魔法少女つばさ☆マギカ   作:辰真

11 / 15
エピローグ

 

 僕の 、僕にとっての魔法少女として最後の戦い。あれから一月が経っていた。

 

「もう一ヶ月かぁ…………」

 

 物思いに耽って頬杖を突く。たった二週間程度だったというのに、あの激動の日々の方が、今よりずっと長く感じるのは何故だろう。

 

「出来たわ」

 

 ぱたん、とノートを閉じて目の前に座っていたほむらさんが呟いた。物思いに耽っていた僕を諌めるような視線が少し痛い。

 

「…………ワルプルギスの夜、来ませんね」

 

「ええ」

 

 ワルプルギスの夜。彼女が告げた、最強の魔女の通り名。ほむらさんの見立てでは僕の最後の戦いから一週間以内にやって来ると言っていたが、一ヶ月経った今でもその予兆はない。

 予言したほむらさん自身も信じられないようで、今現在街の図書館を利用して気象や地理など、僕には想像が付かない調べ物をしている。そこにどうして僕が居るかと言うと――

 

「貴方……書類は書けたの?」

 

 母親の自殺の件に関して必要になった書類を書いていた。遺産相続とか、住所変更とか、沢山あってどうしたものやら。

 だがそれ以上に、僕は目の前に広げた書類の最後の空欄、新しい住所を凝視して答えた。

 

「だって…………本当にあの住所でいいのかどうか」

 

 指先を付き合わせて俯く僕に、ほむらさんは呆れたように深いため息を吐いた。

 

「全く…………巴マミもどうしてあなたみたいなのを…………」

 

「むぅ」

 

 みたいなのとは失敬な。

 そうは思いつつもやはり彼女の言う通りで、僕はこの数日、新しい住所――マミさんの部屋の住所を書けずにいた。

 元々他に行く当てのない僕だったが、マミさんが彼女の親戚の方に拝み倒して中学の間、僕を養子にして頂ける事になった。もちろん、学費などは相続した遺産からの捻出だが、マミさんと一緒に居られる。それだけで僕はその場で二つ返事だった。

 だったのだけど、

 

「うう……でもやっぱり申し訳無くて……………………」

 

 後になって、色々と迷惑が掛かる事を考えると書けなくなってしまったという訳だ。

 

「貴方がそうしてるだけで周囲の信用は失われて行くわ。そうなれば貴方だけでなく、巴マミまで今の生活はできなくなるかもしれない。それでいいの?」

 

 そう言われてはっとする。そういったリスクを孕んだ上で、あの人は申し出てくれているのだ。たった一人、僕と一緒に居たいという理由で。

 

「そう、なんですよね……」

 

 あの人の想いに答える為にも、そして僕自身の為にも、こんな事で僕がうじうじしている訳にはいかない。

 意を決して、僕は書類の新住所欄にマミさんの部屋の住所を、若干迷いの残っている文字で書き込んだ。

 

 

 

 

「ここでお別れね」

 

 図書館からの帰り道、ほむらさんが急に立ち止まった。だがその言葉に隠された何かを感じ取って僕は尋ねる。

 

「どこに、行くんですか…………?」

 

 家に。

 そう言いかけた彼女は一度口を閉じると、遠いどこかを見つめながら静かに答えた。

 

「私だけが行ける、誰も、私を知らない所」

 

 それが全てと言うように、ほむらさんは歩き出した。

 その背中を見ながら、これまでの彼女の行動と、その言葉を結びつけて考える。きっと、彼女とは今生の別れになる。そんな予感がした。

 

「ほむらさん」

 

 ふと、彼女を呼び止める。以前の僕なら、例えこの予想に自信があったとしても心にしまっていたと思う。

 だけど、僕は変わりたい。誰の言葉も信じれない自分を変えたい。だから口にする。自分の納得が行くまで、どれだけ遅くとも、どれだけ悩もうとも答えを探し続ける。

 

「もしよければそこでも……僕とマミさんが出会えように計らって貰えないでしょうか?」

 

