亜種異聞帯『創世光年運河ゴエティア~ある少年と少女の敗北~』   作:RAINY

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そこに最早城はなく

「そろそろ、だと思うんだけど。困ったな。鴇崎星の『魔眼』では、別世界線の未来は観測できても、現世界線の未来は観測できない。鴇崎星が居ない世界線では、約3か月程で彼らが浮上してくるはずなんだが。変数が1つ追加されれば答えが変わる。当然と言えば当然か」

 

 南極のど真ん中。いや、座標は確かに南極だが、そこはただの氷の陸地。鴇崎星はそこで待ちぼうけていた。

 

「縁の結び方を失敗したかもしれないか。としても、他の異聞帯に出現した形跡はない。そも、そうできないようにしてあるはず。ロシアに出ようとすれば、強制的にこっちへ弾かれるようにも仕組んだが。ま、気長に―――……ん?」

 

 氷の陸地にシャドウ・ボーダーが浮上するように行った画策に不具合を疑いつつ、鴇崎が踵を返そうとしたその時だった。

 

 空気が震える。空間が、そこにあるはずのない物に押され、軋む。幾ばくかそうした後、空間が押し出されて開いた空白に、大きな人工物が徐々に色を得る。

 その大きな人工物こそが鴇崎の待っていた存在、シャドウ・ボーダーだった。

 

「出現の仕方は『曖昧の魔眼』に似ているかな?もしかして模倣(コピー)されたかもしれないね」

 

 シャドウ・ボーダー、つまりは敵対関係にあるカルデアが現れても、鴇崎は一切動じない。

 

「中は……。おやおや、てんやわんやだね。浮上した目の前に敵が居れば、そうもなるか」

 

 シャドウ・ボーダーの中を『遍在の魔眼』で覗けば、乗組員の慌て様が手に取るように分かる。そして、落ち着くには時間が必要である事も。

 

「対面にはまだ時間がかかりそ―――……ああ、君らは良い意味で期待を裏切ってくれるよ。藤丸立香、マシュ・キリエライト」

 

 のんびり構えていた鴇崎だったが、シャドウ・ボーダーのハッチから出てきた藤丸立香とマシュ・キリエライトがその身を露にする。

 

「鴇崎、星さん……」

 

「やぁ、マシュ・キリエライト。表情パターンが増えたね。前の君はそんな悲しそうな顔なんてしなかった」

 

 ファーストミッションが始まる前のマシュと今のマシュ。それには天と地程の差があった。敵対者として知人と再会する事に悲しむ彼女は、とても人間らしい。ファーストミッション以前、頻繁に接触していた鴇崎としては喜ばしい変化である。

 

「貴方は、何をしたんですか」

 

「初めましての挨拶もないとは、寂しいじゃないか。鴇崎星は藤丸立香との対面を楽しみにしていたというのに」

 

 立香が敵意、というにはあまりにも温いそれを向けられても、鴇崎は涼し気で、まるで応えていない。だからと言って、立香が緊張を解いたりもしないのだが。

 

「ま、仕方ない。とりあえず質問には答えようか。まず、鴇崎星のプロジェクトとクリプターのプロジェクトを区別しよう。鴇崎星のプロジェクトは、君たちが虚数潜航の瞬間に観測した炎と、星を満たす海だ。宇宙から飛来した7つの空想樹……、おっと失礼。あれが樹であると教えるのは拙いかな?いや、鴇崎星にとっては無問題(ノープロブレム)か……。話を修正すると、あの隕石のようなモノと、その着弾点に発生したスーパーセルはクリプターのプロジェクトだ。鴇崎星の管轄じゃない」

 

 鴇崎は饒舌なまでに情報をぶちまけた。された立香たちからしたら有り難いが、そこに謀略の影を窺ってしまう。鴇崎の真の目的からすれば、本当にただの善意である。

 

「そうして区別した上で、あの炎とこの海について説明しよう。あの炎は、クリプターたちの悠長な濾過異聞史現象を改良(アップデート)したモノ、彼らがやろうとした人類史の白紙化を急速に進めたモノだ。おかげで、人類は苦しまずに逝けた事だろう」

 

「あの炎は、人類を抹殺するためにやったって言うんですか!」

 

