので慌てて絵本の続きを読み聞かせる。

 

 

 「ねぇ、ぱぱ。ねれないよぅ、ねたいよぅ…」

 

 「あぁ、パパも寝たいよ」

 

 

 明日は朝早くに会議があるのに、心のなかで愚痴て子を寝かせようと努力する。

 

 

 「ぱぱ、おうたうたって」

 

 「え? んー、どんなやつ」

 

 「ぼくにさっきからきこえるの」

 

 「えーっとなんだっけ」

 

 

  よくよく思い出してみるが、歌詞が思い出せない。しょうがないので多分あっているであろう音程を鼻歌で歌った。

 

 

 「ぱぱ、じゅよずだね。ままよりはへただけど」

 

 「うるせ。まだ寝られないか?」

 

 「もっとうたって、そしたらぱぱのおうたできこえなくなるから」

 

 「しょうがねぇな」

 

 

  それから十分鼻歌を歌い続けようやく子供は眠った。父親は良かったと息を吐いて先程から感じていた尿意にトイレへ向かった。部屋を抜けても青い感じがする。だが、気にせず解消した後は自身も寝直すことができた。

 

 午前二時になる少し前のこと。

 

 

 

 

 午前二時の無縁墓地へまっすぐ影が向かっていた。腕には子を抱えている。子供を4人抱えている。影は歌っていた。子供達は寝ながらぐずっている。だが、起きる気配は微塵もなかった。

 

 歌を歌う。聞くに堪えないほど、優しい声だ。

 

 地面に優しく寝かせる。一人一人の頬を撫でて慈しむ。

 

 

 そして腕を振り上げた。草花がそれに伸び絡みつく。枯れ枝のような腕が太い腕に変わり指先は鋭利にとがる。腕の下で寝ている子供全員の肉を同時に容易く貫けるであろう。

 

 

「―――――――」

 

 

 影が歌以外の言葉を発した。だが、人ではなんと言っているのか分からずただの音であった。

 

 影は悲しい音を出していた。

 

 そして腕を振り下ろす。何の慈愛などなく、さきほどの慈しむ様子などなかったかのように、いきおいよく振り下ろした。が、瞬間に斬撃が影に迫った。

 

 

「―――!!」

 

 

 慌てて避けようと飛び下がる。影が剥がれ顔が割れた。

 

 口は耳まで裂け、目は限界まで見開き血走っており、そしてなにより一番目を引いたのは。額から突き出る、角。

 

 影は、鬼であった。

 

 

 カラカラと半ば折れた卒塔婆がなる。元々折れていたかどうか、いやそもそも折れたのか、そういう見た目になってた。折れるというより、斬られたような…。

 

 

「見つけたぞ…」

 

 

 シャドーが刀を携え現れた。目の色は違う。いつもの黒い目でなく、今日は隠れてしまっている月の色のような瞳であった。恐ろしく美しい。死に送られるならば、この目に魅入られて死ねるのなら本望であろうと思うほどに。

 

「――――」

 

 

 一息、といってもおよそ人間の肺で収まるはずのないほどの空気の量を吐き出し、そうして吸う鬼。なんともない、ただの呼吸であろうそれに一時も目をそらさずに右手で抜いた刀も僅か1ミリたりともずらさずに警戒する。

 

 

 しばし睨み合う。腕に絡みついた草花は今もまだ絡みつき、否、より太く恐ろしい形へ変えている。だが、鬼自体は動かない。シャドーは、刀を握る小指に更に力を込める。

 

 

 そして―――動いた。

 

 

 鬼はシャドーの目の輝きの残像を追い獣の如き速度で駆け出す。シャドーは子供達から注意をそらすよう無駄のない足運びで素早く彼らから離れた位置に駆ける。

 

 シャドーは人外ではない、走り方も型がある、姿勢を低くし這うような型だ。息をせず、かつ一息の間に遠くへ。駆けるというより飛ぶといった表現が会う走り方だ。だが、対する鬼は型など無い。草花で強化した両腕をバネに獣のようにシャドーを追う。さすが化物、不格好であるくせに速度は早く、距離など容易に詰めてしまう。

 

 裂けた口を大きく開ける鬼。その腕で殴り潰すなりしたほうが早いと言うのに、獣のような行動だ。だが、相手は化物。獣以上に獣である。戦い方を考えるなど理性を持った行動など期待していない。歯ではなくまさしく鬼牙。こんなもので噛みつかれれば、骨ごと容易く噛み砕くだろう。

 

 避けるに間に合うか? ――不可能。

 刀で防げるか?     ――不可能。

 大人しく殺られるか?  ――不許可。

 

