勇者の日誌   作:Yuupon

5 / 25
 
2020/04/05
昨日は一度投稿しておきながら消してすみません。
また、お気に入り登録や評価ありがとうございます。
励みになっております。


 


05(武闘家日記)

 

 

 

 

 

 

 

 一日目

 ……ルッカ王国全国統一勇者調査をするとか。

 最近は魔王による被害が大きいですからね。

 国が一つ滅んだとの話も聞きましたし、人類の存亡に関わる事態だとようやく皆が理解し始めてきたからこその措置でしょう。

 私にも紙が届きました。

 

 

 二日目

 ……私は勇者じゃないみたいです。

 むぅ、絵本のような勇者に憧れてたのですが、残念です。

 代わりに二人の勇者が見つかったと聞きました。

 金髪の勇者と黒髪の勇者。

 王国内では大騒ぎになっています。

 早速多くの冒険者が我こそが勇者の仲間に! と名乗りを挙げているようです。

 私も、急がないと。

 

 

 

 三日目

 勇者様を探しにカルロスの酒場にやってきました。

 臨時のパーティを組む時も大概使いますからね。

 もしかしたら勇者様も居るかなと予想してきたのですが、残念ながら居ないみたいでした。

 というか他の冒険者も同じことを考えてたのかいつも以上に人が多かったです。

 ……まぁ居ないなら仕方ありません。

 せめて臨時パーティを作ってお金稼ぎに行きましょう。

 それとマスター、何でお酒を出してくれないんですか? 

 子供だから? はっ倒しますよ。

 

 

 四日目

 (何も書かれていない)

 

 

 五日目

 (何も書かれていない)

 

 

 六日目

 (何も書かれていない)

 

 

 七日目

 ……このままだと三日坊主なので何か書きます。

 どうやら金髪の勇者が旅立ったそうです。

 しばらく探し回っていましたが、結局会えませんでした。

 噂ではもうパーティを組んでいるようです。

 ……となると金髪の勇者の仲間になるのは難しそうですね。

 一方、黒髪の勇者はまだ街にいるようです。

 もう少し特徴が分かれば良いのですが……。

 

 

 八日目

 新人の門番さんと話してたら愚痴を言われました。

 最近、一人で街を出てはボロボロで帰ってくる人が居るそうです。

 しかもその人は防具を着てないとか。

 ……自殺志願者ですかね?

 

 

 九日目 

 仲間を募るのに酒場を利用するのはいつものことですが、毎度のごとく子供扱いされるのは困ったものですね。

 お陰で生まれてこの方お酒を飲めた試しがありません。

 むぅ。

 

 

 十日目

 ……一人で街の外に出てた人、やばいですね。

 街の人が噂してました。

 明らかにドクターストップな程のダメージを受けているのに、翌日には平然と狩りに行くとか。

 もし本当ならどんな回復能力してるんでしょうか?

 武闘家としては少し羨まし……やっぱ羨ましくないです。

 

 

 十一日目

 ルッカ王国とリベリアの間にまたがる森。

 そこでスリープフライが増殖しているそうです。

 どうやらムラサキイモムシや、ムラサキサナギの姿も見るとか。

 他の街では魔王からの刺客も送られてると聞きましたが、もしかしたらこれもその一種かもしれません。

 スリープフライは、人を眠らせる魔法『スリープ』を唱えますから、討伐して数を減らさないと危険ですね。

 

 

 十二日目

 (何も書かれていない)

 

 

 十三日目

 ……昨日は日記を書く時間が無かったのでまとめて書きます。

 昨日は臨時パーティを組んで、今日は森に向かいました。

 そこでスリープフライと戦いましたが、駆除は疲れます。

 武闘家としては、敵との距離が近い分避けるのが大変ですが、スピードには自信があるので、この程度ならどうにかなりそうです。

 ただ一戦あたりかなり脚を使うので消耗が激しいのが難点ですね。

 

 

 十四日目

 狩りをした帰りに、街で例の一人で外に行く人を見かけました。

 ……印象としてはちょっと怖かったです。

 血まみれの服を着て嬉しそうに笑ってました。

 血だとするならどう見ても致死量だったので、多分あれはペイントでしょうね。

 よく武勇伝を語りたがる馬鹿な人がやってるのを見たことがあります。

 

 

 十五日目

 三日連続狩りをしたので今日はお休みです。

 冒険者としては休むことも仕事ですから。

 良い仕事には体調管理が欠かせません。

 しっかり時間を掛けてコンディションを整える、それこそが良い冒険者だと思います。

 

 

 十六日目

 新人の門番さんと話してたらまた愚痴を言われました。

 最近、一人で外に行く人が毎日血まみれで帰ってくるそうです。

 ……もう何も言えませんね。

 

 

 十七日目

 例の一人で外に行く人に出会いました。

 しかもスリープフライを狩る為に行った森の中で。

 正直、馬鹿なのかなと。

 だってスリープフライですよ。一人で戦ってる最中に眠らされたらそれこそ一巻の終わりじゃないですか!

