荒野のリボン付き   作:野獣後輩

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第一九話 Tutorial

「初スコアおめでとう。かんぱ~い」

 

 ザラが音頭を取り、ビールの樽がぶつかる乾いた音がジョニーズサルーンに響く。テーブルを囲んでいるのはコトブキ飛行隊と、先ほどタネガシ二号から帰還したばかりのリーパーだった。

 イジツで初撃墜を成し遂げたリーパーの祝勝会…という名目だが、実際にはザラがそう言っているだけに過ぎない。サルーンにいる時で、酒を飲んでいないザラの姿をリーパーは見たことが無かった。

 

「あんた凄いな! 最初の出撃で5機も撃墜するなんて、ほんとに腕がいいんだね!」

 

 ジュースのグラスを手に、チカがリーパーの背中をバシバシと叩く。飲んだばかりのビールでむせそうになりながらも、「どうも…」とリーパーは何とか返した。

 

「おかげでタネガシ二号からも救援の報酬が頂けて助かりますわ」

「エンマたちは何もしてないけどね。敵を撃墜したのは私とキリエだけだし」

「あのダニどもにもう少し甲斐性というものがあって、逃げていなければ私たちが遠慮なく叩き潰して差し上げたのですけど」

 

 タネガシ二号を襲撃していた空賊が撤退した後、目的地が同じだということで羽衣丸とタネガシ二号は合流し、ともにタネガシを目指すことになった。幸い護衛機の操縦士たちは全員無事に脱出に成功しており、重軽症を負ってはいるものの、全員命に別状はない。

 

 空賊からタネガシ二号を救助したことで、リーパーたちには事前の取り決め通り報酬が支払われた。タネガシ二号の救助に際し、撃墜数の大半はリーパーが稼いでいたので、レオナはその報酬の8割はリーパーが受け取るべきだと主張した。しかしリーパーは7等分してコトブキ飛行隊の全員も平等に受け取るべきだと譲らず、結局リーパーの意見通りになった。

 

「でも、いいの? チカの言う通り、私たちは何もしてないわよ? なのに報酬は7等分って…」

「いえ、俺一人であのまま飛んでたら墜とされてたかもしれません。空賊が撤退したのは、皆さんが増援に来てくれたからです。コトブキ飛行隊が来たからあいつらはビビッて逃げた、だから皆さんも報酬を受け取る権利は十分にあるはずですよ」

「あなたはお人よしですわね。お人よしは早死にすると言いますわよ?」

「よく言われますよ」

 

 ザラはレオナがなにやら険しい顔をして、テーブルと睨めっこしていることに気づく。「そんな顔してたらビールがマズくなるわよ」と声をかけると、レオナは慌てて顔を上げた。

 

「また借りを作った、とか考えてないわよね?」

「いや、そんなことは…」

「レオナってさー、いっつも貸し借りとか難しいことばかり考えてるよね。ここはさ、ありがたく貰っておけばいいじゃん。せっかくくれるって言ってるんだし」

 

 キリエがパンケーキを切り分け、フォークで口に運ぶ。そしてそのままヤキトリ丼を掻っ込む。パンケーキとご飯を一緒に食べる人は初めて見たな、とリーパーは軽く衝撃を受ける。どうやらキリエにとってパンケーキは主食らしい。

 

「そうそう、借りとか借金なんて踏み倒せばいいんだよ!」

「驚異の経済論」

「それは違うと思いますけど、何でも貸し借りで考えるのもレオナの悪い癖ですわ。前にも言いましたけど、もっと他の人に頼っていいんですよ?」

「そうそう。隊長だからって、何でも責任を感じたりする必要はないのよ」

 

 そこでザラが、「そういえば、あなたも隊長だったのよね」とリーパーを見る。

 

「え? 私たちと同じくらいの歳なのに隊長なの?」

「まあ、一応」

「貸してもらった端末に興味深い記事があった。それによるとリーパーは初の実戦後、半年で飛行隊の隊長まで昇格している。その後の複数の飛行隊が参加したいくつかの作戦では、実質的な現場指揮官を務めている」

 

 淡々と語るケイト。彼女に一時貸し出していたリーパーのタブレット端末には、アローズ社の社内報も載っていた。そこで何度かインタビューを受けた時の記事を読んだのだろう。

 

「そうなのか? 君も隊長だったなんて…」

「いや、レオナさんと違って隊長らしいことなんて何も出来てなかったですよ。勝手に飛んで、敵を墜とすのに夢中になって周りが見えなくなる。良く言われましたよ、『もっと周りを考えて飛んでくれ』とか」

 

 特にオメガにはいろいろ愚痴を言われたものだが、それでも彼はいつもリーパーについてきてくれた。キャリアで言えば遥かにリーパーより上なのに、それでもリーパーが隊長に選ばれた時には自分のことのように喜んでくれたいい奴だった。

 

「それでも隊長として皆がついてきてくれたってことは、よほど信頼されてたのね」

「まあ、そうだといいなって思います」

「チカが隊長を務めるようなもんかな? チカっていつも好き勝手に飛んでるし」

「それは…ちょっと考えたくはないですわね」

「悪夢」

「なにそれ酷くない?」

 

 むくれるチカを見て、皆が笑った。ザラに宴会に誘われた時には参加するかどうか迷ったものだが、やっぱり参加してよかったかな、とリーパーは思った。

 目的地のタネガシには明日到着する。タネガシでは休養と荷下ろしのため二日ほど滞在する予定だ。その間リーパーはイジツの他の街を見物し、ついでに情報収集のためにタネガシを散策する予定だった。

