Chaldea After Story   作:黒乃ツバサ

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頼れる後輩はマスターのために

 カルデアにある図書館にて彼女、マシュ・キリエライトは本の探索をしていた。

「えと、確かこの辺に……あ、ありました!」

 人類最後のマスターである藤丸立香(ふじまるりつか)とともにいくつもの特異点を巡って聖杯の回収を終え、休暇に入ったマシュは自身の読みたい本を探し続け、メモに書かれていた内の一冊を見つけて手に取った。

 時間がある時には息抜きとして様々な英雄に関する本を読み続け、後の特異点での知識の提供を行ったりして役立てているのだが、今回に限っては違う本を選んでいた。

 手にしたのは、『誰でもできる簡単な和食料理』と書かれた本だった。

「次にこれと……これと……」

 炊事・洗濯などのコーナーにて一冊、また一冊とメモに書かれている初心者向けの料理本を手にし、テーブルへと運んでその場にて読み始めた。

 

 マシュがこれらの本を読むようになったのは、自身の抱いた気持ちがきっかけだった。

 冠位時間神(ゲーティア)との決戦にてマシュは身を挺して立香を守って消えてしまったが、彼の声、温もり、そして……一緒にいたいという想いが繋がって時間神殿との切り離し寸前まで手を伸ばし続け、最後には無事に二人ともカルデアへと帰還、マシュは生還することが出来た。

 この時でマシュは、冒険を通じて立香との過ごした日々を思い出し、自分が彼に恋をしたことに気づくようなった。

 最初の事故がきっかけでデミ・サーヴァントとなり、人理修復のため、マスターの役に立つために戦場で戦うことを考えていた彼女は今、好きになった藤丸立香(マスター)のために生活に必要な知識と女子力を学ぶようにして読み続けた。

 

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 冠位時間神(ゲーティア)との決戦から六日後の午後十二時過ぎ。

「ふぁ~あ……今日は久々に夜更かししたな」

 久々の休みを過ごしていた俺はいつものように起こしに来たフォウ君によって目を覚まし、部屋を出ては廊下にて出会うサーヴァントたちとの挨拶も交わし、ただのんびりと食堂に向かって歩き続けた。

「よっ! 随分眠そうだが大丈夫か?」

 食堂の手前にて声を掛けてきたランサー、クー・フーリンに反応して俺は笑顔で答えた。

「うん、昨日気になってた本を読んでて、それで夜更かししちゃったんだ」

「ふ~ん。あ、そうだ。食堂で今、良いもんが見られるからマスターもさっさと入った方がいいぞ」

「良いもの?」

「じゃな。嬢ちゃんのしっかり味わえよ」

 そう言いながらクー・フーリンはその場を去り、彼の言ってる事が分からず俺は頭を傾げた。

 その時で足元で叩いてくるフォウ君に気付き、俺は考えるのを後にして食堂へと入った。

「ん? あれって……」

 食堂に入った直後にて俺はある人物の姿を目にした。

 キッチンにてお馴染みのエミヤにブーディカの他、エプロン姿をしたマシュがいたのだった。

「あ、先輩!」

「珍しいね。マシュがキッチンに立ってるんだなんて」

「えと、たまにはいいかと思いまして……きょ、今日は何がいいですか?」

「そうだな……久々に和食が食べたいから鮭の定食かな」

「鮭ですね。分かりました」

 そう言ってマシュは業務用冷蔵庫へと向かい、いくつもの野菜と鮭を取り出して料理をし始めた。

「なんかマシュが料理するの久々に見るなー」

「そりゃそうだ。君のために作るのだからな」

 そこへカルデアみんなのオカンであるエミヤが話し掛けてきて、料理をするマシュの様子を眺めながら話し続けた。

「自分が作った料理を君に食べてもらいたいと、私やブーディカに教えを乞うに来たのだ」

「俺のために?」

「彼女も一人の女性ということだ。っと、次のが来たようだ」

 そう言ってエミヤは注文にきた人の下へと向かっていき、俺はマシュの手料理に期待しながら席へと着くようにした。

 

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 それから七分が経ち、料理を終えたマシュが完成した鮭の定食を運んできた。

