荒野のリボン付き   作:野獣後輩

20 / 42
第二〇話 戦域攻勢計画4101号

『ブリーフィングを始める』

 

 グッドフェローの言葉と共に、搭乗員待機室のスクリーンに世界地図が表示される。カーソルが地図上を移動し、紅海を中心に拡大する。

 

『先日国連海軍インド洋方面艦隊が敵襲を受け、空母ヴァルチャーが被弾損傷、ドッグ入りすることとなった。そこで大西洋艦隊から空母ケストレル打撃群が、インド洋艦隊の増援も兼ねて現地へ向かう』

 

 洋上を航行する空母を中心とした艦隊の映像がスクリーンの端に表示され、「KESTREL」と表示された輝点(ブリップ)が大西洋から地中海を抜け、スエズ運河を通ってインド洋へ向かう進路が地図に重なる。

 

『なんでスエズ運河なんだ? 一応紅海の両岸は国連が抑えてるが、すぐ北のイランとイラクはユージア勢力内だろう? 危険が大きすぎやしないか?』

『その通りだ。だが一週間後、インド洋方面で大規模な作戦が実施されるため、そこに空母の投入は不可避となっている。それに…』

 

 スクリーン上のアフリカ大陸の地図が移動し、今度は南端の喜望峰を中心とした表示に切り替わる。喜望峰周りの航路がいくつか表示されるが、そのどれもが赤線で×印が付けられている。

 

『アフリカ大陸南部は反政府勢力の活動が激しく、海賊の出没も多い。ユージア軍も現地の反政府勢力に人員と兵器の支援を行っている。またここ最近では喜望峰周辺における敵潜水艦の活動も活発だ。作戦実施までの時間を考えると、喜望峰を迂回するルートは危険な上に間に合わない』

 

 再び地図が紅海を中心とした表示になる。

 

『ケストレル打撃群は先日スエズ運河を通過し、現在は紅海上をアデン湾に向かって航行している。だが、敵もケストレルのインド洋到達を何としても阻止しようとするだろう。現地でのユージア軍および反政府勢力に動きがあるとの情報も入っている。敵は、アデン湾でこちらに攻撃を仕掛けてくるつもりだろう』

 

 地図がズームアップされ、アデン湾をケストレル戦闘群が進んでいくイメージが表示される。アデン湾の北側、サウジアラビアは国連に協力的だが、内戦が続くイエメンではユージアが支援する反政府勢力が攻勢を強めている。そのためサウジアラビアは味方を示す青、イエメンは敵を表す赤に地図が塗り分けられていた。

 

『そこで、ケストレル戦闘群のアデン湾通過及び、アデン湾一帯の海上優勢確保を目的とした大規模な協同作戦計画の実行が決定した。本協同作戦計画を「戦域攻勢計画4101号と呼ぶ』

 

 ケストレル戦闘群から三つの線が伸び、それぞれ異なる方向へと向かっていく。一つはアデン湾の北側、もう一つはケストレル戦闘群の前方、そして最後の一つはそこからさらにアデン湾からインド洋へとつながる、いわゆる「アフリカの角」と呼ばれる半島北端まで伸びていく。

 

『戦域攻勢作戦計画4101号は3つの局地的航空作戦任務で成り立っている。1つを『ゲルニコス作戦』と呼ぶ。本作戦はユージア軍航空部隊及び地上兵器を殲滅する対地・対空攻撃任務である』

 

 アデン湾北、イエメン南部が円で囲まれ、そこに出現が予測される敵戦力がCGと共に表示される。長距離対艦ミサイルを搭載した爆撃機と、地対艦ミサイル部隊が予想される敵勢力としてマップに描かれる。

 

『1つを『ラウンドハンマー作戦』と呼ぶ。本作戦はユージア艦隊を殲滅する対艦攻撃任務である』

 

 アデン湾の出口に陣取るユージア艦隊がマップに重なる。ミサイル艇から巡洋艦まで、ユージア連邦が運用する海上戦力は強大だ。中にはシンファクシ級潜水空母などという怪物艦もあるが、それに関してはリーパーたちが別の作戦で撃沈していたので、今回の作戦には出現してこないだろう。

 

『1つを『コスナー作戦』と呼ぶ。本作戦は原子力空母ケストレルを中心とする艦船の護衛任務である。いずれの作戦でもユージア軍の激しい攻撃が予想される』

 