「…………なんの事を言ってるのかしら」

 

 相変わらず無愛想な彼女の態度。その中に僅かな動揺を見出して、僕は苦笑した。答えはもう、頂いてしまったようだ。僕は一礼してその場を立ち去る。

 

「――――努力はするわ」

 

 かちり、という音と供に背後から彼女の声が響いた。念のため一度振り返るが、もう其処には、誰も居なかった。

 

「どうも……」

 

 消滅の魔女の力で、時間干渉が封じられた際の彼女の態度から薄々感じていた。彼女の本来の能力は時間停止ではなく――――

 

『つばさ』

 

 その思考を遮って、いつから居たのか木の上で佇んでいたキュウべぇが話し掛けて来た。

 先日の一件が終わった今もなんだかんだ僕らの前に現れる。

 

『暁美ほむらの能力はやっぱり僕らが思った通りだったね』

 

「うん、そうみたい」

 

 キュウべぇは初めて僕がほむらさんの能力について教えた時から彼女の能力について概ね予想していたらしい。お互いにほむらさんの態度から薄々気づいていて、ちょっと前にキュウべぇと話してほぼ確信したという訳だ。そう、彼女の能力は時間停止ではない。本来の能力は――――

 

「『時間遡行能力』」

 

 時を遡る。それが彼女の力。

 魔法少女の力があれば肉体の年齢も維持は可能だし、時を止める力を持つ彼女ならもっとも得意な部類だろう。だから何度だってやり直せる。どうしてそこまでするのかは分からずじまいだったが、鹿目さんを魔法少女にしないがため何度だろうと彼女はこの時を繰り返す。僕がマミさんと出会ってから、今日に至るこの時を。

 いつか、その願いが叶うといいな。自然にそう思い、僕はその場を後にした。

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

「おう、おかえり」

 

 マミさんのマンションに帰宅した僕は借りているスペアキーで鍵を開けた。一時的とは言え、もうすぐこれが借り物でなくなると思うと不思議と胸が躍る。中に入ると、リビングでテレビを見ながらお菓子を咥えている少女が一人。

 

「杏子さん、昨日お菓子ガマンするって約束したばっかじゃないですか」

 

「しょ、しょうがないだろ! 何か食べてないと落ち着かないんだから!」

 

 現在マミさんの家に住むもう一人の居候、杏子さんは仏頂面でお菓子に手を伸ばし、止める。

 

「もう、お菓子だってタダじゃないんですからね……」

 

 杏子はつばさと違って公的な手続きの上でこの家に住んでいる訳ではない。彼女曰く、杏子さんは戸籍上は例の一家心中で既に亡くなった人間らしい。その理由を知っているマミさんが親族には無断でここに住まわせてるのだけど…………。

 杏子さんはそれまで魔法少女の力で夜な夜なATMを破壊し、幻覚の魔法で逃げ切るという手段で生活費を稼いでいたそうだ。日々の寝床も、泊まるホテルを変えていればバレる事も無いらしい。最近の世の中にも困ったものだ。それに腹を立てたマミさんは彼女にそう言った行為の一切を禁じた。その代わりの生活費はマミさんが持つとまできた。

 そこまでは良かったが、杏子さんの心の傷――貧困生活時代の飢餓感を恐れてか、彼女はかなりの過食という事が判明した。体調面ではソウルジェムの治癒能力で大事には至って無いが、代わりに巴家の食費は火の車だ。

 

「あーもう……夕飯の材料まで~…………」

 

 ゴミ箱に投げ込まれたハムやチーズの袋を見ながら僕は文句を呟く。杏子さんの努力は認めているが、ちょっとやそこらでは治りそうにない状況だ。

 居心地の悪い杏子さんは話題を変えようと、目を泳がせながら話す。

 

「しっかしまあ…………マミ先輩が父さんで、お前が母さん、アタシが娘って感じだよなこの状況」

 

 とんだ爆弾発言だ。

 

「何言ってるんですか杏子さん!?」

 

 状況より何より、なんで僕の方がお母さんなの!?

