亜種異聞帯『創世光年運河ゴエティア~ある少年と少女の敗北~』   作:RAINY

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※本作は結構勢いで書かれているため、設定の所々が非常に怪しいです。ご注意ください。
※本作は短編としてお送りするため、物語の序盤みたいなところで終わります。ご了承ください。


とある盲目の魔術師

「やぁ、ドクターロマニ。また鴇崎(ときざき)(しょう)の検診という事だが。どうだい?この肉体(ハード)の様子は」

 

 鴇崎星と自称する少年が、ドクターロマニと呼ばれる青年に向き合い、医務室で大人しく検査を受けていた。だが、ロマニは眉根を歪め、不快感を示す。

 

「……ロマンとは呼んでくれないんだね。結構な頻度でそうお願いしてるんだけど」

 

「医師ロマニ・アーキマンを『ロマン』と呼称するには、あまりに悲観主義だよ。他人にそのあだ名をお勧めするなら、そう呼ばれるだけに足るステータスがないとね。それとも、ドクターロマニは悲観主義を脱却したいから、そのネームを掲げようとしているのかな?『形から入る』と、日本ではよく言うらしいし」

 

「……」

 

 ロマニは軽い気持ちで呼称の訂正を試みたのだが、冷静な意見が鴇崎より返され、心を抉られた。

 ロマニはこれ以上の冷静な意見を貰わないように、自身を探らせないように、口を噤んでカルテを睨む。

 

「……君の体は、君の目以外いたって正常だ」

 

「この肉体(ハード)の視覚センサーについては構造上の欠陥さ。この肉体(ハード)に魔術の才能(ソフト)を備え付ける段階で、視覚センサー回路と魔術回路が競合を起こしてしまっている」

 

 ロマニが鴇崎の盲目について指摘すれば、鴇崎は気に病む事もなく、平静に盲目の理由について解説しだした。

 鴇崎が述べる通り、その盲目は目に宿した魔術回路に由来する。

 鴇崎は、両目に『魔眼』を宿しているのだ。その『魔眼』が成す魔術回路が視神経に絡まり、全盲と分類できるくらいに支障を来たしている。痛みが伴っていないのは不幸中の幸いと言えるだろうか。

 

「しつこいかもしれないが、修理は考えなくて良い。鴇崎星を魔術師足らしめているのは、その『魔眼』だからね。ついでに、右の『魔眼』があるから盲目が短所(バッドステータス)になっていないし」

 

 右の『魔眼』は、『遍在の魔眼』。

 それは何処にでも視覚を置く事ができる、広義での千里眼である。過去や未来を見通せる訳でもなければ、グランドろくでなしなとある夢魔と張り合える程に使いこなせている訳でもないが。しかし、失った視覚の代行をさせるには充分だった。故に、鴇崎は盲目で苦しんでいない。

 

「それに、カルデアに所属できたのは左の『魔眼』があったおかげだ」

 

 左の『魔眼』は、『曖昧の魔眼』。

 『曖昧の魔眼』は見た物の存在を曖昧にさせる事ができ、虚数魔術に近い性能を持っている。

 その曖昧にさせるという性能は、レイシフトにおける肉体を疑似霊子に変換する作用にも類似していた。そのために、表向きはレイシフトの更なる安定稼働を測る研究者として、裏向きは実験動物(モルモット)として、鴇崎はカルデアに召喚されたのである。

 だが、裏向きの意味を察していた上で、鴇崎には召喚に応えるメリットがあった。

 鴇崎は、多くの魔術師から追われていたのだ。

 事の発端は、魔術の解析だけは超一流なとある時計塔講師にあった。その講師が鴇崎の『魔眼』を解析し、二つの『魔眼』を組み合わせれば、平行世界の観測が可能である事を提唱したのだ。

 

 平行世界の観測。それは第二魔法『平行世界の運営』の一部。魔術師が追い求める『根源』の足掛かりと成り得る代物だった。

 結果、鴇崎は存在自体が封印指定とされ、魔術師に追い回される事となったのである。

 そんな鴇崎にとって、カルデアへの召喚。つまり、国際連合がバックに居る魔術組織での保護は安息を得る必要条件だった。

 故に召喚に応じ、故に大人しくしている。

 

「鴇崎星の身の上話(プロフィール)はこの辺りで良いだろう?何度もしている話だ。寝物語にするにはドラマがないよ。それで、レイシフト適性の方は?鴇崎星にとってはそのステータスが重要なんだ。適正値が下がっていたら解剖台に上がるかもしれない。まだ序章も良いところなのに最終回じゃ、物語の体裁も繕えない」

 

「……レイシフトの適性値も、高水準で安定している。Aチームへの配属は確実だよ」

 

 鴇崎の追及に、ロマニはカルテを読み解いて素直に応えた。

 鴇崎が実験動物(モルモット)としてカルデアに居ながらまだ標本にされていないのは、その高いレイシフト適性値にある。鴇崎は人理が狂った際にそれを修正する人員として、かなり適しているのだ。そのため、人間としての機能を保っていてもらう方が、カルデアにとって都合が良い状態となっている。故に、その高水準のレイシフト適性値は鴇崎が安息を得るための十分条件なのである。

 

「それは良かった。ようやく、追っ手から身を守るための必要条件、肉体(ハード)を分解されないための十分条件がそろったよ。これで、鴇崎星を正常に維持するための必要十分条件が得られる」

 

「君の体は正常に保てたかもしれないけど、君の心は未だに異常なんじゃないかな」

 

「『シュミレーテッド・リアリティー症候群』だっけか、ドクターロマニが名付けた鴇崎星の精神疾患は」

 

 ロマニの精神疾患診断に、鴇崎は他人事のように素っ気なかった。

 

「そうさ。君は必死に生きようとするくせに、真剣さが全くない。まるでシュミレーションゲームでもやっているかのように、鴇崎星というキャラクターを動かしているだけだ。離人症は生きる気力をなくしてしまうから、生きようとしている君とは違う。だから、『シュミレーテッド・リアリティー症候群』。君だけの病気さ」

 

 ロマニは真っすぐに鴇崎を見る。魔術という技術が広まってしまったがために生まれてしまった患者を診る。

 

「そんな悲しい目で見ないでくれ、ドクターロマニ。キャラクターを動かしているという入力(インプット)は、確かに世間一般から外れた少数派(マイノリティー)。だが、必死に生きているという出力(アウトプット)多数派(マジョリティー)と変わらない」

 

「でもそれは……。『生きている』と言えるのか……?」

 

 哀れむ機能を失っているような鴇崎星という男を、ロマニはつい憐れんでしまった。その憐みが鴇崎の失笑を誘う。

 

「何か可笑しかった?」

 

「可笑しいさ、可笑しいとも。ドクターロマニがその疑問を鴇崎星に投げかけるのはね」

 

「それは、どうして?」

 

「鴇崎星から言わせれば、それは貴方にも言える事だからさ。ドクターロマニ」

 

 鴇崎の瞳、何も捉えないはずの瞳がロマニを射抜く。

 

「ドクターロマニ。何かに怯え続け、他人を警戒し続ける貴方の人生こそ、『生きている』と言えるのかな?」

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