 ケストレルを中心とした艦隊はイージス艦から補給艦まで十数隻の艦艇で構成されているが、そのうち何隻が無事にインド洋に到達できるだろうか。イージス艦の防空能力は強力だが、アデン湾の北岸には敵の対艦攻撃部隊が展開している。そこからの長距離ミサイル攻撃を捌きつつ、敵航空部隊の迎撃も行わなければならない。

 

『ボーンアロー隊にはケストレル護衛が任務のコスナー作戦に参加してもらう。リッジバックス隊は敵艦隊攻撃を行うラウンドハンマー作戦を実施。他にも空母ケストレル所属の航空部隊と、現在アフリカで対テロ及び海賊掃討任務にあたっているタスクフォース108から増援を受け、本計画を実施する』

 

 ゲルニコス作戦に参加する部隊には『ウォードック』、『ウォーウルフ』の名前が見える。どちらもユージア戦争で名前が知られた国連軍飛行隊だ。

 

『凄い、オールスターじゃないか』

『ここまでしなければケストレル打撃群のアデン湾突破は困難だということだ。これから君たちもケストレル打撃群に合流してもらう。事前に説明した通り、今回の任務は空母艦載機を使用して臨んでもらう。リーパー、君にはグランダー社がF-14を用意している。後席にはいつも通り例の機械が乗っているが―――まあ君ならどんな機体でも大丈夫だろう』

『ちぇ、今回はタイフーンはナシか』

 

 オメガが最後に愚痴をこぼし、スクリーンが消灯される。同時にガタっと何かが動く音がして、画面にリーパーの顔が大写しになり、そしてブラックアウトする。

 

 

 

 

 

 

 

「空母って何?」

 

 開口一番そう尋ねてきたのはチカだった。

 

「飛行甲板を備え、洋上での航空機運用を可能とした船舶の一種」

「羽衣丸みたいなもん?」

「まあ、そんな感じ。海の上に浮かんでる滑走路だな」

 

 ケイトの言葉を補足したリーパーは、続きを再生する。さっきまで再生していたのが、リーパーたちが空母ケストレルに移動する前に受けたブリーフィングの映像。これからはいよいよ、コスナー作戦当日の映像が再生される。

 

 

 

 

 

 

『もうゲルニコス作戦とラウンドハンマー作戦は始まってる。リッジバックスの連中、上手く敵艦隊を沈められてるんだろうな』

 

 空母の狭い通路を歩くオメガの姿が画面に映る。視線の位置が低いのは、リーパーがカメラ付きのヘルメットを腰に抱えているからだった。すれ違う水兵たちが、リーパーのエンブレムを見て敬礼する。

 

『先行する艦隊がグアルダフィ岬沖で敵艦隊と交戦中。現在のところ作戦は順調に進行中。各員、アデン湾突破まで気を抜かないように』

 

 艦長が館内放送で呼びかける。名前はウィーカーと言ったか。退役した前艦長の後任として、新たにケストレルに着任したばかりの艦長だ。

 

『せっかくの真夏の海だってのに、泳ぐんじゃなくてドンパチしに来るとはな』

『ベイルアウトすれば下は一面の海だ。好きなだけ泳げるぞ』

『勘弁してくれ。ナイスバディのねーちゃんとならともかく、サメとなんか遊びたくもないぜ』

 

 オメガがそう言って、通路の先の扉を開ける。二人が出た先は空母の艦載機格納庫で、今まさに発艦準備中の機体が整備員らの手によって最後の調整を受けていた。爆弾やミサイルを満載したトーイングカーが、リーパーとオメガの横を走り抜ける。

 

『F/A-18とはな。随分久しぶりに乗る機体だ、新入社員以来か?』

『オメガが昔乗ってたのはレガシーホーネットだろ? こっちは最新型のアドバンスド・スーパーホーネットだ。せっかくの最新鋭機だ、また墜とすなよ』

 

 オメガが笑って、ラダーを上りF/A-18Eの操縦席に乗り込む。カメラの視点が動き、リーパーがヘルメットを装着した。そして目の前の巨大な機体を見上げると、操縦席の脇に立てかけられたラダーを上る。今作戦におけるリーパーの搭乗機は、グランダーI.G社によって改造が施されたF-14D戦闘機だった。

