勇者の日誌   作:Yuupon

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第二章 目覚め
08(勇者日誌)


 

 

 

 

 五十一日目

 本当に武闘家が着いてくる。

 お陰で戦闘は非常に楽なのだが、申し訳ない感がやばい。

 彼女は一体俺のどこに魅力を感じたのだろう?

 本気で謎だ。

 んで、そんな武闘家はなんか一日中オーラみたいなのを操ってた。

 聞いてみたらこれはオーラの特訓らしい。

 良いなー、俺も腕にオーラ纏わせたりしてみてぇ。

 なんか漫画でもありそうだし。こう……破ァッ! ってやったらビームが出る的なの。

 俺にも出来ないか聞いてみたけど、オーラは武闘家ちゃんの村の出身以外は無理らしい。

 うーん残念。

 色々出来そうなのになぁ。

 

 

 

 五十二日目

 オーラの特訓がしたいから手伝って欲しいとお願いをされた。

 何でも意見が欲しいとか。

 それで何か知らんけど模擬戦することになった。

 うん、死ぬかと思った。

 まだみぞおちがジンジンと痛む。

 オーラ纏った一撃を迷いなく人に叩き込むかふつー。

 意識もってかれそうになったけど舌噛んでギリギリ保てたわ。

 何が言いたいかというとぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 しかもこれでまだオーラは未完成とか。

 おK、良い子だから今後は絶対人に向けて使うなよ。

 いいか、絶対だぞ! 絶対だからな!

 ……意見はしたけど、もう二度と特訓に付き合いたくねー。

 

 

 

 

 五十三日目

 次の目的地の話を武闘家とした。

 ルッカリア大陸最北端の街、ノーランドに行く方針は武闘家も同意してくれた。

 その後、ルートを調べに図書館に行った。

 どうやらノーランドに行くためには二つのルートがあるらしい。

 一つが橋を使って平原を歩くルート。もう一つが洞窟を使って川の底を抜けるルート。

 当然、リスクの少ない橋ルートを選ぼうとしたが、カルロスの酒場で変な噂を聞いた。

 なんか、橋が落ちたらしいとか。

 原因を調べているが、元々老朽化が進んでいたから落ちたんだろうとか言ってた。

 マジっすか。

 ……しゃーなしで洞窟ルートで行くことにした。

 松明やらで金が飛んでいくのが悲しい。

 

 

 

 

 五十四日目

 準備も万端だし洞窟に向かうことになった。

 んで、出発直前に偶然アーシアさんと会ったわ。

 武闘家のことをアーシアさんに紹介したら、驚いた表情を浮かべた後に、流石ねと言われた。

 なにがだろう?

 そのあとちょっと話し込んだけど、彼女も偶然、ノーランドに向かうところだったようだ。

 どうせなら一緒にどうですか? と誘ったら「是非、お願いするわ」と言ってくれた。

 了承してくれた手前言いづらいけど、ちょろくない?

 武闘家もそうだけど、着いていく相手をちゃんと考えた方が良いと思う。

 そりゃあ、俺個人は嬉しいけどさ。

 そんなわけで三人で洞窟に向かった。

 巨大なカマキリとか、二足歩行のカブトムシとか見たことない魔物も居たけど正直余裕だったわ。

 現れた魔物は武闘家が片っ端から倒してくし、打ち漏らした魔物もアーシアさんが氷の魔法でどんどん仕留めてくからな。

 ぶっちゃけ俺、要らんと思う。

 お陰で今、戦いながら日記書いてるぞ。

 あ、戦闘終わった。

 流石におんぶに抱っこは良くないし、次の戦闘くらいは真面目に戦うか。

 

 

 

 

 五十五日目

 っべーよ。

 普通に死にかけたよ。うん、最近死にかけすぎん?

 きっかけは昨日のアレだ。

「次の戦闘は任せてくれ」

 なんて言ってしまったことが原因だ。

 まさか、次に出てくるのがドラゴンとか誰が思うのよ。

 しかも洞窟だぞここ。何でドラゴンが居るんだよって思ったら、橋が出来て便利になったことで洞窟はほぼ使われなくなったから知らない間に生態系が変わっていたのではないか、とか。

 もしくは……とアーシアさんは続けようとしてたけど、話してる余裕もなく戦闘になった。

 しかも任せてくれって言ったからか武闘家もアーシアさんも手伝ってくれなかった。

 いや、助けてくださいお願いします。

 目の前にいる魔物分かる? ドラゴンだぞ? ドラゴン。

 任せろって言っても、ふつう物事には限度があるだろ?

