勇者の日誌   作:Yuupon

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 不穏な回。

 


21(勇者日誌)

 

 

 

 百二十一日目

 昨日からアーシアさんの姿が見当たらないらしい。

 何でも夜になっても部屋に帰って来なかったとか。

 心配だったので武闘家と手分けして街中を探してみたけど居ない。

 やる事があるとは聞いてたけどどこに行ったんだろう?

 アーシアさんのことだからそんじょそこらのやつにやられることは無いと思うけど、美少女だからなぁ……。

 ゴロツキに襲われててもおかしくないし、心配だ。

 

 あ、それと変な人が訪ねてきた。

 背中に天使の羽みたいなのを付けてる女の人。よくそんな目立つアクセサリー付けて外出れるな。

 しかもなんかボロボロだったし。

 ヒールしようとしたら結構だって言われた。

 それよりも女神様から伝言がある、とか何とか。

 思わず「えっ」ってなったわ。

 いや女神様って誰だよ、うちには女神なんて居ないんだけど。宗教関連か? 確かアーシアさんも女神を復活させるとか何とか言っててたけどそれか? 

 というか怪我見てられんから治すわとヒール掛けたら逃げられたし。

 つか、逃げてったせいで伝言内容まだ聞いてないんだけど、あれは何だったんだ?

 不審者かな?

 

 

 百二十二日目

 アーシアさんは今日も見当たらない。

 仕方なく街中で情報収集をしていたら、アーシアさんらしき人が一人で火山に向かうのを見たという人が居た。

 火山って……ドドラ火山か。

 何でも街を出て、すぐ先に火山への入り口があるらしい。中は非常に暑く、入るなら装備を整えることを勧められた。

 あと火山には守り神が居るから、くれぐれも奥にある祭壇には近づくなよとか何とか。フリかな?

 というかそんなところにアーシアさんは何の用事があるんだろう。

 分からないけど、明日から探しに行こう。

 

 

 百二十三日目

 火山に行く準備は万端。

 早速行こうとしたら、また変な人が訪ねてきた。

 この前と同じ天使の羽を背中に付けた女の人。

 うん、帰れ。

 そう思って追い立てようとしたけど、様子が変だった。

「私がここに来なかったか!?」

 今思えばすっごい台詞だなこれ。

 なんとなく雰囲気が違うし、ボロボロだったからしゃーなしで怪我を治す間だけ話を聞くことにした。ついでに、前回聞き逃した伝言も気になるし。

 聞いてみると彼女は天使らしい。

 今まで支配された天界で捕まっていたそうだが、悪魔が女神の信頼する天使に成り済まして殺すという計画を聞いて、仲間の協力のもとどうにかこうにか逃げ出して来たとか。

 で、最初に言ってた「私がここに来なかったか!?」という話だが、なんと仲間の天使からの情報だと悪魔は彼女に成りすましているらしい。

 ……中二病かな? 正直怪しいことこの上ないんだけど。

 

 それにしてもまた女神様だ。

 念のため女神って誰のことか聞いてみたらアーシアさんのことを女神と呼んでるらしい。

 アーシアさんと初対面時の俺かな? いや、まぁあの人美人だし性格が女神だからそう呼びたくなるのも分かるけど、アーシアさんその呼び方泣くほど嫌いっぽいからやめた方がいいと思う。

 というかそれがマジならアーシアさん、悪魔に狙われてるってことじゃん。

 火山に向かったという情報は手に入れてるし、早めに様子を見に行った方が良いかもしれない。

 

 

 百二十四日目

 今日のことをまとめる。

 女の人、天使リステと呼べと言われたのでリステと書こう。

 リステは近衛をしていたらしく、槍と盾の扱いに慣れているらしい。

 どのくらい強いのか確かめようと試しに火山の突入前にそこらの魔物の戦ってもらったけど、呆れるくらい弱かった。

 動く木の魔物ーーウッドモドキに突撃したまでは良かったが、まず槍が弾かれ、盾も奪われ、あっという間にピンチになったから慌てて助けたけど、うん。

「女神様の存在が消されたことで我々も弱体化しているのだ」

 とか言ってたけど、うん。

 …………うん。

 流石に人一人守りながら火山に行くのはキツいわ。

 そう思ってリステは宿に置いていこうとしたけど、本人が意地でもついて来るから置いていけなかった。

 流石に縛りあげるのは不味いしなぁ……、見つかった時俺が逮捕されるし。

 連れてくにしてもリステを守る役を俺か武闘家がするわけで、盾が使える武闘家が一番適任になる。

 というわけで基本は俺一人で戦うことになった。つらい。

 

