勇者の日誌   作:Yuupon

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 色々事情があって遅くなりました。
 少しずつですが書いていくのでよろしくお願いします。

 


22(勇者日誌)

 

 

 

 百三十一日目

 今日は本当に色々あった。

 まず第一に、朝起きたらなんでか、リステが俺の上にのしかかってたのよ。

 マジでビビったわ。

 目が覚めたら目の前にリステだぞ。夜這いならぬ朝這いは予想外だ。俺が起きたのを見て大慌てで逃げてったけど……うん。

 そこまで好感度上がる要因あったのか……?

 事情を聞こうにも、内容が内容だけに本人には聞きづらいし、朝ごはんの時には当たり前の顔してたから俺が気にしてるのが間違っているみたいに思えてくる。

 結局話は聞けないまま、パーティでドドラ火山に登ることになった。

 アーシアさんとは一人で勝手な行動をしない約束をしたしな。

 一回登ったお陰で道は覚えてるし、出てくる魔物も強いは強いけど、前回と違ってアーシアさんが居るからどうにかなる。

 そんなわけであっという間に山頂に辿り着いた。

 マジであっという間だった。それで、アーシアさんに何でここを目指してたのかを聞いたら「忘れ物を取りに来たの」とのこと。

 ……忘れ物ねぇ、ってことは前に一度来たことがあるのか。

 そのあとアーシアさんは迷いなく祭壇に近付いて地面に触れてた。

 直後、祭壇が光りだしてたから何かやったんだろうと思う。

 で、祭壇からなんか鏡が出てきて喜んでた。

 アルテミシアの鏡というアイテムらしい。

 よく分からないけど多分、アーシアさんの言ってた忘れ物がこれだと思う。

 何にせよ見つかってよかった。

 

 

 百三十二日目

 アーシアさんが一日中鏡を布でこすってた。

 何というか、鏡が写らないらしい。

 言われて覗き込んだけど、普通に顔は写りこんでるように見えるけどなぁ。

 写ってるじゃんって言ったらそうじゃないって言われた。

 意味分からん。

 

 

 百三十三日目

 夜這いならぬ朝這いをされてからリステの様子がおかしい。

 妙に俺のことを見ているような。

 うーん、俺が自意識過剰なだけか?

 そうそう、話が変わるけど今日は狩りに行った。

 例の剣が黒く染まる現象が起こってから調子が良いからな。

 なんていうか、これが勇者のチート能力的なやつだろうか? 

 色合いが明らかに魔族的な力というか、中二病なのは悩みどころだけど実用性はかなり良い。

 使っても魔力を消費している感じじゃないし。

 正直よく分からん。

 というかちょっと怖い。フレアとか火炎切りは使った後の消費が納得感あるじゃん。

 なのにこの黒い力、使っても疲れたりしないから何が原料なのか分からんくて怖い。

 魔法でも何でも代償はつきものだしなぁ。魔力を使ったり、オーラを使ったり。

 しかも、なんか最近前より出力が上がっている気がするし、余計に不安だ。

 

 

 百三十四日目

 リステの様子が妙だ。

 フラフラしてて、大丈夫かと声を掛ければすぐに普段通りの様子になるし。

 暫くしたら急に動かなくなって、声を掛けたらようやく気付いたり。

 ……それと武闘家の様子も妙だ。

 武闘家から散歩をしませんか、と珍しいお誘いがあった。

 普段から修行ジャンキーな彼女にしては珍しい。

 ようやく、普通の遊びの楽しさを感じてくれたのだろうか。

 でもその割には妙に殺気立ってた。なんか周囲を気にしているというか。

 帰ってからも終始そんな様子だった。

 何かあったのだろうか、困ってるなら相談してほしい。

 

 

 

 百三十五日目

 朝、目を覚ますとリステが部屋の中に居た。

 今度は部屋の中で立ってたけど、どうも様子が妙だった。

 虚ろな目をしてて、その場から微動だにしない。

 声を掛けたらようやく気付いたようで、普段の表情に戻ったけど。

 ……ただ、不思議なのが本人が凄く驚いていたことだ。

 まるで自分が何でこの部屋にいるかさっぱり分からない様子で混乱してた。

 ただ、それ以上に驚いたのが直後に聞こえた音だ。

 カラン、と音がしてリステの手から何かが落ちたーーーーナイフだ。

 いや、マジで恐怖だった。

「ナ、イフ? な、何で、私」

 本人も良く分かってないようだが、一番怖いのは俺だ。

 状況まとめたら虚ろな目をした女がナイフを持って部屋に侵入してる状況だぞ!

