<改訂版>【悲報】引きこもりのワイ、里から追い出される。誰か助けて。【所持金0】   作:胡椒こしょこしょ

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人の親となる。

「うわぁ...すごい。カムランの丘かな?」

 

口を衝いて出たのはそんな言葉だった。

それも郁子なるかな。

建物の中に一歩踏み込むと、そこには魔族の死体や生首やらがごろごろと転がっている。

加えて壁一面は返り血によるものなのかべっとりと赤く染まっている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うっ!!」

 

ナドラが後ろで嘔吐をこらえるかのように口元を押さえる。

あまりこういった光景には慣れていないのだろう。

自分は引きこもっていた時期にアンダーグランド気取ってグロ画像や動画を見ていたので割と耐性があるが。

 

「お、おい・・・大丈夫かよ」

 

ナドラの背中を撫でながら聞くと、ナドラが答える。

 

「いえ、大丈夫ですわ・・・・ただ、とても言い表すことが出来ないようなドロドロしてネジ曲がった感情の流れを感じます。あそこの先から・・・・」

 

ナドラが指差す方を見ると、そこには少し開いている扉。

そんなの居るとか正直怖い以外の何者でもない。

しかしナドラはどうやらグロ耐性がないみたいだ。

ドアの向こう側に現在よりも酷い光景が広がっていたら行動できなくなってしまうかもしれない。

 

「俺が先に見る......」

 

ナドラにそう告げると扉の方に忍び足で歩み寄り、隙間から内側を覗き見る。

するとそこには器具に固定されている全裸の女性達を器具を壊すことで解放している何者かの後ろ姿が見える。

女性達は各々動き回るほどの元気はないみたいだが、ちゃんと生きているみたいである。

女性たちの中には吉沢が居た。

 

なんだ、ナドラの言うようなヤバそうな奴居ないじゃん。

それに捕まっている女性達を解放してくれているということは事情を知っていると言う事。

つまりはアサギが寄越してくれた援軍か。

なんにせよ心強いし、俺の任務の終了に力を貸してくれたと言える。

一人で魔族をあそこまで倒すなんてすごい強いだろうなぁ。

後ろ姿から女性であるという事が分かる。

 

「大丈夫。ナドラが言うような事はないよ。入ろう」

 

振り返ってナドラを安心させるために笑顔で言う。

するとナドラは釈然としない様子であるものの頷いた。

 

「わ、わかりましたわ」

 

俺はドアノブに手を掛けて扉を開けた。

 

「アサギさんの援軍ですか?俺、桂孝太郎です。今回は支援しに来てくれてありがとうございます。本当に助かりました。凄い強いんで.......」

 

ドアを開けてその人に声を掛けるとその人はゆっくりと立ち上がって振り返った。

その女性は返り血で全身真っ赤になっており、孝太郎を見て三日月のような獰猛な笑みを浮かべる。

その笑みを見ると孝太郎の動きがぴたりと急停止し、体中から変な汗を掻き始める。

 

「あっぁ~~~、やっと来たねパパぁ♡待ちわびたんだよぉ?」

 

呉姫香俱夜。

 

「....えっ、なんでお前が居るの?えっこわ.....」

 

なぜ香俱夜がこんなところに居るのか?

そもそも今回は掲示板に書き込んでいないのだから香俱夜が俺の動向を知っているはずがない。

もしやアサギさんが援軍として要請したのか?

そうであるならあの人の人を見る目を疑うが。

 

困惑していると香俱夜が笑顔で少しずつ歩み寄ってくる。

 

「あれ?もしかして知らなかったの?パパの住んでいたアパートには対魔忍だった奴が居て掲示板にスレ上げてたんだよぉ?その掲示板でパパが困っている事を知ってみんな助けに来たの。俺もその一人なんだぁ~♡」

 

そんなことになっていたのか。

....であればもしかしてちょいちょい部屋のドアに落書きされたりしていたのは掲示板関連の出来事だという事か?

ソイツのせいで呉島に動向がバレたのは許せないが、今現在起こっている暴動のような物は俺の為にみんながしてくれていることと考えると怒るわけにもいかないな。

 

「へぇ、そっちの事情は分かったわ。なんにせよありがとさん。じゃ、もう俺の仕事は終わりだからさっさと帰って?....あっ、帰るなら倒れている女の人何人かお前の里に保護して、どうぞ?」

 

そう言うと、武蔵野の表情に色が消える。

なんだ......?

