亜種異聞帯『創世光年運河ゴエティア~ある少年と少女の敗北~』   作:霖霧露

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幕は切って落とされる

「ようこそ諸君。 早速だが死に給え。 無駄話はこれで終わりだ」

 

 平行世界とはいえ、天文学的な確率だったとはいえ、ゲーティアは汎人類史の己が敗北した事実を軽視していない。

 故に、かの王は初撃に光帯を使い、しかも万が一にも逃げられぬよう、立香とマシュ、シャドウ・ボーダーを別けて半球状で丹念に囲った。

 だが、立香たちは万が一の勝利を収めた存在。確かに、彼らでは逃れられない。ならば、救いの手が伸びるのも、ある種運命だ。

 

 立香たちの足元に、魔術の陣が展開される。それは、転移の魔術。人理が曖昧になったとはいえ、とても高度な魔術だった。

 転移の魔術がギリギリ、しかし立香たちが光帯をかすめる前に、彼らを任意の場所へ転移させた。

 

「今のは……」

 

「死にぞこないの足掻きか」

 

「うんうん。彼らに手を貸す野良サーヴァントが居ないとなると、君が舞台に上がるしかないよね」

 

 マシュ・フラウロスには先程の魔術に理解が及ばなかったが、ゲーティアは予測していた可能性の1つとして、鴇崎は確定的な未来として、第三者の介入に驚かなかった。

 

()()ゲーティア。せいぜい足掻いてくれ、じゃないとこの舞台を整えた意味がない」

 

◇◆◇

 

「う……ここは……?」

 

 光帯と転移の魔術の副次的な発光で目が眩んでいた立香は、ようやく直ってきた目で周囲を窺う。

 光帯の熱を感じず、空気も変わった事から、立香は何処かに転移させられた事を察していた。では、誰が自身らを転移させたのか。究明が急務である。

 しかし、先程の眩い光に晒されたのとは打って変わり、洞窟のようなその場所は薄暗い。

 

 そこに、蝋燭の明かりが灯る。そうして灯った明かりで照らされたのは、汚れたカルデア医療部門の制服を着込む、見慣れた顔の青年だった。

 

「え……?」

 

「ドク、ター……?」

 

 そう、その顔はロマニに酷似している。だが、その顔にロマニを重ねた立香とマシュ・キリエライトも、違和感が拭えなかった。瞳の色が違い、表情は顔に似合わない程固いのである。

 

「……。『やぁ、カルデア。どうにか間に合ったようだね』」

 

 硬い表情に仮面を被るように、青年は笑顔を取り繕った。

 

「……貴方は、誰ですか」

 

「『ああ、うん。まず言わせてもらうと。お気づきの通り、僕はロマニ・アーキマンじゃない』」

 

 立香とマシュはその事実を理解していても、青年の証言で確定してしまい、寂寥感を抱く。

 

「『僕は、まぁ、使い魔だ。故合ってこの姿をしているけど……。「レメゲトン」と、とりあえずそう呼んでくれれば良い』」

 

「……。レメゲトンさんが俺たちを助けてくれたんですか?」

 

 青年が正体を明確にせずとも名を名乗ったところで、立香は寂寥感を忘れんがために現状把握へ動いた。

 

「『そうだ、君たちにこの世界をどうにかしてほしくてね。しっかりお仲間さんも転移させてるし、ここはゲーティアたちから隠蔽できてる。複数のサーヴァントに協力してもらってね。残念ながら、そのサーヴァントたちはもう残っていないけど』」

 

 異聞帯へのカウンターとして召喚された英霊は多く居た。しかし、それも過去の話。その悉くがゲーティアたちによって始末されているのだ。

 

「『色々と説明してあげたいんだが、その前に。君たちに会わせたい人が居る。付いてきてくれ』」

 

 レメゲトンは答えも聞かずに振り返り、さっさと歩き出す。言葉こそ柔和なものだったが、態度には棘があるように感じられた。

 立香はマシュ・キリエライトにアイコンタクトして頷き合い、レメゲトンの背を追う。

 

 薄暗い道中はレメゲトンが通るのに合わせて明かりが点く。それで洞窟の様子が多少見えるようになれば、ここが洞窟ではないと分かるだろう。天井も壁も床も、等しく透き通る材質、氷で形成されていた。

 実に簡素な氷の道。装飾はそれこそ明かりとして備えられた蝋燭しかない。

 それも当然だろう、ここは監獄の役割を担っていたのだから。この監獄は、ゲーティアたちにとって要注意でありながら、創世したこの完璧な星をゲーティアが見せ付けようとした人物を捕らえていた。

 

「『この先だ。一応の忠告だが、気を強く持ってくれ』」

 

 先の真っ暗な横穴を前にして止まるレメゲトン。忠告も相まって、立香たちは警戒心を高める。その様子を見届けてから、レメゲトンは横穴に入った。道中と同じように、しかし道中と違ってより確かな明かりが灯り、部屋全体を明るく照らす。

 

「……!ろ……ロマン!」

 

「ドクター!」

 

 氷の椅子に腰かける男。桃色という非常にユニークな髪色とエメラルドグリーンの瞳。くっきりと映し出されたその姿に、立香とマシュ・キリエライトが見紛う訳はない。

 そう、彼はロマニ・アーキマンその人だ。「異聞帯の」という枕詞が付くが。

 

「……。酷いじゃないか、レメゲトン……。僕が寄り添った彼らではないけど、立香とマシュにこんな僕は見せたくなかった……」

 

「ロマン……?」

 

「ドクター……?」

 

 そう。その人が、冠位時間神殿で指輪を神に返す事すらしなかった敗北者。異聞帯のロマニ・アーキマンである。

 マシュ・フラウロスの裏切りに深く心を抉られ、ゲーティアに見せつけられた完璧な世界に酷く心を削られた、最早人間の抜け殻である。

 

◇◇◇

 

「幕は上がった。さぁ、主人公(ヒーロー)。見せてくれ、愛と希望の物語とやらを。そして、刻ませてくれ、その物語に鴇崎星の名を」




 本作はこれにて終了とさせていただきます。短い間ですが、お付き合いいただきありがとうございました。

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