勇者の日誌   作:Yuupon

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 半月くらい空いたから実質初投稿です。

 


23(勇者日誌)

 

 

 

 百四十一日目

 責任を取って火竜を討伐に行った。

 で、山を登ったけど中層を越えたあたりから山の風景が様変わりしてたわ。

 あちこち燃えてた。あと地面が抉れてて、山頂の方からは炎の弾がまき散らされて大惨事だった。

 多分、山頂で暴れてる火竜があちこちに炎弾を吐いてたんだろうな。

 どう登ったものかと思ってたらアーシアさんがおもむろに武闘家に手を向けて力を送っていた。

 本人曰く、加護を与えたらしい。

 まだ本調子じゃないから一定時間で切れてしまうようだが、相手を強化出来るとか何とか。

 実際、武闘家が盾を出すといつも以上の力が出たらしい。

 そのまま盾で防ぎながら頂上まで登れてしまった。

 頂上はもっと酷かったな。まず熱気が凄い。地面に何本もの火柱が立ってた。煙で苦しいのか武闘家がゴホゴホしてたし、およそ最悪のロケーション。

 そして件の火竜もそこに居た。

 ……前見た時と印象が違ったけど。

 なんていうか、身体から紫のオーラが出てて、いかにも強化されました感あった。

 アーシアさん曰く、闇のオーラらしい。

 実際俺とアーシアさんを見た瞬間火炎ぶっぱしてきたけど、明らか威力が以前の三倍くらいに跳ね上がってた。

「やばいです、二人とも。こいつの火炎……以前戦ったゼメルの魔法と同等の威力があります!」

 初撃を防いだ武闘家がそう叫んでいたのを覚えている。

 その後何発も攻撃が降り注いできたけど明らかに威力が違ってた。というかクソ熱かった。

 ただ、今回の戦闘はアーシアさんが輝いてた。アーシアさんが結界を貼った瞬間に熱く感じなくなったし、戦いやすいよう場を整えてくれた。

 何より安心感があったのは回復も担当してくれたことだな。ダメージを受けた傍からすぐ回復魔法を飛ばしてくれるから落ち着いて戦えた。

 あとは武闘家も見ない間に強くなっていた。食いちぎるために突進してきた火竜をオーラを纏った状態で正面から受け止めたりしてた。

 ……化物かな? ちっこい体のどこにそんなパワーがあるのかマジで分からん。

 世界の法則の乱れを感じる。

 俺はというと武闘家が受け止めてる火竜を斬りつける作業をしてた。例の黒い剣で。

 これも名前を付けた方がいいんかな? 魔剣とか。めんどいし魔剣にしよう。

 そう言えばちょっと不思議なことがあったな。

 魔剣でぶった切った瞬間に、闇のオーラが俺の身体に吸い込まれてったのよ。正直何が起こったかよく分からんけど、大丈夫かなこれ?

 アーシアさんはもう闇のオーラを感じないから大丈夫だとか言ってたけど。

 まぁ大丈夫か。とにかく無事に事件が解決したようで何よりだ。

 元々悪いのは俺だし、街に大きな被害が出る前にどうにか出来て良かった。

 

 

 

 百四十二日目

 報奨金を断れなかった。

 元はといえば俺が悪いから、どうにか受け取らずに済むように断り文句を並べてたけど、断る方が余計に迷惑らしい。

 これを街中で知られたときに、前例があるからと報酬を渋る習慣は作りたくないらしい。

 仕方ないので受け取った。

 とはいえ流石にこれで受け取ったらマッチポンプにも程があるからなぁ。

 関係ない武闘家には申し訳ないけど、全額寄付してきた。

 百万ソル、過ぎたる大金は身を滅ぼすともいうしこれで良かったんだろう。

 

 

 百四十三日目

 なんか朝からやけに身体の調子が良くて、小遣い稼ぎに一人で狩りに行ってきた。

 いやー、めちゃ身体が動いたわ。

 魔剣が強いのかは分からんけど、なんか勝てる。

 んー、王様に貰った防具と剣が良いからか? 

 あと、なんか知らん間に新しい魔法が使えるようになってた。

 戦闘を乗り越えて魔力が増えてたから、いつもより魔力を込めてフレアを撃ったら、熱線になったんだよな。

 アーシアさんのメガフレアとはなんか違う感じだ。

 いやまぁそもそもフレア自体もアーシアさんのはオレンジだけど俺のは赤だったしな。

 思えば、俺のフレアって宿屋のおっちゃんが教えてくれたのを見よう見まねでやってるだけだし、なんか違ってるのかも分からんね。

 ただこの熱線割と便利だ。遠くの敵でも狙えるし。ビーム感ある見た目も個人的に好きよ。

 そのお陰か今日はなんと被弾0で済んだ。

 やったー!

