亜種異聞帯『創世光年運河ゴエティア~ある少年と少女の敗北~』   作:RAINY

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白くではなく、青い青い惑星

「キリシュタリア、いったい何がどうなってるんだ!」

 

 『人理漂白』の犯人たち、クリプターであるカドック・ゼムルプスが、同じくクリプターであるキリシュタリア・ヴォーダイムに噛みついていた。

 

 場所は、キリシュタリアが担当している異聞帯の何処か。とかく、会議用に誂えられた一室である。そこにはクリプターの全員が揃っていた。キリシュタリア以外、魔術による通信だが。

 

「止めなさいって、カドック。今はいがみ合っている場合じゃないわ」

 

「これはいがみ合いじゃない、ペペ!説明の要求だ!この、()()()()()()()()()()()()()()()()()()の説明を!」

 

 スカンジナビア・ペペロンチーノ、愛称「ペペ」が必死に宥めようとするが、カドックが取り乱しても仕方がない事態である事を再認識し、押し黙ってしまう。

 

 そう。現在、異聞帯と呼称される人類史の『if』がペーストされた領域、その外は全て真っ青な海なのである。クリプターの計画では、真っ白に、それも大陸を白紙化する予定だった。なのに、大陸自体が消失し、地球は海しかない惑星になっている。

 明確に言うと、1か所だけ浮遊した陸地があるのだが、彼らはそれを観測できていない。

 

「だからって、キリシュタリア様に要求する事ではないわ」

 

「そうだぜ、カドック。キリシュタリアも知らない事は説明しようがないさ」

 

 見かねたオフェリア・ファムルソローネとベリル・ガットが仲裁するが、それで収まるのならカドックはそもそも叫んでいない。

 

「じゃあ、誰に説明を要求すれば良い!?説明責任は誰に背負わせれば良いんだ!」

 

「この鴇崎星がその責任を背負うよ」

 

 カドックの言葉に応えるかの如く、その男は、鴇崎星は現れた。それも魔法による通信ではなく、生身でその一室に立っている。

 

「用件を訊こう、鴇崎星」

 

 キリシュタリアは、他の皆(芥ヒナコを含み、デイビット・ゼム・ヴォイドを除く)が唖然とする中、冷静に、しかし威圧的に、鴇崎が敵地であるこの場に現れた理由を問い質す。

 

「前文の通りさ、キリシュタリア・ヴォーダイム。鴇崎星は君たちのプロジェクトを横取りしたせめてもの償いに、外が海しかない事態の説明に来た。そのついでに、宣戦布告もかな」

 

 鴇崎はキリシュタリアの威圧に何処吹く風で、ただ平坦に言葉を紡ぐ。

 

「まず、事態の説明から。キリシュタリア・ヴォーダイムやデイビット・ゼム・ヴォイド辺りなら、推測できているかもしれないが。君たちの異聞帯の外は全て、()()()()()()()だ」

 

「なるほど」

「やはりか」

「そんな馬鹿な!」

 

 鴇崎の説明に対し、外を様々な方法で観測していたキリシュタリアと直感に基づく推理をしていたデイビットは納得したが、まるで納得できなかったカドックは声を荒げた。

 

「キリシュタリアですら1年かけて大西洋を覆えていないんだぞ!どうしてお前が僕たちの異聞帯以外を掌握できる!」

 

「鴇崎星には46億年あったからだよ」

 

「よんじゅう、ろく、おく……?」

 

 埒外な桁に、カドックの理解は追い付かなかった。

 

「『人理焼却』の実行犯、ゲーティアがその計画を達成させた異聞帯。そうだな、鴇崎」

 

正解(トゥルース)、キリシュタリア・ヴォーダイム。鴇崎星が担った異聞帯の王は()()()ゲーティアだ。ゲーティアが死のない惑星を作り、その余暇で君たちの『人理漂白』を模倣(コピー)し、ゲーティアが実行できるように仕様(フォーマット)を変更し、プロジェクトを改良(アップデート)し、そして実行した」

 

 異聞帯のゲーティアは異聞帯のカルデアに、『逆行運河/創世光年』を完遂させ、その上で、余念なく『異星の神』に対する対抗策を敷いた。それが、鴇崎星の異聞帯である。

 

