勇者の日誌   作:Yuupon

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19(女神日記)

 

 

 

 

 八十一日目

 トンカー王国に着いたは良いもののやけに物々しい。

 何でも、魔物の軍勢に何度も街が襲われてるとか。

 呆れるほど手が早い。この土地にも魔王の手が迫っているようだ。

 元々この街は通り道にして、さっさとユグノーシアに行くつもりだったけれど、そうはいかないと。

 国相手に派遣されることを考えると、恐らく幹部級が居るはず。

 流石に今の私が挑むには厳しい相手だ。

 これはちょっと、考えて動かないとね。

 

 

 

 八十二日目

 そこらの魔物はともかく、幹部級の魔物に姿を見られれば女神だとバレてしまう可能性もある。

 大陸の魔物たちの動きが不穏なことも踏まえて、勇者達に行動を共に出来ないかお願いした。

 特に勇者は私の事情を知ってくれている。

 今の私に助けを求められる相手が他に居なかったのもあるけど。

 ……暫くは派手な動きを控えて情報収集に徹しよう。

 

 

 

 八十三日目

 一日かけて情報を集めてみた。

 魔物の軍勢は決まって、街の外に姿を現すらしい。

 それもどこからともなく、突然現れるのだとか。

 ……恐らくはテレポートの魔法だと思う。

 ただ、軍勢と言われるほどの数をテレポートで運ぶなんて常識的にあり得ない。

 そんなことが出来る魔物は、やはり幹部級だろう。

 可能性は高い。

 

 

 

 八十四日目

 街中で急に魔物に襲われた。

 街の人に聞くと、魔物が街の中に現れるのは初めてらしい。

 これは偶然なのだろうか?

 もしや、私を狙って? でもそうなら前々から私の居場所を相手が知っていたことになるし、泳がせている理由が分からない。

 ……分からないけど、最悪を想定して動こう。

 

 

 

 八十五日目

 昨日の一件のせいか、兵士の数が増えた気がする。

 それと、最近は武闘家さんの様子がおかしい。鬼気迫るというか、なんというか。

 悩みでもあるのかしら?

 

 

 

 八十六日目

 トンカー城に招かれた。

 二日前に魔物を討伐したことが知られたらしい。

 何でも好きなものを言えと言われて、オーブを探していることを伝えたら有用な情報が返ってきた。

 三か月前に北西の森に空から降り注いだ光、間違いなく魂のオーブだと思う。

 時期もあってるし。

 このオーブさえ手に入れば、女神の力を使えるくらいになるかもしれない。 

 ちょっと希望が湧いてきた。

 

 

 

 八十七日目

 早速オーブを探しに行きたいことを伝えると武闘家さんが賛成してくれた。

 ただ、勇者にちょっと待ってと言われてしまった。

 周囲の魔物の強さの確認がしたいらしい。

 ……言われてみればちょっと気がはやっていた。

 落ち着かないと、私。

 

 

 

 八十八日目

 周囲の敵と戦った。

 たったオーブ一つ、されどオーブ一つ。

 勇者から貰ったオーブのお陰で、以前よりかなり戦える。

 少なくとも、フレアやアイスなどの初級魔法しか使えなかったのに比べて、魔力量が回復したことで一気に上級魔法まで唱えられるのが、その証拠だ。

 とはいえ、魔王と比べれば蟻のようなもの。

 やはり早急にオーブを回収したい。

 

 

 

 九十一日目

 数日ぶりに日記を書く。

 私達はトンカー王国を出て北西の森に向かった。

 道中の魔物も以前より確実に強くなっていて、改めて魔王の影響を感じる。

 明日には森に足を踏み入れられるだろう。

 より注意して行動しなければ……!

 

 

 

 九十二日目

 温存してはいるけれど、魔力の消費が激しい。

 これは不味い。まだ目的地にも着いてないのに。

 それと周囲に警戒しながら歩いているせいか、肉体的な消耗も激しい。

 冒険中は仕方ないことだけど、汗が少し気になる。

 女神だし、におわないよね? 大丈夫よね?

