Chaldea After Story   作:黒乃ツバサ

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現実と向き合い、前を向いて

 七つの特異点を巡っての聖杯探索(グランドオーダー)を果たし、ソロモン王との決戦で俺たちの冒険は終わった。

 人理焼却によるグランドオーダー完遂から一年。ダ・ヴィンチちゃんとホームズを除く英霊(サーヴァント)たちは役目を終えて座へと消え、苦楽を共にしたスタッフさんたちとの日々もあと少しとなった。

 マシュはカルデアに残る事となり、俺は実家へと帰国となっていたが、事はそう簡単には行かなかった。

 査問会と一緒にヘリで飛んできた、魔術協会から派遣された新所長、ゴルドルフ・ムジークがカルデアの全権を引き継いだ直後、俺やマシュ、カルデアスタッフ全員は拘束され、執拗な尋問を受け続けた。

 一年間の空白、俺たちにとって人理を守る戦いをしていても、余所にとっては絵空事に過ぎず、記録を見ても残っているのは、多くの死者とマスター候補という貴重な人材の負傷、カルデアの多くの禁則行為に触れたという認識だけだった。

 意図的なものか、作為的なものかを計るために査問会が開かれ、三十一日にて全員の無罪放免が発表され、新旧スタッフの入れ替え、コフィンに眠る、本来グランドオーダーを果たすはずだったAチームの解凍・治療が行われ、すべてが終わろうとしていた――その時だった。

『警告。警告。現時刻での観測結果に□□発生。

 観測結果、過去に該当無し。統計による対応、予報、予測が困難です。

 観測値に異常が検知されません。電磁波が一切検知されません。

 地球に飛来する宇宙線が検知されません。人工衛星からの映像、途絶しました。

 マウナケア天文台からの通信、ロスト。

 現在――地球上において観測できる他天体はありません。』

 冷凍冬眠されていたはずのAチーム、七人のマスターが消失しており、シバが停止、カルデアスに異常が起き始めていた。

 ――ドドドドドドドドッ!

 銃声が聞こえ、カルデア館内に謎の武装集団が襲撃してきた。

 突然の敵にマシュは俺や同室でいたムニエルを守るべく、再び礼装を身に纏い戦いに投じたが、英霊の力を失っていたため身体能力が劣っている上に長時間維持する事が困難になっていた。

 途中でホームズに救ってもらったけど、そこから事態はさらに悪化していき、警備兵が全員殺され、カルデアスタッフのほとんどが襲撃してきた集団のリーダーであるサーヴァントに氷漬けされ、カルデアは既に崩壊へと進んでいた。

 逃げ遅れたゴルドルフ所長の救出も行い、そのまま生き延びているスタッフも含め全員で脱出するはずだったが……

「来るな、藤丸立香!」

 逃げる直前にてダ・ヴィンチちゃんが言峰神父によって心臓を貫かれてしまった。

 助けようとしたが、俺たちに逃げる時間を稼ぐために零基グラフを託し、俺たちはホームズが秘密裏に準備していた虚数潜航艇シャドウ・ボーダーに乗って全滅を免れるように脱出した。

 カルデアが陥落し、無事に逃れた後に死んだはずの小さなダ・ヴィンチちゃんの登場、自分がいた場所が南極だったこと、など頭が追いつかない出来事があったものの考える時間はなかった。

