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「まずは、あそこにいる人に声をかけてみようか…」
私が指さしたのは、ステージの上に腰掛けて腕組みをしている、さっき世界征服と言っていた小さな男の子だ。
「やあ、初めまして」
笑至さんが声をかけると、いつの間にか私たちが近づいていたのに気づいていなかったらしく、男の子は驚いた様子を見せた。
「うにゃっ!?…なんだ貴様ら!」
「お初にお目にかかるね。ボクは"超高校級の探偵助手"笑至にえるだよ」
「は、初めまして、宗形こむぎです。」
笑至さんに続いて、ぺこりと頭を下げる。男の子は警戒しているようにじとっとこちらを見つめている。
軍服のような服を着ていて、ズボンを履いてなければ思わず女の子と見間違えてしまいそうだ。なんだか小動物みたいな印象の子だなあ…。
「貴方の名前も教えてもらってもいいかな」
笑至さんがそう尋ねると、男の子はしゃん!と胸を張って答えた。
「僕か?僕はこの世界を征服する男、芥原莇だ!」
「芥原くん、だね。世界征服っていうのが、ちょっと分からないけど…えっと、もしかして君も超高校級の才能があるの…?」
「僕は超高校級の反英雄(アンチヒーロー)。世界征服はそのままの意味だ。僕がこの世界を征服してやる」
「それはまた随分不穏な発想だね…ボクみたいな一般市民は、世界は平和なのが1番いい、なーんて思っちゃうけどな」
「世界平和?つまらないね!」
笑至さんの言葉を芥原くんは一蹴する。
「ヒーローだの平和主義だの、何もかもが馬鹿らしい!そんなものは空想の世界で魔法少女がやっていればいい事だ。現実の世界は僕が支配して、僕が好きなものを好きなときに好きなだけやるんだ」
「す、すごいね……」
なんだかものすごく変な子と出会ってしまったのかもしれないな…。
「ボクは今の世界もそう悪くないと思うけど。楽しいこともそこそこあるし、美味しいものもたくさん食べられるし。まあ人の思想を侵害する権利はボクには無いけれどね」
「愚民の食べるものは理解できん。あんな食事の何がおいしいんだか」
芥原くんは呆れたように首を横に振った。
見るからにお金持ちっぽい彼のお口に合うものって、この学校の中にあるんだろうか?そもそも食事ってどうするんだろう?いろんな疑問がまだ山積みだ。
「あの、芥原くん。よければ一緒に、外に出るお手伝いをしてもらってもいいかな…?」
「僕は征服活動のために早くこんな馬鹿げた場所を出たいんだ。愚民と一緒になんて気に入らないけど、しょうがないから協力してやるよ」
「ありがとう!」
「ふん。もっと礼を言え」
こういう時って、礼はいらないみたいなセリフじゃないんだ…。
「宗形さんって、すごい人だね」
「え?」
芥原くんが体育館からいなくなった後、笑至さんが小声で言ってきた。
「ボクだったらあんなクセのある子を仲間に引き入れようとは思えないな…いやはや、感服したよ」
「そ、そんな、褒められると照れちゃうよ…!私はここにいる全員と仲良くしたいだけだし!」
「ふむ、そういう考え方ね。…やっぱり面白い人だよ、貴女は」
そう言って笑至さんはステージの階段を上がり、すたすたと奥の方にいる子達の元へと向かっていった。
(うーん、笑至さんもだいぶ面白い人だと思うけどなあ…?)
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「あれ〜?絶対後ろに隠れてると思ったんだけどなあ」
「やっぱりアレかしら、NINJAってヤツ。ドロン!といなくなるってジルが言ってたわ。私達もこの国に来てから実際に見たのはこれが初めてだけど」
「忍者…ぬいぐるみの中に忍者が隠れてたのかもしれないね〜」
ステージの上に行くと、さっきしゃべっていたブロンドの女の子とすごく身長の高い男の子が、ステージの奥を覗き込んでいた。
「やあ!きみたちはどう思う?やっぱりあのぬいぐるみって忍者かな?」
2人のうちの大きい男の子が私たちに気づいて声をかけてきた。
「忍者は人だから、あのサイズの中に入るのは不可能じゃないかな…」
私がそう答えると、男の子は納得したようにうんうんと頷いた。
「そうだよね〜。やっぱ動くぬいぐるみ?電池式?…それにしても、なんか食うもんないかな〜、腹減ったよ。できれば肉がいいなあ、肉!きみなんか知らない?」
「肉は食堂に行けばあるんじゃないかな」
笑至さんがそう答えた。そういえば配られた電子生徒手帳で、マップがチェックできるって言ってたな…。さすが笑至さん、仕事が早い…。
「へ〜、そうなんだ!あ、そういえばきみたちの名前をまだ聞いてなかったね」
男の子はにこにことしながらそう私たちに尋ねてくる。私は慌てて名乗った。
