勇者の日誌   作:Yuupon

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03(勇者日誌)

 

 

 

 二十一日目

 今日は色々あったから最初から書いていく。

 やってきたジャイアントフライ討伐当日。

 夜の間に逃げようとしたけど、ペアになった武闘家の子に見張られてて逃げれんかった。

 んで、配給された朝飯食ったらすぐに森に直行だ。

 その際もトイレと嘘を吐いて逃げようとしたけど、ちょうど向かった方向にスリープフライが隠れてやがったせいで逃げれなかった。

 その後も逃げようとしたけど、スリープフライが出るわ出るわ。

 そうこうしている間に俺達は現場に到着してしまった。

 もうこーなったら正面から打倒するしかねー!

 戦いは数だよ! という言葉を信じて戦ってみよう。

 駄目なら逃げれば良いしな。

 で、この前見たジャイアントフライは相変わらずクソでかいサナギだった。

 心なしか前よりでかくなってる気がする。

 というか実際でかくなってた。当社比二倍くらい。

 んで周囲にはスリープフライが数十匹飛んでた。

 うん、数十匹。前より増えてた。

 ついでにムラサキイモムシとか、ムラサキサナギもわんさか。

 ここまで集まるとちょっとキモい。

「作戦通り行くぞ、炎魔法発射!」

 そんなことを考えてたら合図が鳴った。

 魔法使いたちから一斉に放たれた炎魔法がジャイアントフライのサナギに降り注ぐ。

 一部の火の粉が森に燃え移ってたけど、大丈夫だろうか?

 そっからはもう無茶苦茶だった。

 武闘家と交互にスイッチしながらスリープフライを斬り捨てて、糸を飛ばしてくるムラサキイモムシとムラサキサナギを駆除するお仕事。

 この前連携は見たけど、スイッチってこれで大丈夫なんだろうか? 

 武闘家が攻撃したら、交代で前に出て敵の攻撃を受け止め、斬り捨てる。終わったら素早く後ろに下がって武闘家のターン。

 んー、分からん。

 まぁ、有効打をもらわなかったから多分大丈夫だろう。

 それなりに消耗もしたが、あっという間に雑魚を狩り尽くし、後はボスのみ。

 魔法使いが継続的に炎魔法を放っており、倒せるのも時間の問題かと思ったが、甘かった。

「離れろ!」

 そんな声が聞こえた直後、皆ぶっ倒れた。もちろん俺も。

 風圧で吹き飛ばされたと気付いたのは直後のことだ。

 見るとサナギが羽化して、デカい蝶がそこに居た。

 サナギの殻を破り、飛び出したジャイアントフライの羽ばたきでまとめて吹き飛ばされたらしい。

 うん、この時点で悟ったね。

 あ、こりゃアカンわ。周りも壊滅的だし、このまま居たら死ねる。

 つーわけで目潰しする為に顔面にフレアをブッパして、一目散に逃げたんだけどなんとジャイアントフライの野郎、俺をターゲットにしやがった。

 そっからはマジで地獄だった。

 糸をめっちゃ吐き出してくるわ、羽ばたきで起こる真空刃を飛ばしてくるわ。

 攻撃の隙がマジでねーの。

 しかも一発喰らえばオワタ式とかクソゲーかな?

 まさか……っ! 残機が一個しかないシューティングを現実で味わうことになるとは……っ! このニートの目をもってしても見抜けなかった……っ!

 まぁそんなわけで逃げ回ってたんだけど、その間に冒険者達が体勢を立て直してくれてた。

 後は総力戦だ。

 魔法使いを中心に火炎魔法で燃やしたり、前衛が真空刃を防いだり、直接切り掛かったり。

 中でも武闘家の子の動きが凄かった。周辺の木を利用して飛び移りながら、蹴り飛ばしたりしたのは感動したわ。

 人体ってあんな動き出来るんだな。

 あ、ちなみに俺はその時には後方で火炎魔法撃ってた。

 いや、逃げ回ってたせいで体力使い果たしたのよ。

 逃げる体力が無いからせめて倒せる方に掛けて援護してたわけだ。

 んで、ジャイアントフライは見事撃破出来た。

 終わった頃には皆、魔力を使い果たして疲労困憊だったけど何とかブッ倒せた。

 残党も駆除して、完全に討伐完了だ。

 報酬は明日貰えるらしいが、敵前逃亡しようとした身からすると行きづれー……。

 どうせ今回の話も広まるだろうし、これ以上街の人に見られて噂されるのも嫌だしな。

 うん、丁度良い機会かもしれん。

 ルッカの街を後にして、隣町に行こう。

 

