勇者の日誌   作:Yuupon

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第一章 旅立ち
01(勇者日誌)


 

 

 

 一日目

 全国一斉勇者調査の紙が家に来た。

 何でも、魔王を討伐するには勇者しかないとか。

 国が送った軍勢が魔王に蹴散らされた話は聞いたけど、とうとううちの国王もとち狂ったようだ。

 しかも見たところ強制かよ、いかなかったら投獄とか頭おかしいだろマジで。

 しゃーなしで調査は行くけどさ。

 どうせ俺には関係ない話だしサッと行ってサッと帰ろう。

 

 

 

 二日目

 【速報】俺氏勇者だった模様。

 マジかよ、選ばれたんだけど。

 測定に行ったら、地面に突き刺さってる剣に触れとか言われて触ったらピカーって光って、その後は有無を言わさず城に連行されたのを覚えている。

 王国の人曰く俺は二人目に発見された勇者だそうだ。

 先に見つかっていた勇者を紹介されたが、クソイケメンだったわ。

 金髪の痩せ型。男前の顔というよりは美少年だな。

 コミュ障の俺ともちゃんと話してくれて、めっちゃ良いやつだった。

 クラスに居たらリア充タイプだろう。

 見た目だけじゃなく性格も良いとか、マジで勇者やんけ。

 そう考えたら俺の場違い感やべぇな。

 

 

 

 三日目

 国王に招集された。

 白髭をたくわえたジーさんだ。

 なんか世界を救えとか言われた。

 軍資金も割とくれたけど、世界を救うにしてはしけてやがる。

 軍資金を使って仲間の武器や防具を整えるのだ、とか言われたけど仲間どこよ。

 セルフサービスですか、そうですか。

 とか思ってたら、国王との面会が終わった後にイケメンが仲間を探せる場所を教えてくれた。

 カルロスの酒場って場所らしい。

 そこで気の合う仲間を探すと良いよとイケメンスマイルで言ってた。

 つかあいつマジで良いやつだわ。良かったら案内しようか? とかめっちゃ世話焼こうとしてくれるもん。

 あ、ちなみにお誘いは断った。

 たりめーだ、こちとらコミュ障だぞ。知らんやつと旅出来るか。

 それにそもそも俺は旅に出る気ねーしな。

 誰が死ぬと分かりきってる魔王討伐に行くか。

 すまんけど、俺はいつも通り家でこもってぬくぬくとニートすると決めている。

 そう思って家に入ろうとしたら両親に追い出された。

 何でも「魔王を倒すまでは家には上げない」だそうだ。

 あの、息子に死ねと申されてます?

 ……いつもなら家の前で赤ん坊のように泣き叫んで、両親が根負けするまでアピールするところだが今日は軍資金という名の金がある。

 つーわけで宿に泊まった。

 五〇〇ソルの軍資金に対し、宿一泊あたり、六ソル。

 リーズナブルだぜ、飯が美味い。

 ……とはいえいつかは金が尽きてしまう。

 金を稼ぐ手段を考えなきゃな。

 

 

 四日目

 ファッキン!

 もう俺が勇者に選ばれたことが周知されてやがった。

 知り合いは俺が魔王討伐に向かう前提で考えてやがる。お陰でバイトも出来やしない。

 となると残った金稼ぎの手段は一つしかない。

 というわけでしゃーなしで武器屋で武器を買った。

 銅のつるぎ一本で一二〇ソル。

 高い、ぼったくりじゃねーだろーな。

 剣の手入れとか振り方を教わってたら日暮れになってた。

 とはいえ、これで戦うすべは手に入れた。

 明日からは街の外で魔物を倒して金稼ぎをしようと思う。

 まぁ、街周辺のミニスライムとかなら余裕だろ。

 

 

 五日目

 魔物ってヤバいわ。

 ふつーに殺されかけた。

 一匹なら何とか対応出来るんだけど二匹超えると途端にヤバイな。

 ミニスライムって柔らかいし、核を潰すだけで倒せるから余裕かと思ってたけど案外攻撃が痛い。

 三匹出てきてボコられ始めたときはマジで死を覚悟した。

 剣を振り回して何とか倒したけど、満身創痍だ。

 それに普段動かないニートだったから全身の筋肉痛もやばい。

 しかも全部で五匹倒して、たったの一〇ソル。

 宿代考えて儲けはたったの四ソル……世知辛い。

 死ぬ思いして四ソルかぁ……、マジでやってられねー。

 ニートしてぇよ……。

 

 

 六日目

 宿屋で目が覚めたら筋肉痛と怪我が全て治ってた。

 何を言ってるか分からないけど俺も分からん。

 宿屋やべーな、こんな効果あるとか知らんかったわ。

 ともあれ、昨日死にかけたばかりで狩りに行く気は起きず街中で美味い話がないか情報収集することにした。

 ……とはいえコミュ障だから殆どまともな情報は得られなかったな。

 有用そうな話としては、道具屋で売ってるポーションを飲むと体力が回復出来るとかか。

 あとは人が噂してるの盗み聞きしたけど、イケメン勇者は三人の仲間と共に国を旅立ったっぽい。

 構成は勇者、戦士、僧侶、魔法使いで仲間は全員男だとか。

 ……ホモかな?

