勇者の日誌   作:Yuupon

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17(武闘家日記)

 

 

 

 

 

 八十一日目

 トンカー王国は水の都と呼ばれる国です。

 町中に張り巡らされた水路が特徴的で、人々は店代わりに船で商品を売ったりしているとか。 

 話には聞いていましたが、本物を見るとやっぱり綺麗ですね。 

 あと勇者がドドラサンドを買ってくれました。

 ドドラ大陸で育ったドドラ豚をジュワーと焼き上げ、新鮮なレタスと一緒に挟むパン。

 食べてみましたが、美味しかったです。すごく、肉厚で。

 ……ただ、街中は凄くピリピリしていました。

 何でも、最近になって魔物が街に攻め込んでくるようになったとか。

 成る程、それで兵士が町中を巡回してたんですね。

 

 

 

 八十二日目

 トンカー王国を襲う魔物の軍勢。

 そんな話を聞いたからか、アーシアさんからしばらく行動を共にしないかと提案がありました。

 こちらからしても願ってもない話です。勇者も頷いていました。

 

 

 

 八十三日目

 私の一族に伝わる力、オーラ。

 アーシアさんに技を作ればいいという話を以前伺ったのですが、どうにもアイデアが浮かびません。

 勇者に聞いてみたら「武闘家のやりたいことを技にしたらいい」と言われました。

 わたしの、やりたいこと?

 言われてみればそうです、私のやりたいことって何でしょうか。

 一口に勇者と共に戦える仲間になりたいと言っても、戦い方は色々あります。

 戦士のように、勇者と共に武器を振るい、時には誰かを護るために盾を構える。魔法使いのように魔法で敵を殲滅する。僧侶のように味方を回復、強化する。

 私が目指すべき、やりたいことって何?

 

 

 

 八十四日目

 情報収集のために街中を歩いていたら魔物に遭遇しました。

 アイスクラゲと、ハーフマーマン。 恐らくは水路から現れたんでしょう。

 アーシアさんは凄いです。魔法の力で、沢山の魔物を一気に殲滅することが出来ます。

 勇者も凄いです。周囲を観察して最善の行動をとり、個として強く、居るだけで安心感を与えます。

 対して、私に出来るのはオーラだけ。

 しかも自分しか強化出来ない上に、その攻撃も勇者に全く通じない。素早さだって負けている。

 今の私は、ワガママを言って、それを勇者の厚意で聞いてもらって着いてきているだけ。

 早く、二人に出来ないことを身に付けないと。

 ……修行あるのみ、です。

 

 

 

 八十五日目

 二人に出来なくて、私に出来ることって何だろう。

 分からない、私にはオーラしかない。

 私一人を強化する力。でも、これじゃ駄目だ。これだけじゃ私しか守れない。

 もっと上手い使い方は出来ないのか。

 誰かに力を分け与えたり、大勢を護れるような力。

 あるいは何物も寄せ付けないような個の強さ、何でもいい。何か、何か。

 

 

 

 八十六日目

 トンカー王国の王様に呼ばれて城に行きました。

 気乗りはしませんが、王様の呼び出しでは仕方ありません。

 勇者が、黒の勇者と呼ばれていました。もう一人の勇者は最近、白の勇者と呼ばれているそうです。

 王様からの報酬は何でも好きなものを言えとのことで、アーシアさんが望みのものを口にしていました。

 魂のオーブ。聞いてみたら、以前勇者が見せてくれた、魔力でもオーラでもない力を宿すオーブのことだそうです。

 彼女はそれを探し、集めているとか。

 残念なことに実物は無いようでしたが、北西の森に光が降り注いだという目撃情報を得ました。

 

 

 

 八十七日目

 最近は魔物と戦う機会がなく、アーシアさんが言い出した「私はオーブを探しに行く」という言葉は渡りに船でした。

 私も賛成しましたが、今回の勇者は慎重です。

 周囲の魔物の強さを確認したいとのことでした。具体的には明日、周囲の魔物を調べて、実際戦ってから改めて出発しようとのことでした。

 

 

 

 八十八日目

 午前中はフリーで、午後に狩りに向かいました。

 そして出てきた魔物を見て、ドキリとしました。

 ワーウルフ。シャドウウルフにそっくりな魔物。しかもそれが三匹も。

 思わず警戒しましたが、シャドウウルフのように食べただけ強くなるような性質はないようです。

 オーラを使えるようになった今、素早さで上回れます。

 私も成長していますから。

 でも、勇者はオーラ無しで真正面からワーウルフと戦えます。

 ……追いつくには、どうすれば? 

