魔法少女つばさ☆マギカ   作:辰真

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九章『僕の想いを、託します』

 

 朝、つばさはベッドに寄りかかった体勢で目覚めた。どうやらあのまま眠ってしまったらしく腰が痛い。

 

「あれ……」

 

 気づけば、つばさの体には一枚の毛布が掛けられていた。流石に毛布にくるまったままこの体勢になった記憶は無い。隣にマミの姿がない事を考えると彼女が寝てる間に掛けてくれたものだろう。

 

「あら、お目覚め?」

 

 その声に気づいてつばさは振り返った。そこには、普段左右に結わえている髪をひとまとめにし、肩に掛けたマミの姿。

 

「おはようございます……」

 

 つばさは寝ぼけ眼で彼女の姿を見やる。寝ぼけていても長年染み着いた技術はしっかりと働いているようで、マミが平静を装っているものの、相当に焦っているのが手に取るにように分かった。

 

「? どうかしました?」

 

 その理由を見つけられず、つばさは首を傾げた。マミはびくりと肩を震わせると、まるで油を差してもらっていない機械のように振り返った。

 

「……誰にも言わない?」

 

「え? まぁ……言うなと言われれば」

 

「絶対に言っちゃ駄目よ。いいわね?」

 

 何が彼女をここまで追いつめているのだろうか。つばさは息を飲んでゆっくりと頷いた。

 

「は、はい」

 

「実はね……」

 

 勿体ぶるようにマミは自分が向かっている机の上にある物を凝視した。そこにあったのは――

 

「…………宿題?」

 

「鹿目さん達には絶対に秘密よ。先輩の私が宿題を忘れてるなんてそんな…………」

 

 ぶつぶつと呟きながらマミは再び机に向かう。要するに、ただの見栄だ。今日は土曜日のはずだが、それでも焦るなら相当な量なのだろう。そんな彼女の姿につばさは苦笑して答えた。

 

「それじゃあ、朝食でも作るのでキッチンお借りしますね。冷蔵庫の物は使っていいですか?」

 

「え、悪いわ。そんなの……」

 

「大丈夫です。簡単なものぐらいなら、僕でも作れます」

 

 マミはあわてて振り返る。だがつばさは手をひらひらと振って彼女の部屋を後にした。元々母子家庭なのもあり、多少家事の心得はある。後はつばさが作れる範囲での材料があれば良い。

 

「うーん……卵多いなぁ」

 

 つばさは冷蔵庫を開けて呟いた。やっぱりお菓子を作るのに卵は必要なのだろうか、冷蔵庫の扉側の棚には生卵がずらりと並べられている。

 

「わぁ、ちゃんと近い方に向かって賞味期限並べてるよマミさん……几帳面だなぁ」

 

 これでは余所の家の冷蔵庫チェックだ。つばさは軽く頭を振って食パンと生卵をキッチンに広げ、マミの部屋に戻った。

 

「マミさーん。朝ご飯、フレンチトーストで……」

 

「……なんでこんな量の宿題があるのよ。宿題はもっと短く終わるようにして自習を促すべきじゃないかしら……」

 

 一人でぶつぶつと呟いているマミの姿を確認し、つばさは苦笑して静かに扉を閉めた。まだまだ、彼女の知らない面はたくさんあるようだ。

 

「フレンチトーストでいいよね。うん」

 

 つばさは真剣な顔で呟いているマミの姿を思いだしながら呟いた。

 十数分後、未だ呟いていたマミを呼び、二人で朝食を取った。マミと食べる食事は、今までで生きてきた中で一番おいしかった。

 

 

 

 

「あ、もうこんな時間」

 

 警察と学校からの電話に応対していたつばさは時計をみて呟いた。若干お昼時を回っているのだが、どうにも空腹間がない。むしろまだ満腹な感じがする。

 

「マミさんはどうかな……」

 

 つばさは彼女の部屋に入ってその様子を伺う。どうやらまだぶつぶつ言っていたようだ。

 

「マミさん」

 

「あ、つばさ君。どうかした?」

 

 つばさの声に気づいてマミが振り返る。朝の姿から、普段の縦ロールにしたツインテール姿の彼女になっていた。

 

「えっと、お昼は大丈夫ですか?」

 

「うん? あ、本当……でも、あんまりお腹空いてないのよね……」

 

 マミはそっと自分の腹部に手を添えて時計を見る。

 

「はい、じゃあお腹好いたら言ってください。なんか作りますね」

 

 つばさはそう言って部屋を出る。彼女が集中しているのであれば話すのも邪魔になってしまうだろう。

 

「つばさ君」

 

 その直前、つばさは呼び止められて振り返る。マミは体を方へと向けて微笑む。

 

「ありがとう」

 

「いっ……いえっ!」

 

 上擦った返答をしてつばさは扉を締めた。こんな風に、誰かのために行動し、お礼を言われた事なんて数える程度しかない。それが大好きなマミとくれば、つばさの内心は乱れに乱れるというものだ。

 

「すぅー…………はぁー…………」

 

 扉を締めた体勢のまま彼は深呼吸する。このまま、こんな時間がずっと続けばいい。そう思う反面、つばさにはまだやらねばならない事がある。もう一人のつばさから生まれた消滅の魔女。あれを倒さなければならない。

 

「でも……」

 

 それにはいくつもの障害がある。一つはもう一匹の魔女――初めてつばさが遭遇した想像の魔女を同時に相手にしなければならない事。そしてもう一つ。つばさは正確には魔法少女ではない事。

 

「キュウべぇにも確認しないと…………」

 

 判っている事と言えば、今のつばさは消滅の魔女の結界の中でしかその力を使用できない事だけだ。ほかに幾つか思いつくことはあるが、それはキュウべぇに確認した方が良さそうだ。

 そうなってくると今、つばさにできる事は限られてくる。母親の自殺の後処理。この部屋への引っ越しの手続き。そして――

 

(戦い方)

 

 今まで、好んで戦うことがなかったため、つばさはあまり魔法の使い方について考えた事がなかった。だが今度は違う、たった一度の、自分のための戦い。流石に一人ですべてどうにかできるとは考えていないが、それでも戦いについて勉強する事で少しは周りへの負担を押さえられるはずだ。

 

「確か、この前マミさんがこの辺に…………あった」

 

 つばさはリビングのテーブルの下――バスケットに放り込まれた数冊のノートを手に取る。これは以前さやかとつばさに対して渡されたマミ直筆の魔法少女についての研究ノートだ。ページをめくれば細かい魔法の使い方など、戦い方についても書かれている。以前は戦うことを拒否していたつばさはそのノートを読まなかった。それを反省しつつも、彼はそのノートを食い入るように読みふけった。

 

「ティロ・フィナーレ、レガーレ・ヴァスタアリア…………?