 

 聞けばタネガシはマフィアが多くいる街だという。今はなんとかというマフィアに統一されて抗争など起きてはいないようだが、それでも地球人からすればマフィアと言う人種は近寄りたくはない。

 気を付けて出歩くことにしよう。リーパーはオメガから貰った拳銃の出番がないことを祈った。

 

 

 

 

 羽衣丸にはビリヤードやダーツが楽しめる会議室兼用の娯楽室がある。夕食後、各々が部屋に戻る中、リーパーはアローズ社支給の端末を持って一人娯楽室に向かった。中には誰もおらず、リーパーは端末をテーブルに置くと、ヘルメットに取り付けられていたカメラのメモリーカードを挿入する。

 今日の戦闘の振り返りのためだった。戦闘の後はこうして映像で自分の戦闘機動を振り返ることが、イジツに来る前からの日課となっている。いつもは撮影したデータはグランダー社のエンジニアにも渡っているのだが、彼らはここにはいない。

 

 映像を再生する。戦闘中は思った通りの機動が出来ていたと感じていたのだが、こうして映像を見ているとやや動きに甘いところがあるのが自分でもわかった。それに弾薬をやや多く消費している。やはり12.7ミリ機銃が二挺では威力不足だな、とリーパーは感じた。

 なるべく早くもっと強力な武装を多く装備した機体を入手するか、あるいは隼の武装を20ミリ機関砲に換装して3型相当にしてもらうのもいいかもしれない。イジツでは航空機の発達に伴い、個別に戦闘機を改造する業者もいると聞く。新しく機体を購入するよりも武装のみ換装の方が費用も安く仕上げられる。

 

「あとは照準器だな…」

 

 地球のジェット戦闘機はヘッドアップディスプレイ(HUD)の装備が当たり前だったので、隼1型の眼鏡(スコープ)式の照準器は中々慣れない。敵機を正面に捉え、さらに照準器を覗き込むという動作が必要となるため、少しでも頭を動かしてしまうと正しく照準を定められない。また、照準器を覗き込まなければならないので、視野も狭くなる。照準器を覗かず曳光弾の軌跡を元に弾道を修正するという手もあるが、それだと無駄弾をバラまいてしまう。

 

 その点パイロット正面に設置されたレンズに照準(レティクル)を投影するタイプの光像式照準器であれば、HUDと同じ感覚で照準を定められることが出来る。何より、操縦士が頭を動かしても照準はズレない。隼2型からは眼鏡式に代わって光像式の照準器が搭載されているとのことだが、先に照準器だけでも交換しておきたいところだった。

 

 スロットルレバーに機銃の発射ボタンが付いていることにも違和感はあるが、こればかりは機体の構造上仕方がない。早く慣れるしかなかった。

 

 

 娯楽室の窓から外を眺める。窓の外には、並んで飛行するタネガシ二号の航空灯が見える。それ以外にも荒野の所々に、小さな町や集落のものらしき光が輝いていた。だが地球で見たような、大都会の人々の営みが発する、夜空の星々さえもかき消してしまうような都会の光というものは、ここには無い。

 

 

 

「あら、ここにいらしたのですか?」

 

 娯楽室の扉が開かれ、コトブキ飛行隊の面々が顔を覗かせた。だがザラとレオナの姿は見えない。ザラはまだサルーンで酒を飲んでいて、レオナは今日の戦闘についてルゥルゥに報告に行ったのだという。

 

地球(ユーハング)でのリーパーの戦闘記録閲覧を所望する。イジツより70年以上進んでいる地球ではどのような空戦が行われているのか、非常に興味深い」

「私らも暇だからついてきちゃった。またあの映画? 見せてよ」

 

 グランダー社がデータ収集のためリーパーのヘルメットに取り付けていたカメラの映像は、機密部分に当たる個所を削除してアローズ社にも提供されている。無論テストパイロットたるリーパーもデータを受け取っており、端末の中には一年分近いデータが入っている。

 外部の人間に見せていいのかは判断がつかないが、アローズ社では「リーパーに学べ」とばかりに戦闘の記録映像を社員たちに配信して、その空戦技術を学ばせようとしていた。一応、見せるだけならば大丈夫だろう。

 

「わかりました。じゃあプロジェクターを…」

「部屋まで取りに行ってもらうのは恐縮。その端末で十分」

「早く早くぅ」

 

 キリエとチカが急かすので、投影ではなく端末で直接見ることになった。一応、12.3インチの大画面だから、少人数であれば十分見られるだろう。

 

「それで、どんな戦闘の映像をご所望で?」

「地球での一般的な空戦の映像を希望する」

「了解」

 

 データベースを漁ると、該当する映像記録はいくつも出てくる。その中でリーパーは、半年ほど前に行われた作戦の記録を呼び出した。その作戦は既に終了していて、戦闘の経過も新聞などで大々的に報道されている。現在進行形で行われている作戦の映像は流石に見せられないが、一般的にも知られている戦闘記録ならば見せても問題ないだろう。

 

 リーパーは「戦域攻勢作戦計画4101」と記載されたファイルをタップし、端末をテーブルに置く。再生が開始されたのは、国連軍が半年前に行った運河の強行突破作戦だった。

 

「ちょっと、チカもっと詰めてよ」

「えー、キリエそっちに行ってよ」

「二人とも、始まりますわよ。静かになさい」

「狭い。もう少し間隔を開けることを提案する」

 

 




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