 空から隕石のような落下物がそれぞれ七箇所に向けてまっすぐに落ちていき、途中から通信がカルデアに――自分たちに向けて送られてきた。

『……通達する。我々は、全人類に通達する。

 この惑星はこれより、古く新しい世界に生まれ変わる。』

 通信から男性の声が聞こえ、彼からの声に俺たちは耳を向けた。

『人類の文明は正しくなかった。我々の成長は正解ではなかった。

 よって、私は決断した。

 これまでの人類史――汎人類史に叛逆(はんぎゃく)すること。』

 それは、宣戦布告だった。

 自分たち人類の文明と進化を否定した、宣戦布告だった。

『今一度、世界に人ならざる神秘を満たす。神々の時代を、この惑星(ほし)に取り戻す。

 そのために遠いソラから神は降臨した。七つの種子を以て、新たな指導者を選抜した。

 指導者たちはこの惑星(ほし)を作り変える。もっとも優れた『異聞の指導者』が世界を更新する。

 その競争(戦い)に汎人類史の生命は参加できず、また、観戦の席はない。

 空想の根は落ちた。創造の樹は地に満ちた。

 これより、旧人類が行っていた全事業は凍結される。

 君たちの罪科は、この処遇をもって清算するものとする。

 没人類史は、二〇一七年を以て終了した。』

 この瞬間、俺たちは襲ってきた謎の集団とそのサーヴァント、言峰神父とコヤンスカヤの率いる人たちの正体を知る事となった。

『私の名はヴォーダイム。キリシュタリア・ヴォータイム。

 七人のクリプターを代表して、君たちカルデアの生き残りに――いや。

 今や旧人類、最後の数名になった君たちに通達する。

 ――この惑星(ほし)の歴史は、我々が引き継ごう。』

 こうして俺たちの新たな戦いが始まった。

 西暦二〇一八年。彼らクリプターによる七つの異聞帯により白紙化された世界。

 前人未到の聖杯戦争に潰された現在を取り戻し、未来に打ち克つ戦いを終わらせるために、俺たちは戦うことを選んだ。

 向かう先の世界を滅ぼすことになっても……。

 

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 四つ目の異聞帯の消滅を確認し、俺たちはノウム・カルデアへと帰還した。

