勇者の日誌   作:Yuupon

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04(勇者日誌)

 

 

 

 

 三十日目

 武闘家と合流して今日もストーカーの仕事だ。

 ちなみに仕事内容は説明してない。

「好きに観察しろ、その上で本当に仲間になるべきか考えるんだな」

 といって放置だ。

 今思うと光景がシュールだな。

 シスターさんをストーカーし、物陰から観察する男を更にストーカーするロリッ子だ。

 光景が謎過ぎて草生える。

 そのまま今日も墓地に行ったけど道中は何も起こらなかった。

 聖水も振りまいて、シスターさんの日課も終了。

 あとは帰るだけ、そんな時だ。

 地面からデカい骨の手が生えてきた。

 サイズ的に明らかに普段見てるアンデッドと違った。その手が真っ直ぐシスターさんを捕まえようとしたところで、慌てて間に入って攻撃を受け止めたけど、力が強い。

 無理やり攻撃を弾いたら地面が大きく隆起して、鉢巻きを付けたガイコツが現れた。

「ガイコツリーダー……!?」

 とシスターさんが言ってたので、名前はガイコツリーダーらしい。

 こんな魔物、図鑑には載ってなかったんだけどなぁ。

 とはいえアンデッド対策で、聖水を買ってたのが生きた。

 それを浴びせかけて、よろめいたところに剣を叩きつけて骨を砕いた。

 後はタコ殴りだ。

 攻撃こそ最大の防御である。ありったけの聖水をぶちまけて、剣でめった斬り。

 その上で目くらましにフレアをブッパしてシスターさん連れて逃げようとしたけど、回り込まれた。

 骨のくせに足早すぎワロタ。

 シスターさん殴ろうとしたからかばったけど、一撃がゲロ重い。

 つか一発でふつーに死にかけたんだけど。

 腹を腕が突き抜けたのは予想外にもほどがあるわ。

 ヒール掛けなかったら死んでましたねクォレハ……。

 元々、剣で受け止めるつもりだったけど思いっきり外したのも悲しい。

 ガイコツリーダーのハチマキにかすって、切り落としたけどダメージ的には意味ないしな。

 とか思ってたらなんか崩れてったわ。

 よくよく考えたら元々弱ってたのかもしれない。

 だってあの墓地、シスターさんが毎日聖水を振りまいてたし、そこで眠ってたらそらそーなるよ。

 そんなわけで任務達成、街まで送り届けて神父から報酬をもらった。

 中々良い報酬額だった。特に金銭と別で聖水をくれたのが嬉しい。

 聖水、一つ買うのに一〇ソルするからな。割と高級品なのよ。

 それとガイコツリーダーについても聞いたけど神父にも分からんっぽい。

 少なくともここらには生息してないはずとのこと。

 ジャイアントフライもそうだけど、見慣れない魔物が現れるのはなんか嫌な感じだな。

 

 

 

 三十一日目

 昨日はがっつり仕事したからかなり懐が潤った。

 よって今日はお休みだ!

 というわけで街に繰り出したは良いが、空気を読まない子が一人。

「……今日はどこに行くんですか?」

 武闘家ぁ! いやまぁ、観察しろと言ったのは俺だけども。

 にしても酔狂な話だよな、魔王を倒す気のないやつの仲間になりたいとか。

 俺としては俺が勇者だと知ってる人間が近くにいると、過ごしにくくなるから困るんだけど。

 ともあれ昨日の仕事でかなり稼げたから、金はある。

 一日でも早く諦めてもらえるようにしばらくはぐーたら過ごそう。そうしよう。

 というわけで今日は図書館に行った。

 昨日のガイコツリーダーのように知らん魔物に出くわしたら面倒だ。

 よって図鑑を見て知識をたくわえるのが目的である。

 調べたらガイコツリーダーは以下の記述だった。

 

 ガイコツリーダー:ガイコツ戦士をまとめるリーダー。聖水にも耐えられ、俊敏、不死身。ただし、頭のハチマキが無くなるとただの骸骨になってしまう。

 

 お前不死身だったんかよぉ!

 つかそう考えたらハチマキ切れたのめっちゃ運良かったな。

 もし次回戦うことがあればハチマキ狙おう。

 あと、教会にも行ったけど護衛の人が帰ってきてた。

 剣持った、戦士のおっちゃん。頭がツルピカだった。

 何でも東にずっと行った先にある街に住んでる母親が病気らしく、薬を届けに行ってたらしい。

 めっちゃお礼を言われた。あとシスターさんも神父から事情を聞いたみたいで改めてお礼を言ってくれた。

 うん、感謝されて悪い気はしない。

 しかも戦士のおっちゃんが技を教えてくれた。

 剣を握ったままフレアを唱えると、剣に炎を纏わせることが出来るらしい。

 そのまま斬ると、『火炎斬り』だ。

 言われてやってみたら出来た。めっちゃかっけぇ!