 後部座席にはいつもの通り、コプロが陣取っていてリーパーの戦闘データ収集に努めている。発艦準備のアナウンスが流れ、リーパーは操縦席に乗り込んだ。

 

 機体に問題が無いことを確認すると、リーパーのF-14はトーイングカーに牽引され、舷側のエレベーターに後ろ向きで押し込まれる。トーイングカーが離れていくと、エレベーターが昇り始め、ビルのようにそびえ立つ艦橋が目に入ってくる。

 

『カタパルト圧力上昇。70,80,90。ポイント15、48、32、確認』

『OKです! 打ち出し準備完了です!』

 

 無線機を通じ、クルーたちが発艦準備を行う様子が聞こえてくる。目の前の広大な飛行甲板に設けられた4基のカタパルトのレールからは水蒸気が立ち昇り、ある種幻想的な風景を醸し出していた。

 アングルドデッキには今まさに発艦しようとしている2機のF/A-18が並んでいた。クルーが大きく腰を落として前方を指さすと、それを合図にカタパルトで戦闘機が打ち出される。翼下に大量のミサイルをぶら下げたF/A-18がカタパルトで打ち出され、一瞬視界から消えた後、空高く上昇していく。

 

『次来るぞ! 準備急げ』

 

 クルーの合図でリーパーは機体を前進させ、艦首カタパルトまでF-14を移動させる。緑のジャケットを着た誘導員の合図で機体を停止させると、クルーたちがカタパルトのシャトルとF-14の主脚に取り付けられたローンチ・バーを引っかける。

 

『シャトル接合完了!』

 

 赤いジャケットを着た兵装係がミサイルの安全ピンを外し、チェックして回る。他の白いジャケットの安全担当クルーも機体の下に潜り込み、機体とカタパルトの最終確認を行う。

 

『準備完了! 機体の最終チェックどうぞ!』

『バリアー上げろ!』

 

 カタパルトの後方、F-14の背後で、排気からクルーたちを守るジェットブラストシールドがせり上がる。

 管制官の指示で、リーパーはいつも通り各種機器や機体が問題なく動作するか確認する。展開した可変翼とラダー、フラップ、スラット、火器管制システム、レーダー、その他諸々。後方を振り返りながら、フラップやエルロン、エレベーターがきちんと操作した通り動くかチェックする。その間周囲のクルーは片膝を立てた耐ブラスト体勢で待機を続ける。

 

 操作系統に問題が無いことを確認したリーパーは、右手を額に当ててカタパルトオフィサーに敬礼した。

 

『ボーンアロー1、発艦を許可する』

 

 黄色いジャケットを着たカタパルトオフィサーが腰を落として姿勢を低くし、片手を突き出して前方を指さした。その合図でカタパルトが射出され、リーパーの乗ったF-14は一瞬のうちに時速300キロ近くまで加速され、そして甲板から放り出された。機体が一瞬沈み込み、そして上昇を開始する。続いてオメガの乗ったF/A-18も射出され、ボーンアロー隊が編隊を組む。

 

『ボーンアロー隊、方位200より接近中の敵機を迎撃せよ。敵機は4グループ。高度は…』

 

 強力なレーダーを装備する早期警戒機(AEW)から目標の指示が入る。『了解』と返し、リーパーはボーンアロー隊の面々に指示を下す。

 

『いつも通りワンとツー、スリーとフォーでエレメントを組む。最優先目標は空母を狙う敵攻撃機だ』

 

 ケストレル打撃群に南西から接近中の機影はおよそ4つの集団に分かれ、リーパーたちにはそのうちの1グループが割り当てられる。機数はおよそ20から30。

 ユージア連邦に同調する、アフリカの反政府軍が送り込んだ機体だろう。反政府軍と言ってもその実力は侮れず、最近では傭兵やユージアの軍事顧問団が大量に送り込まれ、さらには最新鋭の機体まで装備していると聞く。

 青い空に眩しい太陽。視界を下方に転じれば、どこまでも続く海。オメガの言う通り、ここが戦場でなければ泳ぐのに絶好の場所だろう。だが敵機に撃墜されてしまえば、サメが群れる海で否が応でも海水浴を楽しむ羽目になる。

 

『お仕事の時間だ』

 

 スロットルを上げ、F-14の可変翼が後退する。機体が雲に突入し、窓に着いた水滴があっという間に後ろへと流れていく。

 

