荒野のリボン付き   作:野獣後輩

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普通の兵器が噛ませにしかなってない作品きらい。噛ませでも頑張るような作品すき。
1機2000億円のB-2がボンボン落とされたり、1機350億円のラプターがホイホイ墜とされるなんて、米軍と財務省が発狂するでしょ。


まあエスコン世界じゃ原子力空母やB-2やら重巡行管制機やら金のかかった兵器が主人公一人にボカスカ破壊されているんですけどね。
ストレンジリアル世界の世界経済は謎だ。


第三五話 BRIEFING 1

「えー、あー、作戦会議を始める。カーテンを閉めてくれたまえ」

 

 カナリア自警団の部長を務めるアルバートが、大きな咳払いと共にアコに言った。アコが大会議室のカーテンを閉めると、会議室の中心に置かれたスライド映写機が起動し、壁にイヅルマを中心とした地図が映し出される。

 

「部長、緊張してますね。さっきなんか手と足が同時に出てましたよ」

「当然ね。あの部長がこんなに人が集まる前で、作戦会議の進行役なんかやらされてるんだから」

 

 ガチガチに固まった手をどうにか動かし、指揮棒を壁に映る地図に向けているアルバートを見て、リッタが不安そうに言う。そんなリッタとは打って変わって、シノはいつも通り落ち着いていた。

 

 

 

 

 イヅルマ行われるはずだったイケスカ新市長と各都市の代表団との会談は、急遽延期となっていた。イヅルマの近郊に空賊の大集団が集結していることが明らかとなり、その討伐任務が各都市合同の飛行隊に下されたのだ。

 空賊たちが何のために集結しているのかその理由は判明していないものの、彼らがイヅルマを襲撃する可能性は高いと考えられた。今のイヅルマには各都市の市長や議員が集まっている。その中の一人でも人質に取ったら莫大な身代金が手に入る可能性は十分にある。あるいはイジツに混乱をもたらすために、各都市の有力者たちをこの機会に一網打尽にしようとしているのか。

 

 いずれにせよ、空賊たちの存在はイヅルマでの会談実施に大いに脅威となるということで、空賊が討伐されるまで会談は延期となった。代表団の護衛としてやって来ていた各都市の飛行隊は、合同作戦ということで空賊団盗伐に臨むこととなった。

 

「しかし、肝心のイケスカ飛行隊が外されてるのはどうなんでしょうね?」

「市長が変わったとはいえ、イケスカを警戒してるのよ。だから今回の空賊討伐で、各都市の飛行隊の力を見せつけて、『下手なことはするなよ』って圧力をかけるつもりなんでしょう」

 

 つまり、空賊討伐の名を借りたイケスカへの示威行為だということだ。この空賊討伐任務にイケスカからやって来た飛行隊は参加する予定はない。イヅルマ周辺での哨戒と、レナ市長の護衛に当たるとアコは聞いていた。もっともイケスカ側からも討伐任務に参加の申し出があったらしいが、議員たちが断ってしまったらしい。

 

「えー、空賊たちがこのイヅルマ近辺に集結しつつあるという情報が、我が自警団の哨戒機からの連絡で判明した。あー、空賊たちが集まっているのはえーっと、その…」

 

 アルバートがカンペを見ながら指揮棒を振るが、地図のどこを指せばいいのかわからないようでしばらく固まっていた。ようやく思い出したのか、イヅルマの北東、隣のイケスカから見て北西方向に描かれた、円形に隆起した山脈を指し示す。

 

「ここだ。円卓と呼ばれている山脈の南側に集結している」

 

 ミントが映写機を操作し、地図を切り替えた。「円卓」と呼ばれた地域を中心とした大きな地図が表示される。

 

「空賊の規模は50機から60機ほど。目的は不明だが、このイヅルマを攻撃しようとしているのは間違いないだろう。そこで我々は…」

「我々の任務は空賊の討伐だ。ここには各地の飛行隊の中でも腕利きが集まっていると聞いている。その実力を遺憾なく発揮してほしい」

 

 もたつくアルバートを見かねたのか、横からイヅルマ自警団長が彼の手からマイクをひったくり、続けた。立場が上の団長にマイクを取られてしまってはどうすることも出来ず、アルバートはその場に立ち尽くすしかない。そわそわするアルバートには目もくれず、団長が話を続ける。

 