 魔力を使うから乱発は出来んけど、今度使ってみよう。

 

 

 

 三十二日目

 今日も仕事はしないデー。

 だが、昨日までの俺とは一味違う。

 今日は酒場に行ったのだ!

 そう、あの陽キャの巣窟ことSAKABAである。

 というのも昨日の戦士のおっちゃんが呑みに誘ってくれたのだ。

 一人で行く勇気はないけど、一緒に行く相手が居るなら行ける。

 問題があるとすれば……、

「……なんですか、私成人してますよ」

「お前、年齢いくつか言ってみろ?」

「……黙秘します」

 このロリっ子の武闘家である。

 嘘つくなお前、どう見ても未成年だろが。

 とりあえず俺と戦士のおっちゃんはビール、武闘家にはミルクでも頼んでやった。

 見るからに不貞腐れたけどざまーみろ。

 酒が飲みたいならちゃんと成人してから飲むんだな。

 にしても昼間から酒とはいい身分だぜ。

 そうこうしてると戦士のおっちゃんが話を振ってきた。

「そういやお前さん、ルッカ王国から旅立った勇者の話は知ってるか?」

 噴き出しそうになったわ。

 いやまぁ、これ以上なく知ってるよ。

「二人居るらしいが、そのうちの一人が東の街。ゴルドの街ってんだが、そこに現れたみたいで町中その噂でもちきりでよ」

 とか思ってたらイケメン勇者の方だったわ。

 で、おっちゃんの話を聞くにゴルドの街ではでかい賭博場があるとか。

 そこでは魔物が飼育されており、魔物同士を戦わせる見世物が楽しまれていたが、何とその支配人が悪魔だったそうだ。

 その悪魔は『飼育している魔物に街を襲わせる計画』を立てており、しかも計画が実行に移される寸前だったとか。

 そこに現れたのが勇者一行だ。街中に解き放たれた魔物を倒し、悪魔をも撃破したらしい。

 お陰で勇者人気はうなぎのぼり。

 勇者アッシュは街の英雄となったとか。

 ……つか、アッシュって名前だったのか。初めて知ったわ。

 とはいえ流石イケメン、俺に出来ないことを平然とやってのける。

 どうかそのまま魔王まで倒してほしい。

 うん、切実にお願いしたい。

「最近は明るいニュースも少ないからな、魔物の被害の話ばっかだ。そんな中でこんなことがあるとちょっと嬉しくなるよな、と。マスター、おかわり!」

 つかおっちゃんめちゃ酒飲むな。

 酒豪かよ。とか思ってたらおっちゃんがこんなことを言い出した。

「……もう一人の勇者の話は聞かんけど、どこに居るんかねぇ。旅立ったとは聞いてるけど」

 お前の横で酒飲んでるよ。

「……それなら」

「マスター、この子にミルク追加で!」

 あと武闘家ちゃん、言わんくて良い。

 何が悲しくて自ら勇者と広めにゃならんのだ。

 俺はやらんぞ! 魔王討伐なんて絶対やらんからなーッ!!

 そんな不屈かつ鋼の意思が俺にはあるのだ。

 まぁ、そんな感じで飲んだけど楽しかったわ。

 基本的に戦士のおっちゃんマジ良いやつだし、話の内容が面白い。

 んで、ほろよい気分で店を後にして、戦士のおっちゃんと別れた。

 そのあとに武闘家ちゃんが何で勇者と名乗らないのか尋ねてきたけど、そんなの決まってるべ。

「言ったら(俺が)不幸になるからな」

 まだ子供には分からんかもしれんが、期待とか同調圧力というものが世の中にはあるのだ。

 勇者として周囲に認識されたが最後、魔王討伐に直行なんて誰がやりたいの?

 つかニートに魔王倒せとか無茶だろ。

 むしろ分かれ、せめて勇者らしい凄いスキルがあれば別だが、そんなのねーし!

 チート能力の一つや二つ発現してから言えや!