 マミさん……………………………………………………」

 

 ノートの端々に書かれているいくらか聞きなれた気がする名前が妙に気になる。つばさはその興味を振り払ってページをめくった。今まで気にも止めなかった知識。けれども読めば読むほど、彼女の努力につばさは触れる事になった。

 

「あれ……?」

 

 気づけば、時計は三時過ぎを示していた。しかし、空腹感は訪れない。それどころか未だに満腹感がある。

 

「変だな…………」

 

 ノートを閉じてつばさは首を捻る。空腹感がないのはともかく、まだお腹いっぱいなんて、ちょっとおかしい。彼は立ち上がって早足でマミの部屋に駆け込んだ。

 

「マミさん。お腹どうです?」

 

「ちょ、ちょっと! 私太ってなんかいないわよ!?」

 

「いやそうじゃなくて…………」

 

 十分程掛けてマミを宥める。つばさは落ち着いた彼女に言葉を選んでもう一度訪ねた。

 

「それで、お腹減りました?」

 

「いえ……まだお腹いっぱいなぐらい……」

 

 彼女もつばさと同じ状態のようだ。二人してこんな状態なんて、やっぱりちょっとおかしい。思い当たる点は一つ。

 

「た、卵の賞味期限は確認したはずなんですが……」

 

「そ、そうよね。私も普段ちゃんと確認してるし……」

 

 まさか自分の料理のせいだろうか。つばさは涙目で俯いた。だがそこに、もう一人の声が響いた。

 

『違うよ。魔女が原因だ』

 

 どこからか聞こえるキュウべぇの声。周囲を見回すと、窓の外にキュウべぇの姿があった。マミは椅子から立ち上がり、窓を開けてキュウべぇを部屋に迎え入れる。

 

『今朝から何かおかしかったから調べていたんだけど、どうやら見滝原一帯の時間という概念が止まっているようなんだ』

 

「時間が止まってる……? でも時計は止まってないわよ?」

 

 マミは腕を組んで部屋の時計に目をやった。つばさもそれにならって頷く。キュウべぇは首を左右に振って答える。

 

『時計というのは、元々人間が機械的、電子的な要素を見える形に変換したものに過ぎない。そもそも、君たちの言う時間の概念はこの宇宙全体でみれば原始的な物に過ぎないんだ。例えば四年に一度、一年間の日数を増やして調節しているなんて、僕らの感覚ではあまりにも初歩的な方法だ』

 

「じゃあ、具体的に今何が起きているの?」

 

 つばさはしゃがんでキュウべぇに尋ねた。キュウべぇはその大きな尻尾の先でつばさのお腹を指して話す。

 

『生命活動の停止だ。と言っても、別に死ぬ訳じゃない、けれど、生きている訳でもない』

 

 その言い回しにつばさは首を傾げる。キュウべぇは少し考える素振りを見せ、彼に判るように答えた。

 

『時間感覚の消失……って言えば分かりやすいかな? 今日起きてから今まで、いつの間にか時間が過ぎていたりした事は無いかい?』

 

「そういえば……」

 

 昼時を過ぎていた事など、若干思い当たる節はある。

 

『お腹も空いていないだろう? それも現象の一つだ。空腹感はある意味、時間の経過を示すからね。

 今は空腹感の消失程度で済んでいるけど、時間が経てば状況は酷くなる』

 

「具体的には何が起きるの?」

 

 マミが口元に手を当てて尋ねた。今は違和感で済んでいるが、この状況が続いた上に悪化すれば混乱は避けられない。

 

『一部の細胞機能の停止……簡単に言うなら、いくら動いても疲れなくなるけど、怪我をしたら全く治らなくなる。出血するような怪我なら尚更、血が止まらなくて間違いなく死んでしまうよ』

 

 一体どうしてそうなったのか。つばさはその理由を察して尋ねた。同じような現象を起こした彼だからこそ判る。同じ力を持った者の存在。

 

「消滅の魔女?」

 

 キュウべぇは満足そうに頷いて、今起きている自体について語った。

 

『共生は魔女の力を強くする。それ故に、時間が経つほどに結界を必要としない魔女へとなっていくんだ。君らの言うワルプルギスの夜って魔女も同じさ。あれは強力な魔力を持ってしまっていて並みの魔法少女で太刀打ちできる相手じゃない。それ故に隠れる必要がなく、結界を持たない。共生はそれに近い状況を生み出してしまっているんだ』

 

「じゃあ、このまま放っておいたら……」

 

 ごくり、と生唾を飲み込む。ちらと聞こえたワルプルギスの夜というものが何か気になったが、今は無視するべきだ。

 

『ああ、この見滝原に消滅の魔女と想像の魔女が同時に実体化するね』

 

 当然だろう。とキュウべぇは答えた。その事実に、つばさは青ざめる。魔女が結界から出たりなんてしたら、どんな事になってしまうのか。想像する事すら恐ろしい。

 

「急いで探さないと……でも……私とまどかさんでも敵うか分からない相手……なのよね?」

 

 マミは考えるように目を伏せ、キュウべぇに確認する。昨日の戦闘でキュウべぇはそう言っていたが、ケタ外れの魔力を持ったまどかが居ても勝てるかどうかも判らない相手というのはどうにも想像できない。

 

『ああ、理由はいくつかあるけど、一つとして結界に回す分の魔力が大体半分になるからね。それだけでも結構な力量差が生まれる。それに加えて性質同士の相乗効果で魔力総量の上昇も起きるから、流石にまどかとマミ、それにつばさを加えたとしてもあまり期待できる勝率は無いと思うな』

 

「それでも……やるしかないわ」

 

 キュウべぇの言葉を聞いてもなお、マミは動じずに答えた。どちらにせよ、このままにしておく事はできないのだ。つばさも頷いて立ち上がる。

 

「今からでもまどかさんにも声を掛けて虱潰しに探さないと」

 

「一人で入ってったら危ないですし、集合前に逃げられないといいんですけど……」

 

 二人は先日の魔女化したさやか捜索の際に用いた地図を広げて話す。キュウべぇはつばさの頭に乗りかかり、その地図を見て見滝原町と周囲の町との境界線を尻尾でなぞった。

 

『あの二匹の魔女の捜索は簡単だよ。大体この町一帯に影響が起きてるから、その中心地を割り出せばいい。

 共生による一つの弱点だね。強すぎる魔力が自分の居場所を知らせてしまう。かと言って簡単に勝てる相手ではないよ? それでも行くのかい?』

 

 キュウべぇの問いに、二人は静かに頷いた。行くも何も、つばさは最初から消滅の魔女との決着を付けなければならない。

 そんな彼らに気付いていたかのように、何者かによって窓が叩かれた。

 

「……私達も協力させて貰うわ」

 

「暁美さん」

 

 マミは驚いて窓を再び開けてほむらを招き入れる。その後ろについてくるように非常に機嫌の悪そうな杏子がずかずかと部屋に踏み込んできた。

 

「あの……二人とも家の場所は知ってるんだから玄関から入ってもらえないかしら……?」

 

 脱いだ靴を手に持って玄関に向かう二人を見ながらマミは困ったように言った。

 ほむらと杏子はばつが悪そうにそそくさと玄関に靴を置きに行く。戻ってきた二人を加えて、つばさはキュウべぇから聞いた事を話し、マミはその間にまどかとさやかを呼んでいた。

 

「……という訳で、あの魔女……もう一人の僕から生まれた魔女のせいで時間の概念が無くなっちゃってるらしいです」

 

 つばさの説明を聞いて、納得したようにほむらが頷いた。そして苦々しい顔を浮かべて話す。

 

「だから私の魔法が朝から使えなくなってる訳ね……そのせいで佐倉杏子を探すのに苦労したわ」

 

「けっ」

 

 相変わらず不機嫌そうな杏子はポケットから取り出したお菓子を食べようとして、止めた。それはそうだろう。今は空腹感なんて来ないのだから。ただし、この影響は現在見滝原一帯で起きている事なので、影響の範囲外に出れば問題は無いはずだ。それでもなお、この二人がここに来た理由を考えてつばさは首を傾げる。その疑問に答えるようにほむらは答えた。

 

「……私の願いは見滝原でないと叶わない。だから、根源である見滝原で時間の概念が無くなってしまっていて魔法が使えない……のだと思う」

 

「なるほど……佐倉さんは……?」

 

 つばさは恐る恐る杏子の方へ視線を向ける。彼女は明らかな怒りを見せてほむらを指差した。

 

「こいつに無理矢理連れてこられたに決まってんだろ! でなきゃなんでアタシが他の奴の縄張りまで態々こなきゃいけないんだ!」

 

「す、すいません」

 