 

「孝太郎さん、この人知り合いなんですか?......さっきから殺気の流れが私の方へ流れてきて.........」

 

ナドラのその言葉を聞いた瞬間、武蔵野は忌々し気に吐き捨てる。

 

「そうはいかないんだよねぇ.....そこの泥棒猫をぶち殺さないといけないし.....さっ!!」

 

そう言った瞬間、刀を抜いて一歩踏み込む。

その瞬間、香俱夜の意図が分かった。

ナドラを守るかのように立ち塞がると、香俱夜が刀を振り上げたまま。制止する。

 

「どいてよパパ!!ソイツ殺せない!!!」

 

「なんで殺そうとすんだよ!ついにイカれたかぁあ!!?いや元からかぁ!!!」

 

目の前でヒステリックに叫ぶ武蔵野に負けないように叫び返す。

なぜ初対面であるナドラに敵意を向けるのか。

なぜ殺そうとするか聞くと、怒りを露わにしてがなり立てる。

目元にはうっすら涙が浮かんでいた。

 

「掲示板で貼られていたから知ってるんだ!そこのメスと一緒に居て、親し気にしてたって!!!しかもよりにもよって薄汚い魔族の女!!こんなのNTRだよ!!NTRは心の殺人だ!!胸が痛くて苦しいよ......」

 

掲示板の連中はどうやらナドラと一緒に居たということも知っていたらしい。

そこでどうなっていたか。

嫉妬嫉妬オブ嫉妬の嵐になっていたであろうことは想像に難くない。

正直そう思うと悪くない気分だったが、なぜか俺に好意を寄せている香俱夜を刺激した結果になったと思うと最悪の気分だった。

マジで掲示板の奴はさぁ.........。

 

「あのさぁ....、NTRってのは恋人や伴侶などお互いに意識した繋がりを持つ関係の片方が他の異性に取られた場合を言うんだ。俺とお前の場合はあてはまらない。恋人でもなければ伴侶でもないからな。いいね?」

 

武蔵野を刺戟しないように理路整然となるように心がけながら武蔵野に対して語り掛けると武蔵野は地団駄を踏む。

 

「違うもんっ!!繋がりあるもん!!!物理的に合体したことあるもん!!!!初めてだったのに.......」

 

「おい止めろ。やめてください。あの時は俺が悪かった。意識が股間に乗っ取られていたんだ。いや本当に慰謝料とかなら(親が)払うのでそのことを持ち出すのはやめてください」

 

半ば敬語になりながら武蔵野を制止する孝太郎。

マイサンを改造されて、溢れ出す性欲によって意識を失ってしまい、不知火さんや武蔵野、そして後輩を襲ってしまった。

それは孝太郎の中で痛い失敗体験になってしまっていた。

性欲に支配されるとかお前.....獣やんけ。

不知火さんなど周りの関係性も変えてしまった為に自分としても戒めるべき体験だった。

 

「孝太郎さん、彼女の言っている事、本当なのですか?それにパパとはどういう......」

 

「な、なんだよ.....み、見るな....そんな目で俺を見るな.......」

 

ナドラは孝太郎に視線を向けるも、もはやパニックになっている孝太郎はその視線の意味を測りかねていた。

すると武蔵野がまたヒステリックに叫んだ。

 

「お前がパパを責めるなっ!お前がパパを誑かしたんだろ!!!やっぱりこうなったのも全て魔族のせいだ。魔族が存在する限りこんな悲劇が繰り返されるんだ.......」

 

まるで親の仇かのごとくナドラを睨みつけてのたまう。

 

「えっ、でもお前ヨミハラで俺の仲間だったオークに会っても何も言わなかったじゃん。今更そんな論理を振りかざされても.....」

 

「あれはただの豚だもん.....あそこの腐れアバズレみたいに私の大切な人を奪おうとする奴は誰も許しはしない」

 

「お、おう......」

 

内心オークをただの豚と言った意味がよく分からないが納得した素振りを見せる。

アレかな?自分に害はなさそうだからそこまで殺そうとしなかった的な?