「今回は各都市飛行隊合同作戦となる。まずイヅルマ、ガドール、ショウト、アレシマ飛行隊から成る部隊を合同第一飛行隊と命名。第一飛行隊は円卓の空賊集結地点に対し、西側から攻撃を仕掛ける」

 

 団長の指示で、ミントが映写機に置かれた地図の原板にフィルムを重ねた。会議室前方のスクリーンに投影される地図に、円卓に向かって西側から伸びる赤い矢印が映し出される。その向かう先には、円卓の外輪山の一角に点線で空賊集結地を表す円が表示された。

 

「その他の都市飛行隊から成る部隊を、合同第二飛行隊と呼称する。第二飛行隊は南側から空賊集結地に接近。第一部隊と共に空賊たちを挟み撃ちにする」

 

 再び映写機にフィルムが重ねられ、今度は南側から青い矢印が伸びた。倍の戦力で二方向から同時攻撃、常識的に言えば成功する作戦だと会議室に集まった誰もが思った。

 

「空賊どもは各地から集まった寄せ集め集団。対してこちらは各都市の精鋭が100機、数は倍だ。君たちの力を是非見せて欲しい」

 

 そう言い終えると団長はマイクをアルバートに押し付け、会議室から出て行った。話は終わったとばかりに集まったパイロットたちが立ち上がる中、「えー、それでは解散」とアルバートの声が虚しく響く。

 

 

 

 

「せいぜい50機程度の空賊に100人がかりとは、大袈裟ですわね」

 

 イズルマ自警団での作戦会議を終え、羽衣丸が係留されている飛行場へ向かうコトブキ飛行隊。彼女たちは公営の飛行隊や自警団員ではないが、イケスカ動乱における大活躍ぶりはイヅルマでも広く知られていて、自警団長から是非今回の作戦に参加してほしいと要望を受けた。マダムの許可もありこうして作戦会議に参加したわけだが、レオナはこれだけ各都市の飛行隊が集まっているのだから、自分たちは別に要らないのではと思っていた。

 

「ん? なんか難しい顔してるけどどうかした?」

 

 そんな中ついでとばかりについてきたリーパーが難しい顔をしているのに気づき、チカがその顔を覗き込む。リーパーが名ばかり隊長を務めるアローブレイズ飛行隊は今回の作戦に直接お呼ばれされてはいないが、その戦力は無視できないとのレオナの判断で一緒に参加することになっていた。

 

「いや、円卓って懐かしい言葉を聞いたなと」

「チキュウにも同じ地名があるの?」

「あくまでも通称で、正式名称はエリアB7Rって名前だけど」

 

 アメリカのネバダ州に広がる米軍の特殊飛行試験区域。円形に隆起した大地と、各国から集まったエースパイロットが階級に関係なく戦技訓練でしのぎを削ったという経緯から、エリアB7Rは円卓の通称で呼ばれることとなった。ユージア戦争においても米国本土攻撃の足掛かりとして幾度も戦闘の舞台となり、リーパーたちも己の技量の全てを掛けた戦いを繰り広げたものだった。

 

「円卓とはイヅルマ北東に広がる円形に隆起した山脈に囲まれた直径約100キロの地域。円形の山脈が形成された理由は太古の海底火山噴火の痕跡とも、隕石落下後のクレーターとも言われているが詳細は不明」

「コトブキ飛行隊がまだ私とレオナしかいなかった時に一度行ったくらいかしら。あそこは電波状況が悪いし、危ない人たちも多いから」

「電波状況が悪い? どうしてです?」

 

 ザラに代わってケイトが口を開く。

 

「円卓と呼ばれる地域の地下には膨大な鉱物資源が埋蔵されていると言われている。その鉱物資源が特殊な磁気を帯びているため、通信障害が発生するとされる」

「その地下資源を巡ってあちこちの都市が戦いを繰り広げてきたんだ。もっとも今は都市間の協定で立ち入りは制限されているから、昔のような大規模な戦闘は起きていないみたいだけどね」

 

 他にも円卓の地上には危険生物が多く生息していて、中心部に進むほど危険は増していくのだという。そのため企業による円卓の開発も外縁部のみに留まっていて、各都市の飛行隊も遭難を恐れて円卓には立ち入ろうとしない。そのおかげで空賊たちが円卓の内側に根城を築き上げ、度々民間機を襲撃しているようだ。

 

「だけど事前情報が本当でしたら、それほど手こずることはなさそうですわね。戦力はこちらが倍、熟練者揃いですから」

「事前情報が本当ならね。油断は禁物よ」

 

