Chaldea After Story   作:黒乃ツバサ

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ティアマト神との不思議な一日

 人気の無い静かな廊下、そこを通りながらゆっくりと歩いていた。

「そろそろ日が昇る頃だな」

 午前五時過ぎになんとなく目が覚め、特に予定が無かった俺は部屋を出てカルデアの中を回り続け、約一時間ほど散歩した。

 その時、ある部屋の視線に入って歩みを止めた。

「ん?」

 サーヴァントを召喚するために造られた『守護英霊召喚システム』。

 その装置がある部屋の扉が開いていて、何か影らしきものが見えたと思い、気になってその部屋の中へと入ってみた。

「誰かいますかー?」

 聖杯の回収に欠かせないサーヴァントの召喚に必要な部屋はここ最近使っていないため電灯は真っ暗に消えていた。

 廊下に点いてある光が部屋の中へと差し、そこで俺は驚きの人物を目撃した。

「なっ……⁉」

「……」

 そこには、ウルクにいた時で激闘を繰り広げて倒したはずの創成の神――ティアマトがいた。

 ティアマトは俺の声に反応して視線を向け、俺はカルデアのスタッフたちを巻き込んでしまう危険性を考え、ジッとその場に留まるようにした。

「……」

 ティアマトの姿は、ウルクで初めて見た時の――魔力反応が増大する前の状態となっており、今の所は静かに落ち着いている……と、見た感じではそう思っている。

 すると、ティアマトが俺の方へとゆっくり近づき、観察するようにジッと見続けていた。

「……」

「ゴクッ……」

 緊迫する状況に俺は唾を呑み込み、ティアマトとの視線を出来るだけ逸らさずに見つめ合った。

 ……その時だった。

『グゥゥゥー……』

「へ……?」

 突然のことで思わず間抜けな声を出した。

 ティアマトから空腹の音が響き、本人はお腹を優しく押さえた。

「……」

「お腹、すいてるの……?」

 気になって質問し、ティアマトは何も言わずただ俺を見続けた。

 驚きの人物との遭遇から緊迫していた空気はどこに行ったのやら、俺はいろいろと悩んだ末、ティアマトを連れて食堂へと向かった。

 

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 場所を変え、ティアマトを食堂へと連れて来た俺はエミヤにホットケーキを作ってもらうように頼み、マシュとダヴィンチちゃん、ウルクで記憶を覚えているサーヴァントたちにも連絡をして食堂にて待つようにした。ホットケーキに関しては朝食で食べたいと思ってたので。