 

「いやいや、金の管理も料理もお前がやってるし……」

 

 分かってる。恥ずかしがるな。とでも言いたそうに杏子さんが答える。僕が母さんかどうかは兎も角、彼女の言ってることは概ね合っている。

 見栄もあるけど、それを補って余りあるほど成績優秀なマミさんは進学先も推薦でほぼ確実に受かる見込みだ。無論それに感ける事もなく、日課の自習は続けているのでこの時期に学校生活でやることは目立ってない。

 だが、後輩二人――まどかさんとさやかさんの二人は来年には受験生。その二人……というよりはまどかさんのソウルジェム浄化のために、マミさんは杏子さんと交代、あるいは共同で魔女退治をしている。そんな彼女の力になれない自分が嫌で、せめて負担を減らそうとして家事などを申し出た。

 

 マミさんから始まった魔法少女の輪は、今はそんな形で支え合って機能している。この輪が、この命を繋ぐ輪が、もっと沢山の場所に広がればいい。

 キュゥべぇにも指摘された事だが、夢想だろうというのは分かっている。だけどこれがマミさんと僕の、二人の願いだ。

 

「なぁつばさ」

 

 コップに麦茶を注いでリビングにやってきた僕に、杏子さんが話し掛けて来た。マミさんから紅茶の淹れ方は習っているがあんな手順、趣味でなければ一々やってられない。

 

「どうかしました?」

 

「いや、アタシが聞くような事じゃないとは思うんだけどさ……」

 

 普段割り切った風体の彼女にしては歯切れの悪い話し方。僕は首を傾げた。だが続く彼女の言葉で僕の思考は停止してしまう。

 

「お前さぁ……マミにいつになったら告白するんだ?」

 

「ぶぼっ!?」

 

 思わず飲んでいた麦茶を吹き出した。

 ななななな! 急に何を!? 新手のドッキリ!?

 混乱する僕を眺めながら、杏子さんは至極真面目な声で話す。

 

「あの人だって普通に女の子なんだ。そういうのは男のお前が言わないと駄目だぞ?」

 

「う、うーん……」

 

 そうは言うけれど、やはり自信が持てない。これで振られたらこの家に居辛くなっちゃうのもあって、怖い。そんな僕の心境を見抜いてか、杏子さんはどこか得心した様子で足を組み直す。

 

「ま、当人同士の問題だし、嫌なら無理強いはしないさ。……アタシも居候の身だから言えない事あるしね」

 

「杏子さんも?」

 

 渋々と見せかけて割と今の状況に満足していると思っていたので意外だ。一体なんだろう。興味津津とした視線を送ってしまったからか、杏子さんはばつが悪そうに頬を掻いて答えてくれた。

 

「いや、もうちょっとお菓子の買い置きがあると嬉しいなー……って」

 

 ええ、なんとなく分かってました。

 

「杏子さん」

 

 穏やかな声音で僕は微笑む。マミさんにそういう管理も任されてるのだから、ここはしっかりしないといけないよね。

 

「暫くお菓子食べるの禁止です!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!?」

 

 前言撤回。努力認められず! 僕は素早く杏子さんの手にあったお菓子を取り上げて自分の胃に収める。

 

「ただでさえ生活費カツカツなんですから! 少しぐらい我慢してください!」

 

「してるってーの!」

 

「このゴミの山からどう努力してると読み取れって言うんですか!」

 

 思わずゴミ箱の縁を叩きながら言い返す。

 自分でも意外な事だけど、この一月で杏子さんやさやかさんみたいな快活な友人との会話は結構強気に出れるようになっていた。もちろん彼女たちの人柄に依る所が大きいのは事実だが、僕の中での確実な変化だ。

 

「あーもう! こんな所居られるか! 出てく!」

 

 急に立ち上がって杏子さんが怒鳴った。ここでも大きな変化……というよりは杏子さんは結構分かりやすい人だからだけど、出てくって言っても後で戻ってくるので僕もそんなに怯えなくなったりしている。