 

 

 

 レーダーが目標を捉え、中距離空対空ミサイル(AAM)の射程に入る。敵機がボーンアロー隊を捕捉した様子はなく、戦闘はボーンアロー隊が有利な状況で開始された。

 

『FOX3』

 

 隊長機のリーパーがミサイルを発射し、続けてオメガたちも発射する。発射されたミサイルは母機(F-14)からの指令を受け、100キロ以上彼方の敵機へ向けてまっすぐ飛翔していく。目標集団に接近したミサイルは今度は弾頭部に備えられたレーダーで敵機を探知し、自ら目標を識別して突入する終末誘導に切り替わる。そのタイミングでリーパーは第二波のミサイルを発射した。

 

敵機撃墜(スプラッシュ1)!」

 

 データリンクでAEWから送られてくる敵機の輝点が、レーダー画面上からいくつか消える。恐らく何もわからないまま、突然ミサイルの突入を食らったに違いない。第二波のミサイル群が終末誘導に入るタイミングで第三射の発射命令を下そうとしたリーパーだったが、突然レーダー画面に靄のようなノイズが走る。

 

『電波障害だ。各機、交戦に備えろ』

 

 ユリシーズに含まれていた特殊な磁気を帯びた鉱石が、微粒子となって今も大気圏内を風に乗って漂っている。普段は電子機器の動作に影響を及ぼすことはないものの、風の流れによっては粒子の濃度が高くなり、レーダーでの目標探知や通信に障害をもたらすこともある。アフリカ大陸には複数のユリシーズの破片が落着していたため、特に電波障害が起きやすい地域となっていた。

 

 こうなってしまえばレーダーは頼りにならない。時折粒子が途切れてレーダースクリーンがクリアになるものの、基本的には目視で敵機を探すしかない。近距離まで接近すればレーダーでの探知も可能となるが、探知したら1分以内に格闘戦が始まる。

 

 リーパーはレーダー画面と空を交互に見ながら、時折表示される敵機の輝点の方向へと進んでいく。最初に会敵したのはボーンアロー3(ブロンコ)4(ゼブ)のエレメントだった。

 

『敵機はMiG-29(ファルクラム)Su-24(フェンサー)! 敵の対艦攻撃部隊だ』

『了解、すぐそっちに行く』

 

 既に格闘戦が始まっていた。対艦ミサイルをぶら下げたSu-24を攻撃しようとするF/A-18に、MiGがしつこく絡みつく。F/A-18が発射したミサイルを、Su-24がフレアを放出して回避した。そのまま艦隊からのレーダー探知を逃れるべく、低空へと降下していく。

 

『やるぞリーパー!』

 

 オメガが言わずとも、リーパーは既に敵機を捕捉していた。味方機に食らいつくMiG-29をロックオンし、ミサイルを発射。敵機が回避行動に移ったところでもう一発を発射する。一発目を避けて安堵からか動きが鈍っていたMiG-29が、ミサイルの直撃を受けて爆散する。

 

『こいつは死神だ!』

 

 電波障害で無線が混信しているのか、敵パイロットが驚愕する声が聞こえた。リーパーはそれに構わず、オメガの後方に陣取っていた敵機にミサイルを撃ち込む。近接信管が作動したミサイルが炸裂し、破片を浴びたMiG-29が翼をもがれてくるくる回りながら降下していく。

 

『なんてこった、死神だ!』

『くそっ、ツイてないぜ! まさか死神が相手とは』

『全機、死神を優先して狙え。他の機には構うな、単機での交戦は禁止』

『あいつを墜とせば名が上がる! やってやる!』

 

 機体に描かれたリボン付きの死神のエンブレムを認めた敵パイロットからの声が聞こえてくる。それと同時に、レーダー画面に映るようになった敵機が、一斉にリーパーの方へと殺到してくるのが見えた。敵機にロックオンされていることを告げる警報が鳴りっぱなしだ。リーパーは一度雲に進入し、敵の視界から逃れる。

 

『リーパー、後方に敵機!』

 

 オメガが告げるまでもなく、バックミラーに移る敵機を認めていたリーパーは、ハイGターンで敵機と相対する。軽量小型で格闘戦能力の高いMiG-29だが、F-14も自動制御される可変翼のおかげで格闘戦も十分こなせる。