 首を狙うその口に対処はない。だから、シャドーは目的を達す。

 

 足元で綺麗に咲く花を斬り捨てた。

 

 戦闘中の異常行為。空振りでも何でもない。それが、彼の目的だ。生きていた花が斬られた。茎ごと、雌花なら胚珠ごと、雄花は花粉を撒き散らして。花を死に送った。

 

 

「――――――――――!!!!!」

 

 

 鬼が絶叫し、それらの元へしゃがみこみ慌てて全てかき集めて抱く。一本も取りこぼすことはないよう必死に集める。そこにはシャドーを排除する様子は一切ない無くなった。殺気は消え失せ、悲しみで胸を打たれるような哀れな様で花を集める。

 

 無防備。

 

 これを逃すなど、初めから鬼を死に送ろうとしているシャドーはする気がない。しゃがみこんだままの鬼の後ろで刀を上段に構える。そんな様子など鬼は気にもしない。

 

 なおも必死に花を集める鬼に憐憫も何も感じはしない。ただ、志貴と秋葉を害そうとするならば死に送る。それだけだ。

 

 鬼が唄う。

 

 掠れ声だ。泣き叫び疲れた声だ。

 

 唄う鬼は辛そうであった。だが、そんなものに感じ入る気は微塵もない。刀を振り下ろす。

 

 ―――頭から絶ち切る。

 

 つもりであった。だが、できずに花の香に惑わされ勢いがぶれたのだ。

 

 鬼が花を抱えて避けた。グラジオラスが香る。

 

 鬼は前方に転がるように飛んで避けた。距離あく。これでは刀は届かない。かといって詰め寄るにしても走りは鬼のほうが圧倒的上だ。

 

 だから、飛ばす。

 

 

 下に振り下ろした刀を斜めに動かし全力をもってその場で振り上げる。空気が裂かれ衝撃波、斬撃が鬼に向かう。音速の域を軽くいくそれに、花を気にしているだけの鬼に対処するすべなどはない。

 

 決まる。

 

 そう感じつつも油断は一切ない。何度も感じた油断による自分が死に送られそうになった感覚は神経一本一本にまで覚えさせた。油断は死。余裕は死に言葉。勝利はお遊び。死に送る、ただそれのみ。

 

 鬼が避けた。花が鬼の頬に触れていた。

 

 避け遅れたからか、片方の髪ごと耳の半分が斬り飛ばされる。頬に触れていたキョウチクトウも共に斬り飛ぶ。

 

 鬼は自身の首がもげるほどの勢いでシャドーへ振り返る。人間らしい感情が目に宿っている。そう、憎しみ。子を殺され憎しみで溢れた狂気な女の目。

 

 鬼は腕を振り上げどんどん上に伸ばす。鬼の腕自体が伸びているのか、草花が変化しているだけなのかわからない。腕の先、それは手という形はしていない。大きい赤い花のかたちをしだした。

 

 それごと耳障りな空気を切り裂く音と共にシャドーにぶつけてくる。

 

 容易く斬り捨てようとする。所詮は花。先程地面に生えていた花も大した能力もないただの花であったのだ。これもどうせ同じであろう。

 

 

 油断は死。

 

 

 その言葉を刀と花がぶつかった時神経が大きく波打って伝えてきた。

 行動を起こす前に、花、ホウセンカは弾けた。正確には、果実が弾けた。花びら、汁、種がシャドーの視界を潰す。攻撃性はそれだけで、種が身体を貫通するなどと言ったものはない。だが、シャドーが鬼を逃すには十分であった。

 

 視界が喰われる。刀で斬り捨てても斬撃数も時間も足りない。

 

 鬼はどうなった。

 

 見えぬ視界は今捨て置き、他の感覚で鬼を探す。

 

 聴覚、花の破裂音が耳に残っている。 ――探知不可。

 嗅覚、花の匂いで鬼の匂いが分からない。 ――探知不可。

 

 他の感覚は自身の体調判断に用いる。

 

 ――負傷箇所、異常無シ。 ――感染箇所、異常無シ。 ――生命維持、異常無シ。 

 

 油断は死。余裕は死に言葉。勝利はお遊び。死に送る、ただそれのみ。

 

 心身、全域に思い直し、開けぬ視界を視る。

 

 

 【死神の霊眼】 一、解除。

 

 

 視界が開ける。辺りは寂れた無縁墓地と斬られた草花の跡。子供らは無事なのは分かっている。

 