 ……お風呂に入りたい。

 

 

 

 九十三日目

 目的地に着いたけど、オーブは無かった。

 僅かに力を感じるからここにあったのは間違いないと思う。

 恐らくは誰かに持ち出されたんだろう。

 問題は誰に持ち出されたのか、だけど。そこまでは分からなかった。

 

 それと、まどうじょに遭遇した。

 武闘家さんが年相応な姿を見せているのを初めて見た、と思う。

 目がキラキラしてお姉さんぶろうとしている姿を見ると微笑ましい。

 強く抱きしめすぎて逃げられていたのは思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 九十四日目

 私は知っている。

 魔王軍幹部ーーーー魔道老ゼメル。

 永い時を生きた狡猾な魔法使い。元は人間だが、永遠の命を求めて魂を魔に売り捨てた男だ。

 何より、一番目を引いたのがその手元。

 紫色のオーブの載った杖を持っていた。あれは、間違いない。私の力、魂のオーブの一つだ。

 恐らく、北西の森にあったオーブだと思う。同じ力を感じたし。

 よりにもよって魔王軍に回収されていたのか……。

 私が倒れた後のことは武闘家さんから聞いたけど状況は良くない。

 

 姿は見られたと思う。

 もし、あれで私が女神だとバレていたら本当に不味いかもしれない。

 対策を考えないと。

 

 

 

 

 九十六日目

 トンカー王から直々に魔道老ゼメルを討伐せよとのお達しが出たようだ。

 討伐……難しいことを言ってくれる。

 魔道老ゼメルは魔力ある限り、永遠の命を保つことが出来る。

 仮に殺せても、蘇って終わりだ。魔力がある限り、やつは死なない。

 だからこそ、ゼメルを殺すうえで大事なポイントは時間だ。

 魔力が回復できない場所に閉じ込めて、その魔力が尽きるのを待つ。

 これが私の考える、唯一の殺す方法だ。

 逆に言えば魔力さえ尽きれば、やつは死ぬのだけれど……。

 とはいえ正面から戦っても勝てないのよねー。

 捕らえるには、魔法殺しを用意するしかない、か。

 

 

 九十七日目

 魔法殺しの制作は問題ない。

 だが、幹部級に効くほどの薬だと質が大事になる。

 まどうじょの涙、どうやって手に入れよう。

 

 

 

 九十八日目

 無事に素材は入手できた。

 オニオンスープも美味しかったし、制作頑張ろう。

 

 

 

 九十九日目

 最高品質の魔法殺し、完成! 

 かなり集中力使ったし、私自身の魔力を込める必要があったから疲れたー。

 ……とりあえず、これを浴びせることが出来れば、どうにか出来るはず。

 

 

 百一日目

 予想外に苦しめられた一日だった。

 トンカー王国を襲うおびただしいほどの魔物。

 私達が消耗するのを待ってから現れたゼメル。

 そして先日持っていたはずのオーブを何故かゼメルが持っていなかったこと。

 終始ゼメルが宙に浮いたままで、近づくことが出来なかったこと。

 何よりーーーー最後に、勇者が放ったあの一撃

 見た目はまるで、闇の力のようだが違う。

 あれは間違いなく、勇者だけが使える光の力だ。

 なのに、どうしてあんな色に染まっているの?

 分からない、ただ一つだけ確信した。

 女神が消えたせいか、それ以外の要因があるのかは分からないけど。

 ーーーーこの世界に私も知らない何かが起こっている。

 ……たぶん。

 

 

 

 百二日目

 戦いをまとめる。

 ゼメルは捕らえることが出来た。

 勇者の一撃のお陰で捕らえるのは容易だった。

 あとは、魔力の回復が出来ない場所に閉じ込めて時間を待てば、自然に息絶えるはず。

 オーブは行方知れずだ。

 結局、どこに消えたのかは分からないまま。

 魔王軍の本拠地に献上したのか、どこかにある拠点に置いているのか。

 どちらにせよゼメルが死ぬには時間がかかる。そのうちに尋問も行われるだろう。

 その結果は私達にも教えてくれるそうなので、それを待つことにしよう。

 ……正直、今もまだ現実感が無い。

 今度こそ本当に消えてしまうと思ったけど、生き残れた。

 勇者は眠ったままだ。早く起きて、元気になってほしい。

 