 それから数分後、連絡を聞いたマシュとダ・ヴィンチちゃんがやって来て二人へと事情を説明した。

「なんとまあ……まさかウルクで激闘を繰り広げて倒した、かのティアマト神がそんな所にいたなんてね」

「先輩が無事で良かったです……ですが、危ないですよ先輩! 先輩にもしものことがあったら……」

「ごめんマシュ、心配かけちゃって。でも、俺も本当にビックリしたよ。ティアマトがいつの間にかカルデアに来ていたし」

「スタッフに聞いた所、あの場所が使われた形跡がここ最近まったく無いんだって。一体いつ、どうやってここにやって来たんだか」

「それにしても……よく静かにしていますね。私たちがウルクにいた頃は、悲しく、そして恐ろしいほどの存在で倒すのに苦労しましたが……」

 食堂のテーブル席に座り、周辺を見渡しているティアマトを見て俺とマシュはウルクでの出来事を振り返った。

 ウルクにいた時は聖杯によって復活し、その影響もあって戦いに苦戦し続けたけど、今のティアマトは大人しくただ何かに興味を持つ子どものような感じに見えていた。

 そう思っていた時、廊下から駆けてくる音が聞こえた。

「ティアマトが来てるって⁉」

 俺の連絡受けたイシュタルを始め、エレシュキガルにケツァル・コアトルが駆けつけ、ケツァルは俺の方へと一直線で来て思いっきり抱き付いた。

「藤丸君、大丈夫でした? お怪我とかありませんでした?」

「うん大丈夫、襲われるようなことが無かったから」

 心配してくれるケツァルに俺は笑顔で返答し、イシュタルとエレシュキガルはティアマトを見つけ、マシュたちとの会話に加わるようにして状況を確認した。

「よく無事でいられたわね。それにしてもカルデアに来ているのには驚きだわ」

「聞いた話では、今は空腹状態ですのでエミヤさんに急いで朝食を用意してもらっているそうです」

カルデア(ここ)の食事を食べさせるの? そもそも食べるのかどうかも分からないのに……」

「そこは分からん。とりあえず最初に目撃した藤丸君に任せるしかないし」

「反対よ! アイツにもしものことがあったら……」

「やれやれ、恋した乙女たちは心配性だな~」

「……ッ⁈」

 何かあったのかダ・ヴィンチちゃんと話をしていた三人が赤くなって大人しくなり、そこへ調理を終えたエミヤが俺のを含め二人分のホットケーキを運んできた。

「まったく……準備をしていた所でとんでもない客が来るとはな。君にはとんでもない呪いでも掛けられてるのか?」

「それはなんとも……いきなり急ぎの注文して悪い、エミヤ」

「気にするな。マスターの役に立つことがサーヴァントの役目だ。とにかく向こうへ運ぶから後はなんとか頑張ってくれ」

「ねぇ藤丸君、ホントに大丈夫なの?」

「うん、とりあえずみんなと様子を見てて。何も無いことが一番だけど」

 そう言って俺はティアマトの所へと向かって隣の席へと座り、エミヤ手製のホットケーキが俺たちの前に置かれた。

「では、ゆっくりと食べてくれ」

 料理を前に俺はいつものように合掌し、その様子をティアマトが見ていた。

「あ、これ? 食事する前の儀式みたいな物かな。作ってくれた人と料理となった食材への感謝をするための行いだから」

 それを聞いてなのかティアマトも見よう見まねで(喋らないけども)合掌を行い、イシュタルたちもその様子を見てとても驚いていた。

 その後、食いやすいサイズに切って口の中へと頬張ったが、ティアマトは置かれているホットケーキをジッと見ていた。

「……」

 ただ見てるだけで食べる様子は無く、俺はふとティアマトの前にあるホットケーキを食いやすいサイズに切って食べるかどうか聞いてみた。

「えと……これを、食べる、口、開けてくれる?」

 ジェスチャーするように言って、それを理解したのか口を開いてくれた。

 切ったホットケーキを口へと入れさせ、ティアマトはモグモグとしながら食べた。

 それから気に入ったのか、俺の方へと向いて口を開け、それを同じように繰り返しながらホットケーキを食べさせた。

「むぅ……相手が相手だから手を出しにくいのだけど……」

「羨ましい……あんなこと私だってしてもらいたい!」

「いやはや、これは中々見られない光景だね~」

「これはお姉さんも嫉妬しちゃうなー」

「確かに羨ましいです……って皆さん、今はそう言ってる場合じゃないです!」

 

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 その後、朝食を終えた俺はティアマトと手を繋いでカルデアの中を案内した。

 単独行動の回避と(黒髭氏みたいな)変な人たちに連れて行かれないようにするため、なるべく手を繋いで行動をするようにとダ・ヴィンチちゃんが言ったけど……まぁ、本人は真面目な半分面白さでそう言ったんだろうな。視線の痛さが感じるし。

 図書館や訓練所、いろんな場所を巡ってはそこで出会ったサーヴァントとのちょっとした交流(マリーのお茶会やジャックたちとの遊び)も行い、(無表情だけど)ティアマトもいろんなことに興味を持って触れ合いをし続けた。