 いずれにしても作戦開始は明日の昼間だ。それまでに飲むなり寝るなり、体調を整えておかなければならない。とはいえ今のイヅルマは要人が集まっているせいで厳戒態勢が敷かれており、銃を携えた自警団員が巡回し、店はほとんどシャッターが下りてしまっている。食事も休息も羽衣丸で取るしかない。

 キリエはイヅルマで最近有名らしいパンケーキ店に行きたがっていたが、店が閉まっているとなってはどうしようもなかった。さっさと空賊たちを撃退して、レナたちの会談も無事に終われば店も再開されるだろう。

 

「あっ、あれナサリンのおっさんたちじゃね? おーい!」

 

 チカがそう言って手を振った先には、神父の恰好をした髭面の男と、茶色いジャケットを羽織った軽薄そうな男。コトブキ飛行隊とも馴染みの深い、ナサリン飛行隊の面々だった。相変わらず二人で行動しているということは、隊員の募集は上手くいっていないらしい。

 

「おう、お前らもイヅルマに来てたのか。…って、その兄ちゃんは誰だ?」

 

 茶色いジャケットを着た男、アドルフォが、コトブキ飛行隊にくっついて歩いているリーパーに気づく。「新顔…というわけではなさそうだ」とは、神父服のフェルナンドの言葉。

 

「彼はリーパー。事情があって今オウニ商会で面倒を見ている」

「その兄ちゃんもパイロットなのか? なんかふにゃ~っとしてる感じだが」

「ええ、相当の腕利きよ? もしかしたらレオナより強いかも」

 

 初めて羽衣丸で一緒に仕事をした時、アドルフォがレオナとザラを口説こうとした時のことを思い出したのだろう。ザラが悪戯っぽく言う。

 

「本当なのか? だったら兄ちゃん、良かったら俺たちのナサリン飛行隊に入れよ。ちょうど今隊員を絶賛募集中だぜ?」

「ちょうど、じゃなくて毎日だろう。加入希望者は今まで誰一人として来ていないぞ」

「うるせー! ナサリン飛行隊復興のためにも、今はメンバーが必要なんだよ。俺はアドルフォ山田、こう見えて既婚者だぜ? 飛行機と女の扱いならお手のもんさ」

「ついこの間ナオミに出て行かれたばかりだろう。俺はフェルナンド内海、ナサリン飛行隊の隊長を務めている。アドルフォは口は悪い奴だがいい奴だ。さっきも言った通りナサリン飛行隊は現在隊員が二名しかいない、もし飛行隊で働くことを考えているならいつでも連絡をくれ」

「あなたたちは明日の作戦には参加しないの?」

 

 ザラの問いに、「二人ぽっちの飛行隊に用はない、だとよ」とアドルフォ。

 

「まあこれだけ各地の飛行隊が集まっているのだから、わざわざ用心棒を雇う必要はないということだろう」

「せーっかく星を増やすチャンスだと思ったのによ。ま、とにかくナサリンで飛びたくなったらいつでも連絡をくれや。ナンコーを拠点にしてっから、その気になったらいつでも来い」

 

 そう言ってアドルフォたちは、別の方向へと去っていった。飲み屋の一軒も開いていないから、今日は大人しく宿に帰るのだろう。

 

「あらまあ、早速スカウトなんて」

「彼らも腕は良い。もし今後も一人で飛び続けるつもりじゃなければ、一度話を聞きに行ってもいいんじゃないかな」

「ええ、そうですね…その前に『穴』が開いて地球に帰ることが出来ればいいんですけど」

 

 リーパーの言葉に、レオナは迂闊なことを言ったと反省した。どこかの飛行隊で働くことを薦めるなんて、リーパーが地球に帰れることはないだろうと言ってるようなものではないか。

 リーパーの顔色を窺ったが、彼がレオナの言葉に傷ついた様子はない。だが彼が地球に帰りたがっていることは、言わなくてもわかった。

 

 

 

 

 

 その頃イヅルマ郊外の臨時飛行場では、ようやく地上に降りたユーカ達が飛行船に戻る途中だった。ガデン商会の飛行船から「厄介な荷物」ことグラーバク飛行隊が出て行って一日。着陸申請の順番待ちは結局日を跨いでも続き、今日の昼にようやく臨時飛行場への飛行船係留を認められたところだった。

