荒野のリボン付き   作:野獣後輩

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マリア様のイジツ富士を称えよ!
マリア様のイジツ富士を称えよ!

今からでも遅くないからOVAで水着回を出してください(懇願)


第三四話 HANDFUL OF HOPE

 その日、イヅルマ自警団は創設以来最も多忙と言える一日を迎えていた。

 全てはイケスカ新市長が、イヅルマでイジツの諸都市首長を集めた会議を開催したいと申し出てきたのが発端だった。イサオによる自由博愛連合の結成とその後のイケスカ動乱により、一時はイジツ混乱の諸悪の根源として扱われ、内戦中はあらゆる都市から見捨てられたといってもいい状況のイケスカだったが、現在でもイジツ最大の都市であることに変わりはない。

 

 そのイケスカも内戦中はほとんど陸の孤島と化し、忘れられていた存在だったが、内戦を制した「協和派」のトップであるレナが市長に就任してから状況は一変した。レナは各都市に使者を送り、イジツの全都市による協調と発展を訴えているのだという。かつてのイサオの再来かと警戒する都市も多かったが、話を聞かないことには彼らが危険な存在なのかどうかもわからない。

 

 そのため会議が開催されるイケスカには、イジツの諸都市の市長らが集合し、天と地がひっくり返ったような大騒ぎが繰り広げられていた。大都市がゆえにイヅルマの飛行場は大きい方だったものの、各地から集まる飛行船とその護衛機でたちまち駐機場は埋まってしまう。仕方なく自警団や企業が所有する施設飛行場まで借り受けて、各都市からやってくる市長たちを迎え入れている有様だった。

 

「こちらはカナリア自警団です。安全な飛行にご協力頂きありがとうございます」

「アレシマ一号はイヅルマ自警団飛行場への着陸をお願いします。誘導するのでついてきてください」

 

 イヅルマ自警団員も航空管制に誘導、さらにはパトロール飛行に駆り出され、目の回るような忙しさだった。カナリア自警団も飛行船や護衛機の誘導の仕事を割り当てられ、慌ただしく離着陸を繰り返している。

 

「それにしても大した数ですねぇ」

「これで小さな町からも人が来ていたら、それこそ駐機場が足りなくなっていたわね」

 

 今回イヅルマにやってきたのはほとんどが大都市、あるいは中規模の都市の首長がほとんどで、オウニ商会の本拠地があるラハマのような小さな町から代表者が来ることはなかった。地方の小さな町では遠く離れたイヅルマまでの旅費を捻出することが難しく、加えてアレシマやイヅルマ、ガドールといった大きな都市とは違い、他の街への影響力もほとんどない。そのような小さな町が会議で何を言おうと、取るに足らない意見として扱われてしまうだろう。

 

「飛行場から連絡です。市営飛行場の駐機場はもう余裕がないので、各都市代表団以外の一般利用者については、今後郊外の臨時飛行場に誘導するようにとのことです」

 

 アレシマからの飛行船を誘導していたミントが、編隊に戻ってきて報告する。下を見ると、市営の飛行場の駐機場は戦闘機でいっぱいだった。各都市の代表団が引き連れてきた、護衛の機体だ。

 

「こんなにいっぱい護衛機を連れてくるなんて、自分たち自警団を信用してないんでしょうか?」

「違うと思うわ。イケスカ新市長に対して、自分たちの力を誇示したいんでしょうね」

 

 リッタの言葉に、シノがそう返す。飛行船の護衛機は各都市の自警団の機体だが、どの都市も一個中隊かそれ以上は護衛を引き連れてイヅルマにやってきていた。自分たちの都市の代表が乗っているのだから当然といえば当然だが、一方で過剰な戦力のようにも思える。各都市の護衛機だけで、100機近くはいるだろう。

 

 どの都市もイケスカを警戒しているのだ。自由博愛連合は崩壊し、新たな市長が就任したが、それでもイジツを支配しようとした自由博愛連合の再来を多くの都市が恐れている。あのユーハングですら実用化を諦めた戦略爆撃機「富嶽」を完成させ、さらにはジェットエンジンまで作り上げたイケスカが、高い技術力を持っていることは疑いようがない。

 

 そのイケスカが再びイジツの支配に乗り出そうとしたら―――そう考える都市の代表者が多いのも当然のことだ。だからこそ彼らは過剰な戦力を引き連れてイヅルマまでやってきて、レナ新市長を威嚇しているのだろう。自分たちはこれだけ戦力を持っている、変なことを考えるなと。

 

「すぴー」

「こらヘレン、寝ちゃダメよ!」

「皆朝から働きづめですもの、眠くたって仕方ないわ」

 

 エルの言う通り、イヅルマ自警団は朝からずっと休みなく働いている。市内の治安維持に当たっている部署を除けば、ほぼ総出で今回の事案に取り掛かっていると言っていい。ヘレンが寝こけているのはいつものことだが、このままでは疲労による事故が発生する懸念すらあった。

 