 ヘッドオンの状態から即座にミサイルを発射し、同時にフレアを放出しつつ急降下し、正面の敵機が発射したミサイルを躱す。敵機も回避運動を取ったためにリーパーが放ったミサイルは命中しなかったが、回避運動から戦闘に復帰したのはリーパーが先だった。リーパーはさっきまで自分を追っていた敵機の背後に着くと、操縦桿のトリガーを引く。毎分6000発の発射速度を誇るバルカン砲から一瞬で数十発の20ミリ機関砲弾が吐き出され、MiG-29の機体をズタズタに引き裂いた。

 

『FOX2、FOX2!』

 

 リーパーが敵の護衛機と戦闘を繰り広げている間に、オメガたちも続々と敵機を撃墜していた。低空に降りたSu-24に、F/A-18が背後から追いつく。Su-24は回避運動を取り始めたが、機体の重い戦闘爆撃機は機動力が劣る。

 

『ミサイルを抱えたまま墜ちやがれ』

 

 海面近くで爆発の華が咲き、対艦攻撃部隊はミサイルの発射位置につく前に全機撃墜された。残っていた護衛機も肝心の戦闘爆撃機が撃墜されたためか、はたまた死神のエンブレムを恐れたのか、反転して撤退していく。

 

『艦隊に接近中のSu-24を味方機が撃墜! 死神の部隊です』

『流石だ…話には聞いていたが、この目で死神の戦いを見るのは初めてだ』

 

 攻撃してきたのはアフリカの反政府勢力だろうか。元々貧困や飢餓、民族間紛争で争いが絶えないアフリカ大陸だったが、数年前から『アフリカを取り戻す』のスローガンの下、各地の反政府勢力やテロリストが統合され、組織化された軍隊と化している。装備も充実した彼らは、小国の正規軍なら圧倒できるほどの戦力を整えていた。そこへユージア軍が兵器や人員を供与しているので、その実力は侮ることが出来ない。

 

『ボーンアロー隊、そこから方位080、30マイルの地点でガーゴイル隊が敵機と交戦中だ。押されている、至急援護に向かってくれ』

 

 管制官の指示に『了解』と返し、リーパーは編隊の状況を確認した。被弾した機は無し。ミサイルも各機残り2発か3発程度しか残っていないが、燃料も十分残っていてまだ戦える。

 

『本艦に接近する新たな高速小型目標を探知、敵対艦ミサイルと思われる! 方位180、距離―――』

『ESSM、攻撃はじめ!』

『インターセプト5秒前、スタンバイ!』

『艦隊、輪形陣に移行。本艦をケストレルの盾にする、何としてもケストレルだけは通すんだ』

 

 アデン湾を東に向かって航行中の艦隊も敵の攻撃圏内に入ったらしく、先ほどから無線は敵の対艦ミサイルを迎撃する味方艦隊の通信が飛び回っていた。リーパーたちの部隊は敵対艦攻撃機を全機撃墜したが、他の部隊では撃ち漏らしたところもあるようだ。

 それにアデン湾の両岸には、偽装を施した敵のゲリラ部隊が潜んでいて、トラックに搭載された長距離ロケット弾や対艦ミサイルで、湾のど真ん中を進むケストレル打撃群に攻撃を仕掛けている。事前にゲルニコス作戦で敵の大規模な対艦ミサイル部隊は掃討されているが、広大な砂漠に点在するようにして隠蔽された敵攻撃部隊を全て潰すのは困難だった。

 さらに沿岸部に隠匿されていたミサイル艇なども活動を開始し、遠距離から対艦ミサイル攻撃を開始している。艦隊もそのことを覚悟して、航行を続けていた。

 

艦対空ミサイル(SAM)が撃ち漏らした一発、来ます!』

『主砲撃ちーかた始め! 用意、撃て(てー)!』

『CIWS、迎撃開始(コントロールオープン)

『駆逐艦アイオライト、フリゲート艦ピトムニク被弾! 損傷軽微、戦闘継続は可能です』

 

 撃沈された艦こそ未だに出ていないものの、ユージア軍の攻撃の手は止まない。艦隊がアデン湾を突破するまで、あと30分といったところか。

 

『この分だと、何隻か沈むのは覚悟しないとな…』

『安心しろ、上空の護衛機は死神だ。あいつの下なら安全だ』

『それは本当か? 希望が見えてきたな』

 