 鬼の姿は無い。居た場所には、鬼のものであろう血が土の上に撒かていた。だが、それだけである。ここにもう鬼は居ない。

 

 

 少し息を吐き、目を閉じる。片方の手を握りしめていた刀から手を離し顔へ。

 

 

 ――油断は死。

 

 ――余裕は死に言葉。 

 

 ――勝利はお遊び。

 

 

 人差指と中指を眉間に置き顔を掴む。

 

 

 ――死に送る、ただそれのみ――

    

 

 勢い良く下に下げ、目を開ける。

 

 

 【死神の霊眼】 一、解除。

 

 

 必ず見つけ、死に送る。

 

 

 この【死】は“いつか”では遅すぎる。故にはやくはやく、流れ損ね囚われた誰も彼ものに。

 

 

 死、に送るのだ。

 

 

 

 

 とある寺。

 

 寺とは言え、言っては悪いが営業時間と言うものがある。住職は寝入り、参る者も普通は居ない。いたとしても寺の中に入ることはできない。仏像を盗むなど悪事を働く者がいるかもしれないから、寺側も厳重に寺の中へ入れないようにしている。

 

 だが、中には一人の巨漢の坊主が居た。そしてその前にあの鬼が居た。

 

 鬼は泣いていた。斬られた花を抱え座り込んで泣いていた。

 

 その哀れな姿に心打たれたのか、坊主は優しく声をかける。

 

 

「女人よ、『南無阿弥陀仏』と共に唱えなさい」

 

 

 坊主の声の通り唱えている。これははっきりと唱えているのがわかった。鬼の声のはず。だが、泣き疲れた女の声であったのだ。

 

 坊主も共に唱える。何度も、何十度も。ひたすら唱え続ける。

 

 

 三十回目に入る時、厳重に閉じられた扉が開く。木造、しかも大きいので独特の音を奏で開けられた。

 坊主は、望まぬ来訪者のために念仏を止め鬼に声をかける。まるで愛する人を口説くように。

 

 

「女人、私がもういいというまで唱え続けなさい」

 

 

 坊主は数珠をジャラリとならし鬼をかばうよう広いお堂で鬼のすぐ後ろで仁王立ちをする。

 

 

「それはこの世で【悪】と呼ばれるもの、念仏を唱えたところで救われない」

 

 

 来訪者は刀を携えた死神であった。

 

 救われるただ一つの方法は死神によって死に送られるのみ、そのはずである。

 

 だが、そんなこと微塵も信じずに坊主は無礼な来訪者に語りかける。

 

 

「子のために死ねぬ身を持つこの哀れな女人をお救いするには唱えることが重要なのだ。さぁ、若人、刀など捨て共に唱えよう」

 

 

 害することを良しとせず、救おうとする。仏を信奉しその教えで人を救うことを信条とする坊主。

 

 だが、シャドーは知っている。それは己のうちの愉悦を隠す皮であると。だから、口が出た。

 

 

「所詮、名を変えさせられた何の役にも立たない宗派風情が何を言う」

 

 

 坊主の静かな顔に般若が宿る。坊主として、人らしさを捨ててしまった顔であった。

 

 

「私は【浄土真宗】ではなく【一向宗】だ!! 一緒にすること許さぬぞ!!」

 

 

 シャドーは迫力のある坊主の後ろを刀で指した。

 

 

「そこにいるのは子を殺す()だ。救いなど持ってなどいけない」

 

 

 坊主はそれに唾を飛ばして激昂する。

 

 

「人として死ねず極楽浄土に行けぬ哀れな女人だ! 救いを欲すことに誰が咎を付けれようか!!」

 

 

 本心から言っている。そう思わせる迫力である。 心に響く思いを乗せた言葉だ。

 

 それが虚構であればあるほど不愉快で仕方がない。

 

 

「あぁ、お前の言は通りがいい。腹の中は、それの様が愉快で仕方ないくせにな」

 

 

 もう我慢ならぬと、坊主は数珠を振り上げ鬼のすぐ後ろからお堂の中心に移動する。

 

 

「若人、仏の前では皆平等に生きる意味も価値もある。そうであろう」

 

 

 確認だ。これは殺し合いをするための確認だ。

 

 

「話を逸らすな。お前は、あれの哀れな姿が嬉しいんだろう? 哀れさが、己の優越感を高めるんだからな」

 

 

 確認は完了した。

 

 

 では、始まりである。

 

 

 坊主は数珠を構える。

 

 

 「侮辱許さぬぞ」

 

 

 誰に対してか。それは坊主あてか、宗派で祀っている仏へか。

 

 