 恐ろしくも強敵であった彼女の本来は大人しく、本当は人類のことを愛していたのではないかと俺はそう思っていた。

 いろんな予想もあるけど答えは誰にも分からない。

 ただ……この機会でもしも、ティアマトが人類の可能性を、人類が生きるに値する存在であることを知ってもらえればあの時の悲劇を二度と起こすことは無いんじゃないか。

 そう思いながら歩き続け、ティアマトが歩みを止めたことで俺も止まった。

「どうしたの?」

 ティアマトの視線が向けた先は、いくつも浮かぶ雲と照らす太陽、そして青い空だった。

「……」

 外の光景にティアマトは窓に手を当て、ただ静かに眺めていた。

 マシュの話では、子どもである神々を産んで、育て、愛していたけれど、その神々は原父であるアプスーに反旗して世界の支配権を手に入れ、母親である彼女にさえ剣を向けたのだ。

 愛していた神々に剣を向けられ、さらに自分の存在意義を人類に否定されたことで恨みや憎しみ、悲しみを負ったティアマトは世界を滅ぼそうとした。

 歴史としては最悪な結末となってしまったけれど、本当はどこかで今も神々のことを、人類のことを信じていた気持ちがあったんじゃないかと俺は思った。

 僅かに残る良心があって、それが消えるまで信じていたのではないか。

 分からないけど……でも、それでも俺はそうであったと思いたい。今まで時代を駆けてその証を残してきたサーヴァント(みんな)のように、彼女のことを……。

 外の風景を見終えたティアマトが戻ってきたその時、俺は彼女の変化にすぐに気付いた。

 彼女の頬に――涙が流れていたのだ。

「それ……」

「……」

 気が付いていなかったティアマトは自身の涙を拭ったものの流れ出続けるため止まらず、俺はそんな彼女を見て静かに抱き寄せた。

「もう、大丈夫。ここにはアナタを否定する人たちはいない。いたとしても俺が、俺たちが守ってみせるから」

「……」

 俺の言葉に反応したのか、彼女はそのまま俺の体に抱き付き、涙が治まるまでくっつき続けた。

 様子を見ていたマシュたちの所から鼻水の音が聞こえたけど、俺はとにかくティアマトの気持ちが落ち着くまで抱き続けるようにした。

 

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 時が流れて時刻は夜の十時前。

 夕食と風呂を終えた俺はティアマトに手を引っ張られ、『擬似地球環境モデル・カルデアス』の前まで連れて来られた。

「どうしてここに?」

 カルデアスを前に俺は疑問を抱いたが、ティアマトは俺の方へと向いて再び抱き付いた。……その時だった。

「え?」

 ティアマトの体から光の粒子のようなものが見え、彼女は俺から離れて静かに見つめてきた。

「……消えてしまうのか?」

 俺は問い詰めるも彼女は答えることは無かった。

 足元から徐々にティアマトの体が粒子と化し、何も出来ない俺はただ見ているしかなかった。……いや、出来ることが一つある。

「ティアマト……」

「……」

「また……いつかもう一度、会おう」

 俺は消えゆくティアマトに近づいて手を握り、彼女と視線を交わすようにして約束の言葉を伝えた。

 すると、奇跡が起きた。

「あり……が、とう……」

「ッ!」

 無表情で一切喋ることがなかったティアマトが笑って……感謝の言葉を発した。

 ありがとうと、そう伝えた彼女はそのまま消え、その場に俺だけが残った。

 そこへマシュと、ティアマトに関わったサーヴァントたちがゆっくりと歩いてきて一人ずつ話し始めた。

「消えて、しまいましたね……」

「まったくアンタと関わるとロクなことが無いわね。でも、今回限りは悪くなかったわ」

「藤丸殿は我々の予想を超えた奇跡を起こしますね」

「それが藤丸殿の良い所であります!」

 それぞれが俺への評価を言い、ウルクの英雄王・ギルガメッシュが俺の下へと近づいた。

「藤丸よ、善い働きをしたものだ。まさかあのような神さえも手懐けるとはな」

「手懐けって……俺はただ、彼女と普通に接しただけだよ」

「フッ……フハハハハハ! 此度に限ってもつくづく面白い奴だな、お前は」

 ギルガメッシュは上機嫌に笑いながらこの場を去って行き、俺はもう一度カルデアスを見ながらティアマトのことを思い浮かべた。

「また会おう、ティアマト」

 こうして俺たちの一日は終わり、また新たな一日が始まるのであった。

 

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