 

 

 百四十四日目

 リステが攫われて、武闘家が刺されたらしい。 

 部屋に居たら急にアーシアさんが飛び込んでそう言ってきたからびっくりしたわ。

 慌てて案内されるままに着いていったら、ベッドに武闘家が横たわっていた。腕に僅かな刺し傷があって、これが刺された痕らしい。毒針で刺されたとか。

 まだ意識は残っていて、何があったのかを話してくれた。

 武闘家曰くリステの姿をした何者かに斬られたらしい。

 発端は今日の修行を終えて宿に帰ってきて、部屋に戻ると出迎えてくれたリステが近づいてきたことだとか。

 だが、その時部屋の奥から「逃げろ!」とリステの声がしたそうだ。

 明らかに異常事態に、咄嗟に武闘家は回避行動を取ったけど間に合わず、それでもどうにかカウンターを当てたようだが、直後に全身の痺れる感覚がして、床に倒れこんだらしい。

 そのまま武闘家を刺したリステが、部屋の奥に居たらしい縛られたリステを抱き上げて窓から飛び出していったのを見ることしかできず、今に至るのだとか。

「毒自体はもう解毒したけど、暫くは安静ね」

 幸いなことに武闘家は既に処置済みらしい。

「犯人の痕跡も落ちていたわ」

 これ、と見せられたのは真っ黒な羽根だった。

 リステが堕天しかけた時見たものより遥かに黒い羽根だったと思う。

 んー、黒い羽根ねぇ。というか今思ったけどあの羽根どこかで見覚えがある気がするんだよな。

 ……どこで見たんだっけか?

 

 

 百四十五日目

 武闘家の世話をアーシアさんに任せて、リステを連れ去った犯人の情報集めをした。

 ……犯人についての情報は手に入らなかったけど別の情報が手に入った。

 大きな鴉を見たという人が居たわ。火山の方に飛んで行ったらしい。

 ……それを聞いて思い出した。あの黒い羽根、見覚えあると思ったけど鴉の羽根と似てたんだよな。

 何か関係性でもあるのか?

 

 

 百四十六日目

 武闘家が退院した。

 丁度良いので昨日の噂について話したら、アーシアさんが火山に行こうと提案してきた。

 気になることがあるらしい。

 もしかしてアーシアさんも俺と同じことを考えてたりするのか? 

 とりあえず今日一日は前回の火竜戦で使ったアイテムを買いなおしたりした。

 

 

 百四十七日目

 火山の、アーシアさんが前に倒れてた洞窟。

 あそこにリステが居た。

 ……なんか、闇のオーラに包まれてた。髪も羽根も黒く染まってて、堕天化してた。

 虚ろな目をしてて、声を掛けた瞬間こっち目掛けて槍で攻撃してきやがった。

 危うく刺さるとこだったわ。怖いやつめ。

 かと思えば洞窟の入り口からもう一人リステが出てくるし、びっくりだ。

 その後ろには闇のオーラを纏った大量の魔物。それが洞窟になだれ込んできた時は大変だった

 しかも、その時初めて思い出したけど洞窟の中、魔法が使えないから余計にやばかったな。

 アーシアさんが置物と化してたし、いやまぁこの前覚えた加護ってやつで武闘家を強化してたけど。 

 そんな状態だから俺もリステと戦いながら他の魔物にも襲われてかなりきつかった記憶ある。

 ……それに戦ってる間にもう一人のリステも混ざってきて、どっちが本物のリステか分からなくて余計混乱したし。

 流石に本物のリステを斬り捨てるわけにはいかんしなぁ。

 そのせいで防戦一方になった。

 魔法が使える場所ならアーシアさんの強力な魔法があるけど、魔法が使えないだけでこんなに殲滅力が変わるとは。

 アーシアさん、魔法が使えない代わりに加護で援護してて、護る必要があったから、その分被弾も増えた。

 悲しいのは俺に加護をくれなかったことだけど、もしかしたら与えられる数は一人までみたいな縛りがあったのかもしれない。

 まぁ、俺か武闘家かって言われたら武闘家に加護を与えるのは何となく分かるわ。

 実際、武闘家が殴るたびに十体くらい魔物が沈められてたし。

 通常攻撃が全体攻撃で、一撃必殺のロリっ子……人間かこいつ?

 

 あとリステとリステ(偽)だけど、やたらアーシアさんと俺を狙ってきやがったな。

 お前さえ居なければーっ! とか言ってたけど俺、何かやっちゃいました?