 ずっかずっかと大股で部屋を出ていく杏子さんの背を見ながら僕は極力穏便に答えた。

 

「夕飯までには帰ってきてくださいよ、もう……」

 

 出ていく際に杏子さんが不満をぶつけて蹴り飛ばしたゴミ箱を拾い上げる。後片付けだって楽じゃないし、あんまり物に当たらないで欲しいなぁ…………いや、人に当たってもダメだけど。

 

「告白、かぁ…………」

 

 後片付けをしながら、先ほど杏子さんに言われた言葉を反芻する。それと同時に、ほむらさんにも似たような事を言われていたのも思い出して、考える。でも、答えは何時も決まっていた。

 

「…………そんなの、とっくに超えちゃってるよ」

 

 僕はマミさんが好きだ。マミさんもきっと、僕を好いていてくれてる。そのぐらいは自分でも分かってる。分かってるからこそ、好きを超えちゃって、今更な事をするべきなのか、分からない。

 

「僕は、どうしたらいいかな」

 

 ぼんやりと自分自身に問いかける。だけども自分じゃない自分。以前のまま首から掛けている忘れ形見――宝石を失ったソウルジェムの指輪に語りかける。

 迷った時に、つい頼ってしまうもう一人の自分。一人でやっていけると誓ったのを嘘にしないためにもあまり頼ってはいけないのだけれど…………。

 時折、彼女ならどうするかな。そんな風に考えて行動する時がある。

 もちろんそれが全て正解とはならないし、何時もの僕からすれば失敗ばかりだ。だけども、僕が動けない時はそう考えて、思ったように動いている。彼女の考え方や思いを知っているからこそ、打開策を見つけられる。

 

 ――――好きなんだったら自分で決めなさいよばーか。

 

 だけども今日は違っていた。自分の中の自分にバカ呼ばわりまでされたのは初めてだ。だけど、そういう事なんだろう。

 

「自分で決める、か…………」

 

 伝えるのも伝えないのも、自分で決める事。

 きっと正解が一つじゃないから。伝えて壊す物もあれば、伝えないで守れる物もあるから。どちらを取るか、それを選ぶのは皆でも、彼女でもない。僕自身。

 

「…………壁があったら、全部消し飛ばす」

 

 いつか、無意識に自分の口から出た言葉。これが人生の壁であるなら、僕は全部消し飛ばしていく。だったら選ぶ答えは一つ。

 

「告白、するよ」

 

 もう居ないはずの、もう一人の自分に意思表示。もう居ないはずなのに、僕の中に居る彼女はケタケタと笑いながら応えた。

 

 ――――おーやる気だね。頑張れよ、つばさ!

 

 誰もいないのに、背中に風が吹いたように背を押されたような感覚。僕は小さく笑みを浮かべた。

 …………まだ部屋には誰も帰ってきてないし、ちょっとだけ練習。

 

「マミさん、僕と付き合って下さい…………そのまま過ぎるかな?」

 

「ううん、そんな事ない」

 

「そ、そうですか? 良かっ……た……………………!?」

 

 突然、背後から声が聞こえた。すっかり聞き慣れた、甘くて優しい、マミさんの声。それまでの思考が一瞬で吹っ飛んで、どうしてこうなったかを考え始める。まるで油の差されていない機械のように、僕は震えながら後ろを向く。

 開きっぱなしの扉。リビングの入り口で立っているマミさん。そういえば、杏子さんが出て行った時に扉を閉じて行った覚えがない。つまり玄関までずっと空きっぱなしだったんだろう。

 そう考えると、もう一人の僕が背中を押してくれた錯覚ってただの吹きこんできた風で、マミさんも泥棒でも入ったのかと足音立てずに慎重に入ってきていた訳で、そこで僕の一言を聞かれたのだろうか。それはつまりマミさんに告白したのと同義で、そこまで理解して僕は顔を真っ赤にしていた。

 

「え、あ……いや、その、これはっ…………!」

 

 また思考が吹っ飛ぶ。思わぬ形とタイミングの告白。も、もっとそういうのはムードとかもですね!?