「クリプターのやり方よりは遥かに良かったはずさ。何せ、死んだ事を自覚する暇もない。ついでに、その後は燃料として有効利用される。彼ら程慈悲もない訳ではないし、浪費もしない」

 

 声を荒げたマシュに、それはさも慈悲深い行為だったように鴇崎は述べる。その言い回しは、何処となくゲーティアに似ていた。

 その点も踏まえ、傍観しているホームズは気付けただろう。鴇崎の背後に居るゲーティアの存在を。

 

「さて、君たちとの歓談に興じたいところだが、スケジュールが混んできた。それと、頭上注意だ、マシュ・キリエライト」

 

「え?」

 

〈上空から適性反応!〉

 

 鴇崎の注意、ダ・ヴィンチからの警告もあり、マシュと立香は上空を見上げる。

 

 そこには、禍々しい何かが立っていた。

 

「あれは数多の思い出、数多の意思が露と消えた己が未練――」

 

〈この魔力の高まりは……!マシュ!敵の宝具が来る!〉

 

 禍々しい何かが今、緩やかに宝具を放とうとしている。この窮状を対処できるのは、マシュの宝具だけだ。

 

「くっ、うっ……!お願い、ギャラハッドさん!もう一度だけ……。それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷───顕現せよ、『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

「――切除せよ、『いまは何こ追想の城(モールド・カルデアス)』」

 

 1つの盾に2振りの鋸、いや、同じく1つの盾だった物が激突する。

 

「きゃあ!」

 

「マシュ!」

 

 残念ながら、2つの盾は拮抗せず、マシュが弾き飛ばされた。しかし、攻撃してきた何かは追撃に走らず、鴇崎の下まで飛び退く。

 

「弱いし、柔いです。そんな盾でどうやって先輩を守るつもりですか、汎人類史の私」

 

「え……?マシュ……?」

 

 酷く冷淡に言い捨てた何かを、立香は抱え起こしたマシュと見比べる。

 その何かとマシュは、瓜二つだった。姿は一切変わらない。姿が変わらないからこそ、その冷淡さと禍々しい鎧、そして真ん中から割れた盾が際立っている。その盾は先程鋸として振るわれた得物だ。

 

「紹介しよう、彼女はマシュ・キリエライト。そちらのマシュとは別世界線の存在だが、冠位時間神殿直前までの経緯はほぼ一緒の同位体だ」

 

「捕捉します。私は、マシュ・キリエライト・フラウロスです。脆弱な肉体は捨て、新たな肉体も魔神柱の因子で補強しています。そこの恩知らずとは細胞レベルで別人です」

 

 鴇崎の紹介に異聞帯のマシュは嫌悪感を隠しもせず、同時にその嫌悪感を汎人類史のマシュへ向けた。

 

「別世界線のマシュ……?いや、そんな事より。マシュが恩知らずだなんて」

 

「恩知らずですよ、そんな女。たくさんのモノをくれた先輩を、未だに戦場へ送り出しているのが証拠です。恩を感じているなら、是が非でも安全圏に留めるべきでしょう」

 

「私は、そんな……」

 

「反論はせめて私の宝具を防いでからにしてください。盾にすらなれないのでは、結局貴女は先輩に負担を強いてるだけです。隣に居れば心の支えくらいにはなれる、なんて妄言も止してくださいね。本当に心の支えになれていたなら、先輩が影で泣く事なんてなかった」

 

 自己嫌悪に近い感情を以って、マシュ・フラウロスはマシュ・キリエライトを侮蔑した。大切な人が抱える負担も知らず、無垢な程純真なその少女を、汚れてしまった自覚のあるマシュ・フラウロスにとって見るに堪えない。

 

「マシュ・フラウロス。お楽しみ中のところすまないが、タイムリミットが来てしまった。我らが王のお越しだ」

 

 鴇崎がそう述べ終えるや否や、その場に途轍もない威圧感が紛れ込む。

 

 異形の姿を持ちながら、威厳を感じさせる王が、御身を晒す。

 

「ゲー、ティア……」

 

 本物である事を疑いたくも、本能が本物である事を訴えるかの王に、立香は息を呑んだ。

 

「ようこそ諸君。 早速だが死に給え。 無駄話はこれで終わりだ」

 

 『人理焼却』の実行犯、人理を覆した大罪人、魔神王ゲーティア。かの王は一切の容赦なく、立香たちへ光帯を放った。

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