亜種異聞帯『創世光年運河ゴエティア~ある少年と少女の敗北~』 作:RAINY
カルデアスが完成する前から人理継続保障機関フィニス・カルデアに所属し、形ながらレイシフトの調整に携わり、レイシフトの高い適性値を叩き出し、人理に歪が発生した際の備えとしてシュミレーターで訓練を熟し、そうして送ってきた鴇崎星の日々。その日々で培ってきたモノが、実を一旦結ぼうとしている。
(そろそろ前日譚が終わり、物語が動き出す頃合いかな?)
ファーストミッション、レイシフト実験。
鴇崎星は非公式に何度かレイシフトを体験しているが、今日は公式の実験となる。そのために、レイシフト適性が高い者たち、名称『マスター』である総勢48名が一挙にレイシフトを行う。ファーストミッションの説明会で一般枠の少年が居眠りをかまし、オルガマリー所長にお叱りをくらってファーストミッションから降ろされていたが。
鴇崎を含めた選抜Aチームは皆落ち着いているが、それ以下のチームメンバーは緊張が見て取れる。無理もない。シュミレーターで疑似体験しているとはいえ、実際に自身を疑似霊子に分解する小さな箱、
(こんな駆動音、
『遍在の魔眼』を用いる事で人為的異常駆動を見つける事はできたが、その異常を解消するのには、時間が足らなかった。
爆発が巻き起こり、管制室は火の海となる。
「拙いな……。『曖昧の魔眼』、失敗したらしい……」
鴇崎は自身の存在を曖昧にする事で瓦礫や破片による損傷を回避できた。しかし、レイシフトの最中に自身を曖昧にするなんて初の試み。レイシフトの疑似霊子化と相性が悪かったのだろう。彼の体は疑似霊子の変換が不可逆な域にまで達してしまい、悉くが疑似霊子となって消えかかっている。
「選択肢を間違ってしまった、か……」
鴇崎はその一生が終わろうとしているのに何の感慨もなく、冷静に過去の行いを反省しようとしていた。ただただ何処の選択肢で間違えたかを思考する。
「ん?あれは……」
火の手が激しい管制室に、1つの影が飛び込んできた。
「
オルガマリー所長に追い出された少年。説明会で顔を見ただけ、所長に怒られる際に名前を怒鳴りあげられただけ。だが、鴇崎はしっかり記憶していた。
被害拡大を防ぐためにもうすぐシャッターが閉まるだろう管制室で、その少年は生存者を探し、唯一まだ息があるだろう少女、マシュ・キリエライトに寄り添った。そうしてしまったが故にシャッターが下り、避難が遅れてしまったというのに、少年は少女を励まし続けている。
〈レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中・・・・発見しました。適応番号48 藤丸立香 を マスターとして 再設定 します〉
「ああ、そうか……。君が、
聞こえてくるアナウンスと状況で、鴇崎は全てを察し、確信した。
一般枠の少年、魔術の知識もほとんどない凡人。それを際立たせるためだけの鴇崎星の特別性。2つの『魔眼』持ち、存在そのものが封印指定というステータスの意味だった。もっと言えば、カルデアに揃えられた47人のマスター、特にAチームはそういう存在理由だったのだ。
「言ってくれれば、引き立て役をしっかり
役割をしっかり果たせず、鴇崎星はがっかりした。ここで死ぬ事より役割を遂行できなかった事の方が、鴇崎にはショックだった。
体が消える。肉体を構成している物質が霧散する。
マスター設定から外れてしまったために、設定されたレイシフト座標で鴇崎の疑似霊子が再構成される事はない。彼を導く灯台はない。楔となる錨もない。細胞の1つ、血液の1滴、そんな微小な存在証明すら許されず、鴇崎星はこの世から消え去る。
そのはずだった。
―篝火に火を灯せ。祭壇に供物を捧げよ。
人理焼却による人理の不安定化、レイシフトと『曖昧の魔眼』による身体の不安定化。そして、『遍在の魔眼』。それらが重なった瞬間、鴇崎は、選定事象として切り捨てられる平行世界を観測する。
その観測が、鴇崎星の灯台となり、錨となった。