 あたふたしている僕を見ていたマミさんは何時もの柔らかい笑みを浮かべ、金髪の縦ロールを片手でいじり始めた。困った時のいつもの仕草だ。

 

「うー……あー…………なんというか、ごめんなさい」

 

「こーら、謝らないの」

 

 マミさんは玄関の扉を閉めてきてから僕の隣に座った。いつもなら杏子さんも一緒だから、こんなに近いのは久しぶりだ。不意にあの日々を思い返して、ぼんやりと呟く。

 

「全部、ここから始まったんですよね」

 

 あの日、マミさんから魔法少女になったという話をここで聞いた事で、全てが始まった。出会いはもう少し早かったけど、全ての始まりはここだって僕は考えてる。

 

「そうね…………あの時はつばさ君の事、全然知らなかった」

 

「僕もですよ」

 

 二人で顔を合わせて苦笑する。

 あの時はマミさんの気持ちも、どんな人なのかも、全然知らなかった。自分の事でいっぱいいっぱいで、そんな余裕すらどこにもなかった。

 でも、マミさんと知り合って、さやかさんやまどかさん達とも出会って、皆で一緒に戦って、少しずつ知る事が出来た。皆に僕を知ってもらう事ができた。

 

「…………さて、と。告白されたんだからちゃんと答えないといけないわね」

 

 すっとマミさんが立ち上がった。僕は緊張して佇まいを直す。

 マミさん。巴マミさん。世界で一番好きな人。きっと、この返事がどうあっても僕は貴女を好きで居続ける。

 だから、悲しい答えでも構わない。どうか……笑顔で伝えてください。

 

「でもその前に一つ聞かせて。つばさ君は、どうして私に告白したの?」

 

 杏子さんやほむらさんに色々と言われたから。なんて答え、マミさんが求めている訳がない。言われたからって、最後に実行するかは自分の意思なんだから。

 僕はくすりと笑い、自然と笑顔を浮かべて応えた。

 

「僕にはマミさんが必要だからです。

 …………誰にも貴方を渡したくない。マミさんの隣は、僕の居場所であって欲しい……いや、僕の居場所じゃないと嫌です」

 

 誰にも譲る気なんてない、マミさんの隣は僕のものだ。そうあって欲しい。

 我儘だったかな。僕は恐る恐る顔を上げて、目の前に立つマミさんを見上げる。

 

「あ…………」

 

 そこには僕が初めて見るマミさんが立っていた。顔は真っ赤。目を大きく見開いて、ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝っては零れ落ちて行く。

 

「…………私、魔法少女なのよ? いつ死ぬかも分からない……ううん、もしかしたら魔女になって貴方を襲ってしまうかもしれないのよ…………?

 それでも、いいの?」

 

「構いません」

 

 守るから。僕が貴方を守るから。そんな事、絶対にさせないから。

 マミさんは満足そうな笑みを浮かべると、そっと手を差し出した。

 

「本当にいいのなら…………遠藤つばさ君。私と、一緒に生きて」

 

 共に生きる。それは、マミさんが家族と共に叶えられなかった願い。その願いを叶えれるのが僕なら……これ以上の幸せ、無いじゃないか。いつか取れなかったこの手を、今さら取る事が許されるのなら――――。

 

「…………もちろんです。僕は、貴方と生きていきたい」

 

 そっと、差し出された手を取った。

 この手を取る。それは戦う事を決意した証。

 修羅の道かもしれない。苦難の道のりかもしれない。

 だけども、怖くなんてなかった。

 僕は、戦うと決めたのだから。

 

「マミさんとなら、どんな事も乗り越えられます」

 

「うんっ…………!」

 

 お互いに目を伏せ、取った手を自分の胸元に置く。

 空いている手が、マミさんの胸元に置かれる。

 

 いつか確かめ合った二つの鼓動。かつては不協和音だったはずのそれは、今では綺麗な共鳴音で僕たちの間で静かに鳴り響いている。

 