 

 

 

 

 八十九日目

 二日後に北西の森に向かうことになりました。

 何か新しい技を身に着ける為に、新しいチャレンジをしようと思います。

 ……オーラの良い点、それは攻撃力や防御力を底上げ出来ること。

 これを纏わせるのではなく、何かの形に出来ないか。

 出来ることをしましょう。出来ることを。

 

 

 

 九十日目

 オーラ量の少ない私にとって、オーラだけに頼る戦い方は限界がある。

 でも、私にとっての武器はオーラしかない。

 私がもっと強くなるにはオーラ量を増やすとともに、自らの体を鍛えなければ。

 でもそれだけじゃ足りない。本当の仲間になるには、まだまだ。

 

 

 

 九十一日目

 北西の森に向かう日。

 道中、ブルーゴーレムやかおまじんに襲われました。

 蹴り飛ばす瞬間だけオーラを高め、全力で蹴ってようやく一撃。

 動きは良くなっている、と思う。

 ただ、オーラはどうも形に出来ません。仮に球体を作ろうとしても霧散してしまう。

 諦めません……。

 

 

 

 九十二日目

 北西の森に着きました。

 戦っている間は気が楽です。何も考えずに済みますから。

 とはいえ連戦に次ぐ連戦。

 オーラの残量もかなり減ってきました。

 流石に野宿では疲れもあまりとれませんし、厳しいです。

 アーシアさんも疲労してるようでした。

 ……あの、何で勇者はそんなにけろっとしているんですか?

 

 

 

 九十三日目

 まどうじょ。

 魔物なのは、魔物なのは分かっています。

 私を見て、おねえちゃんって呼んでくれました。

 そんな呼び方をされたのは、里を滅ぼされてから一度もありません。

 もう家族の居ない身。そんな呼び方をされることは生涯無いと思っていましたが、ずるい。

 しかも希望を抱かせといて逃げるって何ですか!

 なんだか泣きたいくらい悲しいです。 

 

 ……そうそう。

 結局、魂のオーブは見つかりませんでした。

 私もオーラが残り僅か、アーシアさんも魔力が切れかけなので一時撤退です。

 帰ったら改めて、探しに行きましょう。

 

 

 

 九十四日目

 日記に書くには濃厚すぎる一日でした。

 トンカー王国が魔物の軍勢に攻められていて。

 兵士さんを助ける為にアーシアさんと戦場に飛び込んで。

 とにかく少しでも数を減らそうと戦って、戦って、戦って。

 ようやく魔物たちの勢いが収まってきて、希望が見えてきた頃、魔王軍幹部を名乗る魔物が現れて。

 弾幕のような魔法で兵士さんがあっという間にその魔物に倒されて、疲労困憊でふらついた私を庇うためにアーシアさんが身代わりになって。

「……護れなくて、ごめんなさい」

 私の目の前で、倒れたアーシアさんの姿はよく覚えています。

 どうして庇ったのか聞いたら、体が動いてしまったと彼女は答えていました。

 それを聞いてーーーーようやく私は気づきました。

 ……私は何を悩んでいたんだろう。

 私がなりたかったものは、別に誰にも出来ないようなことが出来る人間じゃなかった。

 里を滅ぼされて、大切な誰かを失って、たった一人で生きていくしかなかったあの悲しさを。

 そんな重たいものを抱える痛みを、もう誰にも味わわせたくなかった。

 それが私の原点。大切な誰かを奪わせないための決意。

 そう思ったとき、不思議と身体からオーラがあふれてきました。

 急速にイメージが固まっていって、オーラが形を作っていって。

 気が付けば私の目の前には、盾がありました。

 誰かを護るための、盾が。

 直後でした、幹部の魔物が極大の闇を放ってきて、私はとっさに皆の前に出て盾を構えました。

 もう尽きかけてたオーラを振り絞るように全力で力を籠めて。

 耐えて、耐えて耐えて耐えてーーーーもう、限界かと思った時にゼメスが倒れた。

 勇者が背後から魔物を斬り捨てた、そのことに気付いた瞬間、身体から力が抜けて、その後の記憶がありません。

 気が付けば病院でした。どうやら、病院の先生の話によると魔王軍は撤退していったそうです。

 身体がボロボロで、明日までは休むようにと言われました。

 

 

 

 

 九十五日目

 勇者がお見舞いに来てくれました。

 フルーツと、それから昨日のことを褒めてくれて嬉しかったです。

 勇者が帰った後、同じ病院にいる兵士さんに話を聞くと、勇者はずっと戦場で人助けをしてたとか。

 何人もの兵士が彼に命を救われたと話していて、自分の事じゃないのに嬉しくなりました。

 私もあんな人になりたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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