 「リーパー、期待されてるぞ」とオメガ。「やるだけやるさ」と返し、リーパーは味方編隊の援護に向かう。

 

 

 

 

 

『こちら空母ケストレル艦長ウィーカーだ。我が艦隊はアデン湾の通過に成功した』

 

 30分後、艦隊はアデン湾を抜けてインド洋への進出を果たした。既にミサイルを撃ち尽くし、機銃のみで敵機を追い回していたリーパーは、ケストレル艦長の通信と共に敵機が撤退していくのをレーダー上で確認する。数隻が被弾していたが自力航行不能な状態にまで追い込まれた艦はなく、また最重要目標の空母は無事だった。

 

 アデン湾の出口はユージア艦隊が封鎖していたが、ラウンドハンマー作戦により敵艦隊は壊滅し、残存戦力もケストレル打撃群からの対艦ミサイル攻撃で無力化された。生き残った敵艦は這う這うの体で撤退していき、ケストレル打撃群が敵の救命ボートの収容に当たっている。

 

『本艦隊の損害は極めて軽微。航空部隊の諸君に感謝する』

『…終わったな』

 

 やれやれと言った感じで、オメガが一息ついた。リーパーもヘルメットのバイザーを上げ、周囲の味方機を確認する。

 ボーンアロー隊に被弾機は無し。救援に向かったガーゴイル隊は何機か墜とされたようだが、撃墜された者も無事にベイルアウトに成功して、今は洋上で救難ヘリを待っている。そのガーゴイル隊もリーパーたちが援護に入ってからは、1機も墜とされていなかった。

 

『さすがは死神だ。あいつと一緒に飛んでいれば生き残れるぞ』

『あいつがいればこの戦争に勝てる』

『死神のマークが頼もしく見える日が来るとは思わなかったぜ』

 

 無線機ではリーパーを称賛する声が飛び交っているが、当の本人は何も言わない。代わって、『うちのエースは誰にも墜とせないのさ』とオメガが自慢げに応える。

 

『任務完了、帰投する』

 

 そう告げて、リーパーはF-14の機首をケストレルの方向へと向ける。その後をぞろぞろと、ボーンアロー隊とガーゴイル隊がついていく。

 

『ボーンアロー1、レーダー上で貴機を確認した。着艦体勢に入れ』

 

 ボーンアロー隊が味方艦隊上空に戻ると、既に戦闘を終えた艦載機部隊が続々と着艦を開始していた。管制官の指示でリーパーはランディングギアとアレスティングフックを展開し、空母後方から接近して着艦体勢に入る。

 

『デッキOK。ボーンアロー1、着艦を許可する』

 

 今の時代はどの艦載機にも自動着艦装置が備わっていて、ボタン一つ押せばコンピューターが勝手に機体を制御し、誤差30センチの範囲内で速度のコントロールから着艦まで全てやってくれる。だが腕が鈍る、機械を信用できないというパイロットも多く、手動で着艦するパイロットがほとんどだ。リーパーもよっぽどの事情がない限り、自分の手で操縦桿を握って着艦を行っていた。

 

『進入コース適正。その状態を維持せよ』

 

 着艦信号士官(LSO)の指示に従って減速、コース修正、機首角度修正を行い、目の前に広大な空母の飛行甲板が近づいてくる。こうして間近で見ると巨大な空母だが、空の上からでは広大な海原に浮かぶ落ち葉ほどのサイズにしか見えなかった。

 F-14Dの機体後部から伸びたアレスティングフックが飛行甲板に張られた4本のワイヤーのうち、一番手前のアレスティングワイヤーに引っかかり、リーパーはスロットルを絞った。機体が急減速し、ハーネスが身体を締め付ける。ランディングギアが甲板に触れ、一気に速度が落ちた機体は、着艦甲板であるアングルドデッキの中ほどで止まった。

 

『いい腕だ、ボーンアロー1。駐機スポットへ移動、次の指示を待て』

 

 リーパーが了解と返し、F-14が駐機スポットへと自力で移動を開始する。リーパーが大きく息を吐く音と共に、映像の再生が終了する。

 

 

 

 

 

 

 

「…なんかよくわかんないけど、あんたが凄いことだけはわかった」

「キリエ、それは矛盾している。わからないのかわかったのかはっきりしてほしい」

 