 

 百二十五日目

 一合目から山を登っている都合上、頂上まで二日も掛かった。

 いや、マジで疲れた。

 魔物は多いわ、歩みもゆっくりだわ。相変わらずカラスがうるせえわ。

 ただ、嬉しい発見もあった。俺意外と戦えることに気づいた。

 例の黒く染まる剣が思ったより強いのよ。割とサクサクなぎ倒せたと思う。

 攻撃も何度か受けたけど武闘家の一撃に比べれば軽い。

 この前の模擬戦も一撃で意識飛んで、痛みで意識が戻るとかしたし、あれに比べれば多少はね?

 そんなわけで頂上に着いたけど、ユグノーシアの人が言っていた祭壇があった。

 デカい祭壇だ。お供物が置かれていた。周囲にアーシアさんの姿はない。

 確か『祭壇には近づくな』と警告されたのを覚えている。

 とりあえず近付かないようにしつつ周囲を見回そうとしたけど、なんか一直線にリステが祭壇行きやがった。

 まぁ、何も起こらなかったから良かったけど。

 アーシアさんも見つからなかったし、もしかしたら入れ違いになった可能性もあるので下山した。

 

 

 百二十六日目

 ユグノーシアに帰ってきた。

 アーシアさんはまだ帰ってないようだ。一体どこに行ったんだろう?

 ここまで来ると本格的に誘拐の可能性がありそうだな。

 あるいは、火山で遭難してる可能性もありうる。

 ……ちょっと改めて山の中に潜ってみよう。

 

 

 百二十七日目

 アーシアさんを見つけた。

 ……順を追って書く。

 改めて山を登るルートを注意深く見ながら歩いていると、道中の道で分岐している道を見つけた。

 山を登る道というよりは山にある洞窟に繋がっている道だった。暗かったから一回目は完全に見落としてたわ。

 割と広く、中に潜ってみると意外と奥まで続いている。

 装備自体は大丈夫なので、目印を付けながら奥へと向かうと、行き止まりにたどりついた。

 なんていうか、崩落した後というか土砂が壁みたいになってる感じだ。

 んで、他のルートも無いし帰ろうとした時だ。

 ーーーー目の前の行き止まりから急に風を感じた。

 改めて壁をみると、ゴロゴロした岩の隙間から僅かに風が吹いている。

 ……もしかして。

 そう思って武闘家に壁を全力で殴るようお願いしたら、ぶち抜いた。

 予想通り、壁の向こう側にも空間があったらしい。 

 床に魔法陣のようなものが描かれているのが見えて、さらに中に入ると倒れている人影が見えた。

 ……アーシアさんだった。

 慌てて生きてるか確認したけど息は普通にしてた。

 ただ、意識が無かったので回復魔法を掛けようとしたけど、何故か魔法が発動しないから、担いで病院まで連れて行った。

 大丈夫か心配だ。

 

 

 百ニ十八日目

 どうやらアーシアさんは無事に助かったようだ。

 医者の人が治療は完了したよと報告してくれた。

 生きてて何よりだ。

 ちょくちょく様子を見にお見舞いに行こうと思う。

 

 

 百ニ十九日目

 アーシアさんの目が覚めた。

 話を聞くと、火山の山頂を目指す途中でカラスに杖を盗られたらしい。

 それでカラスを追いかけてったら洞窟まで行ってて、どうにか取り返したとき、急に洞窟の入り口が崩れて出られなくなったとか。

 で、外に出ようにも何故かあの空間では魔法が使えなかったらしく、持っていたポーションや携帯食料、あとはネズミを食べたりして食いつなぎながら岩を片付けていたそうだ。

 とにかく生きていてくれて良かった。

 とりあえずカラスは次見かけた時にぶっ倒そう。

 

 

 百三十日目

 アーシアさんが無事に退院した。

 次からは一人で行動する前に相談するように言った。

 今度からはそうしてくれるらしい、何にせよ無事で良かった。

 

 

 

 

 

 

 


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