 

 

 二十二日目

 朝早くに宿を後にした。

 宿屋のおっちゃんには世話になったから少し大目にチップを置いてったぜ。

 アイテムの補充も済ませたし、準備万端。

 早速森の中に突入して行く。

 何回も潜ってるから分かるけどこの森、かなり広いんだよな。

 一応聞いた情報だと北にまっすぐ進み続けたら森を抜けるらしいけど……。

 少なからず昨日大規模な掃討をしたばかりだから魔物の数は少なかった。

 まぁ少なくても居るんだけどな。

 プチモンキーとかはよく遭遇した。

 最初は一対一でも殴り合いになったものだが、今や三匹相手でも安定して倒せるようになったのが嬉しい。

 徐々に筋力が付いてきたのだろうか、一撃が前よりズンと入る。

 ニート時代よりはるかに動いてるお陰で足にも筋肉が付いてきた。

 ……勇者に選ばれた時は人生オワタ、って思ったけどなんだかんだで生きてるな。

 根本的な性根は置いといて、俺にしては頑張ってる気がする。

 野宿しながらふとそんなことを思った。

 

 

 二十三日目

 隣町に着いた。

 いやー、疲れたわ。

 野宿して、森を抜けたら平原が広がってて。

 そこに見たことない魔物がわんさか居るから大変だった。

 今日見たのだと、鉤爪の脚を持つカラス、剣を持ったガイコツ、火を吹く二足歩行のネズミ、杖を持ったゾンビとかか。

 カラスとガイコツは物理攻撃を受けたら普通に致命傷だ。まぁ鉤爪に剣だからそりゃそーだって話だけど。

 でも、攻撃受け止めた時に銅の剣がボキっと根元が折られたから相当のパワーだと思う。

 火を吹くネズミはフレアを唱えてきやがるから、当たれば大火傷だ。

 唯一、杖を持ったゾンビの攻撃はそこまで痛くないが、あいつら仲間を呼んだり、ヒールを唱えやがるから害悪だ。一撃じゃ倒せない耐久力はあるし、正直あまり戦いたくない。

 総評、この土地やべー。

 まだスリープフライみたいに眠らされて殺されかけたりしないだけマシだけど、街に辿り着いた時には死にかけだった。

 つか門番もやべーよこの街。

 血まみれの俺を見て何て言ったと思う?

「ようこそ、ここはリベリアの街です」

 だぞ。

 感情が欠落してるのか、それとも見慣れてるのか。

 後者なら怖い。

 とにかくその後は宿を取ったけどちょっと高かった。

 一泊あたり一〇ソルかかる……まぁ、払えるけどさ。

 とりあえずは付近の魔物の情報収集だな。

 この街には図書館があるっぽいので明日街の散策がてら調べてみようと思う。

 

 

 

 二十四日目

 新しい街って新鮮だな。

 そもそも俺、生まれてから他の街に行ったことなかったから余計に。

 ルッカの街のレンガ造りの街並みに比べて、リベリアの街は石で舗装された街並みに木造建築が多い。

 森が近いからか?

 街全体を歩き回ってみたけどそこまで広くない街だ。

 売ってる商品もちょっと違うみたいだった。

 ちょうど武器も折られたことだ、武器屋に寄ったら青銅の剣を売ってたから買った。

 四〇〇ソル。全財産の半分近くが飛んだ。

 んで、図書館に行った。

 そして付近に住む魔物についての本を聞いたら見せてもらえたわ。

 その結果、昨日の魔物の名称が分かったぜ。

 

 デカラス:鋼鉄の鉤爪を持つ。上空からの首を刈り取る。

 ガイコツ戦士:蘇った戦士の亡骸。錆びた剣で切り刻む。

 ボムチュウ:赤い毛のネズミ。フレアで人間を燃やす。

 ゾンビ神官:ゾンビの神官。仲間にヒールを唱え回復する。

 