 委縮するつばさを尻目に、ほむらは呆れたように呟く。

 

「巴マミのケーキが食べれなくなるのは困ると言って着いてきたのは誰だったかしら……」

 

「よ、余計な事言うんじゃない!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴る杏子を見ながらつばさは静かに笑った。この人も、マミを慕って他の町からやってきてくれた。マミは彼女が自分の元から離れて行ってしまったと言っていたが、そんな事は無いと、目の前の杏子を見てつばさは確信した。

 

「鹿目さん達も呼んだわ。すぐ来てくれるそうよ……って、何かあったの?」

 

「いいえ、何も」

 

 つばさは戻ってきたマミに向かって笑って答えた。

 

 

 

 一時間後、まどか達が慌てた様子でやってきた。これで魔法少女の世界でつばさが知る人物全員が揃った事になる。流石にこの人数が揃うとマミの部屋でも少し手狭だ。

 リビングに集まった全員がマミに視線を向ける。彼女は頷いて先ほどの地図を広げて見せた。

 

「今回は魔女の力が見滝原一帯に及んでいるから、その中心点を割り出せばすぐ見つけられるわ。だから私、佐倉さん、鹿目さん、暁美さんで位置を把握して、テレパシーで連絡。中心点に集合して一気に勝負。いい?」

 

 全員が頷く。マミはキュウべぇに視線を向け、テレパシーを使えるように促す。

 

『仕方ないね。今回はちょっと事が大きい、僕も出来る事はするよ』

 

 キュウべぇは肩を竦めて答えた。これで連絡も問題ない。そこで、現在唯一の普通の人間となっているさやかが手を上げた。

 

「あの、マミさん。アタシとつばさはどうすれば……」

 

 さやかに関して言えば、つばさのように結界内でのみ力を使う事すらできない。そんな彼女を態々これまでで最強と言えるような魔女との戦いに連れていく訳にはいかない。

 マミはぱちりと片目を閉じて答える。

 

「美樹さんはお夕飯を作っておいて貰えるかしら?」

 

「へ? 夕飯?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべてさやかは首を傾げた。それはそうだろう。普通に考えれば彼女が夕食の用意をする事と魔女退治はどうあっても結びつかない。そんな中で唯一、マミの意図を理解したつばさは少し楽しげにその疑問に答えた。

 

「僕らが帰ってくる場所を、守っていて下さい。そうですよね、マミさん?」

 

 確認するようにマミへと視線を向ける。つばさの視線を受けて彼女は大きく頷く。そんな二人の様子を見ていたその場に居た他の者達はどこか楽しそうな、はたまた恨めしそうな顔で呟く。

 

「め、目で通じあってる……」

 

 さやかの言葉を受けて、つばさとマミが頬を赤らめた。

 

「「い、いえ、別にそんな事は……」」

 

「今度は同じ事言ってる……」

 

 同時に答える二人を尻目にまどかも当てられたように頬を染めて呟いた。その空気に耐えきれずに、マミは強引に流れを戻した。

 

「と・に・か・く! 美樹さんの夕食の用意が終わるまでに帰ってきましょう!」

 

 その言葉にそれぞれの返事が上がる。

 ソウルジェムを持たないため魔女の捜索ができないつばさは、反対に現在殆どの魔法を封じられているほむらに同行する。

 魔法少女・遠藤つばさにとっての最後の戦いが、近づいていた。

 

 

 

 

『じゃあやっぱり……』

 

『ああ、つばさの考えでまず間違いないよ。君の力の使い方次第でこの戦いの優劣が決まると言っても過言じゃない』

 

 ごくりとつばさは息を飲んだ。見滝原の町中を移動しながら彼は今日のうちに纏めた考えをキュウべぇに確認していた。つばさの予測は概ね正しく、問題を一つ解消した事になる。だが今まで戦う意思のなかったつばさにとって、自身の魔法の応用の仕方なんてものはぶっつけ本番でやらざるを得ない新しい問題だ。

 

『僕次第、ね……』

 

 元々、消滅の魔女と決着を着けるつもりだったつばさには丁度いい。だがそんな彼を諌めるようにキュウべぇが答える。

 

『言っておくけど、君は確かにまだ魔法少女の力を扱う事が出来る。でも君では消滅の魔女を倒すことは出来ないんだ』

 

『どうして?』

 

 つばさは目を丸めて首を傾げた。倒す覚悟も決めた。戦い方も可能な限り考えた。だというのに、倒せないとはどういうことか。

 

『君がまだ魔法少女の力を使えるからさ。まだ何処かでつばさ達は繋がっている。そんな状態であの魔女を倒せば、下手をすれば君まで死んでしまうよ?』

 

『そ、それじゃあ倒せないじゃないか!』

 

 ここまで来て、自分が魔法少女である限り倒せないなんて。愕然とするつばさをよそにキュウべぇは首を横に振って答えた。

 

『いいや、君が強い意思を持ってもう一人の君との繋がりを断ち切ればいい。そうすれば完全に君とは違う魔女となって、倒してもつばさに影響は出ないよ』

 

『でも、そうしたら僕は……』

 

『ああ、何の力もない人間になる』

 

 自分の力で決別すると決め込んでこの戦いに臨んだというのに何という皮肉か。つばさは奥歯を食いしばった。だからこそ、つばさの力の使い方が重要になる。彼が力を使える限り、消滅の魔女を倒すわけに行かない。だがつばさが戦力足りえなければ勝ち目もそれだけ減ってしまう。この戦いでつばさに求められている事は最初に消滅の魔女との繋がりを消さずに想像の魔女を倒し、その後に繋がりを断ち切るための意志を持たねばならないと、想像以上に多い。

 

「仕方ないわ。一度魔法少女になった上で人間に戻ることができるのだから、多少の制約には目を瞑りなさい」

 

「…………はい」

 

 隣を歩くほむらに諭され、つばさは視線を足元に下ろした。この戦い、どうあっても途中からつばさが強い意思を持たなければいけない。そうしない限りつばさが死ぬ可能性がある以上、マミが魔女を倒すこと自体を止めかねない。

 

「余計なお世話かもしれないけれど」

 

 ふと、ほむらが口を開いた。どこか昔を思い出しているような眼で彼女は語る。

 

「もう一人の貴方の気持ちと、今、変わろうとしている貴方の気持ち。その二つの気持ちを今だけは持ちなさい。それが、貴方がするべき、彼女への手向けだと思うわ」

 

 彼女は沈痛な面持ちを浮かべ、言葉を紡ぐ。

 

「彼女が魔女になったのは、元は私の責任………………あなたが罪を背負うべきではないわ」

 

「…………ありがとうございます」

 

 つばさは穏やかな表情で答えた。その明確な理由を聞いた事は無いが、彼女はつばさの知る誰よりも、自分に近いのではないだろうか。そう思った。

 自分が嫌いで、内に秘めた気持ちで、自分を追いこんでしまう。そんな気がした。ほむらの気持ちを少しでも軽くしようと、つばさは珍しく強気な顔を浮かべて答えた。

 

「でも、それまで彼女を生み出して、苦しめていたのは僕です。どちらにせよ、その責任は僕が負うべきものです」

 

「そう……なら、負けられないわね」

 

 ふっとほむらは小さく笑った。

 珍しい彼女の笑顔。もっと、そんな風に笑えればいいのに。その笑顔を皆の前で見せて貰う為にも、この戦いは負けられない。

 

「はい! 行きましょう…………ほむらさん!」

 

 つばさははっきりと答える。そんな彼の様子に面食らったようにほむらは呟いた。

 

「名前、下で呼ぶようになったのね」

 

「あ………………失礼でした?」

 

 変えたいと思った所は、積極的に変えていこう。そんなつばさの気持ちは、他人の呼び方から変わりつつある。ほむらは再び小さく笑って答えた。

 