「あと1時間で私たちも休憩です。それまで頑張りましょう!」

「あれ、あの飛行船は…」

 

 リッタが、また新たにやって来た飛行船を見て首を傾げた。つい数日前にイヅルマを出立したばかりのオウニ商会有する羽衣丸だ。

 

『こちらイヅルマ自警団本部。カナリア自警団、オウニ商会の羽衣丸を自警団飛行場まで護衛・誘導せよ』

「え? 都市の代表者以外は全て郊外に誘導すると…」

『これは命令だ。直ちに羽衣丸を自警団飛行場まで誘導せよ。また、羽衣丸へは他の機体を近づけさせるな。警告を無視し羽衣丸へ接近する機体があれば、直ちに撃墜せよ』

「げ、撃墜!?」

 

 突如飛び出した物騒な言葉に、アコは耳を疑った。だが自警団本部は『命令を復唱せよ』と重ね、アコに質問する余裕すら与えない。

 

「…了解しました。これよりカナリア自警団は、オウニ商会羽衣丸を護衛し、自警団飛行場まで誘導します」

 

 有無を言わさぬその口調に、アコは疑問を胸の中にしまい込んだ。イケスカ動乱で名を馳せたあのオウニ商会とはいえ、あくまでも一企業に過ぎない。それを自警団飛行場まで護衛とは、あの飛行船にはよほど重要な人物が乗っているのだろうか。

 

「自警団飛行場が慌ただしくなっているわ。急に対空砲やら自警団員が集まってる」

 

 別の飛行船を誘導するため飛行場に向かっていたシノは、地上に何やら動きがあるのを確認した。トラックに搭載された対空砲の砲口が空を向き、銃を手にした自警団員たちがトラックで飛行場まで乗りつけていた。さっき誘導したばかりの飛行船は、上空で一時待機を命じられている。

 

「よほど重要な人が乗っているでしょうか?」

「わかりません。とにかく、私たちは自分たちの仕事をしましょう」

 

 ミントが抱く疑問はアコにとっても同じだったが、今そのことを考えても仕方がない。それに今ここにいるのは多くが各都市の代表者、全員が重要人物であるようなものだ。

 それにしても、無断で接近する機体は撃墜せよとは。そんな事態が発生しないことを祈りつつ、アコは羽衣丸の誘導に向かった。

 

 

 

 

 

 

「もーっ、私らいつまでここで待ってればいいんだよ!」

 

 一方イヅルマ郊外では、市営飛行場への着陸を認められなかった飛行船が、臨時飛行場への着陸許可を求めて順番待ちの列を作っていた。ガデン商会の飛行船もその中の一つで、娯楽室ではアカリがいつまで経っても着陸許可の出ない現状に頬を膨らませていた。

 

「まぁまぁ、短気は損気って言うし…」

「もう半日近く待たされてるじゃんか! なんで私らは飛行機で先に下りちゃいけないんだよ」

「そーだよね。なんでガーベラたちはダメで、あの人たちは良かったんだろ?」

 

 ガーベラの言う「あの人たち」というのは、一昨日この飛行船に乗りつけてきた飛行隊の連中だった。

 珍しく社長のウッズが「急な仕事だ」とハルカゼ飛行隊を引き連れ、自らも飛行船に乗ってカイチを出立したのが数日前。「急な仕事」の詳細については教えてもらえなかったが、どうやら人を運ぶらしいということだけはわかった。

 

「あの飛行隊の人たち、なんだか怖かったわね」

 

 ベルが腕を組む。その運ぶ相手とやらは輸送機に乗った「とある人物」とその護衛とのことだったが、ガデン商会が彼らと合流する直前、多数の機影が輸送機に向かうのを飛行船のレーダーが確認した。

 ウッズは急いでハルカゼ飛行隊に出動を命じたものの、結局彼女たちの出番はなかった。ハルカゼ飛行隊が発進する前に、護衛機が襲撃者たちを撃退してしまったからだ。護衛機はたったの4機に対し、襲撃者は十数機。にもかからわず護衛機の被害はなく、襲撃者たちの機体は7機が撃墜された。

 

「しかも社長怒ってたよね。騙されたとかなんとか」

 

 おまけに肝心の輸送機はガデン商会と合流することなく、墜落した襲撃者たちの機体からパイロットを救助すると、元来たルートを反転して戻ってしまった。結局、ガデン商会の飛行船に乗り込んできたのは、四式戦闘機「疾風」に搭乗した一個飛行隊4人のパイロットだけだった。今回ガデン商会が運ぶべき「とある人物」は、そもそも輸送機に乗っていなかったらしい。

 

「体のいい囮として使われた、ってことかしら」

「でも囮って何のために?」

「さあ…でもあの飛行隊の人たち、只者じゃないわね」

「名前なんだっけ? ぐら…ぐら…グラタン飛行隊だっけ?」

 

 手を叩いたユーカに、「グラーバクよ」とエリカが訂正する。蛇のエンブレムに、白、灰、黒の迷彩が施された疾風に乗ってきた連中。それがつい数時間前までガデン商会と行動を共にしていた「グラーバク飛行隊」を名乗る男たちだった。