 別に性的嗜好を否定するつもりは無いが、俺を狙ってるならノーサンキュー。

 すまない、俺はノーマルだ。

 とりあえず一日置いたことで気力も回復したし、明日は道具屋でポーションを買って魔物を狩りに行こう。

 

 

 

 七日目

 ポーション凄ぇわ。

 一本あたり六ソルと割高だが、骨いったかな? くらいの怪我ですら一本呑むだけで完全回復した。

 ……まぁ治るのは怪我だけで、体力は戻らないんだけどな。

 家に篭りっぱなしのニートだった身からすれば数時間歩き回るなんて苦行に加え、戦闘は中々に厳しいものがある。

 あ、それと新しい魔物と戦った。

 プチモンキーというらしい。緑色の小さな猿で、木の枝を武器に攻撃してくるやつだ。

 ミニスライムも緑色の見た目だけど、この周辺は色的に緑縛りみたいなものでもあるのだろうか?

 ともあれ戦果としてはミニスライム六匹と、プチモンキー一匹。

 素材を換金して一六ソル!

 ミニスライムが一匹あたり二ソルに対し、プチモンキーは一匹で四ソルも手に入る計算だ。

 収支を考えればポーションと宿で一二ソル消えるから四ソルしか儲けられてないわけだが、これは良い情報が手に入った。

 明日からはプチモンキーを中心に討伐してみよう。

 

 

 八日目

 死ぬかと思った。

 今までは平原で戦っていたが、今回プチモンキーが多く居そうな森の方に入ったらいつもより多く魔物が出てきてヤバかった。

 毎回の戦闘で敵が二匹以上出てくるから、ポーションの減りも早い。

 三本買ったポーションを全部使う羽目になった。

 結果としてはミニスライム四匹、プチモンキーを三匹討伐したが、収支もマイナス。

 ダメージが地味に痛いんだよな。

 俺の体力が全快だとして、ミニスライムは三発まで耐えられるが、プチモンキーは二発が限界。

 急所に当たったら普通に死ねる。

 まだプチモンキーを主体に討伐するのは早いかもしれん。

 何とか宿屋に帰ってきた時には回復アイテムを使い果たしてた上に、体力もギリギリだったしなぁ……。

 漫画も修行パートがあって強くなるわけで。

 ……明日からは討伐ついでにミニスライム相手に攻撃を避ける練習でもしてみるか。

 

 

 

 九日目

 いつも通り宿を出ようとしたら宿の親父に呼び止められた。

 用を聞くと、防具を着てないのが気になったとか。

 ……言われてみればこれまで私服で戦っていたな。そりゃダメージも大きいわけだ。

 そういうわけで防具屋に行ってみた。

 鎧とか色々売ってて実際に試着させてもらったけど、駄目だわ。

 いや、普通に重さが三〇キロとかすんのよ。

 ニートやってたやつが、そんなの着た状態で動き回れるわけもなく防具は断念した。

 かわりに軽い装備が無いか聞いたら旅人の服があるとか。それを買った、八〇ソル。

 で、それを着て街の外に討伐に行った。

 総評としてはミニスライムの攻撃が四発まで耐えられるようになった。

 ……思ってたより効果あるんだな。

 一発分の差は結構でかい。

 で、昨日書いた敵の攻撃を避ける方も試してみた。

 うん、避けるだけに集中すれば意外と避けられる。敵の攻撃を剣で受け止めても良いわけだからな。

 ただ問題が一つ。

 怪我的な意味では大丈夫なんだけど、根本的な体力が足りない。

 ぶっちゃけ息切れがやばい。

 一戦終わるごとにハーハー言ってる。

 そのせいで後半の被弾率が高かった。

 ミニスライム自体は七匹討伐して、ポーション未使用。

 疲れたけど今までで一番結果が良かった。

 とりあえず教訓としては三匹以上は駄目だわ。

 避ける間も無く連打されるとキツい。よって即逃げ安定。

 明日はこのやり方をもとにプチモンキーに再チャレンジしようと思う。

 

 

 

 十日目

 やったぞ。

 疲労感やばいけどプチモンキーが沢山倒せた。

 万が一に備えてポーションを三本買ってたけど、消費も二本で済んだ。

 ここ何日か戦ってるからかミニスライムが一撃で倒せることも増えてきた気がする。

 反省点としてはやっぱり回避だな。

 敵が一匹の時はいけるんだけど、二匹以上になると厳しい。

 森の中だと特に、敵が二匹以上で出てくることも珍しくないからな。

 一度に戦うのは二匹まで、しっかり回避もする。

 この俺ルールが無かったらやべーやべー。

 最終スコアとしてはミニスライム四匹、プチモンキー七匹。

 合計三六ソル、諸々差っ引いて一二ソルの儲け。

 やっと一日の収支が二桁になった。

 ……それはともかく最近街の人の視線が痛い。

 こいついつ旅立つんだよ、みたいな顔で見ないでほしい。

 

 

 

 

 

 


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