「む、宗形こむぎです。"超高校級の園芸部"って呼ばれてます」
「ボクは笑至にえる。"超高校級の探偵助手"さ」
「俺、片原桃矢。まあ気軽によろしく〜!」
男の子…片原くんはそう言って握手を求めてきた。応じるとぎゅっと大きな温かい手で握られる。
「あら、それじゃあ、私達も名乗るべきね」
話を聞いていた金髪の女の子も、にこっと微笑みながら私たちに自己紹介をする。
「Hello,everyone!私達はステファニー・J・ハリスよ!よろしくお願いするわね」
女の子…ステファニーさんは慣れた様子で挨拶をした。外国の女の子って、やっぱりすごく綺麗だなあ…。スタイルもいいし、モデルさんみたいだ。身長が高くてかっこいい片原くんと並んでると、これからファッションショーでも始まるんじゃないかという気がしてくる。
「ここにいる全員が超高校級の才能を持ってるとボクは愚考しているんだけど。貴方たちも超高校級の才能をお持ちなのかな?」
2人の外見に思わず目を奪われてしまった私を気にもとめず、笑至さんが2人に聞く。
「ええ。私達は"超高校級の外交官"よ。アメリカからはるばるこの国にやって来たわ」
「俺は"超高校級の解体者"だよ。解体って言うと変な感じに聞こえるかもしれないけど、対象は豚とか牛とかだから怖くないよ〜!」
2人とも今の私には想像もつかない才能だ。外交官に解体者、名前だけですごくかっこよくて憧れちゃうなあ。
「そうそう、さっきステファニーと話してたんだけど、2人はここの出口とか知ってたりする?」
片原くんがふと思い出したように聞いてくる。
「それが、まだ分からないんだ…。出口ってほんとにあるのかな?そんなにあっさり出られちゃったら意味なさそうだし…」
「ま、そうだよね。俺は別に1ヶ月ぐらいならここで過ごしてもいいんだけどさ〜、一生はさすがに困るし、壁とか壊したら出られないかな?」
「Hmm…私達は賛成だけど、ジョセフは「辞めておけ」と言ってるわ。彼は慎重だから」
ステファニーさんがさっきから言ってる人の名前ってなんなんだろう?ステージの上には私たち以外誰もいないけど…。
「ああ、私達は多様性の国、アメリカの人間なの。だから、頭の中にたくさんの思想達が住んでいるのよ。「彼女たち」が時折アドバイスをくれるわ。冷静なジョセフ、子どもっぽくてかわいいジルなんかがいるわね」
私の視線を感じたのか、ステファニーさんがそう説明してくれた。
「へえ…それは退屈しなさそうでいいね」
笑至さんが感心したように声を上げる。
「ええ、そうなんだけど…なぜかこの学園で起きた時から、親友のジョーンだけがいないのよ」
ステファニーさんが不安そうに声を上げたその時。
「あら、アタシを呼んだかしら?ステフ」
ステージの奥の暗闇から、こつこつと靴音を鳴らして、ステファニーさんにそっくりの女の子が現れた。
「ジョーン!」
ステファニーさんが驚いたように声を上げた。
「君、どうして…私達にそっくりじゃない!」
「ステファニー、その子誰なの?」
片原くんが不思議そうにステファニーさんに尋ねる。
「アタシが誰かって?ステフから聞いてるでしょ?」
女の子…ジョーンさんがその問いに答えた。
「アタシはジョーン。ステフの1番の親友よ」
「ジョーンは私達の親友だけど…どうしてこんな姿に?私達の中にいたはずじゃない!」
呆気に取られたようにステファニーさんがジョーンさんに近づく。
「HAHA!いい顔ね、ステフ。アタシにも分からないわ、目が覚めたらこんな姿になってたんだもの。そうそう、アタシだけ卒業条件、みたいなのも違うらしいわよ」
ジョーンさんはこちらのことはお構い無しに、ぺらぺらとしゃべり続ける。
「アタシの卒業条件は、ステフにパートナーができること…目覚めた時に特例って書いてある資料が横に置いてあったの。
どうやらアタシはわざわざ恋愛をする必要はないらしいわね。アタシ自身がステフのパートナーとして卒業できないのが納得いかないところだけれど」
「私達にパートナーが…?」
「へえ。そんな条件もあるんだね」
笑至さんが意外そうな顔をする。
「だからアタシは、アンタたちの邪魔はしないわ。ステフに変な虫がつかないように監視するだけ…そこの、アンタみたいなね」
「え?俺?」
ジョーンさんに指さされた片原くんがきょとんと首を傾げた。
「俺、まだステファニーと会ったばっかりなんだけどなあ〜…」
「Like this,なんでステフを会ったばかりなのに呼び捨てにしてるのよ!馴れ馴れしい男ね!」
「ジョーン、私達は別に気にしてないわよ?」
「アンタはいつも男に警戒心がなさすぎるのよ!」
「な、なんか口喧嘩が始まっちゃったね…」
「…触らぬ神に祟りなし、だね。しばらくあの3人は放っておこう」
私達は静かにその場をあとにした。