「いいえ。頑張りなさい」

 

「…………はい!」

 

 

 

 

『皆、位置は割り出せたわ。急いでここに集合して!』

 

 一時間後、マミの声に乗ってテレパシーで脳裏に地図が浮かぶ。その地図に示された影響の中心点を見て、つばさは苦い顔を浮かべた。

 

『魔女にも……人間だった頃の記憶は残ってるんでしょうかね』

 

『この場所がどうかしたの?』

 

 マミは地図を睨んで尋ねる。至って普通の住宅街。つばさが済んでいたマンションからも、マミの部屋からも遠い場所。だから、ここに魔女が居る理由はつばさしか知らない。

 

『僕の……昔済んでいた家です』

 

『…………そう』

 

 昔、まだ父親が生きていた頃の家。虐待と、彼女の始まりの場所。思えばつばさの住んでいる部屋に魔女が現れたのも偶然ではない。きっともう一人のつばさの記憶を辿ったのだ。そして、彼女は自身の原点へと辿り着いた。

 

『舞台は揃っちゃったので、後は幕を下ろしてあげるだけです』

 

「恰好を付けるのは構わないけれど…………」

 

 テレパシーでマミと会話するつばさを余所に、ほむらは呆れたように呟く。多少身体能力は高いままとはいえ、町一帯を移動するには向いていない。さて、そんなつばさはどのようにして急いで集合しているかと言うと。

 

「…………私に抱えられたままじゃ恰好付かないわ」

 

「言わないで下さい!」

 

 がっくりつばさは肩を落として答えた。ほむらに抱えられたつばさはマンションの屋上をひょいひょいと飛び移っていく。時間停止については制限されてしまっているが、それ以外の使い方であればある程度問題なく行えるようだ。

 

『あはは……つばさ君、怖くない?』

 

 会話が聞こえていたのか、まどかは笑いながら尋ねる。確かに、生身で高いビルやマンションを飛び移るのは怖いし、これから命懸けの戦いをしなければならないのだ。だが、それを補うだけの気持ちがつばさの中にはあった。

 

『大丈夫です。皆さんを、信じてますから』

 

 信じる事。マミも、まどかも、皆を信じる事。その全てを信じられる訳じゃない。それでも、何の掛け値も無しに信じたいと、つばさはそう思っている。

 

『へっ…………少しは男らしくなったじゃないか』

 

『きょ、杏子さんには負けます』

 

『何だとお前!』

 

 怒る杏子に笑いながらも、一同は住宅街の一角に集合する。即座に杏子の魔法で回りからは姿を見えなくし、結界の外壁を出現させる。だが、昨日見た時よりも結界の壁は明らかに巨大化していた。それだけ結界の力が現実に影響している証拠なのだろうか。つばさ達は顔を見合わせる。

 

『昨日は私の銃程度じゃビクともしなかったけど……どうやって開けましょう……?』

 

『僕の力は中からじゃないと使えないですし……』

 

『町中だし、あんまり強力な攻撃だと被害も出そうだ』

 

 考えるが、いい手段が思いつかない。そこに、おずおずとまどかが手を上げた。

 

『えっと……私って魔法少女に向いてる……んだよね?』

 

 まどかはキュウべぇに向かって尋ねる。キュウべぇは小さく頷いた。

 

『ああ、この中で最強の魔法少女であると断言するよ』

 

『だったら、私がやってみる』

 

 彼女はそう言って結界の前に立つ。どうするつもりなのか、その場に居る全員がまどかに注目する。

 

『すぅー……はぁー……』

 

 まどかは一度深呼吸し、握りこぶしを作った。

 

『…………さやかちゃんがゲームセンターでやってたみたくっ!』

 

 ぶん、とまどかは大きく腕を振り、その拳を結界へと叩きつけた。

 瞬間、ガラスが割れるような音と共に結界の障壁が崩れ落ちる。

 

『ま、まどかさんって意外と体育会系……?』

 

 その圧倒的な光景につばさは呟いた。まどかは顔を真っ赤にして首を左右に振る。

 

『い、いいから行くよ!』

 

 まどかに先導され、一同は結界の中へ踏み込んだ。

 踏み込んだ結界の中は暗く、どういう構造をしているのか相変わらず判らない。だが、良く目を凝らすとその暗さの本質が昨日と違っている事に全員が気付いた。暗闇ではない。単純にこの結界は――

 

「さっそくお出ましか!」

 

 頭上から振り下ろされた殺意を伴った攻撃を杏子が槍で受け止める。

 この結界は、黒の絵の具でぐちゃぐちゃに塗りつぶされた想像の魔女の世界だ。

 

「先にそちらなのは大助かりね!」

 

 杏子が攻撃を弾く。吹き飛ぶ魔女へ向けてマミが銃弾を放った。銃弾は吸いこまれるように想像の魔女へと突き進み――――消えた。

 

「……もう一匹もいるようね」

 

「うん……そうみたい」

 

 ほむらとまどかが部屋の奥へと目を向ける。そこには、先日と姿が若干変わった消滅の魔女が立っていた。胴体が異様に長くなり、どことなく箒を連想させるシルエット。

 

「私とまどかさんで消滅の魔女を、つばさ君と佐倉さん、暁美さんは想像の魔女を!」

 

 マミの指示に従い、それぞれが対峙するべき魔女へと向かう。戦闘能力が低下しているほむらと、消滅の魔女を倒せないつばさは必然的にこちらだ。つばさは結界内の魔力を感じとりながら魔法少女の姿へと変わる。これが、最後の変身だ。

 

「遠藤つばさ…………行きます!」

 

 箒に乗り、つばさは想像の魔女へと向かう。出し惜しみはない。いや、そもそもその懸念はない。ソウルジェムという枷から外れたつばさは、この結界内でだけはいくらでも魔力が扱える。もしかすると底を突いてしまう可能性はあるが、それは消滅の魔女と共有しているものであり、ある意味あちらの弱体化を狙える。だから、つばさが意識する事は二つ。

 

 一つは、急所へのダメージを避ける事。ソウルジェムという枷から外れているという事は、つばさだけは頭部へのダメージは当たり所が悪ければ一発で即死だ。そして二つ目、痛覚遮断が効いていない事。しかしどちらも元からそうだった事だ。今更不平不満を漏らすつもりなど毛頭ない。

 

「杏子さん!」

 

「分かってるよ!」

 

 つばさの呼び掛けに応え、杏子は槍を分割して想像の魔女の頭を縛る。つばさの知る限り、あの魔女の主な能力は頭部のホッチキスから放たれる芯と、胴体のペンケースから飛び出す刃物だ。特に頭部は使い魔を生み出す事も可能なため、極力封じておきたい。その意図を察してか、魔女は背中の刃物を杏子へと振り下ろす。

 

「防御は私が」

 

 殆どの魔法を封じられたほむらは左腕の盾を構えて振り下ろされた刃物の一部――杏子が避けれないようなものを受け止める。だがその重さにほむらは片膝を突いた。

 

「っ……流石に長くはできそうにない」

 

「はい!」

 

 その間に、つばさは魔女の頭上から急降下し、箒を振りかぶった。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 声を張り上げる。魔女は頭上のつばさの存在に気付き、振り下ろしていた刃物の切っ先をつばさへと向けた。

 

「そっち行ったぞ、つばさ!」

 

「大丈夫です!」

 

 杏子が叫ぶ。つばさは目を細めてその刃物の位置を見た。突き出された刃物はあくまで防衛用でしかない。そして、その壁にはいくつか隙間があった。

 

「ふっ……!」

 

 彼は背中で靡くマントの端を掴んで、自身を包むように引き寄せた。

 その瞬間、つばさの姿が消える。

 