 せっかくイヅルマに来たのだからと郊外の臨時飛行場から一時間近く歩いて市内に入ったものの、どの店も閉まっていて街には銃を持った自警団が歩き回っていた。そんな状況でイヅルマ市内を歩いても楽しいとは思えず、夕暮れも近くなったので帰ることにしたのだ。

 

「だから言ったじゃない、今のイヅルマは厳戒態勢が敷かれてるからどこのお店も閉まってるって」

「エリカはそう言ったけど、結局ついてきたじゃんか」

「でも結局何も見られなかったね…ご飯も食べられなかったし…」

 

 ダリアの言葉で、皆の腹の虫が一斉に鳴く。レストランくらいは開いているかと思ったがそんなことはなく、結局昼ご飯は食べられないまま、こうして飛行船に戻ることとなった。出店の一つも開いてないので、軽食すら買えない。

 

 久しぶりのイヅルマを満喫することも出来ず、しょぼんと飛行船への帰途を辿るハルカゼ飛行隊に、背後から近づく人影。「よう、辛気臭い顔してんじゃないか」と声をかけてきたのは、ユーカ達とさほど歳の変わらない少年だった。

 

「ジェームズ、あなたなんでここに?」

「どこかの飛行隊に良い腕の奴らがいないか探しに来たんだよ。これだけ飛行隊が集まってるんだから、俺のお眼鏡に適う奴だっているだろうし」

「あんた、まーたそうやって上から目線で仲間探ししてんの? どうせまだ一人ぼっちで飛んでるんでしょ?」

 

 ガーベラに言われ、「俺が一緒に飛びたいと思う腕のいい奴がいないのが悪い」と胸を張った。

 ジェームズと呼ばれた少年に、ハルカゼ飛行隊は面識があった。ジェームズは用心棒としてこれまでガデン商会に度々雇われており、その度にハルカゼ飛行隊と何かと張り合っていたものだった。

 

「お前らまだ97式戦闘機乗ってるのか? まぁ、お前たちにはぴったりな機体だと思うけど」

「私たちはもう隼乗ってるもんねー! それよりあんた、まーだ親の脛齧って飛燕なんか乗ってるんじゃないの?」

「あれは俺の金で買った機体だ!」

「親にお金出してもらってた癖にぃ。このボンボンめ」

「もうきちんと返済したさ! 今は全部自分の金でやってるよ」

 

 ジェームズはどこかの大都市にある製パン会社の御曹司らしいが、飛行機に乗って用心棒として働くという夢を捨てきれず、家を出てきてしまったらしい。それでも家族仲は良好で未だに彼のもとには実家から大量のパンが送られてくるそうだ。実家の会社は姉が継いだことで、家族ともそれほど揉めなかったらしい。

 

 ジェームズはユーカ達とさほど飛行時間も変わらないが、新米用心棒にはとても手が出せないような金額の飛燕を愛機にしていた。どうやら親から貰っていた小遣いをせっせと貯め、それで飛燕を買ったようだが、小遣いだけで飛行機が買えるというのだからその金額はどれだけのものだろうか。その話をする時、決まってベルの瞳から光が消えていたように見えるのは、きっとユーカの気のせいではないだろう。

 

「俺は一人でやってくんだよ。もしも俺の下で飛びたいって奴がいたら、まあ考えてやらないでもないけどな」

「相変わらずの上から目線…あんたどこかの飛行隊に入るつもりなの?」

「凄腕のパイロットがいるような飛行隊なら入ってやってもいいけど。だけどどいつもこいつも期待外れだな」

 

 生意気な…とアカリは思ったが、新米用心棒にしてはジェームズの腕が良いことも事実だった。ハルカゼがまだ予備隊だった時にジェームズと何度も模擬空戦をしたことがあったが、結局ジェームズに勝てたのはほんの数回だけだった。飛燕と97式では機体性能に差があることも敗因なのだろうが、やはりジェームズがいいパイロットであることもその一因なのだろう。

 

「まあ、とにかくしばらくこの街をうろついて、腕の良さそうな奴を探してみるさ」

「明日の空賊団盗伐には参加しないの? コトブキ飛行隊は是非参加してくれって言われたみたいだけど」

「空賊討伐は都市飛行隊だけで充分、用心棒はお断り。だってさ。まったく、せっかく俺の腕を色んな奴に見せつけられると思ったのに」

 

 じゃあなと言ってジェームズが別の方向へと歩いていく。ユーカ達は空腹を訴えるお腹を押さえつつ、郊外の臨時飛行場を目指して歩き続けた。夜が近づいていた。




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