のどかな草原の少し高い丘の上、明久と伊織は立ち尽くしていた。
そんな決意を抱いて早2時間、僕の心は早くもくじけそうになっていた。
スケープに入ってすぐに出くわした草原、座り込んだ僕たちは一直線に伸びた先にある丘を眺めながらぼやいた。
「どうしよう、伊織」
「本当にどうしますかね」
『伊織、一回休憩しましょう』
『マスター、疲れたよ』
大概ダンジョンにしてもスケープにしても、人のココロが基になったものなのでその人の思いがあり、オトクイに喰われてしまったココロの欠片があるはずなので僕たちオトダマ使いはそれを探しつつ、その人のことを知ったり、オトクイについての情報を得ていくのだけど、いくら探してもウタを響かせても反応がないのだ。
ウタを奏でてくれたオトダマ二人は疲労困憊しているし、あちこち歩きまわったから足が棒になりそうだよ。
「これは一時撤退も視野に入れるべきでは」
「思う。あとご飯も一緒に用意しよう」
「そうですね。そんなこと言われると、お腹空いてきました」
なんかもう伊織は体育座りで頭抱えてるし、僕は僕で足伸ばして空見るしかできないし、あーもう、どうしたら。
びゅおん 一瞬背後から風が吹いたような音がした。振り向くけど何もいない。
「明久?」
『マスター?』
ミクと伊織が不思議そうにこちらを向く、それでも僕はそこから目が離せなかった。絶対に誰かがいたはずなのに居ない。なんでだろう。
『二人とも、向こうに何かありますよ』
メイコの声で前を向けば、そこにはキラキラ光る箱のようなものが、落ちている。拾うために近づいたら、ウタが聞こえてきた。
「いったいどこから来たんでしょう?」
「これ、フレーズだ」
「そうですか? ウタの気配はしない気が」
「え、なんで? こんなにもはっきりウタが聞こえるのに」
一人のオトダマ使いだけがウタを認識するってことあるのかな。とりあえず、このフレーズを確認しないと。僕がフレーズに触れようとしたその時、地面がぐらぐらと揺れだして、持ち上げられるような感覚を覚えた。
「え」
「なにこれ?!」
『マスター』
『伊織!』
とっさに持ち上がってない地面のほうに降りる。伊織もこっちに来てるかと思ったら居なくて、後ろを見ると反対側に降りていく伊織と目が合った。
それも一瞬で機械でできた壁のようなものがせりあがってきて、向こう側は見えなくなった。
「伊織ー、無事ー?!」
ありったけの大声で呼んでみる。すると小さくだが伊織の声がした。メイコと一緒にいるらしい。それは良かったと安堵したところで、物々しい機械音が背後から聞こえた。
振り向くとそこには、いつの間にかできた天井からつり下がった機械でできた大きな繭のようなものが下へ降りてくるところだった。
『マスター、オトクイだよ!』
「うん!」
いつものようにネイロの矢を繰り出そうとしたけど、それより前に気が付く。あのウタが聞こえる。なんでこいつの中から、あのウタが聞こえるんだ。僕の手が止まったことに気づいたミクがこちらをみた。
『マスター?! マスター?!』
「え、うそ……」
あいつはまさかあの時の、ミクと出会ったときのオトクイなのか。あの時から感じていた喪失感はウタを喰われたことによる記憶障害が原因? 考えがまとまらない僕の頭の中にオトクイの声が響いた。
【ソウダモットキョウフシロ、ソレガカテトナル】
あの時よりも数倍凶暴な姿をしたオトクイがこちらを見る。何度もオトクイとは戦ったはずなのに何故か体がすくんで動かなかった。なんで? 僕は戦わないと、忘れた何かがここで取り戻せそうなのに。焦る僕の視界を覆うようにミクが立ちはだかる。そしてネイロの盾を張ると僕の方を向いてきた。
『マスター、忘れ物を届けにきたよ』
僕に差し出されたミクの手には、さっきのフレーズの小箱と小さな鍵があった。
「ミク、これは?」
『マスターの忘れ物だよ。
その声と共に鍵がひとりでに動いた。そして小箱の錠前に刺さると、鍵を開けたのだ。箱の中から光の波が溢れ出した。眩しさに思わず目をつむってしまう。その時、脳裏にある光景が浮かんだ。この場所で出会った親友のこと、一緒に冒険したこと、別れのこと。ああ、
「そうだ。なんで、僕は忘れてたんだろう」
大事な親友だったのに、絶対に忘れないと誓っていたはずなのに。なんで僕はあいつのことを忘れてたんだ。目から涙が溢れ出して止まらない、そんな中でにじんだ緑色が見えた。
「ミク、君が僕のウタを持っていてくれたの?」
『ううん、マスターのウタはまだあいつが喰ったまま。ワタシが持っていたのはフレーズだけ、フレーズ同士を共鳴させればマスターがウタを思い出せるかなって』
ミクが僕の涙を拭う、視界がはっきりとした。ミクの姿も、後ろのオトクイの姿もはっきり見えている。でも、もうオトクイは怖くない。大丈夫だ。
「ありがとう、ミク」
『えへへ、ようやくワタシの好きなマスターに会えたからね。ぜーんぜん問題ないよ』
ミクが笑う、その笑顔を見て思い出した。あの出会いの日、彼女はおんなじ顔で笑ったのだ。貴方に一目惚れしました! という台詞付きで。
『マスター、あいつを倒しちゃおう』
「OK、ミク」
ミクのウタが響いで、青のネイロが生まれてネイロの矢に変化する。それから指鉄砲を敵に向けると、ネイロの矢が全てオトクイの方を向いた。オトクイが焦ったように揺れる。
【ナゼ、オソレナイ ナゼ、キョウフシナイ】
「もう、怖くないさ」
親友のことを思い出す。そう、僕の中には無敵のヒーローがいるんだから!
『ワタシのマスターはね、強いんだよ! これで、終わり!』
無数のネイロの矢がオトクイを貫く。それと同時に優しい、懐かしいウタが聞こえた気がした。オトクイの体が消失するのと同時に、オトクイが作った壁も崩れだした。向こう側から伊織のウタが聞こえてきた。
「明久、大丈夫ですか?!」
かなり息切れしてる、心配かけちゃったかな。
「
「それはよかったですけど、その傷は大丈夫って言いませんからね」
伊織に睨まれる。ちょっと高いところから着地したときの打ち身とかあるけど、そんなに痛くないし大丈夫だと思うんだけど。
「そんなに怪我してる?」
「ランナーズハイ的な感じで痛くないだけですからね。それ」
「そうかな」
「とりあえず帰りますよ」
伊織に手首をつかまれて引っ張られる。道中も怒られていた僕は後ろの二人が何か話しているのは分かったけど、何を話してるかはわからなかった。
『ミク』
『
『うれしそうですね。どうしてですか?』
『ひみつ!』
あとでメイコに聞いたんだけど、それはそれは幸せそうな顔だったそうだ。
「今思ったけど、あっさり二話目で記憶取り戻してよかったのかなこれ。もっと伸ばすべきネタだったのでは」
『マスター、メタ発言はダメー。次回、《これからどうしようか》