 

 

 百三日目

 昼間、お見舞いに行ったけど勇者はまだ目覚めていなかった。

 お医者さん曰く、怪我はもう治ったらしい。

 起きたらお礼を言って、それからあの力について尋ねよう。

 

 それと、私自身のこともそろそろ考えないとね。

 恐らく、もう魔王軍には私の存在は割れているとみていいと思う。

 仮にそうじゃなくても、そうだと考えた方が良い。

 その上で、私はどう動くべきか。

 

 

 百四日目

 勇者が目を覚ましていた。

 まだ記憶が混乱してるみたいだったけど、無事で良かった。

 

 

 

 百五日目

 あの力について尋ねたけど、本人は何も答えてくれなかった。

 少しだけ哀しそうで辛そうな顔を浮かべていたから、何も知らないということではないと思う。

 多分、過去に何かあったんだろう。

 聞けなかったし、まだ私に聞く資格はないだろう。

 だから、せめて感謝だけ伝えた。

 ありがとう、って言ったら笑ってくれて、私も嬉しくなった。

 

 

 

 百六日目

 魔道老ゼメルを打倒した記念のパーティが行われた。

 街全体でお祭り騒ぎだったと思う。

 勇者は色んな人に引っ張りだこだった。普段は飲ませてもらえない武闘家さんも今日ばかりは許可が下りたようで嬉しそうに飲んでいた。

 私もたくさんお酒を飲んだ。

 やっぱり、お酒って美味しい。女神時代もこっそり人に紛れて飲んでいたけど、久々に飲んだから余計に美味しかった。

 

 ……少し酔ったからか、余計に現実を考えてしまう。

 今、私が生きているのは勇者のお陰だ。二度も命を助けられた。

 もし勇者が居なければ、既にこの世界から永久的に女神は失われていた。

 そろそろ私の立ち位置を決めなければならない。

 今いるこの空間は心地よいけど、でも。恐らく顔が割れている私を狙う魔物が今後、必ず現れるだろう。

 魔王の討伐を目指すにあたって、私を抱えるのは大きなリスクだ。

 でも、私は二人と冒険したい。

 

 

 

 百七日目

 二日酔いの武闘家さんの介抱を任された。

 目を見開いてはーはー言ってたのでかなりやばい状況だったと思う。

 大丈夫か尋ねた時の返答も「だいじょうぶです、ちょっと頭が割れるように痛くて、なんか力が欲しいか? って声が聞こえてくるだけなので」とか言ってておかしかったし。

 ……不味いと思って魔法で眠らせたのだけれど、私の判断大丈夫よね?

 次に目が覚めた時にはだいぶマシになったようだから、大丈夫と信じたい。

 

 

 

 百八日目

 王様から届いた装備を受け取った。

 

 それと、先送りにしていたお願いを勇者達にした。

 ……覚悟は決めていたつもりだったけど、いざ本番口に出すのは緊張した。

 仲間にしてください、その一言がとても私にとっては重かったのだろう。

 だから、「もうとっくに仲間だよ」と言ってくれた時は嬉しかった。

 思わず、感極まって抱き着いてしまった。

 

 

 

 百九日目

 ゼメルの方はトンカー王国が厳重に管理することを約束してくれた。

 その上で次の目的地の話になったので、北の街ユグノーシアを提案した。

 元々、私がこの大陸を訪れた目的はユグノーシアなのも大きい。

 勇者達も提案を受け入れてくれた。

 

 

 

 百十日目

 黒く染まっていた勇者の力。

 消えたオーブ。 

 分からないことが多いけど、今は前に進もう。

 まずは前々から決めていた、ユグノーシアに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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