 怖いよ! 非日常すぎるわ! 

 つか俺この状況、知ってるし! これ刺されるやつだろ! 

 ヤンデレなのか嫌われてるのかは分からないけど刺されるやつだよ! しかも俺被害者ポジションじゃん!

 とりあえず内心怯えながら犯人を刺激しないように落ち着かせた。

 背中を見せないように動きつつ、ポットでお茶を淹れて。これほど細心の注意を払ったのはいつぶりか。

 出来る限り「気にしてないから」と言って事情を聞いた。

「……実は、最近意識がハッキリしないことがあるのだ。寝ていたはずなのに、気が付いたらお前の部屋に居たり。今のようにナイフを握りしめて立っていたり。そんなことは考えてもいないのに、脳内でやれと声がするし、私はいったい……」

 本人曰く、こういうことらしい。

 このパターンだと何だろうな。二重人格とか、あるいは乗っ取られてるとか、催眠か洗脳か。

 こうなるのは割と最近で、俺達に会ってかららしい。震えながら話していて、めっちゃ謝られた。

 うーん、話を聞いている限り、嘘を吐いてるようには見えかったんだよなぁ。

 とりあえず危ないから持ってる武器は没収した。

 本人もしばらくは自室で静かに過ごすようだ。

 とりあえずリステのことは武闘家に対応をお願いした。

 

 

 百三十六日目

 ……昨日、あんな目にあったのに爆睡できる自分はもしかしたら図太いのかもしれない。

 とりあえず思い浮かぶのは魔物の影響だ。

 リステの症状に近いものがないか図書館に探しに行った。

 で、見つけたわ。

 

 悪魔:様々なものに化けることが出来る。また、生き物の心の隙間に住むことが出来、悪魔のささやきを行うことで宿主の脳内に声を届けることが出来る。また契約をすることで相手の願いを叶えることもある。

 

 他にも洗脳する魔物とか、宿主を乗っ取る虫とか色々あったけど目についたのはこの悪魔だ。

 ……いや、というのも悪魔は以前リステに化けて俺達のもとを訪ねてきたからな。

 正直第一候補だ。

 脳内で声が聞こえるとはリステも言ってたし、症状も似ているし。

 とはいえ討伐方法が分からん。居るか確認する方法もないしなぁ。

 どうしたものか。

 

 

 百三十七日目

 今日は疲れた。

 リステの件をアーシアさんに相談したら「それなら」と例のアルテミシアの鏡を見せられた。

 何でもこの鏡は映すことで真実を暴くことが出来るとか。

 ただ、これを動かすためには女神力がいるそうで、もう一つオーブが必要らしい。

 ……のだが、なんとそのオーブが見つかったそうだ。

 街中の露店で見つけたらしい……非売品と言われたみたいだが。

 