 

武蔵野の様子を見ていたナドラはおもむろに口を開く。

 

「....確かに私から孝太郎さんを誘いましたわ。それは謝罪致します。.....でもあなたから流れてくる私への殺意の中に大きな恐れと悲しみを感じます。......あなたは私を通して誰を見ていらっしゃるのですか?」

 

ナドラがそう言った瞬間、武蔵野は動きを止める。

 

「黙れ.....」

 

「ここまでの大きな感情の流れは見たことありませんわ。それに親に向けるかのような親愛が流れの大元にある。これは......」

 

「黙れ黙れ黙れェ!!分かったみたいな口を叩くなっ!!!......そこまで魔眼が自慢なら、こうしてやるよぉ....」

 

そう言うとナドラが目を押さえる。

 

「急に周囲が歪んで.....」

 

「お前、殺してやるから待ってろよ.......」

 

半ば涙を流して赤くなった目元でナドラを睨み付けて一歩進む。

 

「どいてよパパ」

 

「いや殺すとか言ってるなら余計に退けないだろ。てかお前何を泣いてんだ」

 

「パパには関係ない......。二度言うつもりはないよ。そこを退け.......」

 

武蔵野は遂にこちらにも殺意を向けてきた。

濃密な殺意に当てられて膝は震える。

コレよりヤバいのをもろに向けられてよくあんな喋れたなナドラ。

 

孝太郎はナドラの言っていた事を思い出す。

なにか親に向けるかのような親愛が大元となって恐れと悲しみが含まれた感情が殺意と共に流れてきた。

今までの経験を踏まえるとナドラの言っている事は確かだ。

 

そして目の前の女がここまでおもむろに感情を露わにして泣いている。

ここまでの状態になっているのは今まで覚えがない。

なにか奴の背景にあるのは確定だ。

 

そして今現在目の前に立ち塞がっているが、香俱夜には腕力で勝てない為いつ強引に退かされるか分からない。

それに後ろのナドラはなんか目が使えなくなったぽい。

ならば香俱夜の背景に働きかけるしかない。

 

さながら自殺を止める為に宥め語り掛ける警察官のように。

 

「今回は俺が悪かった。ごめん、お前の気持ちを考えてなかったな。....ただ何がお前をそこまで掻き立てているのか教えてもらえないか?なにか支えになれるかもしれない」

 

なんで俺が謝っているんだろ。

まぁそんなこと言ったらなんでただの監察任務でこうなっているんだろうと言うのが正しいか。

しかしここで下手をこけば目の前の女はガチでナドラを殺しかねない。

なんかパパとか俺のこと言っているし、なんとかできるやろ、出来てくれ。

 

孝太郎が優しい口調で語り掛けるも、香俱夜は目を逸らす。

 

「そういうのいい....同情なんかいらない!!俺は!!!!」

 

どうやら余計に彼女を刺激してしまったようだ。

これじゃ本末転倒。

どうする......。

 

そんな時、頭の中に電流が駆け巡る。

中学生時代に保健体育か何かで学んだことだ。

言葉よりも肉体。

ただのことばよりも抱擁など身体に語り掛けた方が良い場合もある。

そう、所謂肉体言語<ボディーランゲージ>.....。

なんか若干肉体言語の意味が違うくないか?と昔は思っていたが今はそんなこと言ってられない。

 

なんか自殺を止めた人の映像でもゆっくりと語り掛けながら近づいて抱き締めてあげているのを偶に見る気がする。

てかなんで自殺を止めた人とか例に出しているんだろ。

そんなスタンスで臨まないといけないとかどんだけヤバいんだよコイツ。

内心そう愚痴りながらも腕を拡げて歩み寄っていく。

 

「な、なに.....?なにを......」

 

急にいつもの頭のおかしい行動はどこへやら急に普通の女の子ようにうろたえる。

どうしたお前そういう感じのキャラじゃないだろ。

内心そう突っ込みながらも刺激しないようにゆっくりと近づき、彼女を抱き締める。

 

「頼む。俺はアンタの事を知りたい。パパに教えてくれないか?.....力になりたいんだ」

 

もう呼び名にも乗っかっちゃってるよ.....。

自分の事をパパと呼んでしまったことに内心辟易した。

しかし最早後には引けない。

香俱夜を抱き締めていると腕の中で香俱夜が泣き出した。

えぇ.....(困惑)

 

「私はママを輪姦した魔族達との相の子で.....ぐずっ....パパもママも二人とも魔族に調教を受けているから毎日エッチ以外してなくて....わだじのことなんが、見やしなかった!!!!里にも魔族との相の子だから居場所がなくて,,,,,魔族は私の人生を滅茶苦茶にしたっ!!だから魔族を殺す!!全部魔族が悪いもんっ!!!魔族が居たから私は.....」

 

どうしよう。

重いよ。

腕の中で重い過去を暴露しはじめたよ。

なんとなく家庭環境が最悪であり、それが魔族のせいであることが分かる。

 

生まれ持って親の愛を知らない。

あぁ~だからコイツこんなにも幼稚な言葉遣いになったりするのか。

それに魔族に両親を調教され、出生のせいで里からも爪はじき。

そりゃ歪むわ。

 

凄い腕の中で重い過去を暴露され、正直どうしたら良いか分からない。

しかしこういう時は共感すればいい的なこと言っていたような気がする。

 

孝太郎はおもむろに香俱夜の頭に手を置いて撫で始める。

 

「そうか....辛かったな。もう大丈夫だ。もう大丈夫だぞ。パパが居るからな」

 

何が大丈夫なの?