 「侮辱? 違うな、軽蔑してるんだ。お前の中も外も気に食わないから死に送ってやる」

 

 

 心底そう思うと吐き捨てシャドーも刀を構えた。 

 

 

 鬼の唱える『南無阿弥陀仏』という音しか辺りには聞こえない。

 

 

 鬼の息を吸い込む音、それが合図となる。

 

 

 ――殺し合い、開始――

 

 

 坊主は数珠を金砕棒に変えた。鬼の武器と称される相手を武器諸共叩き潰すもの。大きさに比例して重さも尋常ではないはず。それを軽々と扱う。

 

 シャドーに金砕棒を受け止めるほどの強度はない。身体は勿論のこと武器である刀の耐久度はあれとぶつけては容易く折れ、使用者ごと潰される。

 

 大ぶりだが、速さが異常だ。

 

 振り下ろす。同時に振り上げる。

 

 おかしい。同時にできるものではない。どちらも重心がブレるもの、そもそも攻撃動作は両手で巨大な一つの金砕棒を両手で扱っている。信仰心ゆえに仏から力をかりているとしか思えない、人から外れた動きだ。

 

 

 何度か浅く斬りつけることには成功するも、確実に死に送る事はできない。坊主()を死に送ることへの躊躇故か? 否、純粋に坊主が異常だからだ。金砕棒を振るうスピードは増していき、空気を切るその速さはシャドーの身体をも風圧で切っていた。それが、シャドーを少しだけ追い詰める。

 

 異常と呼ばれるならシャドーも同じ。避ける速さ、斬りつける速さ、隙を突く刀さばき。どれもが坊主を少しだけ追い詰める。

 

 

 だが、どちらも決定打に欠ける。いつまでも続けるわけがない。

 

 ――終わらせる。

 

 ――死に送る。

 

 

 同時に仕掛けた。

 

 

 分は、坊主に上がった。

 

 

 「!」

 

 

 坊主は金砕棒から片手を離し袈裟から新たな数珠を取り出しシャドーに投げつけた。

 

 片手で扱う金砕棒は変わらず早く、避けることは困難と判断し数珠を斬り捨てた。それが、ダメだったのだ。

 

 

 「若人よ」

 

 

 散らばった数珠が何か効力を発してシャドーは動けなくなる。指先から全身に渡って筋肉の動きがすべて止まる。呼吸ができない。

 

 ――死――。

 

 それが今迫る。

 

 

 「南無阿弥陀仏」

 

 

 坊主は金砕棒を振り上げ唱えた。シャドーが死んでも極楽浄土にいけるように、と。

 

 

 ――だが、まだ逝けない。

 

 

 【死神の霊眼】 一、解除。

 

 

 数珠が効力を失い、シャドーは皮膚呼吸だけをし武器がなくなった坊主の首を狙う。

 

 

 「ぬぅ!!」

 

 

 金砕棒を失った坊主は苦し紛れに岩のような腕でシャドーの頭を砕こうとする。【死神の霊眼】によって異能の力を打ち消したので、速さなど先ほどと比べるとあくびがでるような遅さ。

 

 

 故に。

 

 

 ゴロンとお堂の床に首が落ちる。血しぶきが堂を盛大に汚した。

 

 

 首を失った坊主はそのままシャドー側に倒れる。これを避けることは容易だった。

 

 巨体はズシンと重い音を立てて床に落ちた。

 

 

 ――一人、死に送った。

 

 

 いまだ、念仏を唱え続ける鬼の背後へ。

 

 誰のために唱えているのかはどうでもいい。ただ死に送る。

 

 落とされた坊主の首は、シャドーに斬り殺されるであろう女がよく見える位置に落ちていた。

 

 

 ――死に送る

 

 

 無言で振りかぶる。

 

 花が鬼の肩から咲いた。そして守るよう鬼を包む。最後まで傷つけるような真似はしなかった。

 

 サルビアの花。それに包まれた鬼は一瞬息を飲んで念仏を中断した。花びらの隙間から雫が一つ落ちる。

 

 それを見届けて、シャドーは鬼に最後の言葉を呟いた。

 

 

 「南無阿弥陀仏。あの世で親子をやれ」

 

 

  同じように首を切り飛ばした。鬼の首は坊主と見つめ合うように落ちる。その中間に花が小さく咲いた。

 

 

 ――二人、死に送った。

 

 

 【死神の霊眼】 全停止。

 

 

 一つ深めに息を吐いてその場を後にする。

 

 

 

 今日も眠れなかった。

 

 

 

 

→後編に続く

どれぐらいのヒロイン数がいい

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