FGORTA 召喚鯖単騎のみで人理修復 作:リハビリ中
あの後ろ姿は本当に彼女なのか。それを確認するために私はオリュンポスをRTAする決意をしました。
アルマ・クルスが撃ち出した一撃。
それは途中で尽きる事無く、天井を貫いて部分的な崩落を引き起こす。
「……ちっ、まだ生きていやがったか」
キャスターの声――高濃度の魔力そのものが放出され、塞がっていた瓦礫が溶かされていく。そこから一人の少女が姿を現した。
顔を覆っていたバイザーも、体を覆っていた鎧も既になく。けれどその総身には傷一つ存在しない。鎧を脱いだ黒のドレス――まるで絵画を切り取ったかのよう。
「――まさか持っていた魔力の全てを防御に回しても突破されるとはな……」
『そんな、バカな……! 彼の一撃は確かに直撃した! あの魔力反応を受けて、サーヴァントとはいえ無傷でいられる筈が無い!』
「……いや、ちげぇよ。アレはちゃんと当たった。致命傷にはなっただろうさ。
だが後一歩だ。後一歩足りなかった。どこかで無意識に緩めたのか」
『まさか……!』
「あぁ、アイツは死にかけて、そこから一気に復活しやがったのさ。
聖杯――その魔力を使ってな」
「フン、眼と引き換えに得た知識は健在か」
アルマ・クルスは自傷によるダメージで行動不能。彼のサーヴァントであるセイバーは、マスターを守るため迂闊に前に出れず。
だが彼が稼いだ時間でマシュは僅かに回復出来、キャスターはその剣筋を大方見切った。
まだ戦える。まだ終わりじゃない。
しかし、そんな戦場へまた一つ新たな声が響く。
「――下らない。実に下らない。全く以て理解に苦しむ。何故だ、何故お前はいつもそちらへ行こうとする」
レフ・ライノール――カルデアでは笑みを絶やさない筈の男が、その相貌を怒りに染め上げている。
彼へ絶対の信頼を寄せていた筈のオルガマリーすら、すくんでしまう程に。
『レフ教授……!? 何故貴方がそこに……!』
「最早その名前に意味は無い。――今ここに人理の焼却を宣言しよう。
人の歴史は灰に消え、人の生存は意味を失くした。神も人も区別なく、存在は燃え尽きた」
レフ・ライノールを騙る存在は手を掲げる。
背後の空間に浮かび上がる赤色の惑星――全てが赤く染まった世界。それはまるでカルデアスのよう。
「な、何よそれ……」
「この世界の人類史ほど、弱く脆く、曖昧なモノは無い。見ろ、これが貴様達の守ろうとしていたモノだ。
――何の意味がある? 何の意義がある?」
その声音には尽きる事のない憎悪が込められていて、やり場のない怒りが彷徨っていて。
どうしてか酷く、人間らしく見えてしまう。
『それ、は』
「返答など不要だ。この決定は覆らず、この選択は違えない。
まずはお前からだ。灰は灰らしく、消えていくのが道理だろう」
浮かんでいたカルデアスが、突如一際輝いて――アルマへと迫る。
灼熱の如く燃え盛る球体を、黒き極光が一片も残さず消し飛ばした。
「貴様……」
「おいおい、仲間じゃねぇのか?」
「黙れ、あの手合いは知らん。そこのマスター、さっさと受け取れ」
セイバーオルタは、どこからか聖杯を取り出すとそれを立香へと放り投げた。
その聖杯に興味は無く。ただ己がこなす役割に専念するのみ。
「カルデアにいる軟弱男。聖杯があれば修正が始まるのだろう。すぐに離脱させろ。
さもなくば全員が死ぬぞ」
『分かった! すぐにこちらへの帰還を開始させる!』
「キャスター、貴様はカルデアの離脱を支援しろ。お手の物だろう」
「――十秒だ。十秒はアレを止めろ。そうすりゃ、ボウズ達の勝ちだ」
「了解した。盾の娘、貴様はそこから離れるな。今の自身のマスターを守っていろ」
「は、はい……!」
立香とアルマの体が少しずつ光の粒子へと変わっていく。
特異点が修復された証――この時代に無き存在はあるべき所へと返される。
「貴方……」
「気にするな、これが今の私に出来るコトだ。私ではそいつを救えなかった。救ってやれなかった。何度も、機会があったにも関わらず」
「……えぇ、知っているわ」
「悔しいが、後の事は頼む。そいつを、その愚か者を終わらせてやってくれ」
「任せて。最悪、全てを書き換えてでも救ってみせる」
「フッ、頼もしいな」
セイバーオルタは戦列に立つ。鎧も無いその姿は華奢としか言いようがないだろう。けれど、その姿は誰一人通す事を許さぬ護り手に他ならない。
――禍々しい魔力を携えて、術式が起動する。
レフ・ライノールの瞳が赤く染まり、その指が泥のような黒へと変色した。
「最早受け入れる事能わず。されど未だ以て不可解なり。故に、我ら憐憫を以て運命を救済せん」
直感が警鐘を鳴らす。生存したければアレは回避すべきだと。だが、それは出来ない。
彼女はサーヴァントだ。主を守るために散ってこそ、意味がある。
何度も経験した。思い知らされた。その手にある宵闇の星の輝きを以てしても、繰り返し続ける彼の夜を終わらせる事は出来なかった。
であるのならば、せめてその可能性を後押しする事に全てを注ぎ込むしか無い。
「卑王鉄槌、極光は反転する――」
聖剣に力を込めた時、懐かしい記憶を感じた。支援としては余りにも心もとない魔力量。
瀕死の状態において尚、彼が放った補助術式。
忘れる訳が無い、忘れる筈が無い。
彼と共に駆け抜けた日々が、走馬灯のように蘇る。
その一時の光景が酷く懐かしい。
――だから、今はその場所へ帰してやらないと。
「過ぎた誉だ。だが、確かに受け取った」
剣から迸る夥しい魔力。それはまるで竜の息吹のよう。
刃面を奔る紫電は、少しずつ剣先へと集っていく。
「――焼却式フラウロス」
見上げるは宙の欠片。ただ一つの意志しか持たぬ故に、膨大な力を手にした者。背後に在るは、微かではあれど尽きる事を良しとしない灯火達。
故に、この一撃こそ英雄の矜持と知れ。
「
生きろよ、マスター。
『消えない想い』
貴方には見覚えのない、けれど確かに思い出せる特異点の記録。
本来ならば重なる世界の底に埋もれ、記憶の影に潰されていくだけの一欠片。
特異点と言えど、これがカタチを保つことは奇跡に等しい。
それほど強く大切に、守り続けた者がいるのだろう。