 ……悲しい。

 そんなわけでドラゴンとタイマンした。

 物語みたいにマジで火とか吐いてくるのな。鋭い爪の攻撃もやっばい。

 剣で受け止めた衝撃だけで腕が折れるかと思った。

 防御面も厄介だ。攻撃しても剣が弾かれるわ、明確な弱点が見つからないわ。

 最後はやけになって剣をぶん投げたら、なんかドラゴン逃げてったけど何でだろう。

 分からんけど助かった。

 その後何とか洞窟を抜けたけど、もうドラゴンとは金輪際戦いたくない。

 あぁ、生きてるって素晴らしいぜ。

 

 

 

 

 五十六日目

 ノーランドに到着した。

 はえー、これが海か。初めて見たわ。綺麗なもんだぜ。

 ゴルドの街は武骨な街って感じだったけど、こっちは白い建物が多くて、白亜の街ってイメージだった。

 いくつか露店で買い食いしたけど、めっちゃ美味い。

 ルッカ王国じゃとれたての海の幸なんて食えんしなぁ、やっぱ新鮮なのは良い。

 それと武器屋で新しい武器を買った。

 先日のドラゴンとの戦いで武器持ってかれたからな。

 鋼の剣というらしい。二千八〇〇ソルもした。宿も一泊五〇ソルもする。

 ルッカの街の宿代が懐かしいぜ。

 その分、魔物を倒したときの収入もでかいけど、やっぱ高いって感覚が先に来る。

 それと、今日はなんかアーシアさんが挙動不審だった。

 街の中央に設置されている像をぼんやり見て、何というか悲しそうにしてるというか。

 そういえばあの像ってどの街にもあるけど、何の像だろうな?

 法衣を着た女性をかたどった像、なんかの宗教か? 引きこもりしてたから分からん。

 何か見覚えがあるような気はするんだけどな。

 まま、ええわ。

 その後、アーシアさんとは別れた。

 なんか、やらなければならないことがあるらしい。

 森の中に住んでたり、めちゃくちゃ強かったり、ミステリアスだよな。

 

 

 

 

 五十七日目

 困ったことになった。

 ノーランドから他の大陸に行こうと思ったんだが、船が出せないらしい。

 なんでも、船が出航するたびに嵐が起こって船が転覆するとか。

 恐らくは魔物の仕業だからと討伐隊を募ってた。

 あ、俺達は当然スルーだ。

 まだ街に着いたばっかだし、どこに行くかも決めてないしな。

 にしても物価が高いせいか、一日あたりの消費が激しい。

 そろそろ狩りでもして金を稼がにゃな。

 それと武闘家は毎日飽きもせずに修行してる。

 なんか、足にもオーラが纏えるようになりました! とか言ってた。

 実際に壁を走ってるのを見ると、人間辞め始めたな感が凄い。

 やっぱ、俺じゃなくてイケメン勇者に着いてった方が良いんじゃないだろうか?

 

 

 

 五十八日目

 今日もさしたる予定はない。

 ないのだが、財布が軽くなってきたので狩りに行った。

 足にオーラを纏った武闘家が、残像を作ってかく乱しながら敵を倒してた。

 とうとう分身まで覚えやがったか。

 ただ、本人曰くかなりオーラを使うからキツイらしい。

 一方俺はいつも通り。

 剣を新しくしたことで威力は上がってるんだろうけど、武闘家ほど分かりやすい変化は無いな。

 そうそう、海辺だから初めて見る魔物も多かった。

 槍を持ったタコとか、痺れる唾液を吐いてくるカニとか、宙に浮いたまま氷魔法撃ってくるクラゲとか。

 あとはスライム。

 特にスライムとカニがやばい。

 スライムは一度貼りつかれると引きはがすのが困難だ。

 大体、そのまま窒息させられる。それに核がちっちゃいから斬りづらい。

 カニは痺れさせてくる上に、偶にめちゃくちゃ痛い攻撃してくる。痛恨の一撃というか、急所に当たったというか。

 キュアを覚えてるから痺れの解除は出来るけど、解除してる間に殴られるからな。

 何度、武闘家に助けられたことか。

 というか武闘家ちゃんよ。

 君、強ない? とてもロリっ子の強さとは思えんのだけど。

 戦闘民族か何かなの? オーラもなんかそれっぽいし。そのうち髪色が金髪になり出さんよな?

 あ、ちなみに今日の稼ぎは千二〇〇ソルだった。

 

 

 

 

 五十九日目

 船に乗れないなら仕方ない。

 というわけで宿でぐーたらしてたら、武闘家にたたき起こされた。

 要件を聞いたら、稽古に付き合えとか。

 断ったら涙目になったから仕方なく受けた。

 こういう時、子供はずるい。泣けばどうにかなると思ってやがる。

 ……とはいえこういう状況では俺は弱い。

 そもそも既婚者に見えない男がロリっ子連れてる時点で傍から見れば事案だからな。

 兵士呼ばれたら逮捕されてしまう。

 世知辛い世の中だぁ……。

 ちなみに稽古はめちゃ疲れた。

 反撃していいって言われたけど反撃する余裕がないんだよ!

 しかも最後には急に倒れたからビビったわ。幸い、オーラを使い果たしただけみたいだったけど。

 背負って帰ってる間の周りの視線がえぐかった。

 起きたら説教してやろうと思う。

 

 

 

 

 六十日目

 カルロスの酒場に行ったら、忠告を受けた。

 何でも最近は魔王軍の動きがより活発らしい。

 各地で本来居るはずのない凶悪な魔物が現れる現象が起こってて、大変だとか。

 ノーランド周辺でも嵐以外にもそれらしい魔物が出たから気を付けろと言われた。

 危険な魔物か。

 こりゃ暫く討伐は控えた方が良いかもしれないな。

 その旨を武闘家に伝えようとしたら言う前に「分かってます」と言われた。

 やっと俺のことが分かってきたようだ。

 

 

 

 (追記)

 

 

 

 武闘家が危険種討伐のクエストを持ち帰ってきた。

 訂正、やっぱ何も分かってねぇ!

 

 

 

 

 


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