 慌てて臨時パーティの仲間と共に助けましたけど!

 それで色々話をしましたけど、彼は「いつも一人で戦ってる」と言い張って聞かなかったので思わずこう言ってしまいました。

「それなら戦ってるところを見せてください」

 こうすればどんな馬鹿でも現実を知るはずです。

 すぐにスリープフライやプチモンキーといった魔物も現れて、彼の戦いを見てたわけですが。

 ……彼、強かったです。

 鱗粉を放つ寸前にスリープフライを斬り捨て、続いて背後から襲ってきたプチモンキーの攻撃を、まるで見えているかのように避けて、一匹ずつ冷静に処理。

 いや、めっちゃ強いじゃないですか!

 何で昨日まで血まみれで街に帰ってきてたんですか!?

「だから毎日やってるって言っただろ」

 って言ってましたけど馬鹿なんですか!? 馬鹿なんですね!?

 ……というか、一体何者なんでしょうか?

 

 

 十八日目

 彼の正体を探る為に街中で聞き込みをしました。

 その結果ある事実が判明しました。

 彼の正体はどうやら勇者のようです。

 それもニートなどの悪い噂の絶えない黒髪の勇者。

 ……昨日の動きを見る限り、とてもそうは思えないんですけどねー……。

 もし次に会うことがあれば確かめようと思います。

 

 

 十九日目

 彼はちゃんとした勇者でした。

 それが分かったキッカケは臨時パーティを組んで、森の中で発見されたジャイアントフライの幼虫を討伐するクエストを受けたことです。

 ジャイアントフライは本来ここいらには生息していない強力な魔物ですし、八人パーティを組んで挑みました。

 で、結論から言うと壊滅しました。

 原因は戦闘中にジャイアントフライが変異したからです。

 幼虫からサナギへの変異で吐き出された糸を避けられなかった冒険者達が丸ごと無力化されました。 

 私は回避出来ましたが、いくらなんでも一人ではどうしようもありません。

 でも、見捨てたら彼らはジャイアントフライの餌です。

 どうすれば、彼が現れたのはそんな時でした。

 彼はジャイアントフライのサナギを見上げたまま私の前に出てきて、周囲を観察し始めたのです。

 多分、今助けないと不味いと考えていたんでしょう。

 私が作戦を提案すると彼は嫌な顔一つせずに受け入れてくれました。

 内容は彼が陽動を行い、私が助ける。

 スピード勝負で危険な策でしたが、驚くほどあっさり成功しました。

 助けた冒険者をよく気遣っていたのを覚えています。

 街に帰ったあとに改めてお礼を言いましたが、「無事で良かった」と一言告げて去っていきました。

 その姿が勇者らしくて、冒頭の結論に至ったわけです。

 ……元々、私は勇者に憧れてたのでちょっと興奮してます。

 私、勇者と共闘したんですね……!

 

 

 二十日目

 ジャイアントフライの討伐隊が組まれることになりました。

 とはいえルッカの国は以前、軍隊が魔王に壊滅させられて余裕はありません。

 そこで志願制という形を取っていました。

 ……その中に彼の姿を見つけて、ちょっと嬉しかったです。

 昨日の結論が正しかったことが証明されたような気がしました。

 その後ペアを作れという話になったので、私は彼を指名しました。

 他の冒険者は彼の悪い噂を知っていたようで、彼とのペアを嫌がっていましたし、何より私自身が勇者と組みたかったからです。

 ……勇者と一緒に戦う仲間、凄く良いです。

 

 

 二十一日目

 勇者ってやっぱり凄いんですね。

 今日一日一緒に行動してそれを強く感じました。

 まず索敵能力。私達の誰も気付かないようなところに隠れているスリープフライを見つけては何度も駆除していました。

 次に間合いの取り方。ジャイアントフライ戦が始まったあとに連携して戦いましたが、間合いの取り方がすごく上手でした。

 敵の攻撃がギリギリ届かない位置を取り、攻撃を見切って切り返す。

 更にはバックステップをして次の敵の攻撃を避けて私にバトンタッチ。

 私のペースに合わせてくれて、戦いやすかったです。

 ……そして、何よりも勇気。

 ジャイアントフライが羽化した時、私達は一度壊滅し掛けました。

 とても戦いを続けられる状態じゃない、そんな時に勇者はたった一人で囮となり、時間稼ぎをしてくれたのです。

 そのお陰で陣形を元に戻すことが出来ました。

 正直、その姿はめちゃくちゃかっこよかったです。

 まるで、まるで小さな頃に読んでた勇者のような姿で、あの時の憧れが目の前にあるかのような錯覚を覚えました。

 ……決めました。

 私、勇者の仲間になります。

 報酬が明日支払われるそうなので、その時に会って本人に打診してみようと思います。

 