「あ……」

 長い休みを取っている中、俺は食堂にて静かに座るマシュを見つけた。

 彼女の様子は今回も同様に、暗くとても落ち込んでいた。

「……」

 インドの異聞帯が消滅する前、ビーチュに立ち寄ったマシュはアーシャに父親がいたことを伝えた。

 忘れていた真実を、アーシャに少しでも理解してほしいために。

「そこでなにやってるの後輩」

「うおっ⁉」

 背後からの声に俺はビックリして距離を取った。

 そこに、三つ目の異聞帯で消滅し、サーヴァントとして召喚された虞美人先輩がいた。

「先輩……? それに虞美人さんも」

 俺が声を出したことでマシュが気づき、虞美人先輩はマシュの様子に理解してゆっくりと近づいた。

「いろいろ聞いてるが、いい加減理解したらどうよ」

「それは……分かってますが……」

「先輩、ちょっと……」

「アンタは黙ってな!」

 厳しい一言に俺は黙り込んでしまい、先輩は続けるようにマシュへと話をした。

「よくもまあ、そんな気持ちを持って今までの異聞帯(ロストベルト)を滅ぼせたものよ。私や項羽様、数多のサーヴァントを倒したくせに」

「……」

「没人類史の未来を取り戻すためには、別の未来を滅ぼさなければならない。どう考えたって、異聞帯で生きる人間を救うなんてこと出来るわけないでしょ」

「そう……ですが……」

「所詮は過去の残骸。それを消さなければアンタたちは消える。迷ってる暇はないし、残酷だろうがなんだろうがアンタたちに選択肢なんて一つしかないからな」

「そう、ですが……!」

 先輩の一言一言にマシュは涙を流して睨むように振り向き、虞美人先輩はマシュの服を片手で掴んで引っ張り上げた。

「だからこそ、お前らは向き合わなければならないんだ。出会って消えていった連中の分も背負って、前へと進まなければならないんだ」

「虞美人、さん……」

「勘違いするなよ。私は今でもそこにいる後輩やカルデアの連中、お前も含めすべての人間は嫌いだ!」

「……」

「だがアイツも……オフェリアもいたらこう言うのだろうな。『諦めるな』と」

「オフェリアさん……」

 その一言でマシュは思い出していたのだろう。

 オフェリアさんとの僅かな一時を、そして託された想いを。

「いなくなったアイツの分も、お前は生きなければならないんだ。誰にも許されなかろうが、没人類史の未来を取り戻すために生き続けなければならないんだ」

「はい……」

「返事が小さい! しっかりと立ってシャンと返事しな!」

「はいッ!」

 励ましによってマシュは背筋を伸ばして返事をし、虞美人先輩は軽く溜息を吐いてから腕を組んだ。

「ったく、なんで私がアンタをここまで元気づけなければならないんだか……」

「先輩、ありがとうございます」

「こういうのはアンタの役割だろうが! そっちの方が長い付き合いなんだから次からお前がしろよ!」

「あがああああああああ⁈」

 お礼を言った直後、先輩からの強力なヘッドロックをされてしまった。

 まあ確かにマシュを励ますのはマスターである俺の役目なんだろうけど、今回は本当に虞美人先輩には感謝だな。

「って先輩キブギブー! ああああああああッ!」

「先輩⁉ 虞美人さんストップストップ!」

「嫌だね!(最初からこうすればよかったのよ。コイツを困らせるのなら)」

「こ、項羽との、温泉、手配しま、す!」

「なっ⁉」

 俺が発した一言で先輩のヘッドロックが終わった。

 あー……マジでこれで死ぬところだった……。

「べ、紅閻魔ちゃんに、二人分を予約しておきますので……」

「そ、そんなので、私の気分が優れると思って……!」

「マスターの声が聞こえたが、何かあったのか?」

「こっ、ここここここ、項羽様⁉」

 食堂に入ってきた項羽の登場に虞美人先輩はビックリして身形を整え直した。

「あ、項羽。実は……」

「次の異聞帯(ロストベルト)に向けて気合を入れてあげたのです! さらなる強大な敵が現れても挫けないようにと!」

「ふむ、此度の異聞帯は強力な神霊によって苦戦を強いられ続けたと聞いておる。次の異聞帯でもさらなる敵が現れるであろう。だが、たとえどれほど強大であってもマスターのために人理の未来を紡ぐことを私は誓った。故にマスターよ、汝のためなら私は礎になることを(いと)わない」

 いきなりの重い発言! 何回もこういうのは慣れないな……。

「いやそこまでは……」

「理解している、汝が私たちのことを思っているのは。だがいずれ、戦いの中で犠牲が必要になる時が来る。しかと、その時が来た場合のことを考えられる内に考えておいた方がいい」

 その言葉を聞いて俺はふと、前のカルデアにいた頃で聞いた酒吞童子の言葉を思い出した。

 金時の昔の話を聞いていた中、彼女は俺にその話を参考にしてこう言った。

『アンタはんも、その時が来たらどないするんやろねぇ。矜持と世界と仲間の命……どれか一つを選ばなアカン時が来はったらどないしはります?』

 この問いかけを聞いて俺は思わず黙り込んでしまった。その答えを言葉ではなく、態度で返さなければならないものだと理解したけども、その頃の俺は迷い、悩み考え続けていた。

 そして今回も、項羽の言葉に俺は悩み続けるだろう。でも、悩みがあるからこそ悩んで悩んで悩み続け、自分が納得する答えを決める。それが人間だと博士は……ロマンは言っていた。

「答えをすぐに出すのは出来ないけど、考えて、悩んで、自分が納得する答えを見つけてみるよ。消えていった、託してくれた人たちの想いを無駄にしないために」

「……承知した。では、私はこれにて失礼する」

 俺の今言える答えを聞いて項羽はその場を去った。

 納得したかどうかは分からないけれども、俺は俺で出来る限りのことを尽してみせようと思った。

 辛くも残酷な出来事があっても、出来る限りの犠牲を避けるため、この戦いを終わらせるために。

 人類を守る責任と、生き残るための責任を背負って、俺たちは生きる(戦う)ことを諦めない――。

「後輩、ちゃんと項羽様との分を用意しろよ」

「あ、はい」

「先輩……」

「フォウ……(さっきまで良かったのに最後で締まらないな……)」

「あれ? フォウくん何時からいたの?」

「フォウフォーウ!(最初からいたし思いっきり忘れてただろ!)」

 


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