 うん、こうやってみるとどいつも害悪だ。

 やばいなこの土地。

 それとこの付近にはもう一匹魔物がいるみたいだ。

 

 シャドガ:夜になると現れる。冒険者の影にとり憑き、寝ている間に体力を奪い、殺す。光を嫌う。

 

 ……言いたいことは分かる。

 やばいわこの土地(二回目)。

 取り憑くとか恐怖しか感じないんですけど。

 とりあえず暫く寝る時は明るくして寝ようと思う。

 

 

 二十五日目

 普段暗くして寝るから全然寝れんかった。

 それでも朝には怪我は治ってるし、魔力が全快してるから宿は凄い。

 とりあえず昨日、図書館で勉強したから今日は狩りをした。

 うん、青銅の剣は中々良い感じ、結構手に馴染む。

 ただやっぱここらの魔物強いわ。

 まだ慣れてないこともあってタイマン以外は逃げてるけど、それでも受け止めた時の威力が明らかにルッカ周辺の魔物と違う。

 それとどいつも厄介だ。

 フレアを撃ち出したのを見てから避けるor斬り捨てるのはかなりギリギリ。

 ヒールされたらせっかく与えたダメージが全快される。

 カラスも普段は空を飛んでるから対応が難しいし、ガイコツも武器の使い方が上手い。しかもガイコツによっては剣じゃなくて槍を持ってたりするから間合いが難しい。

 総評、クソ。

 倒した時の素材は高く売れるけど、多対一だと殺されると思う。

 つーかやってられん!

 こんなとこに居たらいつ死ぬか分かったもんじゃない!

 でも、今更ルッカの国に戻っても、敵前逃亡したこととかは多分バレてるから嫌だ!

 ……明日からどうしよう。

 

 

 

 二十六日目

 色々考えて名案が浮かんだ。

 もしかしなくとも俺は天才かもしれん。

 ルッカの街では俺を勇者だと知ってる人間が多かったが、この街では居ないわけだ。

 つまり普通にバイトすれば良いんだよ!

 ……ニートの感覚的に働くのは負けだが、この際しゃーない。

 生きるためだ。

 つーわけで早速求人を見てきた。

 少しずつ話せるようになってきたが、コミュ障は依然継続なので出来るだけ喋らなくて良い仕事。

 配達バイトがあったので受けた。

 荷物を持って街中を駆け回るだけの簡単なお仕事だ。

 これでも一ヶ月近く剣を振り回し、森の中を歩き回ってきた身だ。最初こそ剣に振り回されていたが最近はマシになってきたし、荷物もいけると思ったが辛い。

 普通に一個あたりの箱が重いのよ。

 中身はなんすか? って聞いたら薬の原料だと。緑色の粉が袋に入れられてて、それが限界まで詰め込まれていた。

 それを病院まで全部配達するわけだ。

 まぁ、文句を言うことなく真面目に働いた。

 んで、気になるお給料だが……。

「お疲れさま、まさか全部運ぶとはね。上乗せしとこう、これが君の給料だ」

 そう言って渡された袋に入っていたのが一〇ソル。

 宿代一〇ソルで、収入が一〇ソル。

 ……働いたら負けだ!

 俺は仕事をやめるぞォーーッッ!!

 やってられるかこんなもん!

 真面目に働くとか考えた俺が馬鹿だったわ!

 こんな悲しい収入で生活するくらいなら魔物を狩るわボケェッ!