 

 二十二日目

 報酬を受け取る場に勇者様の姿はありませんでした。

 確かに、確かに報酬を辞退するとか勇者らしいですが……。

 うう、どこに行ったんですか……。

 

 

 二十六日目

 まだ勇者は見つかりません。

 正直足取りが掴めず、困っています。

 もうルッカ王国の周辺には居ないのかもしれません。

 ……彼のことです。

 多分魔王討伐の旅路をしていることでしょう。

 となると港町を目指すのが目下の目標になるはずです。

 何せ、魔王城は他の大陸にありますからね。

 とはいえルッカ王国から海まではかなりの距離があります。

 問題はどの港に向かっているかですね。

 ……運を天に任せて、北の方面を目指すことにしました。

 中継としてリベリアの街をひとまず目標として向かって、そこで改めて聞き込みを行いましょう。

 

 

 二十七日目

 臨時パーティを探しましたが運悪くリベリアの街へのメンバーが集まりませんでした。

 仕方ないので一人でリベリアの街に向かっています。

 こうしている間にも勇者は一人で旅を続けているに違いありません。

 ……なら、私だってそのくらい出来なければ。

 そう思っての旅ですが、現実は厳しいです。

 だって一発でも重いのを受ければ動きは途端に悪くなりますから、戦闘において攻撃をもらうこと=死を表します。

 それを踏まえて戦闘をすると、とても一体以上は相手出来ません。

 今日だってどれだけヒヤリとしたか。

 でも、くじけません。

 

 

 二十八日目

 リベリアの街に到着しました。

 歩きと、戦いで、もう疲れたので寝ます。

 

 

 二十九日目

 街中で勇者を見つけました!

 何で報酬を受け取りに来なかったのかを聞いたら、不思議そうな顔で「当たり前だ」と言っていて、この人は本当に勇者なんだと確信しました。

 だって、報酬を拒否するってそれこそ報酬のために戦っているわけじゃない裏付けじゃないですか。

 わざわざ追いついた甲斐があるというものです。

 意を決して仲間になりたい! と言ったら断られました。

 はい、凄い当たり前の顔で断られました。

 いや、確かにいきなり言い出した私が悪いんですけどね。

 でも諦めず食い下がりました。

「……パーティ組んでいなかったっけ?」

「あれは即席のパーティで、私自身はフリーです」

「……仲間になりたい理由は?」

「魔王討伐に行くんですよね? 私も貴方と戦いたい、です」

「……そうか」

 その後も何度も断ろうとしましたが、私は諦めませんでした。

 何度もお願いしますと頭を下げて、一緒に戦いたいと言い続けました。

 その結果ですが、ちょっと折れてくれました。

「……好きに観察しろ、その上で本当に仲間になるべきか考えるんだな」

 観察しろ。

 ……本当に仲間になりたいのかを聞いているのでしょうか。

 とにかくやってみようと思います。

 

 

 三十日目

 観察一日目。

 勇者の身体が貫かれました。

 ……順を追って書きます。

 朝、今日の勇者は誰かを尾行していました。

 シスターさんでしょうか。

 街の外まで歩く彼女にバレないよう、後ろをついて行きました。

 今思えば、護衛の任務を受けていたんでしょうね。

 そして街の外にある墓地まで行ったところで、ある魔物と交戦になりました。

 ガイコツリーダー。

 多分多くの人間は知っているでしょう。ルッカ王国の軍勢が負けた理由の一つと言われる魔物です。

 この魔物の厄介な点はいくら攻撃しても倒れない不死身さにあります。

 弱点は頭のハチマキです。これを完全に落とすことでその不死性を消すことができるのです。

 そんな化け物にも勇者は臆せず立ち向かっていました。

 聖水を浴びせ、首、腕、足など部位を斬り付けた彼はシスターさんを抱えて離脱を図っていたようでしたが、失敗。

 回り込まれ、シスターさんを狙われた勇者はその攻撃を庇って。

 その身体をガイコツリーダーの腕が突き抜けた瞬間を私はよく覚えています。

 ぐちゃりと肉が潰れるような音がして、背中から骨の腕が血飛沫と共に突き抜けました。

 私はあまりの光景に動けませんでした。

 でも、信じられないのはここからです。

 腕で身体を貫かれた勇者が、その状態から一歩踏み出してガイコツリーダーの鉢巻を切り落としたのです。

 恐ろしいほどの激痛がはしったに違いありません、でもそれでも動いた。

 その事実に私は信じられない思いでした。

 私がようやく我に帰ったのはこの時です。ガイコツリーダーが崩れ去った瞬間、慌てて助けに動きましたが勇者は平然とした様子で回復魔法を唱えていました。

 ……どれほどの修羅場を潜り抜けたらあんな行動が取れるのか。

 もしかしたら勇者は私に何かが足りないことを伝えようとしているのかもしれません。

 ……明日からも気合を入れて観察しましょう。

 