正直事態はとっちらかっていると言うのが正しい。

しかしもうこう言うしかないだろ。

 

「パパ....パパになってくれるの?本当に俺のパパに?」

 

頭を撫でると俺を上目遣いで見つめる武蔵野。

パパになるなんてやだよ。

お前俺より年上だろ?

なんで年上の成人女性の親にならなきゃいけないんだよふざけんなよ。

 

しかし口に出すことはできない。

今は取り敢えず目の前の女を宥めなければ。

 

「ああ、今日から俺がお前のパパだ。昔のことなんか忘れさせてやる。」

 

「パパ...パパぁ!パパが出来た!パパ!パパ!パパぁ!!!パパぁぁぁぁ!!!!!」

 

こわ......。

どれだけ親の愛に飢えてるんだコイツ。

でもいい兆候だ。

ここで王手を打つ。

 

「ただ条件がある。後ろのエルフは見逃してくれ」

 

「....なんで?パパになるんでしょ!!?なら条件とかおかしいよ!!そんなの!!」

 

「仲良くなった人を殺そうとする奴のパパになんてなれるわけないだろ。......頼む。俺をお前のパパにさせてくれ。頼む.......」

 

そう言うと歯ぎしりを起こしながら強く俺を抱き締める。

やっぱコイツ怖いわ。

歯軋りとかガキかよ。

いや、実質ガキだったわ。

親の愛を知らないし、子供みたいな物だわ。

そう考えると今まできつく当たっていたが、優しくしてりゃ言う事聞いてくれるんじゃね?

そう考えるとちょろいわwww

 

「わ、分かった。あそこのごみはもう殺さない。....だから、パパになってくれるよね?」

 

「あぁ。偉いぞ我慢できて」

 

「えへへ......くすぐったいよ~」

 

殺すの我慢できて偉いってどういうことだよ。

倫理観が壊れるわ。

そう思いつつ、彼女の頭を撫でる。

彼女は子供のような声を出しながら嬉しそうにしていた。

 

「じゃ、じゃあちゅーして?」

 

「えっそれは......」

 

急にキスしろと言われて困惑する。

しかし武蔵野は詰め寄る。

 

「パパならチューしてくれないの?」

 

.....これするしかないのか。

よく考えてみれば中身年端も行かないガキだからノーカウントだろ。

そう思おう。

そういうことしとこう。

もう難しいこと考えたくない。

言う通りにしとけばご機嫌が取れるなら楽じゃないか。

 

「わ、わかった」

 

そうして唇と唇を合わせる。

香俱夜は返り血でべとべとであるためどこか血なまぐさい臭いがした。

色んな意味で記憶に残る出来事だった。

 

その後、何人かアサギさんが差し向けた援軍が来て、倒れている女性達を保護してもらった。

全員魔族に性的な調教を受けた痕跡はあるものの、生きてはいるらしい。

ナドラも事情を説明したら保護してくれるようだ。

未だに香俱夜はナドラを睨んでいるので心臓に悪かったが、俺の決死の説得とパパ化によって何しようとしなかった。

 

援軍の人は来る途中にグルグル巻きになっている夏鈴を発見したと言っており、誰がやったのか聞いてきた。

俺がやったと言ってもあまり信じてもらえなかった。

まぁ当たり前か。

ナドラの力も借りたと言うと納得していた。

なんでだよ。

 

そして援軍の人に訊いたが、どうやら暴動のように暴れまわっていた人たちは対魔忍ではあるも、全員所属もなにもかもがバラバラであったらしい。

心当たりはあるかと聞かれた。

多分俺の近くで俺についてのスレを立てた奴が居たらしいし、それが原因だろ。

町はボロボロで見るに堪えない有様だ。

掲示板の奴ら怖いなぁ....とじまりしとこ。

とりあえずその人には知らないとすっとぼけておいた。

なお俺の任務はもう終わりらしく帰っていいらしい。

やったぁー!!

 

そうして俺は里へと帰路に就いて行った。

なぜか香俱夜を連れて。

 

 

 


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