「時間停止……?」

 

「いや、違う!」

 

 まるでほむらが時間停止で移動したかのような現象。だがその現象の秘密を見抜いた杏子は下を見る。

 

「……食らえっ!」

 

 だんっ。とマントを翻して魔女の足元につばさが現れる。彼は右手に握った箒を頭上へと突き出して飛び上がった。その先には魔女の頭。

 

「今だ!」

 

 それに合わせて杏子は絶妙のタイミングで槍による拘束を解く。自由になった魔女の頭がつばさに向くが、既に遅い。勢いよく突き出された箒の先が、音もなく魔女の頭を消し飛ばした。

 

「次!」

 

 つばさはすぐさま着地すると同時に、再びマントを使って消える。流石に戦いなれているほむらも、二回もその魔法をみれば何をやっているかは想像がつく。

 

「なるほど……可視光の消滅ね」

 

「ああ、いつの間に覚えたんだあいつ?」

 

 杏子は素早く槍を元の形状に戻して飛びかかる。ここから先は二人で近接戦だ。せめてもの防御のため、ほむらもその後を追うように移動した。

 

「つばさ、足を狙う! 付いてきな!」

 

「はい!」

 

 杏子に呼ばれ、つばさは彼女の隣に立った。

 

「アタシが右、お前が左だ。いけるか?」

 

「任せて下さい!」

 

 魔女の正面に立ち、お互いに頷く。杏子は一度槍を地面に突き刺し、何かを念じるように両手を合わせた。

 

「……いくぞ!」

 

 彼女の合図に合わせ、つばさは駆け出す。それと同時に八人という人数に増えた杏子が魔女の右足へと殺到する。

 

「なるほど……ああいうのも出来るんだ」

 

 つばさはその光景を横目に考える。先ほどの姿を消す魔法も元は杏子に関するマミの研究ノートから導き出した魔法だ。あの八人の内、七人は幻覚で出来ている。だがそれぞれが持った槍は元々魔力で作っているものであり、全てが実態を持っているようだった。

 

「僕なら……あれかな」

 

 魔女の左足の手前でつばさは目を伏せる。杏子ほどの人数に分身するなんて芸は出来ない。だがつばさならではの分身は可能だ。

 

「「ふっ」」

 

 魔女の足がつばさを串刺しにしようと振り下ろされる。足の先が彼に突き刺さる瞬間。割れるようにつばさが左右に分裂した。元二重人格者なりの分身だ。

 

「ワン!」

 

 だが、同時に自分の体を動かすのは至難の業。つばさは必死にそれぞれの肉体で声を出してタイミングを合わせる。

 

「ツー!」

 

 一人目のつばさが目の前の足をなぎ払う。続く二本目の足をもう一人が受け止めた。

 

「「スリー!」」

 

 最後の掛け声で一本目をなぎ払ったつばさが箒を残る足へと投げる。投げつけた箒が触れた足を全て消し飛ばした。その瞬間に分身を解き、つばさは箒に跨って離脱する。同時に杏子も槍を伸ばした勢いを利用して後退していた。

 頭部を手足を失った魔女がその場にくず折れた。これではもうまともに動く事もできない。あとはマミと後退して遠距離から――そう思った矢先、想像の魔女に異変が起こった。

 

「ちっ……こいつ奥の手持ってやがった」

 

 杏子が舌打ちしてその光景を見つめる。ペンケースから伸びてきたいくつもの色鉛筆。それが意志を持つかのように独自に動きだし、想像の魔女を《描き変えた》。

 キュウべぇが言っていた想像の魔女の性質《再構成》だ。自分の姿すらその鉛筆で描き変えてしまう高速変化。

 先ほどまでと変わり、いくつにも連なった円筒型のペンケース、左右非対称に配置されたコンパスの足。そして再び再生したホッチキスの頭。だがこの程度なら大した変化ではない。

 

『――――――!』

 

 想像の魔女が鳴き声を上げる。そして背中から数枚の画用紙と鋏、そして鉛筆が飛び出した。鉛筆がすらすらと画用紙に何かを描き、鋏がそれに沿って画用紙を切り刻む。最後に背中から飛び出した定規の腕や、ペンケースの胴体に次々とセロファンテープで画用紙が張られる。あの夢で見た、壁に描かれた人の姿のようになった想像の魔女はかくかくと不気味な、しかし素早い動きでつばさ達に襲いかかってきた。

 

「くそっ! それが本気って訳か!」

 

 杏子が毒づいて槍を突きだす。紙でできた腕はその槍に安やすと引き裂かれて四散した。

だが、即座に画用紙の形状を変え、画用紙を丸めて作った筒が新しい腕となる。その腕が着地する杏子へと向けられた。

 

「杏子さん!」

 

 何かが来る。つばさは即座に杏子の元へと飛来し、手を伸ばした。杏子はその手を掴み、向けられた筒を睨みつけた。その直後、筒から三角錐状の弾丸が発射され、弾丸はぎりぎり杏子の爪先をこすって虚空へ消えていく。

 

「あっちち……」

 

 弾丸との摩擦で煙を立ち上げた足を振って杏子は着地する。それを追うように魔女の腕が杏子へと向けられていた。杏子は素早く分身を繰り返し、攻撃を掻い潜って魔女の懐へと飛び込んだ。

 

「はぁ!」

 

 魔女の胴体へと槍が突き出される。だが、その攻撃を予見していたように開いたペンケースの中から、一つの鋏が飛び出してきた。

 

「うわっ……!」

 

 咄嗟に身を捻る。だがその切っ先は彼女の右足に喰い込み、ざくりとその半分近くを切り裂いた。

 

「ぐあっ……!」

 

 一瞬の痛み。怯んだ杏子へと魔女の腕が振り下ろされる。

 

「させない!」

 

 そこに飛び出したほむらが左腕の盾で受け止める。受け切れなかった衝撃で、彼女らが居る足場が大きく凹んだ。

 

「杏子さん! ほむらさん!」

 

「私達に構わないで、攻撃を!」

 

「……分かりました!」

 

 つばさは急旋回し、魔女へと突撃する。もう一人の人格はいないが、コツは掴めた。今だったらあの力も使える。

 つばさは勢いに乗ったまま箒を右手に持って、左手を虚空に伸ばす。要は、二人でないと推力と攻撃力の両立ができないというだけだ。箒を両手にそれぞれ持つ事は可能!

 

「はぁぁぁ!」

 

 雄たけびを上げてつばさは両手に握った箒を振りかぶる。消滅の力を使うタイミングさえ切り変えれば二刀流も不可能ではない。

 

 ――ぞくり。

 

「っ!?」

 

 突然背筋に走る悪寒。殆ど反射的につばさは箒から推力を生み出し、それを足場に跳躍する。箒だけが残った空間が、音もなく抉り取られた。

 

「つばさ君!」

 

 マミの声が聞こえ、つばさは振り返る。そこには――――

 

『くけけけけけけけけけけけ……』

 

 目の前で嗤う、消滅の魔女が居た。

 

「――――っ!」

 

 叫びたくなる気持ちを堪え、つばさは箒に跨った。

 消滅の魔女の手が、つばさへと向けられる。

 

(間に合って……!)

 

 最大加速でつばさは移動。だが間に合わない。

 

「させない!」

 

 そこに、マミの援護射撃が放たれた。コンマ数秒前の着弾によって、攻撃範囲からつばさは脱出する。瞬間、ぎりぎり消滅攻撃の範囲に巻き込まれたマントの端が削り取られた。危機一髪だ。

 

「ごめんなさい! 二人じゃ止めきれない!」

 

「っ……!」

 

 まずい。つばさは直感した。変化した想像の魔女一匹すら手こずっている状況だというのに、まどかとマミだけでは消滅の魔女は止められないと来ている。

 

「くそっ! どうする!?」

 

 自分の右足を治癒しながら杏子が怒鳴る。この状況を打開する方法を考えるが、誰もこれ以上の戦闘は無理だという顔をしていた。

 

(まだ……方法はある!)

