勇者の日誌   作:Yuupon

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 ランキング載ってました。
 閲覧ありがとうございます!

 


07(武闘家日記)

 

 

 

 四十日目

 教会や図書館の人。

 戦士のおじさまにも聞きましたが誰も勇者の行方を知らないそうです。 

 やっぱり、徹底しているのでしょう。

 勇者と共に行動している人を危険に晒さないために、自分がそこに居た痕跡を残さないように。

 改めて確信しました。

 私が置いて行かれたのも、結局はそれだったのです。

 勇者にとって私は、守られる存在でしかない。

 勇者は魔王の手から私を守るために、一人で行ってしまった。

 だからこそ、証明しなくてはなりません。

 次に会った時は、私は守られる存在じゃなくて、ともに肩を並べて戦えるんだと。

 そのためには、まずオーラを習得しなければ。

 私の武器はこの身一つ、だからこそ自分自身をオーラでコーティング出来なければ話になりません。

 まずは片腕だけでも……。

 

 

 

 四十一日目

 聞き込みの結果は芳しくありません。

 最後に見たのが宿の店主で、それも朝早くに出ていったという証言だけです。

 それに追いかけるにしても私の実力も足りません。

 勇者が一人で旅をしているなら、仲間になる人物もそれくらい出来なければ話にならない。

 それは分かっている、でも今の私では着いていくことすら出来ません。

 少なくとも、リベリアの街の外の魔物に苦戦しているようでは。

 肝心のオーラも、出すことは出来ても小さく、纏わせることも出来ない。

 ……ちょっと焦りを感じます。

  

 

 

 四十二日目

 岩を相手にオーラの特訓をしました。

 深く呼吸をして、体内の気を循環させる。

 そして腕の形に沿わせ、現出。

 一日中繰り返して、気が付けば教会のベッドで寝かされてました。

 どうやらオーラを使いすぎたようです。

 倒れたところを戦士のおじさまが見つけて運んでくれたとか。

 とても怒られました。

 修行は結構だが、倒れるまでやるやつがあるか! というのがおじさまの言葉です。

 冒険者は身体が資本。体を壊すくらいなら修行などやらん方が良い、とまで言われました。

 それは分かってはいます、分かってはいるんです。

 でも、追い付くにはこうするしかなくて。

 矛盾した思いが抑えられず、思わず涙が出ました。

 戦士のおじさまが慌てて慰めてくれましたが、自分自身が情けなくて余計に涙が止まりませんでした。

 私、どうしたらいいんでしょうか?

 

 

 

 四十三日目

 戦士のおじさまがある提案をしてくれました。

 私の修行に付き合ってくれるそうです。

 でもタダではなく、代わりに、シスターの護衛を手伝って欲しいとか。

 勿論承諾しました。

 昨日、迷惑かけちゃいましたしね。

 任務内容はシスターさんを町はずれの墓地まで警護し、戻ってくることだそうです。

 早速今日から向かいましたが、思った以上に戦士のおじさまが強かったです。

 聞いてみると戦士のおじさまはいつも、一人で護衛をしているとか。

 まさか、勇者と同じく一人で外に出る人がいるなんて。

 でもこれはチャンスかもしれません。

 彼のやり方を理解すれば、私も一人で……。

 

 

 

 四十四日目

 護衛が終わった後に私の修行を見ていた戦士のおじさま、いえ、師匠が修行法を提案してくれました。

 何でも、私の修行法では、実践で使えないとか。

 確かにゆっくりと全身で循環させて、少しずつ纏わせては実践では使えません。

 師匠曰く、パッと出して、パッと消す、が出来ないといけないそうです。

 そのために、常に体内でオーラを動かす修行を言い渡されました。

「起きてる間。飯食ってる時も、戦闘中も、風呂入ってる時も常にオーラを動かせ。そうすりゃ、いつでもオーラを出せるようになる」

 無意識のうちにオーラを循環させられるほどになれば、腕だろうが足だろうが、全身だろうがオーラを纏えるそうです。

 まずはそれを目指せ、と。

 早速意識して常に動かしましたが、思った以上にキツイです。

 修行中もそうでしたが、体力をかなり使うんですよね。

 でも、諦めません。

 これくらい乗り越えなくては勇者の仲間になるなんて出来ませんからね。

 

 

 

 四十五日目

 一日中オーラを意識して動かしました。

 昨日より動かしやすくなってきた気がします。

 何というか、感覚としてこの流れがオーラだというのが明確に感じ取れるようになってきたというか。

 ただ、操作は難しいですね。

 例えば腕だけにオーラを集めるには、時間と体力を使います。

 それを繰り返して、ふと意識が無くなりそうになる寸前に師匠に止められました。

 今思えばこの人も何者なんでしょうか?