 恨まれる記憶はないんですけど、いやマジで。

 あと襲ってくる二人のリステのうち、どっちが本物か分からんから迂闊に切れなかったのうざかった。

 しゃーないから剣を片手持ちして相手の攻撃を受け止めつつステゴロでぶん殴ったったわ、片方。

 殴った方のリステに「こいつ、女相手でも容赦ないのか」とか言われたけど、槍で刺されそうになってるのを考えたら正当防衛だろ。

 いや、まぁ思ったより強く入ったのは正直すまんけどさ。服に隠れて分かりづらいけど俺、結構筋肉ついてきたからかなり痛いだろうし。

 とはいえ本物を斬るわけにはいかんし、無力化の選択肢としては妥当だと思いたい。

 とか思ってたらアーシアさんがアルテミシアの鏡で二人のリステを照らして、偽物を暴いてくれた。思いつかなかったわ、かしこい。

 ただ、その後もまたなんかこじれた。殴った方のリステの見た目が黒髪の長髪美人なおっぱいねーちゃんに変わったまでは良かったけど、その姿を見てアーシアさんが凄く動揺してたんだよな。

 リステと同じ黒い羽根を生やしていて、衣装も似ていた。リステのものより豪華だったけど、素材はほぼ同じというか。

 そのあとアーシアさんと黒髪のねーちゃんが会話してたけど無視した。俺としては偽物が分かればそれでいいしな。

 とりあえず本物を確保&無力化するためにアーシアさんたちとの会話に夢中になってるリステに近づいて、後ろからしめ落とそうとしたらなんかリステの闇のオーラが俺の身体に吸い込まれてってビビった。

 リステの髪の毛と羽根は白くなってたから多分大丈夫だろうけど……。 

 その後は黒髪のねーちゃんが洞窟の入り口を爆破して姿を消したり、代わりに現れた溶岩のゴーレムとの戦闘になったり、残った魔物が最後の一匹まで襲い掛かってきたりと散々だった。

 気合と根性と武闘家の力で倒したけど。意外とどうにかなるもんだ。

 ……いやまぁ、正直言うと俺自身が使ってるよく分からない力もかなり役立ったと思う。

 最後とか、魔力全力で剣を振ったらなんか黒いビーム出て、それが溶岩ゴーレムを埋められた洞窟の入り口ごと吹き飛ばして大穴を開けたりしたし。

 ……これ、人間に当てたら殺すどころか消し飛ばすよな。ちょっと使い方を考える必要がありそうだ。

 ともあれ、どうにか戦闘も終わったし無事に街まで帰ってこれた。

 あの黒い髪のねーちゃん、何だっけ。そうそう、ラファエルとか言ってたか。

 ラファエルを取り逃がしたのは怖いけど、まぁ目的だったリステの奪還は出来たしおっけーおっけー。

 とりあえず疲れたし今日は寝よう。

 

 

 

 百四十八日目

 アーシアさんが改めて昨日のことについて話してくれた。

 昨日俺達に襲い掛かってきた黒髪のちゃんねーこと、ラファエルは元々大天使だったようだ。

 それが、どういうわけか堕天使にされてしまったらしい。

 リステ曰く、天使と大天使は別の場所に収容されていたらしいが、多分同じようなことをされたんだと思うと話していた。

 ようするにあれか。

 今までの敵は魔族だけだったけど、これからは堕天使も敵になるってことだな。

 特に堕天使はアーシアさんと俺の命を狙ってくるとか言ってた。

 ……あの、めちゃ最悪なんですけど。

 俺の平穏な暮らしが消えたじゃねーか。闇討ちとかマジ勘弁。

 っていうかこれさぁ、もしかして魔王倒さないとずっと狙われ続けるん? 

 となるとこの街に留まってるの危ないじゃないですかヤダー。

 とりあえず明日からこの街を離れようと思う。

 目的地はトンカー王国、あそこに逃げ込むつもりだ。

 

 

 百四十九日目

 武闘家とアーシアさんにその話をしたら二人とも頷いてくれた。

「あの国なら確かに、受け入れてくれるかも……」

「そうですね、懐の深い国ですから」

 あの国は良い国だからな。困ったら言えとも言われたし、受け入れてくれると思うと話した反応がこれだ。

 個人的にも俺もあの国は信用してるからな。

 というわけで事情をリステにも話したけど、彼女も頷いてくれた。

 

 

 

 百五十日目

 消費したアイテムもまた買いそろえた。

 トンカー王国に向かうぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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