 そういうわけです、はい。

 

 

 

 三十三日目

 今日も今日とてニート。

 相変わらず武闘家はついてくるがそろそろ諦めてもらえんものか。

 とりあえず今日は色んな店にいって買い出しをした。

 武器なぁ。一般的な戦士は剣と盾を持つことが多い。

 剣で攻撃、盾で防御って具合にな。

 そもそも剣は刃こぼれするから敵の攻撃を受け止めるのには向いてないし。

 個人的にはそりゃあ盾が使えたらいいんだが、やっと剣に振り回されず使えるくらいだしなぁ。

 盾を持ったら回避も無理そうだ。

 そう考えるとまだ今みたいな片手剣スタイルが一番かもしれん。

 防具も重いのは疲れるからやだ。

 というわけで旅人の服を新しく買いなおした。

 血のあとが染みになってたし、腹に穴を開けられたときにほつれるどころじゃないくらい破けたしな。

 軽い素材で防御力の上がる防具だと嬉しいけどこの街にはなさそうだった。

 つか、歩いてて思ったけど今日はやけに武闘家が静かだった。

 なんか、疲れてるというかそんな感じ。

 歩き回ったからか? ちょっと申し訳ない気持ちだ。

 

 

 

 三十四日目

 武闘家が来なかった。

 ようやく諦めてくれたのだろうか?

 にしてもあの執着ようを考える限り、せめて一言くらい挨拶にきそうなものだが。

 思えば昨日静かだったのも体調が悪かったのかもしれない。

 ……ちょっと気になるし、明日様子を見に行こうと思う。

 

 

 

 三十五日目

 武闘家の泊まっている宿に行ったら、彼女が出迎えてくれた。

 どうやら病気にかかったらしい。

 寝ても疲れが取れず、体に倦怠感があるらしい。

 熱はないようだが、凄く辛そうだった。

 ベッドに寝かせて、果物を切ったりして看病した。

 つか、熱が無いのが気になるな。

 それにこの症状、以前調べたシャドガって魔物に取り憑かれたときの症状に似てる気がする。

 ……怪しい。

 というわけで看病を終えたあとに、図書館に行って調べたらやっぱそうだわ。

 

 シャドガ:夜になると現れる。冒険者の影にとり憑き、寝ている間に体力を奪い、殺す。光を嫌う。

 

 倦怠感ってのは体力が吸い取られてるせいと考えれば納得だし、どんな怪我をしても一晩で直る宿に泊まってるにも関わらず回復してないのはおかしい。

 で、どうやったら取り憑いた状態を回復できるかも調べたら以下の記述を見つけた。

 

 『取り憑いたシャドガは激しい光に弱い。そのため光魔法の「シャイニング」を唱えるか、潰すと激しく光る「光の玉」を使うことで実体を現す』

 

 病院に行って、その光の玉とかが無いかを聞いてみたらちょうど在庫はないらしい。

 だが、材料があれば作れるとの回答を得たので採りに行くことにした。

 材料はボムチュウが落とす尻尾と、リベリアの街の西にある洞窟に生える夜行草(やこうそう)という草だ。暗闇の中で青く光るらしい。

 とりあえず本人を病院に連れてって寝かせたり、入院の手続きはした。

 早速明日の早朝から向かうとしよう。

 

 

 

 三十六日目

 朝、お見舞いに行ったが昨日より目に見えて悪化していた。

 身体が起き上がらないらしい。

 ちょっと不味いかもしれない。

 病院側の診察もしているみたいだが、症状的にはやはりシャドガに憑りつかれていそうというのが医師の談だ。 

 というわけで昨日言ってた素材を取りに行った。

 数日明けての戦闘だが、戦士のおっちゃんに教わった火炎斬りが良い感じだ。

 ただ、件のボムチュウは炎耐性があるようであんま効かなかった。

 まぁ普通に切り殺したけど。

 何発かフレア受けたけど、目的の素材を手に入れたので問題ない。

 次はリベリアの街の西にある洞窟だ。

 言われた通り西へ西へと歩いてったら洞窟が見つかったわ。

 ただ、中は真っ暗だった。

 しゃーなしで火炎斬りよろしく、青銅の剣に炎を纏わせることで明かりがわりに使ったわ。

 んで、奥まで潜ったけどいくつか知らん魔物とでくわした。

 ピッケルを握ったコウモリとか、手がドリルになってるモグラとか。

 火炎斬りを維持したまま斬り捨てたけどかなりボコられた。

 しかも魔力が空になりかけて慌てて火炎斬りを解除する羽目になった。

 普段なら撤退するけど人命が掛かってる。

 もはや何も見えない闇の中で、手探りでポーションを飲んで、洞窟内を歩き回って、やっと見つけたわ。

 洞窟の奥でぼんやり光る草。

 それを摘んで洞窟を出るためにまた歩き回った。

 それから数時間、ようやく出口を見つけて外に出た時にはもう夜だ。

 急いで街に戻って病院に素材を渡した。

 作成には朝までかかるらしい。

 外に行ってる間に武闘家の意識がなくなったようで、寝顔なのに苦しそうにしていた。

 間に合えば良いんだが……。

 