 で、どうにか貰えないか交渉したら、火竜のウロコとなら交換するという約束を取り付けたそうだ。

「火竜はドドラ火山の山頂を住処にしていて、供物を捧げると現れるらしいわ!」

 そんなわけで酒樽を背負って山登りに行った。今回は俺とアーシアさんの二人旅だ。

 酒樽はクッッッッソ重かった。

 普段が鎧とか背負ったりしない軽装スタイルだけに重いものは持ちなれてないからな。

 しかもその状態で登山とかマジで死ねる。

 回避どころか移動だけでガンガン体力減る感覚というか。

 基本はアーシアさんが蹴散らしてくれるけど、今日に限ってやたら魔物に襲われたし。

 ようやく山頂に着いた頃は夕方で、祭壇に樽を置いたら本当に空から赤錆びたような色の鱗を持ったドラゴンが空から現れて戦闘になった。

 いやー、あれは凄かった。

 火竜の放った炎の弾をアーシアさんが巨大な氷柱でぶち抜いてた。

 そのまま連続で氷魔法を放って全身を氷漬けにしてたし、魔法ってすげーな。

 とはいえ相手は火竜、全身氷漬けの状況からでも炎を噴き出して脱出してた。

 ただ、火竜もアーシアさんが明らかにやばいと思ったんだろうな。

 そのせいか知らんけど、いきなり俺を狙ってきやがった。

 前足で鷲掴みにされて空の旅にご招待されたときは死んだかと思ったわ。眼下に見える景色は綺麗だけどそれどころじゃなかったし。

 どうにか前足を切り裂いて背中に這い上がった時には心臓バクバクだった。正直混乱してて、自分でもよく分からん行動をとってたと思う。

 背中の鱗をはぎ取ったりとか、うん。今思えばやっとる場合かー案件だった。

 案の定、鱗をはぎ取った直後に振り払われて落ちたし。

 死の直前だからかまた世界がスローモーションに見えたわ。死ななかったのは、落下速度を抑えようと地面に向かって全力で魔力を開放したのが功を奏したと思う。

 めっちゃ痛かったけど、少なからずポーションを取り出して飲める程度には生きてたし。

 その後は戦闘を避けてアーシアさんと逃げた。丁度、落下時の魔法で凄い煙が出てたし、逃げ切るのは楽勝だった。

 ……書いててあれだけど、よく生きてたな俺。

 平和な生活が恋しい。 

 

 

 百三十八日目

 火竜のウロコをもってアーシアさんと露店に向かった。

 店主の老婆に鱗を渡したら「交渉成立さね」と赤いオーブを渡してくれてアーシアさんが凄く喜んでいた。

 で、オーブを受け取った後に例のごとくアーシアさんが光り出して、オーブが消えてたけど、これはもしかして毎回あるのだろうか?

 権能の一つが戻ってきた、とか。私本来の力が使えるわ、とか言ってた。

 というわけで早速アルテミシアの鏡で自宅待機してるリステを照らしてみた。

 何ていうべきか、黒いリステが映ってたわ。黒髪で、黒い羽根のリステ。

 堕天使というらしい。原因は悪魔ではないようだった。

 アーシアさんが酷く驚いていて、リステ本人も驚いていたのを覚えている。

 ただ、心当たりがあるようで話してくれた。

 何でも魔王の手に落ちた後、天使たちは牢屋に閉じ込められていたらしい。

 で、毎日決まった時間に一人ずつ連れ出されては闇のエネルギーを注入されたとか。毎回その後の記憶がなく、気付けばまた牢屋の中にいたことからもしかしたら自分はいつの間にか堕天しているのかもしれないと語って、急に苦しみだした。

 白かった羽根や髪の毛が急に黒く染まり出して、アーシアさんが慌てて魔法的なのをかけてた。俺も慌てて介抱した。

 暫くしたら髪の毛とか羽根も元の色に戻ったので、多分アーシアさんの魔法が効いたんだと思う。

 改めて鏡で照らしたときも通常のリステが映ってたし。

 よく分からんけど、治ってよかった。

 

 

 百三十九日目

 リステが目覚めた。

 話を聞いてみると頭に響いていた声も聞こえなくなり、すっきりした気分らしい。

 本人にも鏡を見せたら、「戻ってる……?」と驚いた様子だった。

 

 

 百四十日目

 久々に酒でも飲むかとカルロスの酒場に行ったら変な噂を聞いた。

 最近、ドドラ火山で火竜が暴れているらしい。

 原因が分からず街で調査が始まったが、第一隊が蹴散らされたとかどーとか。

 おっちゃん曰く。

「第一隊が何とか持ち帰った情報によると、その火竜の逆鱗が無くなってたらしい」

「これ以上暴れられたらたまらねぇってんで、最近じゃ討伐した冒険者には報酬を出すそうだ」

 とのこと。

 

 ……いや、うん、言いたいことは分かる。

 流石に、酒を一杯も飲まずにすぐさま帰ったわ。アーシアさんに報告したら、フリーズしてた。

 「え゛っ?」みたいな感じで濁音がつくような声を上げたあとに完全にフリーズしてた。

 とりあえず明日には討伐に行く方向で話をまとめた。

 

 

 

 

 

 

 


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