「こいつは驚きだ!あのサーヴァントのケツ眺めてるだけだった凡人ちゃんが負けるのはともかく、死のない星を作るなんてバカな計画まで成功させたのか。それで?生命は何処にあるんだ?そもそも命自体がないから失わないってオチだと、すっごいがっかりなんだが?」

 

 魚1匹、プランクトン1つない海を見て、ベリルは嘲笑した。生命のない星が死のない星とは、確かに笑い種だ。しかし、もちろん、そんなオチではない。

 

「海だ」

 

「あ?海がどうしたよ、デイビット」

 

「海が生命だ」

 

 デイビットの直感に、ベリルやカドック、オフェリアは信じられないと言った面持ちだったが、鴇崎の拍手によってそれが真実である事を肯定される。

 

「そうだ。海が、海に満たされたこの星自体が、生命だ。「生命の星」とか「星も生きている」とか、そういう比喩表現でも哲学でもない。この海が思想を持ち、思考している」

 

「お前は、人類の歴史を何から何まで否定したと言うの?」

 

 『人間』という形すらない星に、ヒナコは静かな怒りを滲ませた。

 他人なんぞはどうでも良いが、自身の想い人である項羽の存在すら否定されている鴇崎の異聞帯を、ヒナコは許せない。鴇崎の異聞帯には、項羽が生まれる可能性も、生まれる意味もない。項羽どころか、全ての英霊や神霊も同様だ。本当に、人類も神々も人理も神秘も何もかも否定しているような異聞帯なのだ。

 

「最初の通信で記述したじゃないか、「人間という製品自体が欠陥品」だって。そこから生み出されたモノなんて全て欠陥品さ。始皇帝の手で製造された項羽だって、人々が掘った神の形(アバター)だって、ね」

 

「貴様ァ!」

 

 魔術による通信でなければ、今にも襲いかかりそうなヒナコ。アナスタシアを否定されたも同然のカドックも獰猛に牙を覗かせ、人類の可能性を捨てていないキリシュタリアも眉間にしわを寄せる。他も、不快感を各々表現していた。

 

「嘘だな」

 

 ただ、デイビットは違った。

 

(ファルシティー)?何がかな、デイビット・ゼム・ヴォイド」

 

「お前は人間を欠陥品だと思っていない。人類も、否定していない。今は悪役をロールプレイしているだけだ」

 

 デイビットは鴇崎を見透かしていく。

 

「確かにお前の性格は人間らしくないが、行動はとても人間らしかった。保身と善行。お前が進んで交友し、進んで人助けをしていたのはカルデアで見ている。ロールプレイだろう?人間のように振る舞うという。だから、お前は人間らしさ、人間の善性に従う。人類を否定し、見捨てたりはしない」

 

 そう、何を隠そう、鴇崎星という人間はとても善性に寄った人間だったのだ。何せ、個性際立つAチームの面々と頻繁に交流していた。高い箔と高い実力で近付きがたいキリシュタリアにも、基本は無視を決め込むヒナコにも、劣等感を拗らせて他を寄せ付けないカドックにも、何処か血の匂いがして危険そうなベリルにも。鴇崎は分け隔てなく接した。その口調、その動機、その思想が他人からずれていても、鴇崎星とは善性の人間なのである。

 

「そして、お前は最初の通信の時、カルデアにこう言った」

 

―さぁ。足掻いてくれ、藤丸立香。「希望に満ちた人間の戦いはここからだ」と

 

 わざわざデイビットは一言一句間違いなく復唱した。

 

「お前自身が藤丸立香に、人間に期待していなければ出てこない言葉だろう。察するに、お前は藤丸立香の成長を促そうとしているな?」

 

 どう察すればそこまでの答えに至れるのか、直感に直感を組み合わせて導き出されたデイビットの答え。それを聞いて、鴇崎は微笑む。

 

「宣戦布告を見直さなければいけなくなったけど。まぁ良いか。じゃあ、内容を更新しよう」

 

 鴇崎は一呼吸置いて言い放つ。

 

「正しい人類史を巡るこの戦いは、藤丸立香の勝利だ。この物語の主人公は、彼なんだから」

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