「お待たせしました、先輩」

 香り漂う焼き鮭の匂いに日本人の主食である炊き立ての米にみそ汁、キュウリの漬物といった定番の品を前に俺は合掌した。

「いただきまーす」

 軽くみそ汁を飲んで体を温め、白米を片手に持ってマシュの焼いた鮭を頂いた。

「ど、どうですか?」

「もぐもぐ……うん、焼き加減が良くてとても美味しいよ」

 俺の感想を聞いてマシュは笑顔になって喜んだ。

 マシュの料理をする様子は今まで見た事が無いから新鮮な感じはあるけれど、彼女の作った料理はとても上手に出来てて美味しかった。

 そうして白米とも合わせながら食べ、定食の品をすべて食べ終えて俺の腹は満腹した。

「ふぅ、ごちそうさま」

「はい、お粗末様です」

 そう言ってマシュが空になった器を片付けようとした時で俺は気付いた。

「マシュ、その手……」

「え、あ、これは……」

 思わずマシュの両手を掴んでその状態を見た。

 両手には、様々な場所に絆創膏が貼られており、それを見て俺は続けて言った。

「俺のために、頑張ったんだな」

「えと、その……先輩には、人理修復のためにいろいろと頑張ってもらったので、なにかご褒美があればと思いまして」

 視線を逸らし、頬を赤く染めながら懸命に答えるマシュを見て俺は笑顔で言った。

「ありがとうマシュ。マシュのその想いは十分に伝わったよ。今日のために料理を一生懸命頑張って、俺は幸せ者だよ。これならマシュは良いお嫁さんになれるよ」

「お、およ……およ……⁈」

 壊れた機械仕掛けのような喋りをしてマシュの顔は一気に真っ赤になって蒸気が出た。

「きゅう~……」

「え⁉ マシュ⁉」

 そのまま後ろへと倒れそうになった彼女をキャッチして俺は分からず仕舞いで慌てた。

「ありゃりゃ、これは重傷だね」

「今のはお姉さんでもコロッといっちゃうな~」

「ウー」

「え? え?」

「はぁ……相も変わらず、とんだ女誑しです」

 アレキサンダーにブーディカ、フランケンなど食堂にいた少人数はマシュの安否を確認し、アナ(メデューサ)だけは俺に軽くディスってきた。

 

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 食堂での出来事から場所を変え、俺は気を失ったマシュを部屋へと運び入れ、目が覚めるまで一時間ほど待ち続けた。

「んん……はっ!」

 気絶していたマシュが勢いよくベッドから起き上がり、本を読んでいた俺は途中で終えて彼女に話し掛けた。

「大丈夫かマシュ、あまり無理をしちゃダメだよ」

「先輩……ここは」

「君の部屋だよ。あの後、気絶しちゃってたからここまで運んできだんだ」

「す、すみません! ご迷惑をお掛けして……」

「気にしないで。むしろ感謝してるんだ」

「え?」

 机に置かれてあった一冊のノートに手を取り、それを見ながら俺は再び話し掛けた。

「覗いちゃってごめん。でも、料理に関してしっかり書かれていたのを見て俺は嬉しかったんだ。マシュが俺のためにここまで頑張っていたんだなって」

「先輩……」

「ブーディカから聞いたよ。俺も、マシュのことが好きだよ」

「……ッ!」

 そう言った時、マシュの瞳から涙が流れ、俺は思わず驚いてしまった。

「ま、マシュ⁉ 俺、何か悪いことを……」

「い、いえ! 違うんです! その……嬉しいのです。先輩に、好きになってもらいたいと……思っていましたから……」

 懸命に涙を拭う彼女を見て、俺は強く抱きしめた。

「せ、先輩……⁉」

「俺も同じだよ。マシュと出逢ってから一緒に冒険をして、いつからかマシュと一緒にいたいって思うようになったんだ。最初の頃は自分も不甲斐なかったけど、俺はマシュを……一人の女性として好きだ。こんな俺で良かったら、これからもずっと……一緒にいてくれるか?」

 俺なりのマシュへの告白を伝え、マシュは笑顔で俺を見て言った。

「……はいっ、もちろんです!」

 その後、互いの唇が重なり合い、俺は驚きと嬉しさで頭の中が真っ白になった。

「その……初めての、キスなんですが、いかがでした?」

「あ、うん……俺も、初めてなんだ」

「先輩……」

「ん?」

「これからも、よろしくお願いします」

「あ……うん、こちらこそ」

 俺とマシュは互いに笑顔になり、もう一度、唇を交わした。

 こうして俺とマシュの関係はパートナーだけでなく恋人となり、一緒に幸せを掴むことを誓ったのであった。

 

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 翌朝、俺とマシュはゆっくりと食堂へと向かっていた。

「おやおや、今日はとても素晴らしい光景に出くわしたわね」

 いつものように陽気に話す人物、ダ・ヴィンチちゃんと遭遇して俺とマシュは挨拶した。

「おはよう、ダ・ヴィンチちゃん」

「おはようございます」

「はいはい、おはよう。二人とも仲良く……ん?」

 挨拶を交わした直後、ダ・ヴィンチちゃんはマシュを見て何かを確認し、マシュは只々頭を傾げていた。

「ふむふむ……なるほどな~」

「えっと、ダ・ヴィンチさん?」

「仲良くするのは良いけど、夜はほどほどにね~(ニヤニヤ)」

「ぶっ!」

「……ッ⁈」

 ダ・ヴィンチちゃんからの発言に俺は思わず吹いてしまい、マシュは真っ赤に染まって蒸発した。

「あら? 冗談のつもりで言ったんだけど、マジだったようだね~」

「だ、ダ・ヴィンチさんッ!」

「今日は何も任務が無いからいいんだけど、支障になることはしないでくれよ」

「ちょっ……!」

「それと、時に女の子は嫉妬深い生き物だから清姫とかには気をつけた方がいいよ。それじゃ~ね~」

 言うだけ言ってその場を去ったダ・ヴィンチに俺はただ呆然と見送り、マシュのことが気になって視線を向けた。

「まさかすぐバレるなんてな……」

「あと恐ろしい人物の名が出てきましたけど……だ、大丈夫です! シールダーとして先輩を守ってみせます!」

「あ、うん……ありがとう、マシュ」

 可愛く、そして健気な彼女を見て俺は優しく頭を撫で、撫でられた本人はとても喜んでいた。

 そして再び歩み始めた俺たちは食堂へと向かい、朝食を終えた後にカルデアでの仕事に戻るようにした。

 


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