 

 つばさは目の前に突き出された想像の魔女の刃物を箒で受け流し、ほむらの近くに落下する。

 

「皆さん! 僕に考えがあります!」

 

「考え?」

 

 マミが砲撃を繰り返しながら尋ねる。この状況を打開する方法。キュウべぇに確認も取った荒技中の荒技。

 

「魔女を一カ所に固めて、一撃で両方倒します!」

 

「で、でも……」

 

 同時では、つばさの命に関わりかねない。まどかは慌てた様子でつばさを見た。

 

「駄目。つばさ君の命が危ない事なんて、許可できないわ」

 

 その隣でマミがはっきりとした口調で答えた。その回答を予測していたようにつばさは笑った。だが、その表情はどこか陰っている。

 

「でも、この魔女達を放っておく事もできません……大丈夫です。僕は、マミさんの傍にちゃんと居るって、約束しましたから!」

 

 嘘だ。マミはその言葉を口に出せず、唇を噛む。本当に大丈夫なのなら。もっと、ちゃんと笑って答えて欲しい。そんな彼女の心境を察してか、ほむらが想像の魔女から振り下ろされる攻撃を防御しながら小さく呟いた。

 

「あなたが彼を信頼してなくてどうするの?」

 

「でも……」

 

 ほむらの言葉から逃げるようにマミは視線を反らす。

 その間に、二匹の魔女は目の前を飛び回るつばさへと標的を向けていた。だがつばさはこれまで、マミが見てきた戦う姿勢とは明らかに違い、隙あらば魔女を攻撃までしてみせる勇敢さを見せていた。

 

「ほむらさん! さっき言ってた事はできますか!?」

 

「ええ、魔女が隣接してる今なら可能よ」

 

 振り回される想像の魔女の腕を回避し、目の前で発生した消滅の魔法をギリギリの所で制止して避ける。つばさはその瞬間にほむらに視線を向けて確認した。移動中、キュウべぇに実現の可否は聞いた。ほむらにも、条件が揃えば可能だと言われた。後は――つばさ自身の意志の力次第だ。

 

「カウントは十でいきます!」

 

「分かったわ」

 

 防御を止め、ほむらは適切な位置を取るために移動する。

 自身を差し置いて行動する二人を眺めていたマミだったが、突如横から繰り出された平手打ちが彼女の頬を叩く。

 

「ほんっ……と、甘ちゃんだなアンタは」

 

 振り抜いた手を軽く振りながら、杏子は呆れた様子で呟いた。倒れ込んだマミの胸倉を掴み、杏子はさらに捲し立てる。

 

「本人が覚悟決めてんだ! その覚悟を鈍らせるよりも、背中を押してやる事を考えろ!」

 

「でもっ……」

 

 遠くからつばさのカウントダウンが聞こえる。それがまるで、彼との別れまでの時間を告げているようで、マミは耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。そんな弱々しい彼女の姿にいら立って、杏子は最後の一言を放った。

 

「アンタの願いはそんな程度かよ!? 大事な奴の命ぐらい……守ってみせたらどうなんだ!」

 

 私の願い。マミははっと顔を上げる。彼女の願いは《命を繋ぎ止める》願い。その願いは既に叶った。だが、つばさは言っていたではないか、願いは、叶った後も続いていくと。

 なら――――。

 

「……っ」

 

 マミの瞳に、決意の炎が宿ったようだった。そのいつにも増して険しい表情に、それまで怒鳴っていた杏子も引いてしまう程の意志が見え隠れしていた。

 

「そうよね……」

 

 ぽつり、とマミは呟き、銃を片手に取る。

 

「魔女と……もう一人のつばさ君がまだ繋がってる? そんな理由で――」

 

 つばさを追うように走りまわる想像の魔女の足が一瞬にして全て吹き飛ぶ。その足はすぐさま背中から伸びた色鉛筆で修復されてしまったが、その注意はマミへと向かった。

 

「――――つばさ君は死なせない」

 

 同時に、空中を飛んでいたつばさが最後のカウントを数えた。

 

「ゼロ!」

 

 カウントと共につばさの跨っていた箒が消える。一体何が起こっているのか。

 

「マ、マミさんリボン!」

 

「はいっ」

 

 つばさが助けを求めるよりも早く、マミは彼の腕にリボンを巻きつけて引き寄せた。その寸前まで彼が居た空間が瞬く間に消滅する気配があった。

 

「ひぇぇぇ…………!」

 

 青ざめてマミの元までやってきたつばさはどすんと尻もちをついて着地した。だがすぐさま我に返って振り返る。

 

「今からほむらさんが魔女を一カ所に固めます! 僕の用意が出来るまで足止めしてください!」

 

 その瞬間に、二匹の魔女を包み込むように連続で爆発が起きた。

 

「時間停止……? でも、ほむらちゃんは今……」

 

 彼女は消滅の魔女の力によって、干渉するべき時間そのものを消されてしまっている。時間停止は使えないはずだった。だというのに、この戦法は間違いなくほむらが得意とする時間停止による爆撃だ。

 困惑するまどかを見ながらつばさは得意げに答えた。

 

「消したものを戻す力はありませんけど……時間を消している原因自体を一時的に消させて貰いました」

 

 えへへ、とつばさは笑う。無くなった物を元に戻すというのはつばさの能力に反する力だ。だが時間を無くしている事象その物なら消滅させる事はできる。物質にそれを行った所で、壊れた物が治る訳ではない。だが時間には実体はなく、一時的に概念が消滅しているに過ぎない。その力を失えば時間という概念は再び蘇る。それは先日ほむらの時間停止を破った時に理解していた。その消滅させている原因さえ取り除けば、時間は元に戻る。

 

「ソウルジェム有りでやったらできませんけどね」

 

 つばさは胸元にある宝石を失ったアクセサリを手に取って呟いた。もしソウルジェムがあったままやっていれば、瞬く間に穢れをため込んでしまうだろう。魔女の魔力を用いる事ができる今だからこそできる、つばさの荒技だ。

 

「……これで、在庫切れよ」

 

 目の前にほむらが現れる。その背後で、今までで一番大きい火柱が上がった。

 その圧倒的な光景に杏子は口笛を吹いて槍を構えた。

 

「次はアタシらだ! 行けるなまどか!」

 

「う、うん!」

 

 彼女の呼び掛けに応え、まどかは弓を構えた。それを見て杏子は素早く魔女へと殺到する。

 その寸前、彼女はマミに振り返って叫んだ。

 

「アンタの願いの強さ、見せて貰うよ!」

 

 火柱の中から飛び出した想像の魔女に向けて、杏子は槍を突き出す。色鉛筆も燃え上がってしまっていて、今だけはその再生力を封じる事ができている。

 

「マミさん! 頑張って!」

 

 まどかもその場で弓を引きながらマミに激励の言葉を送る。

 自分の願いは、まだ続いている。いや、続いていく。ほむら、杏子、まどか。三人の言葉に後押しされ、マミは確信した。後は、自分がそれを成し遂げるだけだ。

 

「つばさ君」

 

 再び箒を作り直すつばさに、マミは話しかけた。

 

「なんですか?」

 

 その返事にもう気負いは感じられず。本当に覚悟を決めているようだった。

 今の人格のつばさと、学校の前で初めて会った時。あんなに気弱だったはずの彼が、今はこんなに頼りになる存在になっている。単に強くなったなどと、そういった類の物ではない。純粋にマミにとって掛け替えの無い一人へと変わっていた。だからこそ、失いたくない。消えてしまうかもしれないその命を、何としてでも繋ぎ留めたい。