 

 三十一日目

 観察二日目。

 勇者のいく先について行きました。

 今日向かったのは図書館と教会です。

 熱心に魔物の本を読み込んでいました。

 何で魔物の本を読んでるのか聞いたら

「知っていると知らないとでは大違いだろ? 知らないから死んだなんて馬鹿らしいじゃんか」

 とのことでした。

 それと教会では戦士のおじさんと楽しそうにお話をしていました。

 昨日の出来事について聞きました。

 やっぱり依頼を受けていたみたいです。

 それもシスターの護衛を依頼されていたようですね。

 

 

 三十二日目

 観察三日目。

 ……最近、寝ても疲れが取れないんですけど何ででしょう。

 まぁ、それは置いといて。

 今日は勇者と共に酒場に行きました。

 お酒を頼もうとしたら止められました。

 どころか、ミルクとか頼みやがりましたよ。

 注文した以上は飲みますけど!

 というか酔っていつもより饒舌だからか、私の扱いが雑でした。

 子供扱いしないでください、まったく。

 ……私だって気にしてるんですよ。

 あ、そうそう。勇者なんですけど。

 話の流れで黒髪の勇者は誰なんだろう? と戦士のおじさんが言った時に勇者は自分がそうだとバレたくない素振りを見せていました。

 聞いてみたら、

「……不幸になるから」

 と悲しそうな表情で言っていました。

 ……一体どういうことなのでしょうか?

 

 

 

 三十四日目

 観察四日目。

 これまで観察してきて思ったことがあります。

 ……勇者って、意外と普通の人かもしれません。

 もちろん、戦闘を考えると勇者らしい姿もあります。

 でも、そうじゃなくて日常にも目を向けると普通なんです。

 ……でも、一緒にいて悪い気分はしません。

 

 うぅ、疲労感がすごい。

 これ以上書けません。

 寝ても体力が戻らなくて、手にも力が入らなくなってきました。

 もしかしたら病気かもしれません。

 

 

 三十五日

 倦怠感が徐々にひどくなっています。

 勇者に行けないことを伝える気力もなく、一日中寝ていました。

 

 

 三十六日目

 勇者がお見舞いにきてくれました。

 

 

 三十七日目

 (何も書かれていない)

 

 

 三十八日目

 (何も書かれていない)

 

 

 三十九日目

 目が覚めたら病室のベッドで寝かされていました。

 話も全て聞きました。

 私に魔物が取り憑いていたこと。

 私を助けるために勇者が素材を集めてくれたこと。

 それがなければ私は死んでいたこと。

 そして勇者から預かった手紙を渡されました。

 

『この数日間楽しかった。こんな別れになってしまってすまない。でも俺は決めた。やっぱり、巻き込むわけにはいかない。仲間になる件についてはどうか諦めてほしい』

 

 巻き込むわけにはいかない。

 その文字を見た時にある記憶を思い出しました。

 それは数日前の酒場でのことです。

「何で、自分が勇者だって名乗らないんですか……?」

「……言ったら不幸になるからな」

 あの不幸、という言葉。

 これはもしかしてこれを意味していたのではないでしょうか?

 勇者の近くに居れば、知っていれば不幸になる。

 魔王に目をつけられる。

 聞いてみればシャドガもここ最近は発見されていない魔物だそうです。そんな魔物が取り憑いた? 偶然? 私に? 

 リベリアの街の外で出たガイコツリーダー、ルッカ王国付近の森のジャイアントフライ。

 あれらも本来あの場所には居ないはずの魔物です。

 そう気づいた時、点と点が線になるような感覚がしました。

 一人で戦うことに固執するのは魔王からの脅威に誰かを巻き込みたくないから。

 自分が勇者だと名乗りたくないのは、知った誰かを不幸にしてしまうから。

 ……やっと分かりました。

 でも、勇者。私のことを舐めてもらっては困ります。

 そんなもの、最初から受け止めてやるつもりです。

 私だって本気で魔王を倒す、倒したい。 

 どんな障害だって、どんな脅威だって乗り越えてみせます。

 助けられて、その思いはより強くなりました。

 ……絶対に仲間になってやります、絶対に!

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。