 

 

 

 二十七日目

 日雇いの仕事なんてもうしない覚悟をして翌日。

 怒りの魔物狩りを敢行してたら、魔物に襲われてる人を見かけた。

 シスターさんだ。

 助けたらお礼を言われた。

 事情を聞いたら、街の外に共同墓地があるらしい。

 そこは夜な夜なガイコツ戦士や、ゾンビ神官が湧いてくるスポットらしく、昼の間に聖水を振り撒くことで少しでも数を減らしているのだという。

 聖水にはアンデッド系の魔物を浄化する効果があるからな。

 だが、その帰り道で魔物に襲われてしまったらしい。

 いつもなら護衛の人が居るそうだが、今日から四日間だけ用事で来れなくなったとか。

「……死者が安らかに眠れるなら、リスクなど恐れません」

 と言うのがシスターさんの言。

 助けた手前、ほっぽり出すのもアレなので街まで送ることに。

 んで、街に着いた時にこんな依頼をされたわ。

「よかったら三日間、墓地までの護衛をして貰えませんか?」

 勿論断った。

 理由は決まってる。

 一人でも死にかける奴が、他人の護衛なんて出来るわけないだルルォ!!?

 それもキチンと説明したけど、大丈夫だろうか?

 

 

 

 二十八日目

 気になってこの街の教会に訪ねてみた。

 昨日のシスターさんの姿は無かったので、神父に昨日のことを話すと驚いていた。

「……危険だとあれほど説明したのに」

 と、そんな感じに手で顔を押さえてた。

 んで、聞いてもないのに色んなことベラベラ喋り始めやがったわ。

 簡単にまとめるとシスターは小さな頃に両親を失ったらしい。

 その時に埋葬されたのが街の外にある共同墓地だ。

 そこでは多くの亡骸が埋められていたらしい。人々も訪れては献花をしたり、お参りをしていたとか。

 だが、魔王が現れたことで状況は一変した。

 死者の亡骸が魔物化するようになったという。

 それは天国にいった人間を無理やり現世に引き戻す行為に他ならない。

 そしてアンデッドとして蘇っても自らの体は動かせない。意識はあるのに、魔王の命ずるままに体は動き、人を殺す。

 そんなことにはさせまいと毎日、聖水を撒くことで少しでもアンデッド化させないようにしているのだ、と神父は話した。

 と、ここで神父から依頼をされた。

「お願いがあります、どうか護衛が帰ってくるまで彼女を見てやってくれませんか?」

 魔物に襲われた時だけで良いから助けてやってほしいという依頼だ。

 金も出すらしい。

 俺も初めは渋ったが、断りきれなかった。

 受けちまったもんは仕方ねぇ、頑張ろう。

 

 

 

  

 

 二十九日目

 朝早くから教会近くにスタンバイし、街の外に出ていくシスターをストーカーする依頼はーじまーるよー。

 というわけでバレないように後ろを着いていき、何事もなく墓地に到着した。

 聖水を振りまくシスターさんの表情は悲しそうだった。

 死んだ両親のことを考えてるのだろうか?

 暫くして帰り道。

 魔物に襲われることなく、無事に帰路に着いたのを見届けて今日の依頼は完遂だ。

 んで、街中を歩いてたら見覚えのある顔と会った。

 武闘家の子だ。

 俺を見つけるなり走ってきて、めっちゃまくしたてられた。

「何で報酬を受け取りに来なかったんですか……?」

 怖い目で見ないでほしい。

 それと報酬って……あれか、ジャイアントフライか。

 そりゃあ行けないでしょうよ、敵前逃亡やぞ。

 当たり前の話だ。

 そう言ったら、驚かれた。

 むしろ俺が驚くわ、何だよその反応。

 まさか俺のことを、恥知らずだとでも思ってるのか? 流石に敵前逃亡したにも関わらず我が物顔で報酬受け取りには行けんわ。

 とか考えてたら武闘家がめちゃくちゃなことを言い出してきた。

「……私を仲間にしてください」

 ナカマ? 仲間、だと?

 いや、何が目的か分からん。

 ここまでの話の流れで仲間になりたがる理由が分からんのだけど。

 あと、君の実力考えたらよそのパーティの方がええぞ。それに元々お前別のパーティおったやろ。

 それを聞いたら、

「……あれは即席のパーティで、私自身はフリーです」

 と言われた。

 その後も何とか断ろうとしたけどお願いしますの一点張りだ。

 というわけで方針を変えた。

 題して、俺の普段を見てもらって諦めてもらう作戦だ。

 というわけでしばらく俺を観察するように言った。

 ふふふ、すぐにやっぱ仲間なりたくないですごめんなさいという武闘家の姿が容易に想像出来るぜ……!

 

 

 

 


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