 

「……最後の一撃、一緒に撃たせて」

 

 その言葉に、つばさは少し驚いた顔を見せる。だが、その意図を察したのか、小さく笑って答えた。相変わらず、心を読み取る力はすごい。マミは素直に称賛した。

 

「はい。僕からも、お願いします」

 

 だからこそ、マミがやろうとしている事もつばさは察していた。

 

「でも……タイミングはちゃんと合わせてくださいね」

 

 マミが一瞬先に撃つ事で全てを終わらせる。その目論見を、彼は看破していた。マミは納得のいかない顔を浮かべて答える。

 

「……どうしても、一緒に撃たないといけないの?」

 

「マミさんだって、分かっているでしょう? 一人の力じゃ、足りないんです」

 

 つばさの言う通り、消滅の魔女と戦っていたマミも、自分の力だけでは倒せない事は察していた。だからと言って、つばさが死ぬかもしれない方法に賭けるなんて事――――。

 その思考を遮るように、ふっと周囲に影が落ちた。

 押しつぶされそうな殺意。マミとつばさは同時に頭上を見上げた。そこには、燃え盛りながらも移動してきた消滅の魔女。あの状況から脱出してきたようだ。これでは元々のつばさの作戦すら成り立たない。

 

「危ない!」

 

 マミは素早く動いた。だがつばさはそれよりも早く、魔女へ向けて拳を突きだした。その動作に呼応して数メートルは離れているはずの魔女が結界の端まで吹き飛ばされる。

 

「悪い! そっち行った!」

 

 折れた槍を修復しながら遠くで杏子が叫ぶ。つばさは頷くと、軽く手を振って答える。

 

「もう一度そっちに押しこみます!」

 

 体勢を立て直した魔女が手を構える。消滅の魔法だ。だがつばさは移動する事なくその場で再び腕を振った。その動作に合わせて、やはり消滅の魔女の腕が弾き飛ばされた。

 その異様な光景にマミは唖然としていた。

 

「な、何が起こってるの?」

 

 困惑するマミの肩に、避難していたキュウべぇが乗りかかった。

 

『距離の概念の消滅さ。まさか本当にやってみせるとは思わなかったけど』

 

 時間停止に続く、別の概念消滅の力。つばさはその場で、まるで魔女と同じ大きさになったかのように手足を振るって肉弾戦を行う。

 伸ばせなかった手を、伸ばせるようになったつばさだからできる、新しい魔法の力。その象徴であるように、つばさは勢いよく手を伸ばし、魔女の腕を掴んだ。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 距離という概念は無視しているもののその質量までは消し切れないのか、彼の足元が魔女の質量で大きくひび割れる。だがつばさはそれに負けず、魔女を杏子達の元まで投げ飛ばした。

 

「杏子さん! まどかさん!」

 

「うん!」

 

「任せろ!」

 

 つばさの合図でまどかが弓を想像の魔女に放つ。放たれた光の矢は幾つもの小さな矢へと分裂し、想像の魔女の手足をもぎ取った。いくら再生力があっても、この状態まで持ち込めばすぐには動けない。その直後に投げ飛ばされた消滅の魔女が想像の魔女と衝突する。

 

「いい加減に……おとなしくしてろ!」

 

 杏子は即座に分身し、八人分の槍を二匹の魔女に縛り付けた。

 

「つばさ! マミ!」

 

 杏子は振り返って合図する。舞台は整った。後は――――。

 

「決めましょう、マミさん」

 

 マミの覚悟だけだ。

 つばさは再び手に持った箒を構える。だが、このままでいいのか? このままつばさと同時に攻撃すれば、彼は弾丸のように飛んで行ったまま、消えてしまうのではないか。そんな不安がどうしても拭えない。だが――――

 

「……弾……丸」

 

 何かが頭のどこかで引っかかる。マミは必死に頭をフル回転させてその理由を探った。

 

「マミさん、早く!」

 

 つばさが急かす。そうしている間に、二体の魔女は自身を縛る槍をほどこうとでたらめに周囲を攻撃する。一人、二人と、杏子の分身が次々と消滅の魔法に、想像の魔女から生える刃物に消し飛ばされていく。

 

「何やってんだマミ!」

 

 遠くで杏子が叫んだ。まどかも必死に弓で消滅の魔女の手足を狙うが。強化された消滅の魔女の体はまどかの膨大な魔力を持ってしてもそう簡単に破壊できなかった。あれだけの強度までくると、やはりつばさの箒による消滅の魔法を叩き込まない限りは倒せそうにない。

 その思考が引き金となった。

 

「……それだわ!」

 

 必要なものは、力だけだ。つばさではない。そしてつばさの消滅の力は箒を介して発生させる事が可能なはず。

 突然声を上げたマミに驚いてつばさは訝しげな表情を浮かべる。

 

「マミさん! 早くしてくださ――――」

 

「鹿目さん! 佐倉さん! 後三十秒でいい…………私に時間を頂戴!」

 

 つばさの声を遮ってマミが叫んだ。魔女を倒して、つばさを救う可能性。それを成し遂げるために、後少しの時間が必要だ。

 その意志を受け取ったのか、舌打ちまじりに杏子が答えた。

 

「仕方ねーな……しくじるなよ!」

 

「二人とも、頑張って!」

 

 杏子とまどかの声援を受け、マミはつばさに向き直った。マミはつばさの手を握って、言った。

 

「つばさ君……貴方の想いを、私に預けて」

 

「え?」

 

 言っている意味を理解できず、つばさは首を傾げた。マミは一度小さく息を吸って、答えた。

 

「私が銃を、つばさ君が弾丸を作るの……それなら、いける。きっと出来る」

 

 魔法少女の合わせ技なんて試した事もない。

 だが、やるのだ。つばさを失わないために。

 つばさは目を見開く。だが、マミがつばさが死ぬ可能性を許容できないように、つばさもまた、倒せるか分からない方法に賭ける事はできない。そんな心情を察してか、マミははっきりとした声で言う。

 

「お願い……私を信じて」

 

 握った手に力が籠る。信じる事。つばさも、マミも、互いを信じたい。その思いを再確認し、つばさは小さく笑って答えた。

 

「はい…………僕の想いを、託します」

 

 その一言で、二人は魔女へと振り返った。

 同時に魔女を拘束していた槍が全て破壊される。

 

「くそ! 数秒足りねぇ!」

 

「任せて」

 

 毒づいた杏子の横を、ほむらが通り抜ける。その手には抱えるほどの爆弾。

 

「アイツ用のとっておきだけど……サービスよ」

 

 そう呟いてほむらはちらりとつばさを見遣った。咄嗟につばさは箒を捨てて再度時間干渉の原因を消滅させる。それを見たほむらは一瞬でその場から消え去り、まどかの横に立った。

 

「後はよろしく」

 

 ほむらはそう呟いて手元に残った一つのスイッチを押した。瞬間、魔女達の周囲にばらまかれた爆弾が同時に爆発する。その強烈な爆風にまどかは尻もちを突いてしまった。

 

「ひゃ、ひゃあ」

 

「おっしゃ! あとは任せろ!」

 

 ばしん、と杏子が両手を合わせる。まるで祈りをささげるようなその姿勢。そんな杏子の足元から、巨大な槍が出現した。杏子は小さく息を吸って、その槍を操る。

 

「うおぉぉぉ……らぁ!」

 

 まるで蛇のようにうねる槍が、再び二匹の魔女を拘束した。今度の槍は消滅の魔法を受けてもそう簡単に破壊されない程頑丈だ。

 

「決めろ!」

 

「はい!」

 

 その間に、つばさはマミが作り出した大砲に弾丸を込めていた。

 消滅の魔法を蓄えた箒が一つの銀の弾丸へと変わっていく。

 

 ――――魔を討つには、やはり銀と相場が決まっている。そうでしょう?