 強いし、戦士なのに武闘家の知識も持っていて、限界を見極めるのが上手い。

 普通に考えて、ここいらの街に住むような戦士には思えないのですが……。

 

 

 

 四十六日目

 ゴルドの街に現れた黒髪の男が、一人でゴーレムを討伐したらしいという噂を聞きました。

 何でもその人は片手剣使いで、あまり喋らないとか。

 ……間違いなく勇者だと思います。

 これを逃したら次はいつ見つけられるか分かりません。

 それを師匠に伝えたら「行ってこい」と言われました。

 いいか、オーラは基本が大事だ。ゴルドの街に着くまでに片腕くらいはオーラを纏えるようになれ、と。

 それから手紙も預かりました。

 もし、旅の途中でクロオビと名乗る武闘家に会ったら渡せ、と言っていました。

 とにかくまずは勇者に追いつかなくては。

 ゴルドの街まで山二つ、一気に越えていきましょう。

 

 

 

 四十七日目

 身体がいつもより軽く感じます。

 オーラが体中に循環しているからでしょうか。

 動きが良くなったような感覚が、実践に出たことでより顕著に感じますね。

 道中の魔物も二体までなら問題なく蹴散らせます。

 肝心のオーラを纏うのはまだ中途半端で、途中で消えてしまうのが難点ですが。

 それでも、威力自体は上がってはいます。

 ちゃんと纏えたらどれだけの威力になるのか。

 ただ、オーラの扱いはまだ注意が必要ですね。

 限界まで使いすぎると倒れてしまいますから。

 師匠は、オーラは使い続ければ少しずつ総量も増えてくると言ってましたし、今後の成長に期待しましょう。

 ……出来れば、体ももう少し大きくなってくれると嬉しいのですが。

 

 

 

 

 四十八日目

 目が覚めたので、忘れないうちにまとめます。

 私は今日の出来事を一生忘れることはないでしょう。

 ゴルドの街に着いた私はカルロスの酒場に向かいました。

 そこで聞いたのが緊急クエストです。

 街の賭博場の地下で収監されていた、二足歩行の黒い狼が檻を破って暴れているとか。

 それを聞いてすぐにピンときました。

 何故なら、そいつは私にとっては憎むべき魔物だからです。

 ーー魔獣シャドウウルフ。

 ……私の村を滅ぼした魔物。

 いてもたってもいられず、賭博場に行くとそれは確かにシャドウウルフでした。

 気が付けば私は戦いを挑んでいました。

 この魔物の厄介な点は、食べることで相手の強さを吸収出来ること。

 私が食われれば、それだけ強くなってしまう。

 今回、運が良かったのは相手が飢餓の状態だったことです。

 でも、それでも魔物の攻撃は非常に鋭く、速かった。

 どうにかギリギリでついて行って、それでも避け切れない。当たらない。

 でも、私はどうしても倒さなくてはなりませんでした。

 こんな化け物を街中に放ってしまえば、手が付けられなくなります。

 何としてでもここで仕留めるという思いで、戦って、それで。

 ……私は再び勇者に助けられました。

 しかも自分でよろめいて、殺されかけたところを。

 それなのに、彼は私に回復魔法を掛けながらこう言ったのです。

「よく頑張って持ちこたえてくれた。あとは任せてくれ」

 その光景はシャドガに憑りつかれ、助けられて、去っていったあの時とまったく同じでした。

 彼と一緒に戦うためにここまでやってきたのに、私は一体何をやっているのか。

 ……私、お荷物にしかなってないじゃないですか。

 そう思ったら足に力が入りました。

 戦わなくては、そのために私は来たんですから。

 そして、私は勇者と共闘しました。

 心の中の迷いが消えて、自然とオーラが体中を回り始めて。

 そして、オーラを纏った拳で、シャドウウルフにとどめを刺しました。

 私は守られるだけじゃない、一緒に戦える。

 これでそれが証明できたとは思ってません。

 でも、これが私にとっての第一歩です。

 最後、気絶してしまったけど、それでもやりきったという思いを感じた一日でした。

 

 

 

 

 四十九日目

 今日一日は大事を取って休めとお医者様に言われました。

 やることがないと暇なので、またオーラを一日中操作する一日。

 うん、一度成功したことで一部位なら纏わせられるようになりましたね。

 それと勇者がお見舞いに来てくれました。

 

 

 

 

 五十日目

 無事に退院しました!

 今度はちゃんと逃がしませんでしたよ。

 そして、勇者にもお願いしました。

 まだ、私を仲間とは認めてもらえないかもしれません。

 でも、私は諦めません! と素直な気持ちを口にすると、勇者は言いました。

「俺についてくれば君は後悔することになるぞ」

 構いません。

 どんな危険な場所や旅でも着いていくつもりです。

 それに私にはもう帰る場所なんてありませんから。

 ……前に進み続けるために、勇者と共に戦いたいんです。

 ーーーー私のような人を増やさないために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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