 

 三十七日目

 間に合った。

 出来た光の玉を潰すと、目が潰れるかと思うくらいの光が部屋を満たして、魔物、シャドガが姿を表したのだ。

 何だろう、ぺらぺらの真っ黒な魔物だった。

 空中をふよふよ浮かんでて、三日月の形の口をしている。

 体から追い出されたシャドガはすぐさま逃げようとしたけど、甘い。

 フレアで撃ち落とした後に、叩っ斬ってやった。

 強さはあんまりだが、悪質過ぎる。

 武闘家の意識は戻らないままだが明日には回復するらしい。

 うん、良かった良かった。

 

 

 三十八日目

 突然だが、東に向かうことにした。

 戦士のおっさんが言ってたゴルドの街だ。

 理由は簡単、武闘家の件だ。

 彼女には悪いが、やっぱり俺は魔王討伐をする気はない。

 仲間になるったって俺は一人で食えてけばそれで良いのだ。

 というわけで申し訳無いけど、こっそりと旅立とうと思う。

 そもそも俺みたいなやつに関わって人生を無駄にするのももったいない話だしな。

 同じ勇者ならあのイケメン勇者の仲間になった方が幸せだろう。

 一応、別れの手紙は病院に置いたから不義理ではない……よな?

 まぁ、もう気にしても仕方ない話だけどな。

 で、ゴルドの街に行くには、リベリアの街を出て東に進み、山を二つ越えると到着するらしい。

 ……らしいんだが、思ったよりも山がキツい。

 真っ直ぐ突っ切ろうと思ったのが馬鹿だったか。

 わざわざ山頂まで登って、反対側に降りようとしてるからな。

 ただ景色は綺麗だ。

 リベリアの街や、ルッカ王国。今まで歩いてきた街が見える。

 それと山にも新しい魔物が出た。

 洞窟内で見かけたドリルモグラや、ピッケルバットも夜に出てくるし、昼間には斬ると毒の胞子を放つドキノコ、角の生えた狼の魔物ツノウルフなど色んな魔物だ。

 特にドキノコはきつい。

 最初、知らなくて普通に斬ったけどすぐに毒が身体を蝕み始めた。

 なんか一歩歩くごとに命が削れるというか、侵食するから恐怖感ヤベェ。

 暫くして効果は解けたけど、毒を受けた状態だと戦闘どころじゃないからな。

 ……つか、気のせいかもしれんけど進めば進むほど魔物が強くなってる気がする。

 旅立った当初よりは俺も強くなってるはずなのになぁ。

 

 

 三十九日目

 久々に死にかけた。

 魔力もポーションも切れたあとにドキノコに囲まれて、毒を受けたからなぁ。

 何とか気力で歩いてたけど、意識を失ったらしい。

 んで、次に目が覚めたら知らん家だった。

 木造のログハウスで、金髪の女性が住んでいた。

「まだ起き上がらないで。毒が全身に回ってたから」

 彼女曰く、偶々通りかかって、助けてくれたらしい。

 こんな辺鄙(へんぴ)なところに住んでるのは彼女が魔法使いで、材料のキノコが沢山生えてるからとか。

 マジで天使に見えたわ。

 料理もだしてくれてめちゃ美味かった。

 お礼を言ったら「お節介だから気にしないで」と言われた。

 大天使かな?

「ゴルドの街に行くために山を真っ直ぐ登ってた……? しかも毒消し草も持たず……? あっきれた、あなた馬鹿なの? はぁ、仕方ないわね」

 口調は厳しいけど、その優しさは天上を知らないらしい。

 毒を消すための魔法まで教えてくれたわ。

 キュア、という魔法でこれを使えば状態異常を治せるらしい。

 例えば毒や痺れ、眠りもいけるとか。

 女神だったわ。

 そのあとゴルドの街の道筋まで教えてもらって家をあとにした。

 ありがとう、女神様!

 そう言ったら「えっ?」と言われたけどこれは俺の素直な気持ちだ。

 ありがとー!

 

 

 四十日目

 ゴルドの街に着いた!

 やーっと着いたぜ。

 にしても街が全体的にピカピカ光ってんな。

 王都の繁華街よりもキラキラしてら。

 はえー、すっごい。

 これが眠らない街ってやつっすね。

 とりあえず安定の宿は取ったし、明日街の観光をするとしよう。

 戦士のおっちゃんが言ってた賭博場も気になるしな。

 

 

 

 


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