 

「なんだったんだろうね、あの人たち」

「少なくともそこら辺の用心棒、ってわけではなさそうだったわ。雰囲気が違う」

「まさにプロ、って感じだったよね!」

 

 その時娯楽室のドアが開き、「お前らも一応プロだろうが」と禿頭が特徴のガデン商会社長、ウッズが顔を覗かせた。

 

「あっしゃちょー! 私たちいったいいつになったらイヅルマに降りられるんですか?」

「飛行場が混んでるから当分は無理だとよ。少なくとも、今日は無理だな」

「えーっ!? せっかくのイヅルマなのに」

 

 ガデン商会の本社があるカイチはそれほど大きな街ではなく、生活必需品などは手に入るものの、それ以外となると他所の街に行かなければ買えないものばかりだ。対してイヅルマは飛行船製造で栄えた大都市であり、人も物も金も、娯楽ですらイジツ中から集まっている。こういう大きな街にはプライベートでは滅多に訪れることが出来ず、だからこそこうして護衛や輸送の仕事で大都市を訪れた際には、そこで遊び倒すのがハルカゼ飛行隊だった。

 

「しょうがねぇだろ。それに今のイヅルマは街中が厳戒態勢だ。行ったところで店なんか閉まってるだろうよ」

 

 ラジオのニュースを聞く限り、イヅルマでは市民の外出禁止令が発令されているという。その原因は、明日にも開かれるイケスカ新市長とイジツ中の都市の代表者との会談だ。

 今のイヅルマには、イジツ中の重要人物たちが集まっている。イヅルマ自警団に加え、各都市の代表者たちが連れてきた飛行隊や護衛隊がイヅルマ中を闊歩し、テロ攻撃に備えて目を光らせている。銃を持った人間がそこら中にいるのに、楽しく遊ぶ気にはならないだろう。

 

「じゃあ、しばらくここで待機ですね」

「ああ。それにしても、厄介者が早々に出て行ってくれて助かったぜ。あいつらを一秒でも長くこの船には乗せておきたくなかったからな」

「厄介者?」

 

 首を傾げるユーカに、「さっき出て行ったあいつらだ」と、ウッズは飛行甲板の方を示した。

 

「あのグラーバク飛行隊とか名乗ってたおっさんたちのこと? 別に騒いだりしてなかったよ?」

「そりゃおめーらがうるさ過ぎるだけだ、ガーベラ」

「じゃあお金を払わなかったとかですか?」

 

 金に厳しいベルの目から、一瞬光が消える。だがウッズは残り短くなった葉巻の火を消すと、「いや、金はきちんと受け取った」と答えた。

 

「それもかなりの額をな。だが、二度とあいつらを乗せる気にはならねぇ」

「なんで? お金いっぱいもらえて、しかも船の中で大人しくしてた人たちじゃん」

「あのなアカリ、お前あいつらのヤバさに気づいてないのか? 連中はイケスカの奴らだ」

 

 ウッズはこの仕事を受けなければよかったと思っていた。イケスカの評議会から重要人物の移送に協力してもらいたいと打診を受けたのが数日前。胡散臭いとは思っていたものの、高額な報酬は魅力的だった。それに使用するルートは空賊が滅多に出没しない地域であったし、自警団の活動範囲なので安全と判断し、ウッズはその仕事を引き受けることにした。

 

「あいつら、俺たちを囮として使いやがったんだぞ。今回は向こうが襲撃してきた奴らを蹴散らしたから良かったが、敵が多かったら俺たちだってヤバかった。人を運ぶ分には構わんが、囮扱いは許せねぇ」

「そういえばあの人たち、凄い腕前でしたよね。たったの4機で14機相手に立ちまわって、その半分を落としちゃったんだから! ああいうのをプロって言うんでしょうね!」

「ということは、お前らはプロじゃないってことか。だったら給料は見習い飛行隊の等級まで下げるか」

「あはは冗談デスヨー。私たちだってもう見習いじゃないんですから!」

 

 胸を張るユーカだったが、「私たちもついこないだ、またコトブキ飛行隊に助けられてたよね」というダリアの言葉に項垂れる。見習いから一人前の飛行隊に昇格し、機体もコトブキ飛行隊と同じ隼に乗り換えたハルカゼ飛行隊だったが、凄腕と呼ばれるには程遠い。

 

「そういえばあの青い隼のパイロットも、私たちと同じくらいの間しか飛んでないんだよね…」

 

 窓の外を眺めたユーカは、イカヅチ団から彼女たちを救助したパイロットの一人を思い出した。ユーハングからやって来た異邦人。そしてあのコトブキ飛行隊に勝るとも劣らない腕前を持つ男のパイロット。

 

「また会えないかな…」

 

 どうしたら短い間であんな飛び方が出来るようになるのか。また会う機会があったら、是非その質問をしよう。窓の外を飛んでいくイヅルマ自警団の紫電を、ユーカは目で追った。




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