 マミさんも僕も、もう一人じゃない。まどかさんが、さやかさんが、杏子さんがいる。ほむらさんはここには居ないけれど……きっとあの人も、そんな未来を創るためにここを離れたんだ。

 

 ほむらさんが立ち去ったこの世界には、まだまだ抱えている闇は沢山ある。魔女の事。魔法少女の事。そして、僕自身が抱えた傷だって深く、暗い。

 

 どれだけの人が、魔法少女が、何度恐怖したのか。何度泣いたのか。もう誰にも分からない。かつての希望は絶望となり、またどこかで魔女が生まれる。そんな世界だけれども、今ここにある小さな希望の灯を守るために、僕は変わってみせる。

 マミさんを支えれるように、守れるように。あの日、もう一人の自分を失った時に扉は消えたって思った。

 でも違う。僕は、扉を開けたのだ。

 

 扉を開けた世界には、様々な出会いが待っている。喜びも、悲しみも一緒くたの未来の分からない不安の世界。その世界でマミさんと守り、広げていく助け合いの輪がどれだけ困難を極めるかなんて分かっている。それでも、やると決めたんだ。

 

 どんな障害だろうと、どんな危険だろうと、皆でなら乗り越えられる。

 マミさんとなら、僕は何だってできる。

 

 そっと目を開けると、マミさんの手にあるソウルジェムと僕の胸元にあるソウルジェム。二つの魂がまるで一つになろうとするかのごとく、寄り添うように重なっていた。そうだ、マミさんと一緒なら、二人でなら…………。

 

 

 

 

 

――――もう何も、怖くなんかない!

 

 

 

 

 

魔法少女つばさ☆マギカ ~fin~

 




 と言う訳で本編はエピローグで終了となります!
 御愛読ありがとうございました!

 なかなか消化不良な結果ではありますが、問題を解決するのではなく回避するっていうのが一つの答えです。魔法少女も魔女の関係はこれからも変わらない。だけども、せめて魔法少女同士助け合って、魔女となるのを防いで生きていけるための仕組みを作ろうというのが二人がたどり着いた答えです。
 努力した先でTDSみたいな問題とか、成功したとしてもキュゥべぇの妨害がありそうですがそれはまた別の、もっと先の未来でのお話。つばさ君やマミさんが存命の内にそこまで成し遂げられるかも、これからの彼ら次第です。

 本作ではワルプルギスの夜自体が出現しなかったという結果になっていますが、補足説明しますと現実でもあるように台風の進路が逸れて行ったという事になります。
 実体化寸前の魔女2匹が事前に見滝原に現れていた事もその一因、という設定です。そのためループ中につばさが魔法少女になればワルプルギスを回避できる、という可能性が出てきますが、流石にほむらさんも他人を犠牲にしてまでそうする方でもないと思うので(よしんばそうしたとしてもまどかさんが身を呈して助ける対象になりかねない or 動向を把握しておかなければならない対象が増えてしまう)ので以降のループでつばさを関わらせる事はありません。
 結果つばさ君との約束は守られませんが、マミさんに限らず魔法少女に関わる事自体を防ぐため事前に想像の魔女は今後彼女に倒されて予備のグリーフシードになります。後はワルプルギスを倒した後で何がしかの方法でマミさんと引き合わせてくれる、という予定だったって事で一つ。

 今後ですが完結にはせず、番外編などを少し上げて行きたいと思っています。とりあえず最初は本編で描写出来なかったシーンの補足として5.5章を前後編で書き上げる予定です。
 エピローグの一カ月間を覗き、唯一本作で日数が飛んでいるこの間、そこにあったちょっとしたお話です。

 あとは出来そうなら改編後世界編も書けたらいいなぁなどと……ネタだけ出来あがっちゃってるので! どちらにしても短編として改編後のつばさ君たちの様子の話は書く予定です。
 よろしければ今後も、魔法少女つばさ☆マギカをよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。