 

 この刹那の一瞬、つばさは脳裏でそう呟きながら出来上がった弾丸をマミが拵えた大砲に装填した。

 全ての想いを、この一発に込める。その一心で、マミが支える手に、自分の手を乗せる。

 

「…………行きます!」

 

「ええ!」

 

 全ての想いをこめた証と言うように、つばさの魔法少女装備が光となって霧散していく。これでもうつばさはただの人間だ。だが、まだ全ては終わっていない。

 

「最後の最後です。いつものあれ、一緒に」

 

 ふと、つばさが尋ねた。その意味を理解してマミは微笑んで答えた。

 

「もちろんよ。幕引きは二人で決めましょう?」

 

 その返事に満足してつばさも微笑んだ。後は、引き金を引くだけ。

 これが最後。この長いようで短い数週間の、魔法少女・遠藤つばさの終わりの時間。

 

「「3!」」

 

 引き金に乗せた指に力が籠る。

 

「「2!」」

 

 つばさは直前に、最後の想いを弾丸に念じ込めた。もう魔力は込められないが、想いを乗せる事ぐらいできる。

 

「「1!」」

 

 ――もう一人の僕。もう、僕はちゃんとやっていける。ちゃんと、皆と支え合って生きていける。だから…………!

 

「「ゼロ!」」

 

 ――――安心して、見ていて。これからの僕を…………いや、僕たちをッ!

 

 

 

「「ティロ……………フィナーレッ!」」

 

 




 という訳でこれにて戦闘パートは全て決着です。
実は想像の魔女の使い魔に関して今回では描写を忘れていたのでそこが失敗ですね……。
逆に消滅の魔女は女性人格が最期に他人を守ろうとしたという点が影響しており、使い魔を出す事は可能ですが、守る対象にしかならないため呼び出しません。

 残すところもエピローグだけとなりました……。
エピローグのみつばさ君主観のお話となり、文章体型が違いますがどうぞよしなに。
とはいっても番外編などゆるゆると続けて行くつもりですので今後もよろしくお願いいたします!

 さて、次回の魔法少女つばさ☆マギカは?
 
 あの戦いから一カ月。
 全てが終わるその時、つばさにとっての新しい世界が始まる。

――――もう何も怖くない。


PS.
 次回の後書きは全体的なお話とか今後の投稿予定とかになるので、今回の後書きにて前々から予定していたつばさ君の紹介&設定でも記載しちゃいます。

【名前】
  遠藤(えんどう) つばさ
【性別】
  男性
【身長】
  148cm
【年齢】
  13歳
【趣味】
  強いて言えば読書&勉強(基本的にそれ以外の自由がない)
【好きなもの】
  マミさん
【嫌いなもの】
  自分、母親
【イメージカラー/ソウルジェムカラー】
  翡翠
【願い】
  片方の人格の消滅
   ※後天的に発症した別人格による願いのため、本人の願いは不明 or 無し
【発現能力】
  消滅能力
    女性人格の契約によってつばさに発現している魔法。
    女性人格は《相手を消したい》という願いをしたため本来は非常に攻撃的な発現のしかたをするのみだったが、男性人格もまた日常的に《自分が消えてしまいたい》という意識を持っていたため特殊な発現のしかたをしている。
    
    基本的に魔法は以下の条件で発動する。
     ・対象物の消滅は箒を振るう事で発動。
     ・概念的な消滅は強く意識する事で発動。
    
    また、自分が消えたいという願いを可視光の消滅によって実現している。
    
    消滅の魔法は消滅させる対象物の硬度に関係なく、そこに物体が存在するか否かという魔法であるため防御力が意味をなさない。非常に強力な力である半面、穢れをため込む速度は他の魔法少女を凌駕し、長期戦はできないという弱点を持つ。
    
【設定】
  見滝原中学校に通う中学一年生の少年。内向的、自己犠牲的な性格。
  幼い頃からの虐待によって二重人格を発症しており、もう一方の人格は女性としての人格を持つ。そうして生まれた女性人格は当時のつばさの願望である『快活な自分だったら周りに溶け込めたのでは』『女性の自分だったら虐待はなかったのでは』という部分を色濃く反映している。
  
  小学生の頃からどちらの性別の輪にも入れず、孤独な生活を続けていた。
  本編では描写されていないが金銭管理はすべて母親が行っており、女性人格はねだった物を与えられたが男性人格は学校で必要になったもの以外は与えられていなかった。そのため勉強と図書室での読書のみが趣味となっており、成績はトップクラスを維持。しかしそれがさらに孤立を助長している。
  ちなみに1年の授業内容にない事もあり性的な知識は皆無で、現在でも男女のキスで子供が出来ると信じているレベルに初心。
  
  本質的には善なのだが、大抵自己犠牲的な思考が伴うという悪癖があり、自らの損得は考えない。損得を求めないという点ではマミに類する部分があるが、自分を大事にしているかどうかという点が対照的。
  
  母親が特例中の特例ながら、恒常的に見ているせいで若干女性恐怖症。その中で魔法少女として、一人の人間としてつばさを助けてくれるマミに惹かれて行く。
  本人にも自覚はなく表立つ事もないが、上記の事情から病的に愛情に飢えている。というより飢えている事自体を理解していない。
  
  一歩間違えれば虐待の理由となる事から、常に関わる相手の顔色を窺う癖がある。
  長年の成果によって読心術を会得しており、声、視線、仕草から大抵の事を読み取れてしまう。また相手を優先し、自身の意図と裏腹に心を隠している事が多いため感情表現が苦手。本編中では素直に笑えるようになりつつあるが、死に直面しながらもついに泣く事はなかった。
  
  本編終了後は一時的な養子扱いでマミの家で暮らすことに。
  そのため現在は姓が遠藤から巴となっている。
  
【裏話とか】
 ・マミさんとパートナーを組めるに値する主人公という事、男性である事という大前提の下、初期構想ではマミさんの家で帰りを待つ一般人という設定でした。ただそうするとシャルロッテ戦がアニメと同じ末路になるか、主人公とは違う本編に無い要因が必要になってしまう。僕の二次創作の作り方は極力そういった要因は少なくして、一歩間違えばor正しければこうなっていた。という話を作りたいので魔女との戦いに赴ける主人公である必要が出てきました。
 ただ男性なので魔法少女になれないなぁ、という所で色々模索していくうち、魔法少女となるのに求められてるのは思春期ごろの女性の《心》と解釈し、二重人格の男女という設定に落ち着きました。
 表現も難しいですし、女性人格の描写が大分淡泊な事になってしまっていますが、両者の存在を掛けた葛藤や、契約によって望みを叶えたはずが逆に失う結果となるなど、まどか☆マギカの世界観としてはいいものが生まれたと思っています。

 ・僕がお話を作る上では登場人物同士での共通した部分と対照的な部分が必要になるのですが、つばさ君の共通な部分と対照的な部分を持っているキャラクターはまどかさんとマミさんに限定しました。本来であれば主要キャラ全員とそうするべきなのでしょうけど……既に出来上がってるものに一石を投じるのでそこは割愛です。
 主人公であるまどかさんとは自分に自信が無いという部分で共通し、家庭という部分では対照的になっています。
 本作のヒロイン兼パートナーのマミさんとは周り(相手)のために無理をしているという所で共通しています。ですが自分を大事にしているかは対照的。また原作でもなかった描写だと認識していますが、家族という部分については存在の有無に対して対照的な感想をお互い抱いています。そして最終的に家族の生存状態についてもかなり近い状態に。
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