 映像の再生が終了し、最後にデブリーフィングの内容が表示された。ケストレル打撃群はインド洋への進出に成功。今後のインド洋方面における作戦成功のカギとなるだろう。以上。

 リーパーたちが交わす細かい用語などキリエにはさっぱりだったが、それでも彼の腕がいいであろうことは、映像を見ていても思った。リーパーは味方から賞賛され、敵からは恐れられている。一度の戦闘で4機から5機を撃墜していることからも、彼の腕の良さがなんとなくわかった。

 

 もしも自分が同じ戦闘機を操縦していたとして、同じような戦果を挙げることが出来るだろうか。キリエは今日の戦闘の結果も併せて、リーパーへの認識を改めた。最初に200機以上を撃墜したと聞いた時には大ぼら吹きかと思っていたが、本当なのかもしれない。良い機体に乗ってるからそんなに戦果が良い、というのも誤りだろう。

 

「地球の海ってあんなに広いんだね。見渡す限り水たまりが広がってるなんて凄いな、きっとウーミもあの海のどこかにいるんだろうね」

 

 一方チカは別のところに感動していた。リーパーのヘルメットに取り付けられたカメラは、戦闘中ほとんど空か海を映していた。以前に海の映像をチカにも見せていたのだが、何度見ても素晴らしいと感じているらしい。

 

「しかし、ユーハングでは船がそんなに重要なのですか? 空路での輸送はイジツほど盛んではないと聞きますが」

「船では重量物も大きいものも運べますからね。それに飛行機と違って、動力を失っても墜落する恐れがない。こちらの飛行船以上に、船での輸送は重視されています」

 

 イジツでは陸路での輸送が盛んでないことにリーパーは疑問を抱いていたが、広大なイジツに点在する街を繋ぐインフラを整備するには、膨大な時間と費用と物資が必要になるに違いない。それに作った後も保守点検しなければならず、その上空賊もいる。

 せっかくインフラを作っても、あっという間に風化してしまうだろうし、空賊に破壊されてしまえばお手上げだ。おまけに一部の地域では瘴気と呼ばれる毒ガスのようなものが地表を覆い、おまけに古代の生物が進化した怪物もいるらしい。そんな状況では車両を使った陸上輸送よりも、用心棒の飛行隊をつけた飛行船での輸送が主流になるのも当然だった。

 

「この映像は非常に参考になった。見せていただき感謝する」

「いつかイジツでも、あんな戦闘機が飛ぶようになるのかな?」

「私は隼一筋だし! どんな戦闘機だって隼で撃墜してやるもんね! イサオの震電だって撃ち落としたんだから!」

「キリエ、あなたあのケツ頭野郎は撃墜してないでしょう? 結局あのクソ野郎が死んだところは誰も見ていないまま、震電は穴の向こうに消えたんですから」

「あいつの機体を穴だらけにしてやったんだから、撃墜したも同然でしょ!」

 

 ふふん、と自慢げに胸を張るキリエだったが、リーパーは何やら首を傾げていた。

 

「ん? どしたの?」

「今震電が穴の向こうに消えたって言った?」

「言いましたけど、それが何か?」

「その震電って、どんな色でしたか?」

「趣味の悪い赤色だったけど、それがどうしたの?」

 

 リーパーがなにやら苦い顔をする。なぜリーパーがもういないイサオと、その震電のことについて聞きたがったのか、キリエはわからなかった。

 

「…俺、そのイサオって人を知ってるかもしれない」

 

 リーパーはイジツに来る前に見た新聞のことを思い出す。一年前に突如首都上空に現れた、商社の会長が道楽で作ったという赤い震電。あれはもしかしたら、そのイサオとやらのことではないか?

 これまで自由博愛連合のトップだったイサオという男が、イケスカの戦いで「穴」の向こうに消えたという話は聞いていた。だがもういない人についてどうこう考えても仕方ないと言うことで消えた時の詳しい話は聞いていなかったのだが、もしも彼が地球に来ていたとしたら?

 あのユーリアって議員が聞いたら怒るだろうな。彼女がイサオについて話していた時のあの嫌そうな顔を思い浮かべたリーパーは、しかし黙っておくことは出来ないとキリエ達に新聞記事のことを話した。

 




ご意見、ご感想お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。